【獣医師監修】猫のワクチン接種は本当に必要?科学的根拠から考える適切な予防接種

「完全室内飼いだから、ワクチンは必要ないのでは?」「毎年接種するのは猫の負担が大きすぎる」「副反応が心配」——そんな疑問や不安を抱えている飼い主さんは少なくありません。
猫のワクチン接種は法律で義務付けられていないからこそ、飼い主さん自身が正しい知識を持ち、愛猫にとって最適な選択をする必要があります。

このコラムでは、ワクチンの必要性を科学的根拠に基づいて客観的に解説し、接種のメリット・デメリットを踏まえた上で、愛猫に適した予防接種プログラムを考えるための情報を提供します。

【この記事を読んでわかること】

  • ワクチンで予防できる感染症の実態と致死率
  • コアワクチンとノンコアワクチンの違いと選択基準
  • ワクチン接種のメリットと副反応のリスク
  • 最新ガイドラインに基づく適切な接種スケジュール
  • 完全室内飼いの猫にもワクチンが必要な理由
  • 副反応を最小限に抑えるための実践的な対策

ワクチンとは、病原体の毒性を弱めたり無毒化したりしたものを体内に投与し、あらかじめ免疫を作っておく予防医療です。ワクチンには大きく分けて2つの効果があります。

ひとつは感染予防効果です。これは病原体の侵入を防ぐ、または感染しにくくする働きです。もうひとつは重症化予防効果で、仮に感染しても症状を軽く抑え、愛猫の命を守ることができます。

重要なのは、ワクチンは「100%感染を防ぐ」ものではなく、「感染リスクを大幅に下げ、感染しても重症化を防ぐ」手段であるという点です。

猫がかかる感染症には、非常に高い致死率を持つものがあります。例えば、猫パルボウイルス感染症の場合、子猫における致死率は50〜90%にも達し、治療が遅れるとわずか数日で命を落としてしまうこともあります。

さらに深刻なのは、多くのウイルス感染症には特効薬が存在しないという事実です。治療は対症療法が中心となり、猫自身の免疫力に頼るしかありません。また、猫ヘルペスウイルスのように一度感染すると体内に潜み続け、免疫力が低下するたびに再発を繰り返すウイルスもあります。猫白血病ウイルスは猫白血病ウイルス感染症の原因となることもあります。

感染力の高さも無視できません。猫パルボウイルスは環境中で数ヶ月間生存可能かつ、感染猫の少量の糞便に触れることで容易に感染してしまう危険性があります。

「うちの猫は完全室内飼いだから、感染症とは無縁」と考えている飼い主さんもいるかもしれません。しかし、実際には完全室内飼いの猫でも感染リスクはゼロではないのです。

人を介した感染経路として、飼い主の衣服や靴にウイルスが付着したり、来客が持ち込んでしまったりする場合があります。また、災害時の避難所など予期せぬ環境の変化、新しく迎え入れた猫や動物病院での接触なども感染の機会となります。

猫パルボウイルスのような環境中で長期間生き残るウイルスの場合、完全に感染を防ぐことは困難です。完全室内飼いにもかかわらず猫風邪を発症するケースは珍しくありません。


世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインでも、生活環境に関わらず全猫への接種が強く推奨されているのがコアワクチンです。これは3種混合ワクチンとして提供されています。

1. 猫パルボウイルス感染症(猫汎白血球減少症)

激しい嘔吐と下痢(しばしば血便を伴う)、高熱、食欲不振、脱水といった症状が現れます。さらに白血球の著しい減少により免疫不全状態に陥ります。子猫の致死率は50〜90%と非常に高く、発症後数日で死亡するケースも少なくありません。

感染経路は感染猫の糞尿や嘔吐物との接触です。このウイルスは環境中で数ヶ月〜数年生存する極めて強いウイルスで、特効薬は存在せず、輸血・点滴などの支持療法のみとなります。治療費も数万円〜十数万円と高額です。

2. 猫ヘルペスウイルス感染症(猫ウイルス性鼻気管炎)

大量の目やにと鼻水、結膜炎、角膜炎が特徴的な症状で、くしゃみの連発、発熱、食欲不振も見られます。重症化すると肺炎を併発することもあります。

このウイルスの厄介な点は、一度感染すると体内に潜伏し続け、免疫力が低下するたびに再発を繰り返すことです。慢性鼻炎や結膜炎に移行することも多く、生涯にわたる治療が必要になる場合もあります。感染経路は感染猫のくしゃみや鼻水による飛沫感染、食器やトイレの共有、グルーミング時の接触などです。

3. 猫カリシウイルス感染症

くしゃみ、鼻水、目やにといった症状に加えて、口内炎や舌・口腔粘膜の潰瘍が特徴的です。口内炎の痛みで食事ができなくなることもあり、子猫では脱水と栄養失調で死亡することもあります。

感染経路は感染猫のくしゃみや鼻水による飛沫感染、食器やトイレの共有、グルーミング時の接触などとなります。特効薬がなく対症療法のみとなり、回復後もウイルスを排出し続けることがあるため、多頭飼育では特に注意が必要です。

ノンコアワクチンは、猫の生活環境や感染リスクに応じて接種を検討するワクチンです。

4. 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

接種推奨対象:外出する猫、多頭飼育で他の猫との濃厚接触がある猫、FeLV陽性の猫と同居している猫に接種が推奨されます。症状としては免疫不全、貧血、慢性口内炎、下痢などが現れ、進行するとリンパ腫、白血病、腎不全を引き起こします。発症後3〜4年以内の死亡率が高い深刻な病気です。

感染経路は感染猫との濃厚接触(グルーミング、食器の共有)、咬傷、母子感染などです。重要なのは、初回接種前に必ず血液検査でFeLV感染の有無を確認する必要があるという点です。

5. 猫クラミジア感染症

接種推奨対象:多頭飼育環境にいる猫や、キャッテリー、ペットホテルを利用する猫に接種が推奨されます。結膜炎(特に初期は片目から始まることが多い)、大量の目やに、軽度の鼻炎やくしゃみが主な症状です。

症状は比較的軽度ですが、慢性化しやすいのが特徴です。また、稀ではありますが人に感染する可能性もある人獣共通感染症です。

6. 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV・猫エイズ)

接種推奨対象:外出する猫や野良猫との接触機会がある猫に推奨されます。主な感染経路は咬傷、つまりケンカによる噛みつきです。初回接種前に血液検査が必須で、ワクチン接種後は抗体検査で陽性となるため、実際の感染との区別が困難になるという点に注意が必要です。


1. 致死率の高い感染症から命を守る

猫パルボウイルスの場合、ワクチン接種猫の致死率は10%以下との報告もありますが、未接種猫では50〜90%にも達します。猫ヘルペスウイルスやカリシウイルスについても、接種することで発症率が減少することが分かっています。仮に感染しても症状が軽く、回復も早いという効果も期待できます。

2. 治療費の軽減

感染症治療には高額な医療費がかかります。猫パルボウイルス感染症の場合、入院費用は5〜15万円以上、猫風邪の重症例でも通院・入院で3〜10万円かかるともいわれています。慢性化した場合は生涯にわたる治療費が必要になることも珍しくありません。一方、ワクチン接種費用は年間5,000〜10,000円程度です。

3. 多頭飼育での感染拡大防止

多頭飼育の場合、一匹が感染すると他の猫にも感染が広がるリスクが高まります。全頭へのワクチン接種は、家庭内での感染症蔓延を防ぐ「集団免疫」の形成に貢献します。

ワクチン接種には一定の副反応リスクが存在します。ただし、適切な対応で重症化を防げるケースがほとんどです。

1. 軽微な副反応

接種部位の痛みや腫れ、軽度の発熱(24時間以内に自然回復)、元気消失、食欲低下(1〜2日程度)、嘔吐、下痢といった症状が見られることがあります。発生率は比較的高いものの、ほとんどは24時間以内に自然回復します。症状が強い場合や24時間以上続く場合は動物病院へ連絡しましょう。

2. アナフィラキシーショック

接種後数分〜30分以内に呼吸困難、虚脱、意識障害といった症状が現れます。猫のワクチン接種後のアナフィラキシー発生率は約0.01%、つまり10,000回に1回程度と稀です。

対策としては、接種後30分は動物病院内または近くで待機することが重要です。一度アナフィラキシーを起こした猫は、次回接種前に必ず獣医師に相談しましょう。

3. 注射部位肉腫

ワクチンを接種した部位に発生する悪性腫瘍で、発生率は10,000回の接種につき1〜4例といわれています。接種してから数年後に発症することもあります。

予防策として、毎回異なる部位(特に後肢など切除しやすい場所)に接種することが推奨されています。経過観察の目安として、接種後1ヶ月以上しこりが残る、しこりが2cm以上の大きさになる、しこりが大きくなり続けるといった場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。

4. 慢性腎臓病との関連性

最近の研究では、ワクチン接種頻度が高い猫が慢性腎臓病を発症する可能性があるとの報告があります。ただし、因果関係は完全には解明されていません。適切な接種間隔を守ることでリスクを最小化できます。

ワクチン接種をしない場合、致死率50〜90%の感染症に無防備な状態となり、治療費も数万円〜十数万円と高額になります。一方、ワクチン接種をする場合のリスクは、軽微な副反応(多くは24時間以内に回復)と重篤な副反応(発生率0.01〜0.04%)です。

科学的データから見れば、適切な頻度でのワクチン接種は、リスクを大きく上回るメリットがあると考えられます。


接種回時期目的
1回目生後6〜8週齢移行抗体が減少するタイミングでの初回免疫
2回目1回目から3〜4週後抗体価の上昇
3回目生後14~16週齢以降確実な免疫獲得
ブースター生後26〜52週齢(6〜12ヶ月)長期免疫の確立
※要否には個体差があります。

子猫接種で重要なのは、母猫からの初乳により得た移行抗体が生後8〜12週で消失するため、その時期に合わせて接種を開始することです。特に16週齢以降の接種が長期免疫の鍵となります。

コアワクチン(3種混合)の場合

完全室内飼いの猫には2つの選択肢があります。

ひとつは抗体価検査を活用した個別プログラムです。年に1回の健康診断時に抗体価検査を実施(費用6,000〜7,000円)し、抗体価が十分であれば接種を見送ります。最大3年間隔まで延ばすことが可能だと言われています。

もうひとつは3年に1回の定期接種です。抗体価検査を行わない場合の標準プログラムで、コアワクチンの免疫持続期間は7.5年以上との研究報告もあります。

一方、外出する猫や多頭飼育の猫には年に1回の定期接種が推奨されます。感染リスクが高いため、より確実な予防が必要になります。

ノンコアワクチンの場合

猫白血病ウイルス(FeLV)や猫クラミジアは免疫持続期間が短いため、年に1回の接種が推奨されます。

シニア猫には特別な配慮が必要です。接種前に血液検査で腎臓や肝臓などの機能を確認し、完全室内飼いであれば3年間隔も検討可能です。獣医師と相談しながら、個体ごとのリスク評価を行うことが大切です。


まず、愛猫の健康状態を確認しましょう。食欲や元気があるか、嘔吐・下痢はないかをチェックし、体調不良時は接種を延期します。

接種日は午前中が理想的です。万が一異変があった場合に対応できる時間的余裕があるからです。週初めや平日を選び、週末や祝日前は避けましょう。接種後24時間は在宅できる日を選ぶことも大切です。

獣医師には過去のワクチン接種歴と副反応の有無、現在服用中の薬やサプリメント、アレルギー体質や基礎疾患の有無をしっかり伝えましょう。

アナフィラキシーショックは接種後30分以内に発症することが多いため、接種後30分は病院付近で待機し、車中や待合室で猫の様子を観察します。

帰宅後は静かで落ち着ける場所を用意し、無理に遊ばせたり運動させたりしないようにします。食欲がなければ無理に食べさせる必要はありません。

呼吸が荒い・苦しそう、顔が急激に腫れる、嘔吐を繰り返す、立てない・ぐったりしているといった緊急度が高い症状が見られたら、すぐに動物病院に連絡しましょう。

また、24時間経過しても食事を全く食べない、元気がまったくない、高熱が続く、接種部位の腫れが拡大しているといった症状がある場合も受診が必要です。

接種後2〜3日間は、シャンプーや入浴、激しい運動や遊び、他の猫との濃厚接触、長時間の外出や旅行を避けましょう。愛猫の体が免疫を作り上げるために、安静な環境を提供することが大切です。


完全室内飼いでも感染経路は多様です。飼い主の衣服や靴に付着したウイルス、来客による持ち込み、災害時の避難所など、予期せぬ感染リスクが存在します。ただし、コアワクチン(3種混合)を3年に1回、または抗体価検査を併用するプログラムで十分なケースが多いです。

最新のガイドラインでは、コアワクチンは3年に1回でも十分な免疫が維持されることが分かっています。ただし、外出する猫、多頭飼育の猫、ペットホテル利用が多い場合は年1回接種が推奨されます。重要なのは、猫の生活環境と感染リスクに応じて獣医師と相談して決めることです。

高齢猫は確かに副反応リスクがやや高まりますが、同時に感染リスクも高まります。接種前に血液検査で健康状態を確認し、完全室内飼いであれば接種間隔を延ばす(3年に1回など)、抗体価検査を活用するなど、獣医師と相談して個別に判断することが重要です。

副反応への不安は理解できます。しかし、データで比較してみましょう。重篤な副反応の発生率は約0.01〜0.04%です。一方、猫パルボウイルス感染時の致死率(未接種)は50〜90%にも達します。

統計的に見れば、ワクチン接種のメリットは副反応のリスクを大きく上回ります。健康状態が良い時に接種し、接種後30分は病院付近で待機するなど、副反応を最小限に抑える対策を取ることで、安全性を高めることができます。


猫の感染症には致死率50〜90%の病気があり、治療薬がない感染症も多く存在します。予防が最善の対策であり、完全室内飼いでも感染リスクはゼロではありません。ワクチンは命を守る確実な予防手段といえます。

重篤な副反応の発生率は約0.01〜0.04%と低く、未接種での感染リスクと比較すれば、メリットは大きいです。また、適切な対策を取ることで副反応リスクは最小限に抑えられます。

「一律の毎年接種」ではなく、個別に獣医師と計画を立てましょう。完全室内飼いの子にはコアワクチンは3年に1回でも十分で、抗体価検査を活用すれば必要な時のみ接種できます。なお、外出猫や多頭飼育では年1回接種が推奨されます。

副反応対策としては、健康状態が良い時に午前中接種し、接種後30分は病院付近で待機、24〜48時間は注意深く観察することが重要です。

猫は自分の不調を言葉で伝えることができません。だからこそ、飼い主さんが正しい知識を持ち、愛猫にとって最適な選択をすることが求められます。

「ワクチンは絶対に毎年必要」という考えも、「ワクチンは危険だから打たない」という考えも極論です。大切なのは、愛猫の生活環境とリスクに応じた個別の判断です。情報に振り回されず、科学的根拠に基づいた判断を心がけましょう。そして愛猫の健康を守るため、獣医師と一緒に最適な方法を選びましょう。

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