愛猫が「最近あまり高いところに飛び乗らなくなった」「毛づくろいが減った気がする」と感じたことはありませんか?こうした変化は、実は関節炎が原因であることが少なくありません。
猫の関節炎は犬以上に発見が遅れやすい疾患です。
6歳以上の猫の約6割、12歳以上では9割前後に変形性関節症が確認されるという報告もあるほど一般的でありながら、実際に診断・治療を受けている猫は全体のごく一部とされています。
今回は、猫の関節炎の分類・気づきにくい痛みのサイン・最新の治療薬までを詳しく解説します。
第1章:猫の関節炎とは? ~犬とは異なる分類と発症メカニズム~

猫の関節炎も犬と同じく、関節内に炎症が起きているかどうかによって「非炎症性」と「炎症性」の2つに大別されます。そして炎症性関節炎はさらに、原因が細菌などの病原体によるものか(感染性)、免疫の異常によるものか(非感染性)で分けられます。
猫で圧倒的に多いのは「非炎症性」の変形性関節症ですが、好発する関節の場所や原因となる疾患は犬とは異なる点が多く、猫ならではの特徴を理解しておくことが大切です。
また、遺伝的な原因から関節疾患を起こしやすい猫種にも注意が必要です。
① 非炎症性関節炎:変形性関節症(DJD/OA)
変形性関節症(Degenerative Joint Disease:DJD、Osteoarthritis:OAとも呼ばれる)は、猫の関節疾患のなかで最も多く見られます。
関節軟骨が徐々に摩耗・変性し、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成や関節包の肥厚が進行することで、慢性的な痛みと関節機能の低下をもたらします。
猫では肘関節が最も好発部位とする報告が複数あり、ほかに股関節や脊椎(特に腰椎〜仙椎)も多く侵されることが知られています。
脊椎に変化が起きると神経症状(痛みによる排泄困難など)が見られたり、背中をなでることを嫌がる場合もあります。
▶ 原発性変形性関節症(加齢性)
明らかな基礎疾患がなく、加齢に伴う軟骨の自然劣化が主な原因です。この原発性タイプは6歳前後から始まり、12歳以上ではほとんどの個体に何らかのX線上の変化が見られるとされています。(レントゲン上で変化が認められても、実際には無症状であるケースも多くあります。)
▶ 続発性変形性関節症(整形外科疾患由来)
基礎となる整形外科疾患や外傷が要因で二次的に発症するものであり、犬ほど高頻度ではありません。一方で、猫ならではの遺伝性疾患として「骨軟骨異形成症」が重要な原因のひとつとなっています。
▶ 骨軟骨異形成症 ── 猫に特有の遺伝性関節疾患
骨軟骨異形成症は、成長段階で関節軟骨の形成に異常が起こり、関節部分がこぶ状に腫れる「骨瘤(こつりゅう)」を生じる遺伝性疾患です。手首・足首・尾の関節に好発し、進行すると関節が動かしにくくなり、足を引きずる・抱っこや高い場所への着地を嫌がるといった症状が若齢のうちから現れる場合もあります。根治療法はなく、痛みのコントロールが治療の中心となります。
💡 骨軟骨異形成症を起こしやすい主な猫種
| 猫種 | 特徴 |
| スコティッシュ・フォールド | 最も発症リスクが高い猫種。耳が折れる遺伝子と骨軟骨異形成症の素因が連動しているため、多くがこの病気を抱えているとされる。手首・足首にこぶ状の骨瘤ができやすい。(スコティッシュには立ち耳のタイプの猫も存在し、折れ耳タイプの猫に比べると症状は軽度のことが多い。) |
| マンチカン | 短い四肢を特徴とする品種改良の影響で、関節・軟骨形成に異常が出やすい。 |
| アメリカンカール/ヒマラヤン/ペルシャ | 骨軟骨異形成症の好発品種として知られる。鼻ぺちゃ・特徴的な体型を作る遺伝的背景が関節の発育にも影響する。 |
② 炎症性関節炎(非感染性):免疫介在性関節炎
自己免疫機能の異常により、免疫システムが誤って自分の関節の滑膜を攻撃することで炎症が起こるタイプです。比較的犬での症例が多く、猫での発生はまれですが確認されています。発熱・元気消失・食欲低下といった全身症状を伴うことが多く、複数の関節に同時に痛みが出る(多発性関節炎)のが特徴です。猫でもX線検査で骨・軟骨の破壊像(びらん)が認められるかどうかによって、「非びらん性」と「びらん性」に分けられます。
▶ 非びらん性免疫介在性関節炎
X線では骨・軟骨の破壊像は見られないタイプです。特発性多発性関節炎や、基礎疾患に伴う反応性多発性関節炎、全身性エリテマトーデス(SLE)関連などが含まれます。猫では関節液検査による評価が変形性関節症との鑑別に重要です。
▶ びらん性免疫介在性関節炎(慢性進行性多発性関節炎など)
X線で骨・軟骨の破壊像が認められるタイプです。猫に特有のものとして「慢性進行性多発性関節炎」があり、1.5〜5歳前後の若い雄猫に多く発生するという特徴があります。猫白血病ウイルス(FeLV)などとの関連が指摘されていますが、直接的な因果関係は証明されていません。手首・足首の関節に好発し、進行すると関節の変形につながります。
③ 炎症性関節炎(感染性):細菌性関節炎
細菌などの病原体が関節内に侵入することで起こる関節炎です。犬でより多く見られ、猫での発生はまれとされています。猫の場合は咬傷(猫同士のケンカによる傷)からの直接感染が主な経路です。通常は単一の関節に強い炎症・腫脹・熱感・疼痛が急激に生じます。関節液の細菌培養・感受性検査が診断の鍵となり、適切な抗菌薬投与と関節洗浄が治療の基本です。
第2章:痛みのサイン ~猫はなぜ気づかれにくいのか~

猫は犬よりもさらに痛みを隠す傾向が強い動物です。犬と違ってお散歩の習慣もないため、歩き方や動きの変化に気づくきっかけ自体が少なくなりがちです。
次のような行動の変化は、痛みのサインである可能性があります。
| カテゴリー | 具体的なサイン |
| ジャンプ・移動の変化 | 高い場所に飛び乗らなくなった、段差を避ける、寝ている時間が増えた |
| 毛づくろい・爪の変化 | 毛づくろいが減り毛玉ができやすくなった、爪とぎの頻度が減り爪が太くなる |
| 排泄・行動の変化 | トイレの縁を越えるのを嫌がる、触られるのを嫌がる、隠れがちになる |
| 全身症状(炎症性に多い) | 発熱・食欲不振・元気消失、複数の関節が同時に腫れる |
第3章:診断方法

猫の関節炎は症状だけでは判断が難しく、また猫はX線撮影などの検査自体がストレスになりやすいため、行動評価と画像検査を組み合わせた総合的な判断が重要です。
行動・問診による評価
自宅での様子(ジャンプ・段差の昇降・毛づくろい・トイレの様子など)の問診や、飼い主による評価指数(Feline Musculoskeletal Pain Index:FMPIなど)が役立ちます。動画があれば診察時の評価がより正確になります。
身体検査・触診
関節の可動域・腫れ・熱感・痛みへの反応を確認します。ただし猫は病院で警戒・緊張しやすく、自宅では痛がる動きを病院では見せないこともあるため、診察だけで判断が難しい場合があります。
X線(レントゲン)検査
骨棘形成・関節裂隙の狭小化など変形性関節症の所見を確認します。ただし猫の変形性関節症は、X線上の変化の程度と実際の痛みの強さが必ずしも一致しないことが知られており、画像所見が乏しくても臨床的には強い痛みを伴っている場合があります。
関節液検査
炎症性関節炎が疑われる場合に行います。関節液中の炎症細胞の有無や細菌の有無を確認し、変形性関節症との鑑別、感染性・免疫介在性の判断に用いられます。
第4章:治療と緩和ケア ~薬剤・サプリメント~

猫の関節炎治療における課題は、猫に安全に長期使用できる鎮痛薬の選択肢が多くないという点です。
猫は薬物代謝の特性上、NSAIDsの長期使用に大きな制約があり、また高齢猫では慢性腎臓病を合併していることが多いため、薬剤選択には特に注意が必要です。
各々使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で状態を確認することが大切です。
① NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):猫では使用に制約あり
猫用のNSAIDsは、犬用と同じ有効成分の製品であっても「急性の疼痛・炎症の緩和」を目的とした短期使用が前提となっており、添付文書上の反復投与期間が定められています。
腎機能のモニタリングをしながら獣医師の管理下で慎重に使用する必要があります。
| 製品名 | 有効成分 | 猫における特徴・制約 |
| オンシオール | ロベナコキシブ | COX-2高選択性のコキシブ系NSAID(COX-1阻害に対する選択性は猫で約40倍)。猫での効能は運動器疾患に伴う急性の疼痛及び炎症の緩和で、反復投与は日数制限がある。COX-2選択性が高いため理論上は胃腸・腎臓への影響がメロキシカムより少ないとされるが、慢性腎臓病の猫では油断せず慎重に使用する必要がある。副作用として嘔吐・軟便・食欲不振などの消化器症状が報告されている。 |
| メタカム/メロキシリン | メロキシカム | 非選択的にCOX-1・COX-2を阻害するNSAID。猫での効能は運動器疾患に伴う急性の炎症及び疼痛の緩和で、反復投与する場合は日数制限がある。経口懸濁液タイプで微量からの用量調整がしやすい点が特徴で、より細かい体重対応が必要な場合に使われることがある。胃腸障害・腎機能低下・肝数値上昇などの副作用が報告されており、オンシオールと同様、長期・頻回の使用は推奨されない。 |
※ 猫の慢性腎臓病はNSAIDsの使用を大きく制限する要因です。NSAIDsはプロスタグランジンの産生を抑えますが、このプロスタグランジンは腎血流の維持にも関わっているため、腎機能が低下している猫では症状を悪化させるリスクがあります。慢性的な疼痛管理を目的とする場合は、後述する抗NGF抗体薬が選択肢になります。
② 生物学的製剤(抗NGFモノクローナル抗体):ソレンシア
2023年に日本で発売された、猫の変形性関節症向けの注射薬です。有効成分フルネベトマブ(frunevetmab)は、変形性関節症の慢性疼痛に関わる「NGF(神経成長因子)」を標的とするネコ化モノクローナル抗体製剤で、痛みの神経シグナル伝達をブロックします。NSAIDsとは異なる作用機序で、月1回の皮下注射により投与します。効果の発現には個体差があり、1回目の投与直後から劇的に動くようになる猫もいれば、2〜3回目の投与を重ねることでじわじわと本来の活気を取り戻す猫もいます。
肝臓・腎臓の代謝経路に依存しないため、NSAIDsの長期使用が難しい慢性腎臓病合併猫にも使用しやすい点が大きなメリットです。
③ サプリメント
長期的な関節の健康維持・進行予防・症状緩和の補助として広く活用されています。
治療薬との併用が一般的で、効果が出るまでに数か月かかることを念頭においたうえで継続することが大切です。
自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。
| 製品名(主成分) | 主な作用・特徴 |
| コセクイン パウダーイン (グルコサミン+低分子コンドロイチン硫酸) |
猫用は錠剤ではなくパウダーインのカプセルタイプ。フードにふりかけるか、そのまま与えられる。 |
| ダスクイン パウダーイン (グルコサミン+低分子量コンドロイチン+ASU) |
コンドロイチンを低分子化し腸での吸収率を高めた犬猫共用のカプセルタイプ。フードに混ぜて与えやすい。 |
| アンチノール プラス 猫用 (EAB-277:モエギイガイ抽出脂質+クリルオイル) |
海洋性脂質が関節の炎症を抑制し、皮膚・被毛・腎臓など全身の健康維持にも関与する。基本はソフトカプセルタイプだが、先端をカットして中身を出しやすい猫専用設計のカプセルも発売されている。 |
| アンセット (モエギイガイ抽出脂質) |
アンチノールと同系統のモエギイガイ抽出脂質を主成分とする。関節・皮膚・被毛の健康補助を目的とし、カプセルが小さめで猫にもお口に含ませやすい形状。 |
| グリコフレックスプラス猫用(おやつタイプ) (グルコサミン+コンドロイチン+MSM+DMG) |
軟骨基質の合成を支援するとともに、抗炎症作用により関節内の炎症や軟骨分解を抑制し、変形性関節症に伴う疼痛や関節機能の低下を軽減する。関節の健康維持や運動機能の改善を目的として用いられる。 |
| SOPHIA スムーズラン (グルコサミン+コンドロイチン+イミダゾールジペプチド) |
関節成分(グルコサミン・コンドロイチン)に加え、筋肉の疲労回復・機能維持に関わるイミダゾールジペプチドを配合したサプリ。関節と筋力の両面をサポートする。 |
④ 補助療法(レーザー療法・鍼灸)
薬物療法を補完する目的で、以下のような補助療法が選択肢になることがあります。猫は犬よりも警戒心が強く、施術自体がストレスになる場合もあるため、猫の様子を見ながら無理のない範囲で行うことが大切です。
- 低出力レーザー療法:患部にレーザーを照射し、血行促進・消炎・疼痛緩和を図る治療法。痛みを伴わず、麻酔も不要なため猫にも負担が少ない。
- 鍼灸(中獣医学):経穴(ツボ)への鍼やお灸により血行を促進し、痛みの緩和を図る治療法。中獣医学の認定資格(獣医中医師など)を持つ獣医師が在籍する動物病院で受けられる。往診専門の動物病院が自宅で行えるよう取り入れているケースもある。
⑤ 生活環境の整備
日常の生活環境を関節に負担をかけにくい形に整えることも、QOL向上につながります。愛猫の目線に立って、段差や障害物を猫の通り道から除去し、痛みのある動作を減らしてあげることも大切です。
- スロープ・ステップの設置:ジャンプが必要な高さへの昇降をサポートし、関節への衝撃を和らげる。
- トイレ・食器の見直し:縁の低いトイレへの変更、フードボウル・ウォーターボウルを低い位置に置くことで、足を高く上げる動作を減らす。
- 爪とぎ環境の見直し:縦型から床置き型・スロープ型の爪とぎへの変更により、伸びをするような姿勢を取らずに爪とぎができるようにする。
- 床材・寝床の工夫:滑りやすいフローリングにマットやクッションフロアを敷き、踏ん張る際の関節負担を減らす。寝床は低い場所に移動し、クッション性を高める。
まとめ
- 猫の関節炎は「非炎症性(変形性関節症)」「炎症性・非感染性(免疫介在性)」「炎症性・感染性(細菌性)」の3つに分類され、骨軟骨異形成症という特徴的な遺伝性疾患が存在する。
- 猫はNSAIDsの長期使用に制約があり、慢性腎臓病合併例も多いため薬剤選択には特に注意が必要。
- 抗NGF抗体薬ソレンシアは肝臓・腎臓への負担が少なく、月1回の注射で慢性疼痛にアプローチできる新しい選択肢。
- サプリメントは猫が飲みやすい剤形(パウダー・小粒カプセルなど)への工夫が進んでいる。
猫の関節炎は犬よりもさらに気づかれにくく、高齢になればなるほど高い確率で存在している疾患です。
日常の小さな変化に目を向けることが、早期発見への第一歩になります。
お薬だけに頼らず、生活環境の整備を組み合わせることがQOL向上の鍵となります。
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日本大学卒業、獣医師免許取得。関東の動物病院で15年以上にわたり小動物医療に従事し、犬猫を中心にうさぎ・フェレット・モルモット・ハムスター・ハリネズミなど幅広い動物種の診療を行っている。また、診療業務を行う傍ら、行政書士の資格を取得し個人事務所を開業。主にペット関連の法務を扱っており、人と動物が幸せに暮らすためのサポートを行っている。
参考文献
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- Gruen ME, Thomson AE, Griffith EH, et al. A feline-specific anti-nerve growth factor antibody improves mobility in cats with degenerative joint disease-associated pain: a pilot proof of concept study. J Vet Intern Med. 2016;30(4):1138-1148.
- Lascelles BDX, et al. Cross-sectional study evaluating the prevalence of radiographic degenerative joint disease in cats. Vet Surg. 2010;39(5):535-544.
- Bennett D, et al. Osteoarthritis in the cat: 1. how common is it and how easy to recognise? J Feline Med Surg. 2012;14(1):65-75.
- 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(オンシオール・メタカム・ソレンシア添付文書).
- エランコジャパン株式会社. オンシオール錠 添付文書情報. https://my.elanco.com/jp/products/onsior
- ゾエティス・ジャパン株式会社. ソレンシア 製品情報.
