【獣医師監修】犬猫のお腹のお薬ガイド~ディアバスター・ビオイムバスター・ボミットバスターの違いと使い方~

愛犬や愛猫が「下痢」や「吐き気」を起こした際、動物病院で使用される代表的なお薬に『ディアバスター』『ビオイムバスター』『ボミットバスター』があります。名前が似ているため「どれが何のお薬?」と困ってしまう飼い主さまも少なくありません。

このコラムでは、上記3つのお薬を比較しながら分かりやすく解説します。

【この記事を読んでわかること】

  • 症状別の適切な使い分け(下痢止め、整腸剤、吐き気止め)
  • 3つのお薬の有効成分と承認されている効能・効果の違い
  • 各薬剤の体重別用法・用量と臨床改善効果
  • 抗生物質との併用注意など飲み合わせのポイント
  • 嫌がる子にお薬を上手に飲ませる安全な工夫

動物病院では、愛犬・愛猫のその時の症状に合わせてこれらのお薬を選んだり、組み合わせて処方したりします。

【症状1】つらい下痢や軟便をピタッと止めたいとき
👉 ディアバスター錠(下痢止め)

【症状2】食欲がなく、消化不良やお腹の乱れが気になるとき
👉 ビオイムバスター錠(整腸・消化酵素)

【症状3】何度も吐いてしまう・吐き気でご飯が食べられないとき
👉 ボミットバスター錠(吐き気止め)


薬剤名有効成分(1錠中)承認されている主な効能・効果
ディアバスター錠・タンニン酸ベルベリン
・次硝酸ビスマス
・ゲンノショウコ乾燥エキス
・五倍子末
犬・猫:
下痢の症状緩和
ビオイムバスター錠・有胞子性乳酸菌
・パンクレアチン
犬・猫:
食欲不振、消化不良、単純性下痢
ボミットバスター錠2mg・塩酸メトクロプラミド犬: 胃炎・腸炎等に伴う嘔吐、駆虫剤投与時の嘔吐
猫: 胃炎・腸炎等に伴う嘔吐・食欲不振

●有効成分(1錠中)
・タンニン酸ベルベリン:25.0mg
・次硝酸ビスマス:100.0mg
・ゲンノショウコ乾燥エキス:25.0mg
・五倍子末:25.0mg

●用法・用量(1日2回経口投与)
・5kg未満:1回 1/2錠
・5〜20kg未満:1回 1錠
・20kg以上:1回 2錠

●主な役割・作用
腸内の殺菌・腐敗抑制: 腸内有害細菌の増殖を抑え、有害アミンの発生(腸内腐敗)を防ぎます。
腸運動の抑制・粘膜保護: 過剰なぜん動運動を静めるとともに、荒れた腸粘膜に保護膜を形成して炎症を鎮めます。
高い改善効果: 急性下痢を起こした犬に対する試験では、平均2.3日で完治・改善に至る効果(改善率87.1%)が確認されています。

●注意点・併用のポイント
整腸剤(ビオイムバスター錠等)と組み合わせて使用することで、より高い相乗効果を発揮します。

●有効成分(1錠中)
・有胞子性乳酸菌(Bacillus coagulans):30.0mg
・パンクレアチン:60.0mg

●用法・用量(1日2回経口投与)
・小型犬・猫(5kg未満):1回 1/2錠〜1錠
・中型犬(5〜20kg未満):1回 1錠〜2錠
・大型犬(20kg以上):1回 2錠〜3錠

●主な役割・作用
生きて腸まで届く乳酸菌: 殻(胞子)に守られた乳酸菌のため胃酸に負けずに腸へ到達し、腸内フローラを整えます。
消化のサポート: 総合消化酵素パンクレアチンが脂肪・タンパク質・でんぷんの分解を助け、胃腸の負担を軽減します。

●注意点・併用のポイント
抗生物質との併用注意: 抗生物質(抗菌薬)と同時に服用すると、本剤の乳酸菌の働きが弱まるため、投与タイミングをずらす(2時間ほどあける)等の注意が必要です。
下痢止めとの併用: 下痢止め(ディアバスター錠)と併用することで、総合改善率が98.6%まで向上することが確認されています。
アレルギー: 原材料に魚由来ペプチド、豚パンクレアチン、酵母エキスが含まれるため、アレルギーのある方は事前に獣医師へ相談してください。

●有効成分(1錠中)
・塩酸メトクロプラミド:2.0mg

●用法・用量(1日2回経口投与)
・犬・猫共通:体重1kgあたり塩酸メトクロプラミドとして0.2〜0.5mgを基準とし、1日2回経口投与します。

●主な役割・作用
吐き気のブロック: 脳にある「嘔吐のスイッチ(CTZ)」を抑え、吐き気を根本から鎮めます。
胃腸の運動促進: 消化管の運動障害を改善し、胃内容物の逆流や嘔吐を抑えます。
高い改善効果: 臨床試験において、犬で89.74%、猫で92.59%という高い改善効果が示されています。

●注意点・併用のポイント
慎重投与・副作用: 幼若動物や低体重のペットでは過剰投与にならないよう慎重な投与が必要です。まれによだれが出たり、体がふるえたりソワソワしたりする副作用が出ることがあります。
分割時の注意: 錠剤を分割して使用する場合は、吸湿を防ぐため速やかに投与してください。


お腹の調子や気分が悪いときは、いつも以上にお薬を嫌がってしまうことがあります。
無理なく飲ませるための工夫をご紹介します。

●投薬補助ペーストやおやつで包む
粒のまま飲むのが苦手な子の場合は、投薬用ペーストや、一口サイズのウェットフード・お肉などに包んでそのまま飲み込ませる工夫が効果的です。
(※錠剤を割ったり潰したりして与える場合は、味の苦味が出たり吸湿劣化したりすることがあるため、あらかじめ獣医師にご相談ください。)

●吐き気や嘔吐がある時の与え方
強い吐き気がある時にお薬やごはんを無理に口へ入れると、そのまま吐き戻してしまうことがあります。
嘔吐が続いている場合のお薬を飲ませるタイミングや順番については、自己判断せず獣医師の指示に従いましょう。


動物病院で使用される「バスターシリーズ」は、愛犬・愛猫のその時の症状(下痢・消化不良・吐き気)に合わせて的確に使い分けられています。

この記事のまとめ

  • 下痢を止める「ディア」、お腹を整える「ビオイム」、吐き気を鎮める「ボミット」とそれぞれ目的が異なる
  • 症状が治まったように見えても自己判断で途中でやめず指定期間飲ませ切る
  • 抗生物質など他のお薬と併用する場合は時間間隔など獣医師の指示を守る

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

犬の関節炎とは?痛みのサインと治療薬について解説【獣医師執筆】

愛犬が「最近なんとなく動きが鈍くなった」と感じたことはありませんか?
こうした変化は、単なる老化ではなく「関節炎」が原因である可能性があります。「関節炎」は犬に非常に多い疾患のひとつで、特に中高齢犬では40%以上が何らかの関節疾患を抱えているという報告もあります。
痛みをうまく表現できない犬の場合、症状が見過ごされやすく、適切なケアが遅れがちです。

今回は、関節炎の正しい分類・痛みのサイン、最新の治療薬とサプリメントまでを詳しく解説します。


犬の関節炎は、まず関節内に炎症が起きているかどうかによって「非炎症性」と「炎症性」の2つに大別されます。
そして「炎症性」関節炎はさらに、『原因が細菌などの病原体によるもの(感染性)』と『免疫の異常によるもの(非感染性)』に分けられます。

また、一般に「関節炎」と聞くと炎症のイメージが強いですが、犬で最も多いのは実は「非炎症性」の変形性関節症です。同じ「跛行(足をかばう歩き方)」という症状でも、関節炎の種類によって治療法が異なります。

以下、各々の「関節炎」について解説していきます。

変形性関節症(Osteoarthritis:OA)は、犬の関節疾患のなかで最も多く見られます。関節軟骨が徐々に摩耗・変性し、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成や関節包の肥厚が進行することで、慢性的な痛みと関節機能の低下をもたらします。進行の主体は軟骨の破壊であり、関節液中の炎症細胞は少ないのが特徴です。一度失われた軟骨は自然には再生しないため、治療の目標は「進行を遅らせること」と「痛みを緩和すること」が中心になります。

▶ 原発性変形性関節症

明らかな基礎疾患がなく、加齢に伴う軟骨の自然劣化が主な原因です。高齢犬に多く、複数の関節に症状が出ることもあります。

▶ 続発性変形性関節症

基礎となる整形外科疾患や外傷が要因となり、二次的に発症するものです。犬では原発性より発生が多く、大型犬・超大型犬で多い傾向がありますが、小型犬に多い膝蓋骨脱臼のように犬種によってリスクが異なります。若齢時の関節異常が中高齢になってから変形性関節症として現れるケースも少なくありません。

💡 変形性関節症を起こす主な関節疾患と好発犬種

主な疾患 概要と好発傾向
股関節形成不全(HD) 股関節の発育異常で関節に緩みや摩耗が生じ、中高齢で変形性関節症へ移行しやすい。大型犬に多く、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなどで特に注意。
肘関節形成不全(ED) 肘関節を構成する骨の発育不均衡による疾患の総称。若齢期から跛行が現れ関節炎へ進行する。大型犬(ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなど)に多い。
膝蓋骨脱臼(パテラ) 膝の皿(膝蓋骨)が正常位置から外れる疾患。繰り返すことで軟骨が摩耗し関節炎へ移行する。小型犬全般(トイプードル、チワワ、ポメラニアンなど)に多い。
前十字靭帯断裂 膝関節を安定させる靭帯の断裂。放置すると関節炎へ進行する。中〜大型犬や肥満犬(ラブラドール・レトリーバー、ロットワイラーなど)で多いが、小型犬でも発生する。
骨軟骨症(OCD) 急成長期に軟骨の一部が剥離・遊離する疾患。大型・超大型犬の若齢期に多い(ラブラドール・レトリーバー、グレートデーンなど)。

※ 肥満・過剰な運動・栄養不均衡はいずれの犬種でも続発性変形性関節症のリスクを高めます。

自己免疫機能の異常により、免疫システムが誤って自分の関節の滑膜を攻撃することで炎症が起こるタイプです。変形性関節症とは異なり、関節液中に炎症細胞が多数認められます。発熱・元気消失・食欲低下といった全身症状を伴うことが多く、複数の関節に同時に痛みが出る(多発性関節炎)、症状に波があるといった特徴があります。X線検査で軟骨・骨に破壊像(びらん)が認められるかどうかによって、「非びらん性」と「びらん性」に分けられます。

▶ 非びらん性免疫介在性関節炎(特発性多発性関節炎など)

免疫介在性関節炎のなかで最も多いタイプです。レントゲン検査では骨・軟骨の破壊像は見られず、関節液検査で炎症細胞(主に好中球)の増加が確認されます。特定の基礎疾患が見当たらない「特発性」のものが最多で、3〜7歳での発症が多いとされますが、幅広い年齢で発症します。繰り返す発熱・複数関節の腫れ・移動性の跛行(痛む場所が変わる)が典型的なサインです。治療はステロイド(プレドニゾロン)が主体です。

▶ びらん性免疫介在性関節炎(関節リウマチなど)

犬での発症は比較的まれです。レントゲン検査で軟骨・骨の進行性破壊像(びらん)が認められます。手根関節・足根関節に生じやすく、進行すると関節が変形することがあります。非びらん性よりも予後が慎重で、ステロイドに加えて免疫抑制剤の使用が必要となるケースがあります。

細菌などの病原体が関節内に侵入することで起こる関節炎です。外傷・手術・隣接部位からの感染波及(骨髄炎など)が原因となることが多く、通常は単一の関節に強い炎症・腫脹・熱感・疼痛が急激に生じます。関節液の細菌培養・感受性検査が診断の鍵となり、適切な抗菌薬投与と関節洗浄が治療の基本です。早期治療が遅れると関節の不可逆的な破壊が進行するため、迅速な対応が求められます。


犬は本能的に痛みを隠す傾向があります。「まだ歩けているから大丈夫」ではなく、日常行動の小さな変化を見逃さないことが大切です。主な症状には以下のようなものがあります。

カテゴリー 具体的なサイン
動作・歩様の変化 階段・段差の昇降をためらう、飛び降りができなくなった、跛行(足をかばう歩き方)、歩き始めがぎこちないが動くと楽になる、痛む足が変わる(移動性跛行)
活動性・体の変化 散歩をいやがる・すぐ疲れる、横になる時間が増えた、背中を丸める、関節の腫れ・熱感、筋肉の左右差(萎縮)
行動・態度の変化 触られるのを嫌がる・性格が変わった(攻撃的・引きこもり)、患部をなめる・噛む、夜中に鳴く
全身症状 発熱・食欲不振・元気消失、複数の関節が同時に腫れる、症状に波がある ※炎症性関節炎に多い

変形性関節症と炎症性関節炎では治療法が根本的に異なります。「どの種類の関節炎か」を正確に診断することが、適切な治療への第一歩です。

各関節の触診による腫れ・熱感・可動域の確認、歩様の観察が基本です。オルソレーニテスト(股関節形成不全)や引き出し試験(前十字靭帯損傷)など、疾患ごとの特異的な検査も行われます。

変形性関節症では骨棘形成・関節裂隙の狭小化・軟骨下骨の硬化が確認できます。びらん性関節炎では軟骨・骨の破壊像が認められ、非びらん性との鑑別に重要です。初期段階では変化が乏しいことがあるため、症状経過とあわせて総合的に判断します。

炎症性との鑑別に最重要な検査です。関節腔に針を刺して関節液を採取し、色・粘稠度・炎症細胞の種類と数・菌の有無を観察します。変形性関節症では細胞数が少なく、炎症性関節炎では好中球などの炎症細胞が著明に増加します。感染性が疑われる場合は細菌培養・感受性試験も行います。

炎症マーカー(CRP・白血球数)の上昇は炎症性関節炎を示唆します。免疫介在性の評価には抗核抗体(ANA)なども用いられます。NSAIDs長期投与前後の腎臓・肝臓機能のモニタリングにも必須です。

靭帯・軟骨・滑膜など軟部組織の状態評価や、手術適応の検討に使用されます。MRIは軟骨損傷・滑膜炎の精密評価に優れています。


犬の関節炎の治療は「痛みの緩和・進行の抑制・QOL(生活の質)の維持」が目標です。
変形性関節症には薬物療法・サプリメント・体重管理・理学療法・環境整備を組み合わせたアプローチが推奨されます。また、免疫介在性関節炎では免疫抑制療法が主体となり、治療方針が大きく変わります。
各々使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で状態を確認することが大切です。

変形性関節症・感染性関節炎の痛みと炎症に対する第一選択薬です。現在では、COX-2を選択的に阻害するコキシブ系などの製品が主流で、従来の非選択的NSAIDsと比較して胃腸への負担が少なく、長期使用に適しています。
なお、免疫介在性関節炎にはステロイド・免疫抑制剤が主体となるため、NSAIDsの適応ではありません。長期投与時は定期的な血液検査(腎臓・肝臓の評価)が必須です。他のNSAIDsやステロイドとの併用は禁忌です。

製品名 有効成分 特徴
オンシオール ロベナコキシブ COX-2高選択性のコキシブ系NSAID。炎症部位に集積・持続する特性があり、作用発現が早く効果が持続する。1日1回投与。急性・慢性どちらにも使用可。
リマダイル カルプロフェン 長年の使用実績がある代表的NSAIDs。長期投与が可能。チュアブル錠もあり、投薬しやすい。
メタカム / インフラカム メロキシカム 経口懸濁液・チュアブル錠の剤形あり。体重に合わせて細かく用量調整しやすく、小型犬から大型犬まで幅広く対応可能。長期投与の実績が豊富なNSAIDsのひとつ。
フィロコックス / プレビコックス フィロコキシブ 犬専用の選択的COX-2阻害薬。チュアブル錠で投薬しやすく、変形性関節症に伴う慢性疼痛・炎症を緩和する。消化器系への影響が少ない。

免疫介在性関節炎では、免疫抑制療法が治療の主体となります。

  • プレドニゾロン(ステロイド):免疫抑制量で開始し、症状の改善とともに漸減します。多くの症例で速やかな効果が得られますが、長期使用では多飲多尿・体重増加・感染症リスクなどの副作用に注意が必要です。
  • シクロスポリンなどの免疫抑制剤:ステロイド単独での維持が難しい場合や、副作用軽減のためにステロイドの減量を目的として追加・切り替えが行われます。

治療期間は長期に及ぶことが多く、6ヶ月以上の継続が目安となります。しっかりと再発を防ぐためにも、焦らず腰を据えてモニタリングを続けていくことが大切です。

2023年に日本で承認された、犬の変形性関節症向けの新しい鎮痛薬です。
有効成分ベジンベトマブは、変形性関節症の慢性疼痛に関わる「NGF(神経成長因子)」を標的とするモノクローナル抗体製剤で、痛みの神経シグナル伝達を根本からブロックします。月1回の皮下注射で投与します。

NSAIDsとはまったく異なる作用機序のため、今までの飲み薬であまり効果がなかった犬や、腎臓・肝臓への負担が懸念される高齢犬でも使用を検討できる点が大きなメリットです。
効果の発現は投与後7日目から認められ、はっきりとした効果が実感できるのは2〜3回目の投与以降が多いとされています。

有効成分としてポリ硫酸ペントサンナトリウムを配合。
軟骨基質の産生促進・軟骨破壊酵素の阻害・関節液の粘稠性改善・滑膜の血流改善など、多角的な関節保護作用をもつ注射剤です。

NSAIDsと組み合わせることで相乗効果が期待でき、初期〜中等度の変形性関節症に有用とされています。
通常は7日おきに1回×4週間を『1クール』として皮下注射します。

長期的な関節の健康維持・進行予防・症状緩和の補助として広く活用されています。治療薬との併用が一般的で、効果が出るまでに数か月かかることを念頭においたうえで継続することが大切です。
犬の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

製品名(主成分) 主な作用・特徴
コセクイン
(グルコサミン+コンドロイチン硫酸)
グルコサミンは軟骨の構成材料として軟骨細胞の修復・保護を助け、コンドロイチン硫酸は軟骨のクッション性と関節液の粘度を維持する。2成分の相乗効果が期待される定番製品。
ダスクイン
(グルコサミン+低分子量コンドロイチン+ASU+MSM)
コンドロイチンを低分子化し腸での吸収率を約70%に向上。アボカド大豆不鹸化物(ASU)・MSMも配合し、軟骨保護と抗炎症作用を多角的にサポート。
アンチノール プラス
(EAB-277:モエギイガイ抽出脂質+クリルオイル)
脂肪酸を含む海洋性脂質が関節の炎症を抑制。抗炎症作用・関節保護に加え、皮膚・被毛・心血管・腎臓など全身の健康維持にも関与する。
アンセット
(モエギイガイ抽出脂質)
アンチノールと同系統のモエギイガイ抽出脂質を主成分とする。関節・皮膚・被毛の健康補助を目的とし、カプセルが小さめで小型犬にもお口に含ませやすい形状。
グリコフレックスプラス
(グルコサミン+コンドロイチン+MSM+DMG)
軟骨基質の合成を支援するとともに、抗炎症作用により関節内の炎症や軟骨分解を抑制し、変形性関節症に伴う疼痛や関節機能の低下を軽減する。関節の健康維持や運動機能の改善を目的として用いられる。
SOPHIA スムーズラン
(グルコサミン+コンドロイチン+イミダゾールジペプチド)
関節成分(グルコサミン・コンドロイチン)に加え、筋肉の疲労回復・機能維持に関わるイミダゾールジペプチドを配合したサプリ。関節と筋力の両面をサポートする。
  • 理学療法・リハビリテーション:水中トレッドミル(水中歩行)、マッサージ、ストレッチ、温熱療法など。筋力維持・血流促進・疼痛軽減に有効で、薬物療法との組み合わせが推奨される。
  • 低出力レーザー療法:疼痛緩和・組織修復促進を目的として使用。副作用が少なく高齢犬にも適用しやすい。
  • 鍼灸:慢性疼痛の緩和に一定の効果が報告されており、薬物療法の補完として活用されることがある。
  • 外科手術:股関節全置換術・関節固定術・骨切り術など。内科療法で管理困難な重症例に実施される。

  • 犬の関節炎は「非炎症性(変形性関節症)」「炎症性・非感染性(免疫介在性)」「炎症性・感染性(細菌性)」の3つに分類される。
  • 変形性関節症は軟骨の摩耗・変性が主体で犬の関節炎で最も多い。NSAIDsが第一選択薬で、新薬リブレラ(抗NGF抗体)も有力な選択肢。
  • 免疫介在性関節炎は発熱・全身症状・移動性跛行が特徴。治療はステロイド・免疫抑制剤が主体で、NSAIDsは適応外となる。
  • 鑑別診断には関節液検査が最重要。同じ「跛行」でも原因によって治療が大きく変わる。
  • 体重管理・適切な運動・環境整備を治療と組み合わせることが長期管理の基本。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • Johnston SA. Osteoarthritis: joint anatomy, physiology, and pathobiology. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1997;27(4):699-723.
  • Aragon CL, et al. Systematic review of clinical trials of treatments for osteoarthritis in dogs. J Vet Intern Med. 2007;21(6):1197-1210.
  • Fritsch DA, et al. A multicenter study of the effect of dietary supplementation with fish oil omega-3 fatty acids on carprofen dosage in dogs with osteoarthritis. J Am Vet Med Assoc. 2010;236(5):535-539.
  • Innes JF, et al. Bedinvetmab, a canine anti-nerve growth factor monoclonal antibody, in dogs with osteoarthritis: a randomised, masked, placebo-controlled trial. Vet J. 2022;279:105785.
  • Pedersen NC, et al. A study of 29 dogs with immune-mediated polyarthritis. J Vet Intern Med. 2000;14(1):39-49.
  • Roush JK, et al. Evaluation of the effects of dietary supplementation with fish oil omega-3 fatty acids on weight bearing in dogs with osteoarthritis. J Am Vet Med Assoc. 2010;236(1):67-73.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(オンシオール・メタカム・プレビコックス・リブレラ・カルトロフェンベット添付文書).

犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)~見逃しやすい症状と治療薬について~【獣医師執筆】

「最近、水をよく飲むようになった」「お腹がぽっこり膨らんできた」「毛が抜けて薄くなってきた気がする」──愛犬のそんな変化に気づいたとき、病気が隠れているかもしれません。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、中高齢の犬に比較的よく見られるホルモンの病気ですが、症状が「老化のせいかな」と見逃されやすく、飼い主さんが異常に気付いて病院を受診するまでに、病状が進行してしまっているケースも少なくありません。今回は、クッシング症候群の基本の診断・よくみられる症状・基本となる治療薬について解説します。


副腎は腎臓のすぐ近くにあります。犬ではわずか数mm程度の厚さの小さな臓器で、生体にとって欠かせない複数のホルモンを分泌しています。その中でも特に重要なのが「コルチゾール(糖質コルチコイド)」です。

コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、血糖値の調整・炎症の抑制・免疫のコントロール・脂質やタンパク質の代謝など、非常に広範な働きを担っています。病院でよく使われるステロイド系消炎薬(プレドニゾロンなど)は、このコルチゾールをもとに作られた薬です。

コルチゾールの分泌量は、脳と副腎の間の精密なフィードバック回路「HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)」によって厳密に制御されています。

  • 視床下部がCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌
  • CRHを受けた下垂体がACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌
  • ACTHが副腎に届き、コルチゾールが合成・分泌される
  • 血中コルチゾールが増えると視床下部・下垂体へのフィードバックで分泌にブレーキがかかる

この制御機構のどこかに異常が生じてブレーキが効かなくなると、コルチゾールが過剰に出続ける状態を引き起こします。この過剰なホルモンが、体内のあらゆるところで悪影響を及ぼすのがクッシング症候群です。

コルチゾール過剰の原因は大きく3つに分類され、タイプによって好発犬種・治療方針が大きく異なります。
自然発生型の発症は8〜11歳前後が中心で、5歳以上からリスクが高まります。

タイプ 原因・割合・特徴 好発犬種・体型
下垂体性(PDH) 脳の下垂体に腫瘍ができACTHが過剰分泌され、副腎を慢性的に刺激し続ける。全体の約80〜85%を占める最多タイプ。基本的に両側副腎が肥大する。 小型犬に多い。プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ヨークシャーテリア、ボクサー・ボストンテリアなど。
副腎腫瘍性(AT) 副腎が腫瘍(良性・悪性)化し自律的にコルチゾールを過剰分泌。全体の約15〜20%。悪性(腺がん)が約50%を占め転移リスクあり。 特定犬種の好発傾向は確認されていないが、中大型犬に多い傾向。小型犬での発症も珍しくはない。
医原性クッシング ステロイド薬の長期・過剰投与により、外部からコルチゾール相当のホルモンが供給され続けた結果生じる。自然発生とは本質的に別の病態で、原因薬の漸減により改善する。 長期的にステロイドの投与を受けている犬全般が対象。

クッシング症候群は症状がゆっくり進行するうえ、老化として見逃されやすいのが特徴です。
以下のサインを一つでも感じたら、念のため獣医師に相談してみましょう。

症状 メカニズム
多飲・多尿(飲水量が増える・尿が増える) コルチゾール過剰が抗利尿ホルモン(ADH)の分泌・作用を阻害することで腎臓が水を再吸収できなくなり、尿が大量に出る。それを補うため飲水量も増加する。体重1kgあたり1日100ml以上の飲水量(例:5kgの犬で500ml/日超)が続く場合は要注意。
多食 メカニズムは完全には解明されていないが、コルチゾールが中枢神経系の食欲調節に影響を与えると考えられている。
腹部膨満(お腹がポッコリ) 腹腔内脂肪の蓄積に加え、コルチゾールによる腹筋の萎縮が重なり、たれ腹状になる。体重の割にお腹だけ目立って大きくなる。
左右対称の脱毛・皮膚症状 コルチゾールが皮膚組織を萎縮させることで、尾の付け根・背中・脇腹などに左右対称の脱毛や皮膚石灰化などが生じる。
筋力低下・運動不耐性 筋肉が萎縮し、特に体幹部が弱る。散歩を嫌がる・疲れやすくなる。
息切れ・呼吸が浅い 腹部膨満による横隔膜の圧迫で呼吸が苦しくなるほか、筋力低下で体力も落ちているため疲れやすい。
皮膚が薄くなる・毛細血管が透けて見える コルチゾールが皮膚コラーゲンを破壊し続けることで皮膚が非常に脆くなる。傷つきやすく感染しやすい状態になり細菌性皮膚炎をおこしやすくなる場合がある。

クッシング症候群を治療せずにいると、糖尿病・高血圧・肺血栓塞栓症(突然の呼吸困難)・細菌性膀胱炎や皮膚感染症・骨粗鬆症・皮膚や組織への石灰沈着、さらに下垂体腫瘍が大きくなった場合には眼振・旋回・痙攣などの神経症状が現れることがあります。


外見上の皮膚や被毛の状態、飲水量などの情報からクッシング症候群を疑う場合には、まず血液検査・尿検査・超音波検査を行います。クッシング症候群に特徴的な異常として、以下のものが挙げられます。

  • ALT・ALP(肝酵素)の著明な上昇(特にALP)
  • コレステロール・中性脂肪の高値
  • 好酸球の減少、リンパ球の減少(ストレス白血球像)
  • 尿比重の低下(希薄な尿)、尿タンパク陽性
  • 超音波検査で副腎の大きさチェック(大きさが正常でも完全否定はできない)

クッシング症候群の確定診断にはホルモン機能検査が必要です。主に以下の検査が行われます。

検査名 方法・内容 特徴・注意点
低用量デキサメサゾン抑制試験(LDDST) デキサメサゾンを投与し、8時間後のコルチゾールを測定。正常なら抑制されるが、クッシングでは抑制されない。 感度が高く、副腎腫瘍性との鑑別にも役立つ。ただし非副腎疾患やストレスで偽陽性が出やすい点に注意。
ACTH刺激試験 最もよく行われる検査。合成ACTHを投与し、投与前後のコルチゾールを測定。クッシングでは過剰反応を示す。 治療モニタリングにも使用。医原性クッシングの鑑別にも重要。
尿中コルチゾール/クレアチニン比(UCC) 尿中のコルチゾールとクレアチニンの比率を計測。 採尿が自宅でも可能。スクリーニングに有用。

超音波検査(エコー)で両側の副腎の大きさ・形態を確認します。
下垂体性では両側副腎が対称的に肥大し、副腎腫瘍性では腫瘍側が肥大する一方、対側の副腎はACTH低下により萎縮・小型化する場合が多いです。この左右差がタイプ鑑別の重要な手がかりになります。
MRI/CTは下垂体腫瘍の存在確認や、副腎腫瘍の転移・浸潤評価に用いられる場合があります。


クッシング症候群の治療の目的は「コルチゾールの過剰分泌を抑制し、症状を改善してQOL(生活の質)を保つこと」です。タイプによって方針が異なりますが、内科的治療(薬剤治療)が中心となります。

下垂体性・副腎腫瘍性のどちらにも、コルチゾールの合成や分泌を抑制する薬剤を用います。
詳しくは次章で解説します。治療は基本的に終生継続となります。

副腎腫瘍性で良性かつ切除可能な場合、外科的切除が根治につながる可能性があります。
一方、下垂体性では下垂体腫瘍の摘出術や放射線治療が根本的な治療ですが、実施できる施設は限られており、治療リスクもあるため内科治療を行うことがほとんどです。

ステロイド薬の長期使用が原因のため、獣医師の指示のもとで少しずつ減量します。
突然の中止は「副腎クリーゼ」(急性のショック症状)を引き起こす危険があるため、自己判断でやめてはいけません。


クッシング症候群の内科治療薬は、作用機序がそれぞれ大きく異なります。いずれも獣医師の処方・指示のもとで使用し、定期的なモニタリングが必須です。

項目 内容
作用機序 副腎でコルチゾールを合成する酵素(3β-HSD)を選択的に阻害し、産生を抑制する。副腎を破壊せず「合成を抑える」可逆的なアプローチを行うため、ミトタンよりも安全性が高く第一選択薬として用いられる。
効果 投与開始から数日〜2週間で多飲多尿・食欲の改善が始まることが多い。脱毛の改善には数か月を要する場合もある。
注意点・副作用 過剰投与による副腎壊死・副腎クリーゼ(嘔吐・虚脱・元気消失)が最大リスク。電解質バランスや肝酵素への影響も定期的に確認する。
モニタリング 投与開始後10〜14日目にACTH刺激試験でコルチゾールを確認し用量調整。以降は1〜3か月ごとに継続する。検査頻度は犬の状態で個別に判断する。
項目 内容
作用機序 副腎皮質細胞を選択的に壊死・萎縮させコルチゾール産生能力そのものを低下させる。「副腎を壊す」ため過剰投与に十分な注意が必要。
効果 導入が成功すると長期寛解が得られる症例もある。
注意点・副作用 副腎クリーゼ・アジソン病への移行リスクもあり、嘔吐・下痢・虚脱が出たら即中止+緊急受診が必要。
現在の位置づけ トリロスタンが普及した現在、使用頻度は減少していますが、トリロスタンが無効な症例や重症例、また入手困難な状況などにおいては、今なお重要な選択肢となる場合があります。なお、本剤は国内において人間用医薬品としてのみ承認されており、動物用医薬品としての承認は受けていません。獣医師が必要に応じて適応外使用することがあります。

クッシング症候群に対する有効性が明確に確認されたサプリメントはありません。
以下は理論的根拠や他疾患でのエビデンスを類推して使われているものです。薬剤治療の代替にはならない点を踏まえたうえ、獣医師の指導の下で適切に使用しましょう。

成分 使用される理由・根拠の現状 製品例
シリマリン(ミルクシスル)・SAMe・タウリン 犬の慢性肝疾患への肝保護作用は獣医学的に認知されており臨床現場でも広く使われている。コルチゾール過剰やトリロスタン投与が肝臓に負担をかけるという理論的背景から補助的に用いられることがある。 リバガード、ヘパアクト
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA) 犬の関節炎・皮膚炎・高脂血症への抗炎症効果は複数の研究で示されている。クッシングに伴う高脂血症・皮膚症状・心血管リスクへの補助として使われることがあるが、クッシング特異的なエビデンスはない。 ANSET(アンセット)、モエギタブ

  • 多飲多尿・腹部膨満・脱毛・多食など、「老化と思いがちな症状」に注意する
  • 確定診断には血液検査・尿検査・ホルモン機能検査・画像検査の組み合わせが必要
  • 副腎クリーゼ(嘔吐・元気消失・虚脱)が出たら即投薬中止・緊急受診
  • 定期的なホルモン検査・血液検査・尿検査で継続的にモニタリングする

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • Feldman EC, Nelson RW, Reusch C, Scott-Moncrieff JC. Canine and Feline Endocrinology, 4th ed. Elsevier Saunders, 2015.
  • Behrend EN, et al. Diagnosis of Spontaneous Canine Hyperadrenocorticism: 2012 ACVIM Consensus Statement. J Vet Intern Med. 2013;27(6):1292-1304.
  • Helm JR, et al. A Comparison of Factors that Influence Survival in Dogs with Adrenal-Dependent Hyperadrenocorticism Treated with Mitotane or Trilostane. J Vet Intern Med. 2011;25(2):251-260.
  • Hoffman JM, Lourenço BN, Promislow DEL, Creevy KE. Canine hyperadrenocorticism associations with signalment, selected comorbidities and mortality within North American veterinary teaching hospitals. J Small Anim Pract. 2018;59(11):681-690.
  • Benchekroun G. Diagnosing Canine Hyperadrenocorticism. WSAVA 2011 Congress Proceedings. VIN, 2011.
  • Merck Veterinary Manual. Cushing Disease (Pituitary-Dependent Hyperadrenocorticism) in Animals. https://www.merckvetmanual.com/ (2024年更新版)
  • Cornell University College of Veterinary Medicine. Cushing’s Syndrome. https://www.vet.cornell.edu/
  • Lemetayer J, Blois S. Adrenal incidentalomas in the dog and cat. J Vet Intern Med. 2011;25(5):974-982.
  • Shanlly S, Slessor J, Yan W, et al. Effectiveness of Medical Treatment on Survivability in Canine Cushing’s Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis. Animals. 2025;15(20):2954. doi:10.3390/ani15202954
  • 共立製薬株式会社. アドレスタン®製品情報. https://kyoritsuseiyaku.co.jp/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html

『僧帽弁閉鎖不全症』犬で最も多い心疾患について解説【獣医師執筆】

犬の心臓病のなかで、最も多く見られるのが「僧帽弁閉鎖不全症(MVD:Mitral Valve Disease)」です。特に小型犬の高齢期に多く発症し、チワワ・マルチーズ・ポメラニアン・キャバリア・シーズーなどでは珍しくない疾患です。「最近咳が増えた気がする」「なんだか息切れが早くなった」──そんなサインに気づいたとき、もしかしたら心臓がSOSを出しているかもしれません。

8歳以上の小型犬では、半数以上が何らかの心臓疾患を抱えているとも言われており、早期発見・早期対応が愛犬の寿命と生活の質を大きく左右します。
今回は、僧帽弁閉鎖不全症の基本から最新の治療薬・サプリメントまで詳しく解説します。


犬の心臓は人と同じく4つの部屋(左心房・左心室・右心房・右心室)に分かれており、全身に血液を送り出すポンプとして働いています。このうち「左心房」と「左心室」の間にある弁が「僧帽弁(そうぼうべん)」です。正常な状態では、僧帽弁は左心室が収縮する(血液を送り出す)タイミングで完全に閉じることで、血液が左心房へ逆流するのを防ぎます。ところが、この弁の組織が変性・肥厚・変形することで完全に閉じなくなると、収縮のたびに一部の血液が逆流してしまいます。これが「僧帽弁閉鎖不全症」の本質です。

逆流が続くと、左心房・左心室に過剰な血液が蓄積し、心臓は「もっと頑張らなければ」と過剰に働き続けます。その結果として心臓が拡大し、やがては肺への血液うっ滞(肺水腫)や全身への血流低下が起こります。

僧帽弁閉鎖不全症は遺伝的な素因が非常に強く、チワワ・マルチーズ・ポメラニアン・シーズー・ダックスフンド・コッカースパニエルなどの小型〜中型犬種で発症率が高いことが知られています。

中でもキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(CKCS)は特に注意が必要な犬種で、2〜3歳という若齢で心雑音が確認される例も珍しくありません。8歳以上の小型犬では、半数以上が何らかの心臓疾患を抱えているとも言われています。


僧帽弁閉鎖不全症は、国際的な獣医内科学会(ACVIM)のコンセンサスガイドライン(2019年改定)によりステージA〜Dの4段階に分類されます。ステージによって治療方針・投薬開始タイミングが異なります。

ステージ 状態 概要・治療方針の目安
ステージA 発症リスク群 心臓病はまだない。好発犬種・遺伝リスクあり。定期スクリーニング推奨。
ステージB1 無症候・心拡大なし 心雑音あり・心拡大なし。原則投薬不要。年1〜2回の定期検査で経過観察。
ステージB2 無症候・心拡大あり 心雑音あり+心エコー/X線で心拡大確認。状況により投薬が推奨される段階。
ステージC 心不全症状あり 咳・呼吸困難・運動不耐性などが出現。利尿薬・ACE阻害薬・強心薬を組み合わせて積極治療。
ステージD 難治性心不全 標準治療に反応しない重篤な心不全。薬剤追加・専門管理・手術検討が必要。

僧帽弁閉鎖不全症はじわじわと進行するため、初期段階(B1)では「なんとなく元気がない」程度しか出ないことも多く、気づきにくいのが特徴です。
以下のサインに一つでも心当たりがあれば、早めに動物病院を受診してください。

症状 背景となるメカニズム
咳・空咳 心臓の拡大が気管を圧迫することで生じる。肺水腫(肺への血液うっ滞)が起きると悪化する。
運動不耐性(すぐ疲れる・歩くのを嫌がる) 心拍出量の低下により以前より早く疲れる。散歩途中で立ち止まる、抱っこを求めるなどの変化が見られる。
呼吸が速い・荒い・腹式呼吸 肺に水が溜まる(肺水腫)と呼吸が苦しくなる。特に安静時・睡眠時の呼吸数増加は要注意。
失神・虚脱 重度の心拍出量低下や不整脈で一時的に意識を失うことがある。
腹部膨満 重症化すると、病態によっては腹水が溜まりお腹が丸く膨らんで見える場合がある。
食欲低下・体重減少 全身の血流低下が続くと食欲も落ち、筋肉量が減る「心臓悪液質」が生じることがある。

【要注意サイン】
安静時(寝ているとき)の呼吸数が1分間に40回を超える場合は、肺水腫の可能性などを考慮し、元気でも念のため病院を受診されることをおすすめします。日頃から「睡眠時呼吸数モニタリング」(横に寝ているときに胸の上下を1分間数える)を習慣にしましょう。


まず動物病院で行われるのが聴診です。僧帽弁閉鎖不全症では逆流する血液が弁を通過する際に「心雑音(しんざつおん)」が生じます。雑音の強さはGrade 1〜6に分類され、Grade 3以上になると心拡大を伴っている可能性が高まります。ただし雑音の大きさだけでは重症度は判断できないため、画像検査・血液検査が不可欠です。

心臓の大きさや形・肺の状態を確認します。心拡大の指標として「VHS(椎骨心臓スコア)」が使われ、犬の平均は9.7±0.5とされています(犬種によって基準値が異なる場合があります)。肺水腫が起きていると肺野が白く映るため、緊急性の判断にも重要な検査です。

ステージ判定と治療方針決定に欠かせない最重要検査です。
弁の逆流の程度・心腔の大きさ・心機能(短縮率・駆出率)などを定量的に評価できます。心雑音が聴取されたら、定期的に心臓の超音波検査を行い、進行の有無など経過を細かく確認していきます。

血液検査は、心臓への負荷・ダメージを客観的に示すバイオマーカーの測定と経時的なモニタリングが重要です。近年は心臓専門マーカーの測定が普及しており、早期スクリーニングや治療効果の評価に活用されています。

検査項目 内容と意義
NT-proBNP(N末端プロBNP) 心筋が過剰なストレスを受けると放出されるホルモン前駆体。心臓病スクリーニングの最も重要なバイオマーカーの一つ。心拡大の程度に比例して高値になり、B1とB2の鑑別や治療効果のモニタリングにも有用。主に外注検査でチェックするが、簡易キットも普及している。
cTnI・cTnT(心筋トロポニン) 心筋細胞が傷害を受けると血中に漏れ出るタンパク質。急性の心筋ダメージや不整脈の評価に有用。近年普及した高感度トロポニン(hs-cTnI)は早期の心筋障害をより精度高く検出できる。

僧帽弁閉鎖不全症は現時点では内科的治療で「完治」させることはできません。
治療の目的は「心不全の発症を遅らせること」「心不全症状をコントロールしてQOLを保つこと」「できる限り長く、快適に生きられるようサポートすること」です。
治療は薬剤・食事療法・環境管理・手術を状態に応じて組み合わせます。

心臓病の犬には塩分(ナトリウム)を控えた食事が推奨されます。市販の心臓サポート食(療養食)は塩分制限に加え、オメガ3脂肪酸・タウリン・カルニチンなど心臓に有益な成分が配合されています。食欲不振の犬に無理に療養食を与えると栄養不足を招くため、まず「食べること」を優先しながら段階的に切り替えていくのが基本です。

ステージB1〜B2では激しい運動を避けつつ、適度な散歩は継続することが推奨されます。ステージCになると心臓への負担を抑えるための運動制限が必要です。獣医師の指示のもと、愛犬の状態に合わせた運動量を設定してください。

高温多湿の環境では心拍数が増加して心臓への負担が急増します。室内温度・湿度の管理を徹底し、夏の散歩は早朝・夕方の涼しい時間帯に短時間で行うようにしましょう。花火や工事音など興奮・ストレスの原因も心拍数を上げる原因となるため注意しましょう。

近年、「僧帽弁修復術(Mitral Valve Repair)」によって根本的な完治を目指せるようになりました。実施できる施設は国内でもごく限られた専門病院のみで費用も高額ですが、手術成績は向上しており、ステージB2〜Cの段階でかかりつけ医に相談しておくことで適応の幅が広がります。


「主軸となる心不全治療薬」「サプリメント(継続補助)」をまとめて解説します。なお、本内容は学術情報・各製品の添付文書情報に基づくものであり、使用にあたっては必ず獣医師の指示に従ってください。

以下の薬剤はACVIMガイドラインに基づいて処方される中心的な薬です。
ステージが進むにつれて複数の薬を組み合わせて使用するのが一般的です。

成分(製品名) 特徴・役割
ピモベンダン
(dsピモハート、ピモベハート)
心筋の収縮力を高める強心作用+血管拡張作用。ステージB2からの早期投与が推奨される第一選択薬。EPIC試験(※)で心不全発症までの期間が大幅に延長されるとの報告がある。カルシウム感受性を高めることで心筋収縮力を上げるため、従来の強心薬より不整脈を誘発しにくいとされる。食前1時間の空腹時投与が吸収率の点で望ましい。
ベナゼプリル塩酸塩
(フォルテコール、ベナゼハート)
血管拡張で心臓の負担を軽減するACE阻害薬。心リモデリング(病的変形)の抑制効果もある。フレーバー錠で投薬しやすい。腎臓への保護作用も報告されており、心臓病に伴う腎機能低下が懸念される症例にも使われる(状態による)。
アラセプリル
(アピナック)
日本で開発されたACE阻害薬。RAA系を介する血管拡張作用に加え、RAA系を介さず末梢交感神経を直接抑制するトリプルアクションを持つ。代謝物のSH基による活性酸素消去作用もある。他のACE阻害薬からの切り替えで咳の改善が見られた報告も。
フロセミド
(ループ利尿薬)
体内の余分な水分を尿として排出し肺水腫・体液貯留を改善。ステージCから主軸に。緊急時は注射で速効投与。電解質バランスへの影響があるため定期血液検査が必要。
トラセミド
(アプカード)
1日1回で長時間効く強力な利尿薬。フロセミドより耐性が生じにくいため、長期管理の切り替え薬として選ばれることが増えている。腎機能モニタリングが必要。
スピロノラクトン
(抗アルドステロン薬)
アルドステロン阻害で心リモデリングを抑制。カリウム保持作用がありフロセミドとの相乗効果が期待できる。ACE阻害薬と組み合わせてよく使われる。
アムロジピンベシル酸塩
(カルシウム拮抗薬)
強力な血管拡張で血圧を下げる。ステージ進行・肺高血圧・高血圧合併例で追加されることがある。

※EPIC試験とは:心拡大が認められるB2ステージの犬にピモベンダンを症状が出る前から投与し、投薬なし群と比べて心不全発症までの期間が約15か月延長されることが示された試験。この結果が2019年のACVIMガイドライン改定でB2への早期投与推奨が盛り込まれた根拠となっています。

薬剤治療を補う目的でサプリメントを組み合わせることで、より包括的な心臓ケアが可能になります。
ただし、サプリメントはあくまで補助的なものであり、薬剤の代替にはなりません。獣医師と相談のうえ活用してください。

成分名 特徴・期待される効果
タウリン・L-カルニチン 心筋のエネルギー代謝を支えるアミノ酸。拡張型心筋症との関連で注目されており、心臓サポート用サプリに広く配合されている。
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA) 抗炎症・心臓の炎症を抑える効果が期待される。心臓悪液質(体重減少・筋肉量低下)の予防にも有益とされる。心臓療養食に含まれる場合も多く、魚油サプリで別途補うことも可能。
ビタミンE・ビタミンC 心臓への酸化ストレスを軽減することが期待される抗酸化ビタミン。ビタミンEは細胞膜の酸化を防ぎ、ビタミンCはビタミンEの再生にも働く。心臓ケアサプリの成分として広く用いられている。

  • 年に1〜2回は聴診・X線・心エコー・血液検査(NT-proBNP等)を受け、早期にステージを把握する。
  • 安静時呼吸数モニタリングをご自宅で習慣化する(40回/分超えは緊急受診)。
  • ステージB2以上では、獣医師の判断のもとピモベンダンの早期開始を検討する。
  • 夏と冬は温度管理(室温22〜26℃目安)と湿度の管理が特に重要。
  • 食事・サプリメント・薬剤・環境管理を組み合わせた総合的なアプローチが大切。

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、適切な早期発見と継続的な治療管理によって、その後の経過を大きく変えることができる病気です。大切な愛犬が少しでも長く元気に過ごせるよう、日々の観察と定期検査を続けていきましょう。

  • Boswood A, et al. Effect of Pimobendan in Dogs with Preclinical Mitral Valve Disease and Cardiomegaly (EPIC Study). J Vet Intern Med. 2016;30(6):1765-1779.
  • Keene BW, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J Vet Intern Med. 2019;33(3):1127-1140.
  • Boswood A, et al. Biomarkers in cardiology – Part 1: Biomarkers of heart failure. J Small Anim Pract. 2004;45(10):501-508.
  • Oyama MA, et al. Prognostic value of plasma cardiac troponin I concentration in dogs with cardiac disease. J Vet Intern Med. 2004;18(3):345-350.
  • 物産アニマルヘルス. アピナック®錠 製品情報(アラセプリル). https://vet-i.jp/contents/product/apinac/index.html
  • エランコジャパン株式会社. フォルテコール錠フレーバー・フォルテコールプラス添付文書. https://my.elanco.com/jp/
  • 共立製薬株式会社. ピモベハート錠 添付文書. https://kyoritsuseiyaku.co.jp/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html
  • ねこあざらし薬店. 心臓病の薬(要・犬)商品ページ. https://nekoazarasi.com/

犬猫の毛包虫症(ニキビダニ症)について。発症しやすい原因と最新の治療薬について解説【獣医師執筆】

毛包虫症は、「ニキビダニ(Demodex属)」という犬や猫の皮膚にもともと共生しているダニが、何らかのきっかけで異常増殖することで起こる皮膚病です。通常、ダニが寄生すると激しいかゆみが起こる場合が多いですが、毛包虫症では「かゆみがあまりないのに毛が抜ける」という特徴的な症状があり、症状の原因が判明するまで時間がかかりやすい理由でもあります。犬と猫に寄生するニキビダニは主に4種類が知られており、形状・寄生部位・症状・感染性がそれぞれ大きく異なります。今回は4種の違いを詳しく整理したうえで、診断から最新の治療薬まで解説します。


ニキビダニは節足動物門・クモ綱・ニキビダニ科に属するダニで、哺乳類の毛包や皮脂腺に共生していて、目視では確認できないほど小さなダニです。同じく皮膚の下に潜み、目視不可であるヒゼンダニ(疥癬の原因となるダニ)とは分類上まったく異なります。ニキビダニは健康な犬猫の毛包内にも少数が常在しており、免疫機能が正常であれば病気を引き起こしません。発症しやすい素因としては遺伝的な体質・若齢・老齢・基礎疾患による免疫低下などが挙げられており、これらをきっかけにダニが異常増殖することで「毛包虫症(ニキビダニ症)」を発症します。

犬猫に寄生するニキビダニには、主にイヌニキビダニ(Demodex canis)、イヌ短型ニキビダニ(Demodex injai)、ネコニキビダニ(Demodex cati)、猫浅在性ニキビダニ(Demodex gatoi)の4種類があり、それぞれ以下のような特徴があります。
※上記画像はイヌニキビダニ(Demodex canis)

ダニの種類宿主発生割合形状の特徴検出しやすさ
イヌニキビダニ犬の毛包虫症の約95%以上を占める。細長い葉巻き型。体長 約0.25〜0.3mm◎ 比較的検出しやすい。深部皮膚掻爬検査+複数箇所採取が推奨
イヌ短型ニキビダニ稀(数%程度)体が太く短い葉巻き型。体長 約0.34〜0.37mm△ やや困難。皮脂腺の深部に寄生し、検査で発見されにくい。
ネコニキビダニ猫の毛包虫症では最多。イヌニキビダニに似た細長い葉巻き型。体長 約0.2〜0.27mm△ やや困難。深部皮膚掻爬検査が基本。
猫浅在性ニキビダニネコニキビダニと同程度の頻度で報告(地域差あり)体が太く丸みのある短い葉巻き型。体長 約0.17〜0.2mm★ 困難。検出率が低く試験的治療を要することが多い

犬の毛包虫症は、発症パターンによって「局所型(限局型)」と「全身型(汎発型)」の2種類に分けられます。局所型は主に1歳未満の若齢犬に多く、顔・前肢などの限られた部位に脱毛が生じますが、成犬になり免疫力がついてくると自然に治癒する場合もあります。一方、全身型は病変が全身に及び、難治性になることも多く、成犬・老犬での発症では背景に免疫を抑制するような基礎疾患が潜んでいることが少なくありません。

犬の毛包虫症の特徴内容
ニキビダニの種類イヌニキビダニが主、イヌ短型ニキビダニは稀。
感染経路主に分娩時・哺乳期に母犬から子犬へ移行すると言われている。成犬間で感染する可能性は極めて低い。
人への感染犬のニキビダニは人に定着しない(人獣共通感染のリスクはほぼなし)
局所型(限局型)全身型(汎発型)
病変の範囲5か所未満の局所的な脱毛・紅斑5か所以上、または全身・足先(足部型)に広がる
好発年齢免疫力が低い1歳未満の若齢犬に多い若齢〜高齢まで幅広い。特に成犬・老犬での発症は基礎疾患を疑う。
好発部位顔面(目・口の周囲)・前肢など体幹・四肢全体・足先など。
かゆみ軽度orほとんど認められないことも通常は軽度。二次感染が加わるとかゆみが出る
症状の経過自然治癒するケースもある自然治癒は稀。積極的な長期治療が必要
二次感染比較的少ない膿皮症(細菌感染)を合併しやすい

毛包虫症には遺伝的素因が関与することも言われています。以下の犬種を飼っている場合は、若齢時の皮膚の変化に特に注意してください。

  • 短頭種・皮膚のたるみが多い犬:フレンチ・ブルドッグ、イングリッシュ・ブルドッグ、パグ
  • その他:シャーペイ、ダックスフンド、ドーベルマン、ボクサー、スタッフォードシャー・ブル・テリアなど

成犬・老犬で全身型が発症した場合、免疫機能が何らかの原因で低下した状態(免疫抑制状態)にあることが多く見られます。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、悪性腫瘍、長期的なステロイド投与などが代表例です。ニキビダニの駆除だけでなく、こうした基礎疾患を同時に治療しなければ、症状が一度改善しても再発しやすくなります。

【犬の毛包虫症を疑うべき症状チェックリスト】

  • 顔・目の周り・口周辺、または前肢に円形〜不整形の脱毛がある
  • 脱毛部位の皮膚が赤く、フケ(鱗屑)・かさぶた(痂皮)がある
  • かゆみは軽度〜ほとんどない(疥癬との重要な鑑別ポイント)
  • フレンチ・ブルドッグ、シャーペイなど好発犬種である
  • 1歳未満の子犬で皮膚症状が出ている
  • 成犬・老犬で突然、多発性の脱毛・皮膚炎が出た(基礎疾患の可能性)

これらの症状が複数認められる場合には、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。


猫の毛包虫症は、原因ダニの種類によって症状・感染様式が異なります。毛包深部に寄生するネコニキビダニはかゆみが少なく、免疫が低下した猫で発症しやすい傾向があります。一方、表皮の角質層に寄生する猫浅在性ニキビダニは猫間で感染が広がる感染性を持ち、強いかゆみを伴い、「過剰グルーミング」によって体の左右対称性の脱毛が特徴的に現れます。特に猫浅在性ニキビダニは多頭飼育環境や保護猫との接触を通じてひそかに広がることがあるため注意が必要です。

猫の毛包虫症の特徴内容
ニキビダニの種類ネコニキビダニ(毛包内寄生)、猫浅在性ニキビダニ(角質層寄生・感染性あり)
感染経路ネコニキビダニ:主に分娩時・哺乳期に母猫から子猫へ移行する。猫浅在性ニキビダニ:感染猫との接触・グルーミングで広がる
人への感染猫のニキビダニは人に定着しない
ネコニキビダニ猫浅在性ニキビダニ
寄生部位毛包・皮脂腺の深部表皮の角質層(非常に浅い)
感染性成猫間の感染力は低い★猫間で感染する。接触・グルーミングで広がる
かゆみ軽度★強い。過剰グルーミング・対称性脱毛が特徴
好発部位頭部・耳介・頸部。重症化すると全身へ拡大。体幹・側腹部・四肢。左右対称性の脱毛・鱗屑
自然治癒自然治癒は稀。基礎疾患の治療と並行した駆虫が必要自然治癒は稀。感染源の特定と全頭同時治療が必要
二次感染皮膚の細菌感染を併発する場合もある過剰グルーミングによる皮膚損傷から細菌感染を併発することがある

猫のニキビダニ症は、原因となるダニの種類によってリスク要因が異なります。

ネコニキビダニの場合猫浅在性ニキビダニの場合
🔑 免疫抑制状態が主なリスク
以下の免疫抑制状態にある猫に多い:
・FIV(猫免疫不全ウイルス)陽性
・FeLV(猫白血病ウイルス)陽性
・糖尿病
・悪性腫瘍
・長期的なステロイド投与中
🔑 免疫状態に関わらず感染・発症
以下の環境要因が主なリスク:
・保護猫や外出猫との接触
・多頭飼育環境
・感染猫と同居している

【猫の毛包虫症を疑うべき症状チェックリスト】

以下の症状に当てはまる場合は、動物病院での診断をおすすめします。

ネコニキビダニを疑う症状猫浅在性ニキビダニを疑う症状
・頭部・耳周り・頸部に限局した脱毛がある
・フケやかさぶたが目立つ
・かゆみは少ない、または軽度
・免疫抑制状態にある(FIV/FeLV陽性、糖尿病、悪性腫瘍、ステロイド長期投与中)
・体幹〜側腹部の対称性脱毛がある
・強いかゆみがある
・過剰グルーミング(毛づくろいが異常に多い)
・保護猫や外出猫との接触後に皮膚症状が出た
・多頭飼育環境で複数の猫に同様の症状がある

⚠️ 特に注意:多頭飼育環境で複数の猫に同じ症状が出ている場合、猫浅在性ニキビダニの集団感染の可能性が高いです。


最も基本となる検査であり、ニキビダニを疑う場合は必ず行います。ニキビダニは毛包の深部や皮脂腺に潜んでいるため、皮膚の表面をなでる程度では採取できません。病変部(脱毛・発赤・鱗屑が見られる部位)を手術用のメス刃の背や鈍的な器具(鋭匙)で強めに擦って掻き取り(スクレーピング)、毛包の内容物ごと採取します。採取した組織を顕微鏡用のスライドガラスに広げ、顕微鏡で観察しニキビダニを探します。複数の病変部から採取することで検出率が上がるため、1か所だけでなく複数箇所を採取することが推奨されます。

病変部の皮膚をピンセットや指でつまんで圧迫し、毛包内の内容物をにじみ出させて採取する方法です。①の検査の補助として、または目の周囲など皮膚が薄く強い掻爬が困難な部位に用いられます。絞り出した内容物をスライドガラスに広げ、顕微鏡で観察します。掻爬と組み合わせて使うことで検出率を高めることができます。

ピンセットで病変部付近の毛を数本引き抜き、毛根部(毛球部)を顕微鏡で観察する検査です。毛包内に寄生しているニキビダニが毛根に付着した状態で観察できることがあります。侵襲が少なく犬猫への負担が軽いため、目の周囲など繊細な部位や、痛みを嫌がる動物への補助的な検査として活用されます。①や②と組み合わせて用いるのが一般的です。


毛包虫症(ニキビダニ症)の治療は、ニキビダニの駆除を目的とした駆虫薬の投与が基本です。局所型(犬)は経過観察で自然治癒することも多いですが、全身型は長期にわたる積極的な治療が必要です。また、同時に、基礎疾患や二次感染の治療も行っていきます。

毛包虫症(ニキビダニ症)の治療薬として近年最も注目されているのが、神経細胞の塩素チャネル(GABA受容体)を選択的に阻害してダニを麻痺・死滅させる「イソオキサゾリン系」薬剤です。哺乳類への選択性が低く安全性が高いことから、現在では多くの獣医師が第一選択として用いています。

表の見方:◎=国内添付文書に適応あり △=適応なし・査読論文に有効性の報告あり

【犬用製品】

製品名(剤形)有効成分効果製品の特徴
ブラベクト錠
(チュアブル錠)
フルララネル3か月に1回の投与で済み、投薬頻度が少なく、長期治療が必要な全身型に特に適している。ノミ・マダニにも対応。
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル牛肉フレーバーで投薬しやすい。イヌニキビダニ症・ノミ・マダニ・犬疥癬にも対応。※シンパリカトリオはイヌニキビダニ症への適応なし。
アドボケート犬用
(スポット剤)
イミダクロプリド+モキシデクチン滴下タイプ。錠剤が苦手な犬に最適。国内でイヌニキビダニ症の適応あり。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ネクスガード
(チュアブル錠)
アフォキソラネル国内で承認はないが海外では有効性が多数報告されており、適応外処方として使用する場合がある。ノミ・マダニにも対応。

【猫用製品】

製品名(剤形)有効成分効果製品の特徴
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン6週齢以上の若齢から使用可能。ノミ・フィラリア・回虫にも対応。
レボリューションプラス
(スポット剤)
セラメクチン+サロラネルレボリューションにマダニ・鉤虫駆除も追加。
アドボケート猫用
(スポット剤)
イミダクロプリド+モキシデクチン滴下タイプ。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。猫ニキビダニ症で使用例の報告あり。
ネクスガードキャットコンボ
(スポット剤)
エサフォキソラネル+エプリノメクチン+プラジクアンテル滴下タイプ。ノミ・マダニ・フィラリア・条虫・回虫・鉤虫にも対応。猫用イソオキサゾリン系製剤として有効性の報告あり。

※本表は一般的な学術情報および海外の研究報告に基づく一覧です。効果が△の製品は国内での効能・効果が承認されていません。これらは獣医師の判断により適応外使用されるケースがありますが、当サイトがその使用を推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指示に従ってください。


  • 犬と猫に寄生するニキビダニは主に4種類あり、形状・寄生部位・感染性・かゆみの有無がそれぞれ異なる。
  • 毛包虫症では、皮膚に脱毛や赤みなどの症状があっても、かゆみが軽度またはほとんど出ないことが多い。
  • 若齢犬の局所型は自然治癒するケースもあるが、基礎疾患のある成犬や老犬では長期化しやすい。
  • 寄生数が少ない場合は一度の検査で検出できないこともあるため、複数回の検査が必要なケースもある。
  • ダニが見つからなくても、症状や経過から強く疑われる場合には、獣医師の判断により試験的駆虫が行われるのが一般的。

ニキビダニは一度異常増殖すると皮膚症状が長引き、二次感染が重なることで治療がより複雑になります。愛犬愛猫の年齢・既往歴・生活環境をもとに、獣医師と相談しながら最適な製品を選びましょう。

  • Mäkinen, O.K. et al. Efficacy of oral fluralaner for the treatment of Demodex canis infestations in dogs. Veterinary Dermatology, 26(5):379-382, 2015.
  • Fourie, J.J. et al. Efficacy of orally administered sarolaner (Simparica) in the treatment of naturally occurring generalized demodicosis in dogs. Veterinary Dermatology, 26(6):407-412, 2015.
  • Mueller, R.S. et al. Treatment of canine generalized demodicosis with a ‘spot-on’ formulation containing 10% moxidectin and 2.5% imidacloprid (Advocate, Bayer Healthcare). Veterinary Dermatology, 20(5-6):441-446, 2009.
  • Fourie, J.J. et al. Efficacy of orally administered fluralaner (Bravecto™) or topically applied imidacloprid/moxidectin (Advocate®) against generalized demodicosis in dogs. Parasites & Vectors, 8:187, 2015.
  • Beugnet, F. et al. Efficacy of oral afoxolaner for the treatment of canine generalised demodicosis. Parasite, 23:14, 2016.
  • Lebon, W. et al. Efficacy of two formulations of afoxolaner (NexGard® and NexGard Spectra®) for the treatment of generalised demodicosis in dogs. Parasites & Vectors, 11:506, 2018.
  • Simpson, A.C. Successful treatment of otodemodicosis due to Demodex cati with sarolaner/selamectin topical solution in a cat. Journal of Feline Medicine and Surgery Open Reports, 7(1), 2021.
  • Chung, T.H. et al. Successful Treatment of Demodex gatoi with 10% Imidacloprid/1% Moxidectin. Journal of the American Animal Hospital Association, 51(6):E1-E5, 2015.
  • Zhou, X. et al. Review of extralabel use of isoxazolines for treatment of demodicosis in dogs and cats. Journal of the American Veterinary Medical Association, 256(12):1342-1346, 2020.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(ブラベクト錠・アドボケート犬用・シンパリカ添付文書).

犬のマダニ予防の重要性~人も危ない!SFTS(重症熱性血小板減少症候群)の恐怖~【獣医師執筆】

マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、人が感染した場合の致死率が10〜30%にのぼる極めて危険な疾患です。さらに深刻なのは、身近なパートナーである犬や猫の発症リスクです。厚生労働省の報告によると発症時の致死率は犬で約40%、猫では約60%に達し、人間を遥かに上回る脅威となっています。SFTSは、感染したペットの唾液や血液を介して飼い主にもうつる「人獣共通感染症(ズーノーシス)」です。愛犬をマダニから守ることは、大切な家族の命を守ることに直結します。手遅れになる前に、定期的なマダニ対策を徹底しましょう。


SFTSは2011年に中国で初めて発見され、日本では2013年に初の国内感染例が報告されました。病原体はフレボウイルス属のSFTSウイルスであり、主にフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)が媒介します。2024年時点で、国内では年間100件前後の感染が報告されており、現時点で承認されたワクチンも特効薬も存在せず、対症療法が治療の中心です。

犬はSFTSウイルスに感染しても無症状〜軽症で経過するケースが多いとされていますが、一方で重篤な症状を呈し死亡する事例も報告されています。犬での潜伏期間は明確には解明されていませんが、マダニ咬傷から数日〜2週間程度とされています。

臨床症状で最も多く見られるのは、39.5℃以上の高熱・著明な元気消失・食欲廃絶・嘔吐・下痢です。身体検査ではリンパ節の腫大が触知されることがあり、血液検査では血小板減少・白血球減少・CRP上昇・ALT・AST・LDHの上昇が認められます。重症例では播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全・神経症状(ふらつき・痙攣・意識障害)に至ることがあり、予後不良となる場合もあります。

【SFTSを疑うべき症状チェックリスト】

  • 39.5℃以上の発熱
  • 元気消失・食欲廃絶(24時間以上続く)
  • 嘔吐・下痢
  • リンパ節の腫れ(首・脇の下・鼠径部)
  • 歯茎・結膜の蒼白または黄疸

これらの症状が複数認められる場合には、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。

犬のSFTSで特に注意すべきは、「症状が出ている犬の血液・唾液・尿・糞便が飼い主に感染しうる」という点です。国内では、SFTSを発症した犬を看病・介護した飼い主が感染した事例が複数報告されており、国立感染症研究所も注意喚起を発出しています。以下の行動は非常に危険です。感染が疑われる犬のお世話をする際は必ず手袋を着用し、処置後は石けんで十分に手洗いを行ってください。

  • 感染犬を素手で触る・傷口を舐めさせる
  • 体液(血液・尿・糞便・嘔吐物)を素手で処理する
  • 感染犬の使用済みタオルや食器を素手で扱う

マダニに刺されてから発症するまでの潜伏期間はおよそ6〜14日とされています。マダニに刺された後2週間以内に高熱・消化器症状・倦怠感が出現した場合は、速やかに医療機関を受診し、マダニへの暴露(野外活動・ペットとの接触)の可能性も必ず申告しましょう。以下は、感染経過と表れやすい主な症状です。

発症初期(1〜4日目):

38〜40℃台の高熱・強い倦怠感・頭痛・筋肉痛・関節痛が現れます。悪心・嘔吐・下痢・腹痛も高頻度に見られ、インフルエンザや感染性胃腸炎と間違われやすいのが特徴です。

中期(4〜7日目):

血小板減少・白血球減少・AST・ALT・LDHの顕著な上昇などが認められます。これはウイルスが骨髄・脾臓・リンパ節などの免疫細胞に直接侵入して破壊することに加え、血球の産生が抑制されることによって生じます。

重症期(7日目以降):

多臓器不全・播種性血管内凝固症候群(DIC)・神経症状(意識障害・振戦・痙攣)へと進行し、死亡に至るケースがあります。回復した場合も倦怠感・記憶力低下などの後遺症が数ヶ月続くことが報告されています。


マダニ(硬ダニ科:Ixodidae)は蜘蛛綱ダニ目に属する節足動物で、日本国内では主にフタトゲチマダニ・ヤマトマダニ・キチマダニなどが重要な媒介種とされています。ライフサイクルは「卵→幼ダニ→若ダニ→成ダニ」という4段階で構成され、それぞれの段階で宿主(犬や猫など)から吸血を行います。このうち若ダニ(若虫)の段階でSFTSウイルス保有率が最も高く、かつ体が小さいため気づきにくく、愛犬や人への感染リスクとして特に問題視されています。

マダニは草の先端や葉の縁に前脚を伸ばして待機し(クエスティング行動)、温度センサー・振動センサー・CO₂センサーを使って宿主を感知し付着します。吸血を開始してから1〜2日は痒みなどの反応が出にくく、飼い主が気づかないまま長時間の吸血が続くことも珍しくありません。

発育段階 宿主・環境 特徴・臨床的意義
卵(図①) 土壌・落葉の中 雌成虫が数千個の卵を産卵。数週間で幼虫に孵化する。
幼ダニ(6脚)(図②) 小型哺乳類・鳥類 吸血後、地表に落下して脱皮する。この段階でウイルス・細菌を獲得する場合がある。
若ダニ(8脚)(図③) 中型哺乳類・犬・猫 SFTSウイルス保有率が最も高い段階。体が小さく気づきにくいため感染リスクが特に高い。
成ダニ(8脚)(図④⑤) 大型哺乳類・人・犬 吸血量は体重の100倍以上に膨張。唾液中にウイルス・細菌を放出し宿主に伝播する。雌は産卵後に死亡。

マダニは気温が5℃を超えると活動を始め、15〜25℃で最も盛んになります。近年の地球温暖化により活動期間は全国的に延長傾向にあり、「冬だから大丈夫」と思わず、地域に合わせた予防が必要です。マダニは都市部の公園や河川敷にも生息しているため、山林に限らず、近所の草むらを散歩するだけでも感染リスクは十分にあります。

地域区分 主な該当エリア マダニの活動期間と予防の推奨時期
寒冷地 北海道・東北山間部 4月〜10月。春の融雪期に急増する傾向がある。
中間地 関東・関西・中部・中四国 3月〜11月。春(3〜5月)と秋(9〜11月)の二峰性ピークに注意。通年予防を推奨する施設が増加。
温暖地 南九州・沖縄 通年活動。冬でも5℃以上になる日は活動するため、年間を通じた予防薬の投与を強く推奨。

マダニは単なる吸血害虫ではなく、複数の深刻な病原体を媒介しています。SFTSをはじめとした以下の疾患は、犬と人間の双方に影響します。

疾患名 病原体 主な症状・特徴
SFTS(重症熱性血小板減少症候群) SFTSウイルス(フレボウイルス属) 高熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少、多臓器不全。致死率10〜30%。犬から人への感染例あり。
バベシア症 Babesia gibsoni、B. canis 溶血性貧血、血色素尿(赤褐色の尿)、黄疸、発熱、血小板減少。重症化すると致死的。犬特有の疾患。
日本紅斑熱 Rickettsia japonica 高熱、発疹(四肢→体幹)、刺し口の形成。抗菌薬が有効だが診断の遅れで重症化するケースも。
ライム病 Borrelia burgdorferi 遊走性紅斑、関節炎、神経症状。国内では主に北海道・一部本州で確認されている。
マダニ麻痺(Tick Paralysis) マダニの唾液毒素 唾液中の神経毒により上行性弛緩性麻痺が起こる。感染症ではなく、マダニを除去すると通常は回復する。

散歩後には全身をくまなく触診し、マダニの付着がないか確認することを習慣にしましょう。マダニが好む付着部位は、耳の周囲・指の間・腋の下・鼠径部(内股)・まぶた・首のたるんだ皮膚あたりです。マダニを発見した場合、なるべく動物病院で除去してもらうことをおすすめします。自宅で除去する際は、市販の「ダニ取り専用ツール(ティック・ツイスター等)」を使用し、皮膚に対して平行に保ちながら回転させてゆっくり引き出します。除去後は付着部位を消毒し、マダニはビニール袋に入れて密封廃棄してください。

  • ピンセットで強引に引き抜く:
    口器が皮膚内に残留し、二次感染・肉芽腫の原因になります。
  • アルコール・ワセリン・除光液をかける:
    マダニがストレスでSFTSウイルスを含む体液を逆流放出するリスクが高まります。
  • ライターで炙る・熱を加える
  • 素手で潰す

予防薬の投与(化学的防除)と環境管理(物理的防除)・行動習慣の見直しを組み合わせることが、マダニ対策の基本です。

  • 庭の草を定期的に刈り込み、落葉を除去する(マダニは湿った落葉が堆積した場所を好みます)。
  • 散歩から帰宅した際は、玄関でブラッシングと触診を行う習慣をつける。
  • 山林・河原・草地を歩いた後は、犬だけでなく飼い主自身の衣服・体も必ずチェックする。
  • マダニ活動ピーク期(春・秋)のハイキングや里山散歩では、ドッグウェアの活用も有効。

製品選びは、愛犬の体重・年齢・既往歴(特に神経系疾患)・ライフスタイル(散歩の頻度・山林への立ち入り)・フィラリア予防との併用ニーズなどを考慮した上で、かかりつけの獣医師と相談して選ぶようにしましょう。

製品名(形状) 主要有効成分 対象寄生虫 特徴・投与のポイント
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル ノミ・マダニ・ミミヒゼンダニ・イヌセンコウヒゼンダニ・イヌニキビダニ 【嗜好性◎】牛肉フレーバー。投与後8時間以内にマダニ駆除効果が発現。
クレデリオ錠
(フレーバー錠)
ロチラネル ノミ・マダニ・イヌニキビダニ 【嗜好性◎、小粒】ミートフレーバー。投与後12時間以内に効果が発現。サイズが小さく投与しやすい。
ブラベクト
(チュアブル錠)
フルララネル ノミ・マダニ 【3ヶ月持続・内服】1錠で3ヶ月間有効。投薬回数を少なくしたい飼い主に最適。
ブラベクト スポット
(スポット剤)
フルララネル ノミ・マダニ 【3ヶ月持続・外用】錠剤が苦手・吐き戻す場合などにおすすめ。背中に垂らすだけで3ヶ月間有効。
マイフリーガードα
(スポット剤)
フィプロニル/(s)-メトプレン ノミ(成虫・卵・幼虫)・マダニ・シラミ・ハジラミ 【外用・コスパ◎】背中に垂らすタイプ。ノミの卵・幼虫にも効果。経口薬が苦手な犬に。

オールインワン製剤もおすすめ】

ノミ・マダニの駆除に加え、フィラリア予防や消化管内線虫(回虫・鉤虫・鞭虫)の駆除まで1錠でカバーできるオールインワンのお薬も存在します。
毎月の投薬管理をシンプルにしたい場合や、複数の薬を管理する手間を省きたい飼い主さんに便利な選択肢です。ただし、フィラリア予防成分を含む製剤は、投与前にフィラリア感染の有無を確認する検査が必要です。投薬前にかかりつけの獣医師にご相談ください。


  • マダニは犬だけでなく、人間の命にも関わるウイルス・細菌を媒介します。愛犬のマダニ対策を徹底して家族への感染リスクを減らしましょう。
  • SFTSを疑う症状(発熱・元気消失・食欲廃絶・嘔吐・下痢等)が現れた場合は、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。
  • 感染が疑われる場合には、愛犬の体液に触れる際は必ず手袋を着用し、処置後は十分に手洗いを行ってください。
  • マダニの活動時期を正確に把握し、地域に合った通年予防を意識しましょう。
  • 散歩後のマダニチェックを習慣化しましょう。発見したら、できれば動物病院で除去してもらうようにしましょう。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • 国立感染症研究所. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)2023年度発生動向年報.
  • Ixodid ticks and their significance in veterinary public health: A review of Haemaphysalis longicornis. Parasites & Vectors, 2022.
  • Inokuma, H. et al. Babesiosis in dogs in Japan: epidemiology and current knowledge. Veterinary Parasitology, 2021.
  • Pfaff, U. et al. Isoxazoline compounds and their mode of action in tick and flea control. Frontiers in Veterinary Science, 2023.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品の使用に関するガイドライン改訂版, 2024.
  • National Institute of Infectious Diseases. SFTS in companion animals: human infection risk assessment, 2023.

犬猫の疥癬・耳疥癬~激しい痒みの原因と最新のダニ予防薬~【獣医師執筆】

「うちの子、ずっとかゆがっている。アレルギーかな?」——そう思って病院に行ったら、実はダニの寄生が原因だったというケースは珍しくありません。
犬猫の「疥癬(かいせん)」「耳疥癬」は、それぞれ特定の種類のダニが引き起こす皮膚疾患で、非常に強いかゆみと急速な悪化が特徴です。放置すれば飼い主にも感染してしまう可能性のある人獣共通感染症(ズーノーシス)でもあります。
今回は、暖かくなると発生が増えてくる疥癬・耳疥癬について、主な症状や診断方法などを詳しく解説します。


疥癬の原因は「ヒゼンダニ(疥癬虫)」という節足動物です。
マダニのように体表に付着するのではなく、表皮の角質層の中にトンネル(疥癬トンネル)を掘り、その中で産卵・孵化・脱皮を繰り返します。このトンネル内での活動と、ダニ・糞・卵に対するアレルギー反応が激しいかゆみの正体です。
成虫でも肉眼では見えないほど小さいため、通常のダニと違い外見からは判らないのが厄介なところです。(ミミヒゼンダニは肉眼で確認できる場合あり)
また、犬と猫では寄生するダニの種が異なります。

疾患名 原因ダニ 対象動物 成虫の大きさ
犬疥癬 イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. canis) 犬(人・猫に一時的感染あり) 約0.2〜0.4mm
猫疥癬 ネコショウセンコウヒゼンダニ(Notoedres cati) 猫(犬・人に一時的感染あり) 約0.2〜0.3mm
耳疥癬 ミミヒゼンダニ(Otodectes cynotis) 犬・猫 約0.35〜0.5mm 

Screenshot

上記表の3種類のダニの中で最も強い痒みを引き起こします。眠れないほど痒く、痒み止めや消炎剤といった対症療法の薬剤が効かないため、感染すると犬にとって非常にストレスがかかります。また、激しいかゆみで出血するほどかき続け、二次的な細菌感染(膿皮症)を合併することもあります。
重症化すると皮膚の肥厚・苔癬化・広範囲の脱毛・痂皮形成が起こり、衰弱に至る場合もあります。

感染数が少なく見つけにくいため、検査で検出できなくても、疑わしい場合には試験的駆虫として予防薬を投与することが一般的です。

【犬の疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 耳縁を触ると後ろ足でかく(耳介‐足反射陽性)
  • 肘・膝・耳縁・腹部に赤いブツブツとフケがある
  • かゆみが非常に強く、夜中もかき続けている
  • 他の犬や野生動物と最近接触した
  • 飼い主にも腕や腹部にかゆいブツブツが出ている
犬疥癬の特徴 内容
原因ダニ Sarcoptes scabiei var. canis(イヌセンコウヒゼンダニ)
対象動物 犬。人・猫に一時的な感染あり(定着しない)
潜伏期間 2〜6週間
好発部位(初期) 耳縁・肘・膝の突出部・腹部・鼠径部
かゆみの強さ 非常に強い。昼夜を問わず続き、出血するほどかき続けることも
飼い主への感染 一時的に感染あり(腕・腹部などにかゆいブツブツが出ることがある)

猫の疥癬の原因はネコショウセンコウヒゼンダニで、犬に寄生するイヌセンコウヒゼンダニとは別種です。まれに犬や人にも一時的に寄生しますが、ほとんど定着しません。
屋外への出入りや感染猫との接触が主なリスクです。
比較的検査で検出しやすいため、多くの場合は一度の検査で診断可能です。

【猫の疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 顔面・耳介・首にフケ・丘疹・かさぶたがある
  • 顔周りを頻繁に掻く
  • 野良猫や外出歴のある猫と接触した
  • 同居の猫に同じような症状がある
  • 飼い主にも一時的なかゆみ・ブツブツが出た
猫疥癬の特徴 内容
原因ダニ Notoedres cati(ネコショウセンコウヒゼンダニ)
対象動物 猫。犬・人に一時的な感染あり(定着しない)
感染リスクが高い状況 屋外へ出入りする猫、野良猫や感染猫との接触、多頭飼育環境
好発部位(初期) 顔面(鼻・まぶた周囲)・耳介・首・顎の下
かゆみの強さ 強い。顔・耳周りを絶えずひっかき続ける
飼い主への感染 一時的に感染あり(定着しない)

耳疥癬の原因は犬と猫で共通しており、耳道内に潜むミミヒゼンダニです。
ヒゼンダニ(疥癬虫)が角質層内に潜るのと異なり、外耳道の表面に寄生します。
特に猫で感染率が高く、猫の外耳炎原因の過半数を占めるともいわれています。
感染力が非常に強いため、多頭飼育では全頭同時に治療・予防を行うことが再発防止の鉄則です。
放置すると慢性外耳炎・中耳炎へ進行するケースもあります。
以下に複数当てはまる場合は速やかに受診しましょう。

【耳疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 耳を激しく掻く、頭を振り続けている
  • 耳道内に黒褐色のコーヒーかす状の耳垢が多い
  • 野良猫や外出歴のある猫と接触した、あるいは外に出た
  • 耳介(耳の外側)に引っかき傷がある
  • 同居の犬猫にも同じような耳の症状がある

主には、皮膚の一部を専用の器具で掻爬し皮膚内のダニを検出する「皮膚掻爬検査」、耳垢を採取して中のダニをチェックする「耳垢検査」があります。どちらの検査も、採取物を顕微鏡で観察して、ダニ本体や虫卵の有無を確認します。
ミミヒゼンダニ(耳疥癬)だけは、最大約0.5mmと3種の中で最も大きく白っぽい色をしているため、耳垢をよく観察すると動いている様子が肉眼でも確認できる場合があります。

疾患 検査方法 検出しやすさ・注意点
犬疥癬 皮膚掻爬検査(深部掻爬) ★検出率が非常に低い(20〜50%)。かならず皮膚の複数か所から採取して検査を行う
猫疥癬 皮膚掻爬検査(顔面・耳介の痂皮部) 犬疥癬より比較的検出しやすい。顔面・耳介の厚い痂皮部分からダニ・卵を検出できる
耳疥癬(ミミダニ) ①耳垢の顕微鏡検査
②耳鏡による肉眼確認
3種の中で最も検出しやすい。①綿棒で採取した耳垢を顕微鏡で確認 ②耳鏡で外耳道内の動く白い点(成虫)を目視で探す

疥癬の治療は駆虫薬によるヒゼンダニの駆除が基本です。
駆虫薬の多くは卵には効かないため、症状が改善しても2〜3週間おきに複数回の投薬が必要です。途中でやめると再発のリスクが高まります。多頭飼育の場合は、全頭同時に治療を行わないと再感染が繰り返されます。
二次的な細菌感染(膿皮症)を合併している場合は、抗菌薬による治療も並行して行います。

駆虫後もかゆみがしばらく残る場合には、ダニの死骸・産物に対するアレルギー反応が続いている可能性があるため、短期間のステロイド製剤やJAK阻害薬で対症療法を行うこともあります。
また、寝具・クッションの熱湯洗濯やケージ・グルーミング器具の消毒、治療中の感染動物の隔離も再感染予防に有効です。

ヒゼンダニは一度寄生すると痒みが強く、夜も熟睡できずに愛犬愛猫に強いストレスを与えてしまいます。
定期的な予防・駆除薬の投与は、ヒゼンダニ・ミミヒゼンダニを含む寄生虫感染全般のリスクを大幅に下げる最も効果的な手段です。
愛犬愛猫の体重・年齢・既往歴・生活環境を踏まえ獣医師と相談の上、適切な製品を選びましょう。

ヒゼンダニ(疥癬)とミミヒゼンダニ(耳疥癬)の予防・駆除薬の製品のほとんどは、基本的にノミやマダニへの効果をメインとしています。ヒゼンダニ・ミミヒゼンダニへの効果は国内未承認の場合も多く、効果効能に記載のある製品は少ないのが現状です。
しかし、臨床の現場では学術的根拠に基づき、獣医師の裁量によって適応外処方として活用されるケースもあります。これらの使用に関しては、愛犬・愛猫の健康状態や感染状況に合わせた専門的な判断が不可欠ですので、必ず動物病院で獣医師による診察と指示を受けてください。

表の見方:◎=適応あり △=適応なし・査読論文に有効性の報告あり

【犬用製品】

製品名(剤形) 有効成分 犬疥癬 耳疥癬 製品の特徴
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル 牛肉フレーバーで投与しやすい。ノミ・マダニ・イヌニキビダニにも対応。
(注意:シリーズ製品のシンパリカトリオには、現在、犬疥癬・耳疥癬に対しての適応なし)
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン 犬疥癬には適用外。
特に耳ダニに対してよく使用されている。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも有効。
アドボケート
(スポット剤)
イミダクロプリド/モキシデクチン 耳疥癬には適用外。
ノミ・イヌニキビダニ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ブラベクト錠
(チュアブル錠)
フルララネル 耳疥癬には適用外。
3ヶ月に1回投与。現在承認されているスポットオン製剤では最も長く予防効果が続く。ノミ・マダニ・イヌニキビダニにも対応。

【猫用製品】

製品名(剤形) 有効成分 猫疥癬 耳疥癬 製品の特徴
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン 猫疥癬には適用外。
耳ダニ・猫疥癬では臨床現場で使用率が高い。ノミ・フィラリア・回虫にも対応。
レボリューション プラス
(スポット剤)
セラメクチン/サロラネル 猫疥癬には適用外。
レボリューションにマダニ・鉤虫駆除も追加のオールインワン製剤。

アドボケート
(スポット剤)

イミダクロプリド/モキシデクチン 猫疥癬には適用外。
ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ネクスガードキャットコンボ
(スポット剤)
エサフォキソラネル/エプリノメクチン/プラジクアンテル 猫疥癬には適用外。
ノミ・マダニ・フィラリア・条虫・回虫・鉤虫にも対応。

※本表は一般的な学術情報および海外の報告に基づく一覧です。一部の疾患に対し、国内未承認の適応外処方として獣医師の判断で使用されるケースもありますが、当サイトがその使用を推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指示に従ってください。


  • 犬疥癬・猫疥癬・耳疥癬はそれぞれ原因となるダニの種類が異なり、好発部位・症状も異なります。
  • 犬疥癬の皮膚掻爬検査は検出率が20〜50%程度と低く、陰性でも否定できません。症状・接触歴から強く疑う場合は診断的治療(試験的投薬)が有効です。
  • 疥癬・耳疥癬は感染力が非常に強く、多頭飼育では全頭同時治療が再発防止の鉄則です。
  • 治療は複数回の駆虫薬投与が必要です。二次感染(膿皮症などの皮膚症状)がある場合は同時に治療を行います。

予防薬の選択肢が広がり、飼い主様の意識が高まったことで、重症化するケースは以前より抑えられるようになりました。しかし、疥癬や耳疥癬の感染リスクはいまだに高く、一度発生するとその治療には長い時間と費用を要し、何より愛犬・愛猫に「眠れないほどの激しい痒み」という大きな負担を強いることになります。
疥癬は、放置すれば同居動物や飼い主様にも広がる恐れがある、油断できない感染症です。
「あの時、予防していれば……」と後悔しないために。動物病院に通い、愛犬・愛猫の体質や生活環境に合ったお薬で、日頃から確実な予防を心がけましょう。

  • Six, R.H. et al. Efficacy and safety of selamectin against Sarcoptes scabiei on dogs and Otodectes cynotis on dogs and cats presented as veterinary patients. Veterinary Parasitology, 91(3-4):291-309, 2000. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10940530/
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  • Hellmann, K. et al. Efficacy of imidacloprid 10%/moxidectin 1% spot-on in the treatment of Notoedres cati infestation in cats. Parasitology Research, 112(8):2837-2845, 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23760872/
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犬のフィラリア症~予防の重要性と最新の予防薬~【獣医師執筆】

犬糸状虫症(フィラリア症)は、蚊によって媒介される寄生虫「犬糸状虫(Dirofilaria immitis)」が心臓や肺動脈に寄生することで引き起こされる、犬にとって最も警戒すべき致死的な疾患の一つです。
かつては国内の家庭犬における主要な死因でしたが、優れた予防薬の普及により発症率は劇的に低下しました。
しかし、近年の地球温暖化に伴う蚊の活動期間の延長や、薬剤耐性株の出現といった新たな課題により、未だに注意が必要な疾患の一つです。

このコラムでは、フィラリアのライフサイクルから最新の予防薬、そして万が一感染してしまった場合の治療法までを分かりやすく解説します。


フィラリア症の適切な予防のためには、どの段階で薬剤が作用するのかというフィラリアのライフサイクルを正確に把握することが大切です。
侵入した幼虫が肺動脈や心臓に到達するまでの時間軸や、検査で陽性と判定されるまでの「潜伏期間(プレパテント・ピリオド)」を正しく理解し、投薬のタイミングをしっかり把握しましょう。

発育段階存在場所臨床的特徴
第1期幼虫
(L1 / ミクロフィラリア)
犬の血液中成虫が産出した子虫。蚊が吸血する際に取り込まれる。
第2期幼虫
(L2)
蚊の体内蚊のマルピーギ管内で1回目の脱皮を行った状態。成虫の内臓組織の原形を作る準備期間。
第3期幼虫
(L3 / 感染幼虫)
蚊の口吻部蚊の体内で成長し、感染能を獲得。吸血時に犬の皮膚へ移行する。
第4期幼虫
(L4)
犬の皮下・筋肉内侵入後2~10日でL3から脱皮する。現在主流の予防薬(大環状ラクトン系)の主要な標的となる成長段階。
第5期幼虫
(L5 / 未成熟成虫)
血液・心臓内侵入後約1~2ヶ月で脱皮し、血管内へ侵入して肺動脈を目指す。
成虫
(L6)
肺動脈・右心室感染から6~7ヶ月で成熟。体長15~30cmに達し、新たなL1を産出する。(ソーメンにそっくりの白く長細い虫体)

日本国内におけるフィラリアの感染リスクは、気温とそれに伴う蚊の活動状況と密接に関係しています。

国内で販売されているフィラリア予防薬は、投薬した時点で「過去1ヶ月間に侵入したフィラリアの幼虫をまとめて殺滅する」という効果が基本であり、「投薬後1カ月間効果が持続している」わけではありません。

そのため、蚊がいなくなってから1ヶ月後(多くの地域で12月)の最終投与を忘れると、秋に感染した幼虫が冬の間に成長してしまいます。

また、都市部のビル地下(ヒートアイランド現象)などは冬でも蚊が生存するため、中間地でも通年予防が推奨されるケースが増えています。

地域区分主な該当エリア推奨投薬期間
寒冷地北海道、東北山間部5月下旬 ~ 11月
中間地関東、関西、中部、中四国4月下旬 ~ 12月
温暖地南九州、沖縄3月 ~ 12月(または通年推奨)

※実際の投薬開始・終了時期は、その年の気温や蚊の発生状況によって異なります。最終投与は「蚊がいなくなってから1ヶ月後」が原則です。

自然界の気温だけでなく、ベランダのプランターの受け皿、古タイヤ、詰まった雨どいなどの「定在水場」は蚊の絶好の繁殖地となります。これらの環境を改善することも、物理的な予防策として重要です。


フィラリア症は「心臓の病気」と思われがちですが、本質は肺の血管に慢性的な炎症と障害を起こす重篤な肺血管疾患でもあります。

肺動脈に到達した成虫が血管壁を機械的に刺激することで「肺動脈内膜炎」が生じ、血管の内側が厚く硬くなる血管リモデリングが進行します。
その結果、血管内腔が狭くなって肺血管抵抗が上昇し、肺の血流が流れにくくなります。
これにより肺動脈圧が異常に高まる「肺高血圧症」(肺の血管圧が上昇し、心臓が肺へ血液を送り出すために通常以上の力を必要とする状態)を引き起こします。
さらに肺高血圧による負荷が持続すると、右心室は血液を送り出すために肥大し、やがて拡張して三尖弁逆流が生じ、最終的には全身循環のうっ滞によって腹水、肝腫大、皮下浮腫などを伴う右心不全へと進行していきます。

フィラリア症で起こる特に重篤な症状で、多数の成虫が肺動脈から右心房へと逆流し、三尖弁の機能を物理的に阻害してしまう病態です。
大量の虫体が三尖弁(右心房と右心室の間の弁)に絡みつき、血液の循環を急激に阻害・遮断することで、急性右心不全を引き起こします。
これにより赤血球が物理的に破壊され(溶血)、ヘモグロビン尿による濃紅茶色の尿が見られるようになります。
この状態は救急疾患であり、予後不良となることも多く、また、多数の寄生虫が血管に詰まることで突然死(心臓発作)を引き起こす場合もあります。


2024年改訂のAHS(米国犬糸状虫学会)ガイドラインでは、7ヵ月齢以上のすべての犬に対し、年1回の「抗原検査」と「ミクロフィラリア(MF)検査」を推奨しています。

メスの成虫由来の可溶性抗原を検出します。微量(一滴程度)の血液を検査用キットに垂らして検査します。
10分程度で即結果が分かるため、動物病院で最も主流となっている検査方法です。
安価で高精度ですが、オスのみの寄生や感染初期(6ヶ月未満)には反応しません。
主に、心臓に現在寄生している成虫がいないかを判断する材料として使用します。

血液中の幼虫を顕微鏡で直接確認します。
抗原検査が陰性でも、薬剤耐性株などの影響で幼虫のみが存在するケースを見逃さないために不可欠です。
ごく少量の採血を行い、スライドグラスに血液を一滴垂らし、上からカバーグラスをかけて顕微鏡で観察します。


現代のフィラリア予防薬は、一度の投薬でさまざまな種類の寄生虫に効果があり包括的な管理ができる製品が主流となってきています。
以下に、各有効成分の薬理学的特性と、それらを配合した主要製品の詳細をご紹介します。

これらの成分は、寄生虫の神経・筋肉細胞にあるグルタミン酸作動性塩化物イオンチャネルという部分に結合し、神経伝達の回路を狂わせ動けなくして死滅させます。

・イベルメクチン
世界で最も歴史があり、低用量でL4幼虫を殺滅できる安全性と有効性のバランスに優れた成分です。
ただし、コリー系犬種などではMDR1遺伝子変異により、通常の用量でも脳内へ薬剤が流入しやすく、神経症状(ふらつき、震え、昏睡など)を起こすリスクがあるため注意が必要です。

・ミルベマイシンオキシム
フィラリア予防に加え、回虫、鉤虫、鞭虫といった腸内線虫に対しても駆除効果を発揮します。

・モキシデクチン
大環状ラクトン系の中でも極めて高い脂溶性を持ち、血中濃度が長期にわたって安定します。
この特性により、一部の耐性株に対しても他成分より高い有効性を示すことが報告されています。

・セラメクチン
経皮吸収に非常に優れたスポットオン製剤専用の成分です。
皮膚から速やかに吸収され、フィラリアの寄生予防だけでなく、ノミ成虫の駆除、ノミ卵の孵化阻害、さらにはミミヒゼンダニの駆除に単独で高い効果を発揮します。
生後6週齢の子犬、妊娠・授乳中の犬、イベルメクチン感受性犬(コリー等)においても高い安全性が確認されています。

・イソキサゾリン系(アフォキソラネル、サロラネル、ロチラネル等)
最新のノミ・マダニ駆除成分で、節足動物のGABA受容体等を阻害します。
即効性が高く、投与後数時間で駆除が始まり、1ヶ月間安定した効果が持続します。

・ピランテル
回虫や鉤虫の駆除効果を補完するために多くの製剤に配合されます。

製品名(形状)主要有効成分対象寄生虫特徴
シンパリカ トリオ
(チュアブル錠)
サロラネル、モキシデクチン、ピランテルパモ酸塩フィラリア、ノミ、マダニ、イヌセンコウヒゼンダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫耐性リスクに強いとされるモキシデクチンを採用。ノミ・マダニへの即効性が高い。
クレデリオプラス
(フレーバー錠)
ロチラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫、鞭虫ビーフフレーバーの小さな錠剤タイプ。成分吸収を助けるため食事時の投与を推奨。
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチンフィラリア、ノミ、ミミヒゼンダニ背中に垂らすタイプ。錠剤が苦手なコや吐き戻す場合に最適。耳ダニ駆除も可能。
ネクスガード スペクトラ
(ソフトチュアブル)
アフォキソラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、回虫、鉤虫、鞭虫おやつ型で与えやすい。食事の有無を問わず投与可能。
イベルメックPI
(骨型クッキー)
イベルメクチン、パモ酸ピランテルフィラリア、回虫、鉤虫嗜好性の高いクッキー型。コストパフォーマンス重視。
プロハート12
(徐放性注射薬)
モキシデクチンフィラリア一度の注射で12ヶ月間効果が持続。毎月の投薬ストレスや投薬忘れがない最新の選択肢。
ハートメクチン錠
(錠剤)
イベルメクチンフィラリアフィラリア予防に特化したシンプルな錠剤。コストを最小限に抑えたい場合に 。

※本表は各製品の学術的な特徴をまとめたものであり、特定の製品の購入を推奨するものではありません。フィラリア予防薬は全て要指示医薬品です。必ず動物病院での検査を経て、獣医師の指示に従って使用してください。


予防薬の発展により、日本国内ではフィラリアの感染数はかなり少なくなっていますが、万が一感染が判明した場合の治療には以下の三つの方法があります。

現在の国内では、予防薬(イベルメクチンなど)とドキシサイクリンという抗生剤を長期間併用し、フィラリアの寿命を短くしながら全滅を待つ「combination slow-kill法」を選択する場合も多いです。

フィラリアの体内には「ボルバキア(Wolbachia pipientis)」という細胞内共生細菌が存在しています。
フィラリアが死滅する際、この細菌が放出する表面抗原が犬の免疫系を過剰に刺激し、肺や腎臓における重篤な炎症反応(糸球体腎炎や好酸球性肺炎など)を助長することが判明しています。

ドキシサイクリンにはボルバキアを殺菌する効果があり、これを併用することで駆虫に伴う副作用のリスクを最小限に抑えます。
また、治療期間中(通常2年以上)は、死滅した虫体による急性塞栓を防ぐため、厳格な運動制限をおこなう場合もあります。

右心室内に虫体が寄生している場合に適応となる方法です。
頚静脈からアリゲーター鉗子と呼ばれる器具を挿入し、右心室内のフィラリア虫体を掴み取って除去する方法で、全身麻酔のリスクや手技の困難さがあります。
現在日本ではアリゲーター鉗子の国内製造は終了しており、この手術を実施している施設は少なくなっています。

メラルソミンというヒ素剤を2~3回筋肉に注射しフィラリア成虫を駆除する方法です。

米国犬糸状虫学会(AHS)推奨の治療法ですが、大量のフィラリア虫体が寄生している場合には、虫体が一度に死滅することでアナフィラキシーショックや呼吸不全を起こす可能性があるため、適応外となります。

また、死滅した虫体が肺動脈で詰まり、一時的に肺機能を低下させる場合があるため、注射後1~2週間は安静が必要です。
また、現在日本ではメラルソミン注射剤の生産がないため海外から薬の輸入が必要になります。


この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • フィラリア症は命に関わる重大な肺・心臓疾患です。症状が出る前の予防が愛犬の寿命とQOLを左右します。
  • 予防薬は最後まで必ず投薬しましょう。蚊がいなくなってから1ヶ月後の投薬が特に大切です。
  • 薬の成分の特徴を踏まえて、嗜好性、投与の利便性など愛犬の体質とライフスタイルに合った製品を選びましょう。
  • 万が一感染してしまったら治療は大きなリスクを伴い愛犬にも負担がかかります。かかりつけの獣医師とよく相談して最適な治療方法を選択しましょう。

予防薬の発達と飼い主様の予防意識の向上により、10年前に比べてフィラリア症はかなり減少傾向にあります。
しかし、予防を怠ると感染リスクはいまだに高く、その治療には長い時間と高額な費用を要し、愛犬にも大きな負担をかけることとなります。動物病院に通い、愛犬にあったお薬で確実な予防を心がけましょう。

犬のアトピー性皮膚炎~かゆみの原因と上手な付き合い方~【獣医師執筆】

愛犬が体をかきむしり、舐め続ける姿を見るのは、飼い主さんにとって辛いものです。
犬のアトピー性皮膚炎は、環境中のアレルゲンに対する過剰な免疫反応と、皮膚バリア機能の遺伝的な機能不全を特徴とする慢性皮膚疾患です。
完治はなかなか難しく、生涯にわたり適切な皮膚のケアが必要となるケースも少なくありません。

このコラムでは、アトピー性皮膚炎の原因から最新の治療薬、そして愛犬のQOL向上のための日常ケア方法まで詳しく解説していきます。


アトピー性皮膚炎の発症には、『皮膚バリア機能の不全』『免疫バランスの乱れ』『環境因子』の3つが密接に関与しています。

皮膚の最外層を構成する角質層は、外部刺激の侵入を阻止し、体内の水分を保持する生物学的バリアとして機能しています。この層は、セラミド、脂肪酸、コレステロールといった細胞間脂質と、フィラグリンなどの重要な成分によって維持されています。

アトピー性皮膚炎に罹患した犬では、これらの成分が遺伝的に不足しており、特に細胞間脂質のバランスが崩れていることが確認されています。

中でも重要視されるのが、フィラグリン(FLG)遺伝子の変異です。フィラグリンは角層細胞内でケラチンフィラメントを凝集させ、最終的には天然保湿因子(NMF)へと分解されますが、このプロセスが阻害されることで経皮水分蒸散量(TEWL)が増大します。

この「漏れやすい皮膚」の状態が、アレルゲンの侵入を容易にし、慢性的な炎症を引き起こす病理学的基盤となります。

特に以下の犬種では、遺伝子レベルでの皮膚バリア機能の脆弱性が確認されており、アトピー性皮膚炎を発症しやすい傾向があります。

  • 柴犬
  • ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
  • ラブラドール・レトリーバー
  • ゴールデン・レトリーバー
  • フレンチ・ブルドッグ
  • シー・ズー

これらの犬種を飼育されている方は、特に皮膚の状態に注意を払う必要があります。

侵入したアレルゲンに対し、犬の体を守る一連の免疫メカニズムは、通常よりも偏った過剰な応答を示します。
この過程で放出されるインターロイキン31(IL-31)という免疫関連物質が、皮膚の感覚神経を直接刺激して激しいかゆみを引き起こすことが知られています。

遺伝的素因を顕在化させる引き金として、外部環境の要因が深く関わっています。

・環境アレルゲンへの曝露
室内ダニ(コナヒョウヒダニ等)の排泄物や死骸、スギ・イネ科・ブタクサ等の花粉、真菌(カビ)の胞子などが主要な抗原となります。これらは季節や居住地域によって飛散量が変動し、症状の増悪を左右します。

・気候と飼育習慣
高温多湿(湿度60%以上)な環境はダニやカビの繁殖を促し、症状を悪化させます。また、過度な洗浄など誤ったスキンケアも、皮膚バリアを物理的に損傷し、アレルゲン浸透を助長する環境的誘因となります。


臨床症状は通常、生後6ヶ月から3歳の間に初発を迎え、主には以下の部位に左右対称性(非対称の場合もあり)の赤み、ブツブツ、フケ、輪状の湿疹などが認められます。

部位別の主な症状

部位主な症状・飼い主が気づくポイント
顔面・耳目の周りの赤み、涙やけの悪化、外耳炎の繰り返し。耳の入り口付近を頻繁に掻く行動が見られる。
四肢(手足)指の間や肉球の赤み・腫れ、執拗に舐める行動。唾液の成分により被毛が茶褐色に変色するのが特徴。
体幹部脇の下、内股(鼠径部)の赤み・ブツブツ。皮膚が薄く擦れやすい部位に強い症状が出やすい。

アトピー性皮膚炎の最大の特徴は、激しいかゆみです。
犬は掻く、舐める、噛むといった行動を繰り返し、これがさらに皮膚を傷つけ、バリア機能を低下させます。
この悪循環を断ち切ることが、治療の重要な目標となります。


アトピー性皮膚炎の診断は検査で確定するのは非常に難しく、他の疾患を順番に排除していく「除外診断」が基本となります。
これは、アトピー性皮膚炎を確定する単一の検査が存在しないためです。

ステップ1:他疾患の除外
ノミ・ダニ等の外部寄生虫感染、細菌感染(膿皮症)、酵母菌感染(マラセチア)を先行して治療し、かゆみの原因を切り分けます。

ステップ2:食物アレルギーの鑑別
アレルギー性皮膚炎の約30%は食物アレルギーを併発しているとされています。アレルギー検査(血液検査)の結果をもとに8週間の厳格な除去食試験を行い、食事の影響を判定します。

ステップ3:臨床診断基準の確認
臨床現場では、Favrot(ファヴロ)らによって策定された診断基準が、CADの可能性を判定するための有用なツールとして用いられています。上記の1および2を除外後、以下の8項目のうち5項目以上を満たす場合、CADの可能性が高いと評価されます。

項目チェック内容
1. 発症年齢3歳未満で症状が出始めた
2. 飼育環境ほとんど室内で生活している
3. 薬への反応ステロイド剤でかゆみが劇的に治まる
4. 合併症マラセチア(真菌)による皮膚炎を繰り返す
5. 前足の症状前肢(足先など)に皮膚の赤みや汚れがある
6. 耳の症状耳介(耳のヒラヒラした部分)に病変がある
7. 耳の縁(症状なし)耳のフチ(縁)には異常がない
8. 腰・背中(症状なし)腰や背中の中心部には異常がない

ステップ4:アレルギー検査
主に血液検査によりアレルゲン特異的IgE抗体を測定するもので、ハウスダストマイト、花粉、カビなどの環境アレルゲンに対する免疫反応を調べます。これにより、犬がどの物質に感作されている可能性が高いかを推定します。

ただし、検査陽性=発症原因とは限らないため、症状の季節性や生活環境などと総合的に判断する必要があります。


内服薬には、主に以下のものがあります。効果・副作用が異なるため、犬の体質・症状に合わせて選択することが大切です。
近年のアトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド、シクロスポリンをはじめとする広範な全身性免疫抑制に加え、副作用を最小限に抑えつつ痒みの特異的な経路を遮断する「分子標的薬」を使用した治療が主流となってきています。

これら分子標的薬の長期使用に関しては、臨床データの不足からその使用リスクについて様々な議論が行われています。(2026年1月現在)

薬剤名作用機序特徴
ステロイド
(プレドニゾロンなど)
細胞内の受容体に結合し、炎症の原因を直接抑制することで、強い免疫抑制・抗炎症作用を示す。安価で、強力な抗炎症と止痒効果を併せ持つ。長期使用で副作用に注意が必要。
アトピカ
(シクロスポリン)
T細胞の活性化に不可欠なカルシニューリンを阻害し、痒みや炎症の元となるサイトカインの産生を抑制する。長期投与が可能で、ステロイドを減薬できる可能性がある。
効果発現まで2週間以上かかる。初期に嘔吐症状が出やすい。
サイトポイント
(ロキベトマブ)
痒みを脳に伝えるIL-31を標的として結合し、中和することで痒みを感じないようにさせる。月1回の注射で済み、副作用のリスクも低い。効果の持続性には個人差がある。
アポキル
(オクラシチニブ)
痒みの伝達に関わるJAK酵素を阻害し、痒みの中心物質であるIL-31のシグナルを遮断する。即効性があり、安全性も高い。減量・休薬時に痒みがリバウンドする場合がある。
ゼンレリア
(イルノシチニブ)
最新薬(2026年1月現在)。
従来薬よりも広範かつ強力にJAK経路を遮断し、痒みだけでなく重度の炎症反応も抑制する。
痒み軽減効果が高く、既存薬でコントロール困難な症例にも有効。最初から1日1回の投薬で済むのも大きな利点。ただし、免疫への影響が比較的強いため、定期的な血液検査など、慎重な経過観察が必要。

※本表は各製品の学術的な特徴をまとめたものであり、特定の製品の購入を推奨するものではありません。上記アトピー性皮膚炎の治療薬は全て「要指示医薬品」です。使用にあたっては、必ず動物病院で獣医師の診察を受け、愛犬の症状や体質に合わせた指示を受けてください。

対症療法が主体となるアトピー性皮膚炎の治療において、唯一の根本的な解決策となり得るのがアレルゲン特異的免疫療法「減感作療法」です。人の花粉症治療にも用いられている方法です。

・治療方法
原因となるアレルゲンを低用量から計画的に反復投与し、免疫系の過剰反応を徐々に抑制していきます。アレルゲンに対する反応が過剰な状態から、免疫寛容(過剰に反応しない状態)へと変化することで、症状の軽減や薬物治療の必要量の減少が期待されます。

・効果
犬の症例の約60%に顕著な改善が見られるとされていますが、完全な治癒を保証するものではありません。治療期間も長期にわたるため、獣医師とよく相談して検討することをおすすめします。


アトピー性皮膚炎に対しては、お薬による治療だけでなく、スキンケアや食事管理などを多角的に組み合わせ、皮膚のバリア機能を多方面からサポートしていくことが重要です。

・物理的洗浄
花粉やダニなどのアレルゲンを物理的に除去します。ぬるま湯を使用し、成分を浸透させるため10分程度おいてから十分にすすぎます。

・保湿の徹底
シャンプー後はバリア機能が低下するため、セラミド等を含む保湿剤で速やかに保護します。1日1~2回の保湿が理想的です。

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・必須脂肪酸の補給
オメガ3脂肪酸(EPA, DHA)やオメガ6脂肪酸(リノール酸・γ-リノレン酸等)は、炎症緩和とバリア機能改善をサポートします。

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・腸内環境の整備
パラカゼイ菌(乳酸菌)やケストース(オリゴ糖)の摂取により、腸内フローラ(腸の中に生息する多種多様な細菌の集まりのこと。消化吸収の補助、免疫機能の調整、病原菌の抑制などに関与する。)を整え、皮膚の過剰なアレルギー反応を抑制します。

ある臨床研究では、従来の治療薬プレドニゾロンを90日間投与しても改善しなかったCADの犬15頭に、これらを併用した結果、症状の顕著な改善と抗生物質の使用量の減少が確認されました。これにより、パラカゼイ菌が免疫の偏りを是正し、ケストースが皮膚の保水力をサポートすることで、効率的な腸内環境改善と皮膚の健康維持が期待できることが示唆されています。

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アレルゲン回避のポイント

  • 室内湿度は40〜60%、温度20〜25℃程度に維持(ダニやカビの増殖を抑える)
  • 空気清浄機の活用
  • 週2〜3回以上の掃除機がけ
  • 寝具の定期的な洗濯と日光消毒(週1回程度)
  • 花粉の季節は散歩後に足や体を拭く

アトピー性皮膚炎の犬は、皮膚バリアの脆弱性から以下のような二次感染を併発しやすくなります。

表在性膿皮症
アトピー犬の約66%で発症し、かゆみをさらに増幅させます。赤いブツブツや膿を伴う湿疹が特徴です。

外耳炎
アトピー犬の80%以上に症状が見られ、耳だけの症状が初発となるケースも少なくありません。頻繁に頭を振る、耳を掻く、耳垢が増えるなどの症状に注意が必要です。

マラセチア皮膚炎
酵母菌の増殖により強い悪臭とベタつきが生じます。特に指の間、脇の下、耳などに発生しやすい傾向があります。

これらの疾患を繰り返す場合、あるいは一般的な治療でコントロールが困難な場合は、早期に「日本獣医皮膚科認定医」など皮膚疾患に詳しい獣医師の診察を受けることをおすすめします。


アトピー性皮膚炎は長い付き合いが必要な病気ですが、適切な治療と日常ケアにより、かゆみを良好にコントロールし、愛犬のQOLを維持することが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が穏やかな毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア不全、免疫異常、腸内環境の乱れが複雑に絡み合った疾患
  • 診断は、寄生虫、食物アレルギー、感染症を一つずつ除外していく丁寧なプロセスが必要
  • 治療薬には現在様々な種類があり、獣医師と相談の上、体質と皮膚にあったものを選択することが大切
  • 症状がない時期でも、日常的なスキンケアを続けていくことが再発防止の鍵となる
  • シャンプー・保湿・食事(脂肪酸)・腸活(乳酸菌)を組み合わせる多角的なアプローチが、薬の減量とQOL維持につながる
  • 症状が改善しない場合は、皮膚科専門医による診察を受けるのも選択肢の一つ

犬のアトピー性皮膚炎は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛犬のかゆみに不安を感じたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な治療管理が、愛犬の穏やかな生活を支える大きな力となります。

犬の皮膚病『膿皮症』の基礎知識と治療の基本的アプローチ【獣医師執筆】

愛犬の皮膚に赤いブツブツができて、強い痒みで掻きむしっている姿を見ると、飼い主さんは心配でたまりません。
犬の膿皮症は、細菌感染による非常に一般的な皮膚病ですが、適切な治療を行わないと再発を繰り返してしまう慢性疾患です。
しかし、正しい知識と治療法、そして日々のケアによって症状をコントロールすることは十分に可能です。

このコラムでは、犬の膿皮症の病態から最新の治療アプローチ、そして再発を防ぐための具体的な管理方法までを分かりやすく解説します。


犬の膿皮症(Pyoderma)は、皮膚に細菌が増えて炎症を起こす、非常に一般的な皮膚病のひとつです。
細菌が感染する皮膚の深さによって、皮膚表面の「表面性膿皮症」、浅い層の「表在性膿皮症」、そして奥深くの「深在性膿皮症」の3つに分類されます。

今回は、犬の膿皮症の中で最もよく見られる表在性膿皮症(Superficial Pyoderma)に焦点を当てて解説します。

表在性膿皮症は、細菌が皮膚の浅い層(表皮や毛穴の入り口)に侵入し増殖することで発症します。
主な原因菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus pseudintermediusなど)です。犬の皮膚にいる常在菌ですが、なんらかの理由で皮膚の抵抗力(バリア機能)が弱った時に増殖し症状を引き起こします。

皮膚の抵抗力が低下する原因の多くは「基礎疾患」の存在です。アレルギーやホルモンの病気などで皮膚バリア機能が弱くなったり免疫力が低下した結果、細菌が増殖し膿皮症を引き起こします。
この根本原因となる疾患を治療しない限り膿皮症は再発を繰り返してしまうため、まず全身の精密検査により基礎疾患を特定することが重要となります。

分類主な基礎疾患病態への影響
アレルギー性疾患犬アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど皮膚バリア機能の破壊、痒みによる自傷行動
内分泌疾患甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症など全身的な免疫抑制、皮膚代謝の異常によるターンオーバーの低下
寄生虫疾患ニキビダニ症(デモデクシス)など免疫抑制、皮膚の局所的な炎症の惹起

膿皮症でよくみられる症状には、以下のようなものがあります。初期の頃は、飼い主さんは犬が身体を痒がることに気づき、よく見ると皮膚にニキビのような赤い湿疹ができ、脱毛していることに気づきます。

・赤いブツブツ(丘疹
細菌感染による初期の炎症性の発疹

・膿の袋(膿疱
細菌と炎症細胞が集まったもので、細胞診の最適な採取部位

・表皮小環
膿疱が破れた後に環状に残るフケやカサブタの痕。膿皮症に特徴的

・その他
脱毛、皮膚の赤み、強い痒みなど


膿皮症を疑う場合は、前述した丘疹や表皮小環を探し、検査のためのサンプルを採取します。第一に行うのは細胞診検査ですが、治療の経過により必要な場合は細菌培養・薬剤感受性検査を行い適切な治療薬を選択します。

膿疱などからサンプルを採取し顕微鏡で観察することで、細菌感染の有無、好中球など炎症細胞の存在、マラセチアなどの真菌の同時感染などを確認します。
膿皮症を疑う場合に最初に行う検査であり、この検査で細菌が認められなければ、他の鑑別疾患を疑います。

細菌の種類を特定し、その細菌に対して各抗生剤がどれくらいの効果があるのかを判定する検査です。メチシリン耐性ブドウ球菌などの耐性菌の存在する可能性を排除し、現在感染している細菌に有効な薬剤を選択するために必要な検査です。


膿皮症の治療で最も問題となる「耐性菌」は、治療の初期段階からさまざまな抗生剤を多用することで発生率が高くなります。
そのため現在の膿皮症治療では、安易に抗生剤を選択せず、外用薬やシャンプーをメインとして治療を進めることが多くなっています。

外用療法は、薬剤耐性のリスクを最小限に抑えつつ、細菌負荷を低減できるため、表在性膿皮症治療の中心的なアプローチとして位置づけられています。

外用療法作用機序・特徴
殺菌消毒液
(クロルヘキシジングルコン酸塩2~4%含有)
細菌の細胞壁を破壊し、細胞質タンパク質を凝固させることで殺菌。消毒作用が強く、表在性膿皮症の治療に有効性が示されている。
シャンプー療法
(クロルヘキシジングルコン酸塩2~4%含有)
上記のクロルヘキシジンを含有したシャンプー剤による洗浄療法。シャンプーとして使用する場合には、成分が皮膚に十分接触する時間を確保するため、10分程度おいてから洗い流すのが有効とされている。
局所抗生物質
(軟膏・クリーム・外用液など)
局所的に細菌の増殖を抑制し、抗菌作用を発揮する。限局性の病変に適用され全身投与(内服薬)を避けることができるため、薬剤耐性のリスクを低減できる。

抗生物質の内服は、「外用療法に反応しない」、「症状の出ている範囲が広く外用薬では対応しきれない」などの場合に行われます。
とくに近年では、耐性菌の増加が問題となっているため使用は極めて慎重に行われます。
そのため抗生物質適正使用の観点から、抗生物質を内服させる際には以下の点が重視されます。

①細菌培養・感受性試験の推奨
感染している細菌に対して感受性の高い(効果の高い)抗生物質を効率的に選ぶためにも、初期段階での検査実施が推奨されています。

②第一選択薬の使用
①の検査が行われない場合には、まず、第一選択薬とされている抗生物質を使用します。これらは、犬の膿皮症に対する臨床試験で良好な効果が確認され、政府の承認によって効果が裏付けられている薬剤です。具体的には、セファレキシン、アモキシシリン-クラブラン酸、クリンダマイシン、リンコマイシンなどがあります。

③治療期間の遵守
抗生物質による治療は、症状が改善した後も潜在的な細菌を根絶するために、獣医師の指示に従い一定期間継続することが必須です。途中で薬を中断すると、菌が生き残り耐性菌を生むリスクが高まるため、正確な量と間隔を守ることが重要です。


膿皮症の治療が成功した後も、その再発を防ぐための継続的な管理が不可欠です。
この長期の管理計画は、基礎疾患のコントロールと皮膚バリア機能の持続的な維持というのが重要なポイントです。

膿皮症は二次的な疾患で発症することが多いため、細菌感染が治癒した後も、その根本原因となった基礎疾患(アレルギー疾患や内分泌疾患など)に対する治療を継続しなければ常に再発しやすい状態にあります。
したがって、アレルギーに対する免疫調整薬や食事管理、内分泌疾患に対するホルモン補充療法など、基礎疾患に対する治療を地道に継続することが、膿皮症の長期的な再発予防の土台となります。

基礎疾患の管理に加え、皮膚の細菌負荷を低く保つための予防的な局所管理が効果的です。
獣医師の指導のもと、皮膚の状態に合わせて適切な頻度で薬用シャンプーを継続するなど、発症を予防するプロアクティブな外用療法を行うことは、再発の頻度や重症度を軽減する有効な手段となり得ます。

難治性で再発性の高いケース、あるいは多剤耐性菌が確認された深刻な症例については、一般診療での対応が困難になることがあります。
このような場合には、皮膚病に詳しい獣医師の診察を受けるのも選択肢の一つです。日本国内には、日本獣医皮膚科学会の認定医試験に合格した「日本獣医皮膚科認定医」の資格を持つ獣医師が全国に約120名(2025年現在)存在しており、学会のウェブサイトで確認することができます。


膿皮症は再発しやすい慢性疾患ですが、適切な日常的ケアで症状をコントロールすることが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が快適な毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • 膿皮症は、多くの場合、基礎疾患(アレルギーや内分泌疾患など)によって二次的に発症する
  • 主な原因菌は常在菌であり、皮膚の抵抗力が下がると異常増殖する
  • 外用療法(消毒薬シャンプーなど)が最も重要な治療であり、耐性菌対策として優先される
  • 全身抗生物質の内服は、慎重に選択し、一定期間服用を継続することが大切
  • 基礎疾患の継続的な治療と、予防的な皮膚の衛生管理が再発予防の鍵となる

犬の膿皮症は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛犬の皮膚トラブルに気づいたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な外用療法の継続が、愛犬の快適な生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。