犬のフィラリア症~予防の重要性と最新の予防薬~【獣医師執筆】

犬糸状虫症(フィラリア症)は、蚊によって媒介される寄生虫「犬糸状虫(Dirofilaria immitis)」が心臓や肺動脈に寄生することで引き起こされる、犬にとって最も警戒すべき致死的な疾患の一つです。
かつては国内の家庭犬における主要な死因でしたが、優れた予防薬の普及により発症率は劇的に低下しました。
しかし、近年の地球温暖化に伴う蚊の活動期間の延長や、薬剤耐性株の出現といった新たな課題により、未だに注意が必要な疾患の一つです。

このコラムでは、フィラリアのライフサイクルから最新の予防薬、そして万が一感染してしまった場合の治療法までを分かりやすく解説します。


フィラリア症の適切な予防のためには、どの段階で薬剤が作用するのかというフィラリアのライフサイクルを正確に把握することが大切です。
侵入した幼虫が肺動脈や心臓に到達するまでの時間軸や、検査で陽性と判定されるまでの「潜伏期間(プレパテント・ピリオド)」を正しく理解し、投薬のタイミングをしっかり把握しましょう。

発育段階存在場所臨床的特徴
第1期幼虫
(L1 / ミクロフィラリア)
犬の血液中成虫が産出した子虫。蚊が吸血する際に取り込まれる。
第2期幼虫
(L2)
蚊の体内蚊のマルピーギ管内で1回目の脱皮を行った状態。成虫の内臓組織の原形を作る準備期間。
第3期幼虫
(L3 / 感染幼虫)
蚊の口吻部蚊の体内で成長し、感染能を獲得。吸血時に犬の皮膚へ移行する。
第4期幼虫
(L4)
犬の皮下・筋肉内侵入後2~10日でL3から脱皮する。現在主流の予防薬(大環状ラクトン系)の主要な標的となる成長段階。
第5期幼虫
(L5 / 未成熟成虫)
血液・心臓内侵入後約1~2ヶ月で脱皮し、血管内へ侵入して肺動脈を目指す。
成虫
(L6)
肺動脈・右心室感染から6~7ヶ月で成熟。体長15~30cmに達し、新たなL1を産出する。(ソーメンにそっくりの白く長細い虫体)

日本国内におけるフィラリアの感染リスクは、気温とそれに伴う蚊の活動状況と密接に関係しています。

国内で販売されているフィラリア予防薬は、投薬した時点で「過去1ヶ月間に侵入したフィラリアの幼虫をまとめて殺滅する」という効果が基本であり、「投薬後1カ月間効果が持続している」わけではありません。

そのため、蚊がいなくなってから1ヶ月後(多くの地域で12月)の最終投与を忘れると、秋に感染した幼虫が冬の間に成長してしまいます。

また、都市部のビル地下(ヒートアイランド現象)などは冬でも蚊が生存するため、中間地でも通年予防が推奨されるケースが増えています。

地域区分主な該当エリア推奨投薬期間
寒冷地北海道、東北山間部5月下旬 ~ 11月
中間地関東、関西、中部、中四国4月下旬 ~ 12月
温暖地南九州、沖縄3月 ~ 12月(または通年推奨)

※実際の投薬開始・終了時期は、その年の気温や蚊の発生状況によって異なります。最終投与は「蚊がいなくなってから1ヶ月後」が原則です。

自然界の気温だけでなく、ベランダのプランターの受け皿、古タイヤ、詰まった雨どいなどの「定在水場」は蚊の絶好の繁殖地となります。これらの環境を改善することも、物理的な予防策として重要です。


フィラリア症は「心臓の病気」と思われがちですが、本質は肺の血管に慢性的な炎症と障害を起こす重篤な肺血管疾患でもあります。

肺動脈に到達した成虫が血管壁を機械的に刺激することで「肺動脈内膜炎」が生じ、血管の内側が厚く硬くなる血管リモデリングが進行します。
その結果、血管内腔が狭くなって肺血管抵抗が上昇し、肺の血流が流れにくくなります。
これにより肺動脈圧が異常に高まる「肺高血圧症」(肺の血管圧が上昇し、心臓が肺へ血液を送り出すために通常以上の力を必要とする状態)を引き起こします。
さらに肺高血圧による負荷が持続すると、右心室は血液を送り出すために肥大し、やがて拡張して三尖弁逆流が生じ、最終的には全身循環のうっ滞によって腹水、肝腫大、皮下浮腫などを伴う右心不全へと進行していきます。

フィラリア症で起こる特に重篤な症状で、多数の成虫が肺動脈から右心房へと逆流し、三尖弁の機能を物理的に阻害してしまう病態です。
大量の虫体が三尖弁(右心房と右心室の間の弁)に絡みつき、血液の循環を急激に阻害・遮断することで、急性右心不全を引き起こします。
これにより赤血球が物理的に破壊され(溶血)、ヘモグロビン尿による濃紅茶色の尿が見られるようになります。
この状態は救急疾患であり、予後不良となることも多く、また、多数の寄生虫が血管に詰まることで突然死(心臓発作)を引き起こす場合もあります。


2024年改訂のAHS(米国犬糸状虫学会)ガイドラインでは、7ヵ月齢以上のすべての犬に対し、年1回の「抗原検査」と「ミクロフィラリア(MF)検査」を推奨しています。

メスの成虫由来の可溶性抗原を検出します。微量(一滴程度)の血液を検査用キットに垂らして検査します。
10分程度で即結果が分かるため、動物病院で最も主流となっている検査方法です。
安価で高精度ですが、オスのみの寄生や感染初期(6ヶ月未満)には反応しません。
主に、心臓に現在寄生している成虫がいないかを判断する材料として使用します。

血液中の幼虫を顕微鏡で直接確認します。
抗原検査が陰性でも、薬剤耐性株などの影響で幼虫のみが存在するケースを見逃さないために不可欠です。
ごく少量の採血を行い、スライドグラスに血液を一滴垂らし、上からカバーグラスをかけて顕微鏡で観察します。


現代のフィラリア予防薬は、一度の投薬でさまざまな種類の寄生虫に効果があり包括的な管理ができる製品が主流となってきています。
以下に、各有効成分の薬理学的特性と、それらを配合した主要製品の詳細をご紹介します。

これらの成分は、寄生虫の神経・筋肉細胞にあるグルタミン酸作動性塩化物イオンチャネルという部分に結合し、神経伝達の回路を狂わせ動けなくして死滅させます。

・イベルメクチン
世界で最も歴史があり、低用量でL4幼虫を殺滅できる安全性と有効性のバランスに優れた成分です。
ただし、コリー系犬種などではMDR1遺伝子変異により、通常の用量でも脳内へ薬剤が流入しやすく、神経症状(ふらつき、震え、昏睡など)を起こすリスクがあるため注意が必要です。

・ミルベマイシンオキシム
フィラリア予防に加え、回虫、鉤虫、鞭虫といった腸内線虫に対しても駆除効果を発揮します。

・モキシデクチン
大環状ラクトン系の中でも極めて高い脂溶性を持ち、血中濃度が長期にわたって安定します。
この特性により、一部の耐性株に対しても他成分より高い有効性を示すことが報告されています。

・セラメクチン
経皮吸収に非常に優れたスポットオン製剤専用の成分です。
皮膚から速やかに吸収され、フィラリアの寄生予防だけでなく、ノミ成虫の駆除、ノミ卵の孵化阻害、さらにはミミヒゼンダニの駆除に単独で高い効果を発揮します。
生後6週齢の子犬、妊娠・授乳中の犬、イベルメクチン感受性犬(コリー等)においても高い安全性が確認されています。

・イソキサゾリン系(アフォキソラネル、サロラネル、ロチラネル等)
最新のノミ・マダニ駆除成分で、節足動物のGABA受容体等を阻害します。
即効性が高く、投与後数時間で駆除が始まり、1ヶ月間安定した効果が持続します。

・ピランテル
回虫や鉤虫の駆除効果を補完するために多くの製剤に配合されます。

製品名(形状)主要有効成分対象寄生虫 (駆除範囲)特徴・投与のポイント
シンパリカ トリオ
(チュアブル錠)
サロラネル、モキシデクチン、ピランテルパモ酸塩フィラリア、ノミ、マダニ、イヌセンコウヒゼンダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫【確実性重視】 耐性リスクに強いとされるモキシデクチンを採用。ノミ・マダニへの即効性が高い。
クレデリオプラス
(フレーバー錠剤)
ロチラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫、鞭虫【小粒・高吸収】 ビーフフレーバーの小さな錠剤タイプ。成分吸収を助けるため食事時の投与を推奨。
レボリューション
(スポットオン剤)
セラメクチンフィラリア、ノミ、ミミヒゼンダニ【非経口型】 背中に垂らすタイプ。錠剤が苦手なコや吐き戻す場合に最適。耳ダニ駆除も可能。
ネクスガード スペクトラ
(ソフトチュアブル)
アフォキソラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、回虫、鉤虫、鞭虫【嗜好性良好】 おやつ型で与えやすい。食事の有無を問わず投与可能。
イベルメックPI
(骨型クッキー)
イベルメクチン、パモ酸ピランテルフィラリア、回虫、鉤虫【定番信頼】 嗜好性の高いクッキー型。コストパフォーマンス重視。
プロハート12
(徐放性注射薬)
モキシデクチンフィラリア【利便性最大】 一度の注射で12ヶ月間効果が持続。毎月の投薬ストレスや投薬忘れがない最新の選択肢。
ハートメクチン錠
(錠剤)
イベルメクチンフィラリア【経済性】フィラリア予防に特化したシンプルな錠剤。コストを最小限に抑えたい場合に 。

予防薬の発展により、日本国内ではフィラリアの感染数はかなり少なくなっていますが、万が一感染が判明した場合の治療には以下の三つの方法があります。

現在の国内では、予防薬(イベルメクチンなど)とドキシサイクリンという抗生剤を長期間併用し、フィラリアの寿命を短くしながら全滅を待つ「combination slow-kill法」を選択する場合も多いです。

フィラリアの体内には「ボルバキア(Wolbachia pipientis)」という細胞内共生細菌が存在しています。
フィラリアが死滅する際、この細菌が放出する表面抗原が犬の免疫系を過剰に刺激し、肺や腎臓における重篤な炎症反応(糸球体腎炎や好酸球性肺炎など)を助長することが判明しています。

ドキシサイクリンにはボルバキアを殺菌する効果があり、これを併用することで駆虫に伴う副作用のリスクを最小限に抑えます。
また、治療期間中(通常2年以上)は、死滅した虫体による急性塞栓を防ぐため、厳格な運動制限をおこなう場合もあります。

右心室内に虫体が寄生している場合に適応となる方法です。
頚静脈からアリゲーター鉗子と呼ばれる器具を挿入し、右心室内のフィラリア虫体を掴み取って除去する方法で、全身麻酔のリスクや手技の困難さがあります。
現在日本ではアリゲーター鉗子の国内製造は終了しており、この手術を実施している施設は少なくなっています。

メラルソミンというヒ素剤を2~3回筋肉に注射しフィラリア成虫を駆除する方法です。

米国犬糸状虫学会(AHS)推奨の治療法ですが、大量のフィラリア虫体が寄生している場合には、虫体が一度に死滅することでアナフィラキシーショックや呼吸不全を起こす可能性があるため、適応外となります。

また、死滅した虫体が肺動脈で詰まり、一時的に肺機能を低下させる場合があるため、注射後1~2週間は安静が必要です。
また、現在日本ではメラルソミン注射剤の生産がないため海外から薬の輸入が必要になります。


この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • フィラリア症は命に関わる重大な肺・心臓疾患です。症状が出る前の予防が愛犬の寿命とQOLを左右します。
  • 予防薬は最後まで必ず投薬しましょう。蚊がいなくなってから1ヶ月後の投薬が特に大切です。
  • 薬の成分の特徴を踏まえて、嗜好性、投与の利便性など愛犬の体質とライフスタイルに合った製品を選びましょう。
  • 万が一感染してしまったら治療は大きなリスクを伴い愛犬にも負担がかかります。かかりつけの獣医師とよく相談して最適な治療方法を選択しましょう。

予防薬の発達と飼い主様の予防意識の向上により、10年前に比べてフィラリア症はかなり減少傾向にあります。
しかし、予防を怠ると感染リスクはいまだに高く、その治療には長い時間と高額な費用を要し、愛犬にも大きな負担をかけることとなります。
愛犬にあったお薬で確実な予防を心がけましょう。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。

犬のアトピー性皮膚炎~かゆみの原因と上手な付き合い方~【獣医師執筆】

愛犬が体をかきむしり、舐め続ける姿を見るのは、飼い主さんにとって辛いものです。
犬のアトピー性皮膚炎は、環境中のアレルゲンに対する過剰な免疫反応と、皮膚バリア機能の遺伝的な機能不全を特徴とする慢性皮膚疾患です。
完治はなかなか難しく、生涯にわたり適切な皮膚のケアが必要となるケースも少なくありません。

このコラムでは、アトピー性皮膚炎の原因から最新の治療薬、そして愛犬のQOL向上のための日常ケア方法まで詳しく解説していきます。


アトピー性皮膚炎の発症には、『皮膚バリア機能の不全』『免疫バランスの乱れ』『環境因子』の3つが密接に関与しています。

皮膚の最外層を構成する角質層は、外部刺激の侵入を阻止し、体内の水分を保持する生物学的バリアとして機能しています。この層は、セラミド、脂肪酸、コレステロールといった細胞間脂質と、フィラグリンなどの重要な成分によって維持されています。

アトピー性皮膚炎に罹患した犬では、これらの成分が遺伝的に不足しており、特に細胞間脂質のバランスが崩れていることが確認されています。

中でも重要視されるのが、フィラグリン(FLG)遺伝子の変異です。フィラグリンは角層細胞内でケラチンフィラメントを凝集させ、最終的には天然保湿因子(NMF)へと分解されますが、このプロセスが阻害されることで経皮水分蒸散量(TEWL)が増大します。

この「漏れやすい皮膚」の状態が、アレルゲンの侵入を容易にし、慢性的な炎症を引き起こす病理学的基盤となります。

特に以下の犬種では、遺伝子レベルでの皮膚バリア機能の脆弱性が確認されており、アトピー性皮膚炎を発症しやすい傾向があります。

  • 柴犬
  • ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
  • ラブラドール・レトリーバー
  • ゴールデン・レトリーバー
  • フレンチ・ブルドッグ
  • シー・ズー

これらの犬種を飼育されている方は、特に皮膚の状態に注意を払う必要があります。

侵入したアレルゲンに対し、犬の体を守る一連の免疫メカニズムは、通常よりも偏った過剰な応答を示します。
この過程で放出されるインターロイキン31(IL-31)という免疫関連物質が、皮膚の感覚神経を直接刺激して激しいかゆみを引き起こすことが知られています。

遺伝的素因を顕在化させる引き金として、外部環境の要因が深く関わっています。

・環境アレルゲンへの曝露
室内ダニ(コナヒョウヒダニ等)の排泄物や死骸、スギ・イネ科・ブタクサ等の花粉、真菌(カビ)の胞子などが主要な抗原となります。これらは季節や居住地域によって飛散量が変動し、症状の増悪を左右します。

・気候と飼育習慣
高温多湿(湿度60%以上)な環境はダニやカビの繁殖を促し、症状を悪化させます。また、過度な洗浄など誤ったスキンケアも、皮膚バリアを物理的に損傷し、アレルゲン浸透を助長する環境的誘因となります。


臨床症状は通常、生後6ヶ月から3歳の間に初発を迎え、主には以下の部位に左右対称性(非対称の場合もあり)の赤み、ブツブツ、フケ、輪状の湿疹などが認められます。

部位別の主な症状

部位主な症状・飼い主が気づくポイント
顔面・耳目の周りの赤み、涙やけの悪化、外耳炎の繰り返し。耳の入り口付近を頻繁に掻く行動が見られる。
四肢(手足)指の間や肉球の赤み・腫れ、執拗に舐める行動。唾液の成分により被毛が茶褐色に変色するのが特徴。
体幹部脇の下、内股(鼠径部)の赤み・ブツブツ。皮膚が薄く擦れやすい部位に強い症状が出やすい。

アトピー性皮膚炎の最大の特徴は、激しいかゆみです。
犬は掻く、舐める、噛むといった行動を繰り返し、これがさらに皮膚を傷つけ、バリア機能を低下させます。
この悪循環を断ち切ることが、治療の重要な目標となります。


アトピー性皮膚炎の診断は検査で確定するのは非常に難しく、他の疾患を順番に排除していく「除外診断」が基本となります。
これは、アトピー性皮膚炎を確定する単一の検査が存在しないためです。

ステップ1:他疾患の除外
ノミ・ダニ等の外部寄生虫感染、細菌感染(膿皮症)、酵母菌感染(マラセチア)を先行して治療し、かゆみの原因を切り分けます。

ステップ2:食物アレルギーの鑑別
アレルギー性皮膚炎の約30%は食物アレルギーを併発しているとされています。アレルギー検査(血液検査)の結果をもとに8週間の厳格な除去食試験を行い、食事の影響を判定します。

ステップ3:臨床診断基準の確認
臨床現場では、Favrot(ファヴロ)らによって策定された診断基準が、CADの可能性を判定するための有用なツールとして用いられています。上記の1および2を除外後、以下の8項目のうち5項目以上を満たす場合、CADの可能性が高いと評価されます。

項目チェック内容
1. 発症年齢3歳未満で症状が出始めた
2. 飼育環境ほとんど室内で生活している
3. 薬への反応ステロイド剤でかゆみが劇的に治まる
4. 合併症マラセチア(真菌)による皮膚炎を繰り返す
5. 前足の症状前肢(足先など)に皮膚の赤みや汚れがある
6. 耳の症状耳介(耳のヒラヒラした部分)に病変がある
7. 耳の縁(症状なし)耳のフチ(縁)には異常がない
8. 腰・背中(症状なし)腰や背中の中心部には異常がない

ステップ4:アレルギー検査
主に血液検査によりアレルゲン特異的IgE抗体を測定するもので、ハウスダストマイト、花粉、カビなどの環境アレルゲンに対する免疫反応を調べます。これにより、犬がどの物質に感作されている可能性が高いかを推定します。

ただし、検査陽性=発症原因とは限らないため、症状の季節性や生活環境などと総合的に判断する必要があります。


内服薬には、主に以下のものがあります。効果・副作用が異なるため、犬の体質・症状に合わせて選択することが大切です。
近年のアトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド、シクロスポリンをはじめとする広範な全身性免疫抑制に加え、副作用を最小限に抑えつつ痒みの特異的な経路を遮断する「分子標的薬」を使用した治療が主流となってきています。

これら分子標的薬の長期使用に関しては、臨床データの不足からその使用リスクについて様々な議論が行われています。(2026年1月現在)

薬剤名作用機序特徴(メリットと留意点)
ステロイド
(プレドニゾロンなど)
細胞内の受容体に結合し、炎症の原因を直接抑制することで、強い免疫抑制・抗炎症作用を示す。安価で、強力な抗炎症と止痒効果を併せ持つ。
長期使用で副作用に注意が必要。
アトピカ
(シクロスポリン)
T細胞の活性化に不可欠なカルシニューリンを阻害し、痒みや炎症の元となるサイトカインの産生を抑制する。長期投与が可能で、ステロイドを減薬できる可能性がある。
効果発現まで2週間以上かかる。初期に嘔吐症状が出やすい。
サイトポイント
(ロキベトマブ)
痒みを脳に伝えるIL-31を標的として結合し、中和することで痒みを感じないようにさせる。月1回の注射で済み、副作用のリスクも低い。
効果の持続性には個人差がある。
アポキル
(オクラシチニブ)
痒みの伝達に関わるJAK酵素を阻害し、痒みの中心物質であるIL-31のシグナルを遮断する。即効性があり、安全性も高い。
減量・休薬時に痒みがリバウンドする場合がある。
ゼンレリア
(イルノシチニブ)
最新薬(2026年1月現在)。
従来薬よりも広範かつ強力にJAK経路を遮断し、痒みだけでなく重度の炎症反応も抑制する。
痒み軽減効果が高く、既存薬でコントロール困難な症例にも有効。最初から1日1回の投薬で済むのも大きな利点。ただし、免疫への影響が比較的強いため、定期的な血液検査など、慎重な経過観察が必要。

対症療法が主体となるアトピー性皮膚炎の治療において、唯一の根本的な解決策となり得るのがアレルゲン特異的免疫療法「減感作療法」です。人の花粉症治療にも用いられている方法です。

・治療方法
原因となるアレルゲンを低用量から計画的に反復投与し、免疫系の過剰反応を徐々に抑制していきます。アレルゲンに対する反応が過剰な状態から、免疫寛容(過剰に反応しない状態)へと変化することで、症状の軽減や薬物治療の必要量の減少が期待されます。

・効果
犬の症例の約60%に顕著な改善が見られるとされていますが、完全な治癒を保証するものではありません。治療期間も長期にわたるため、獣医師とよく相談して検討することをおすすめします。


薬物療法を補助し、薬の量を減らすためには、皮膚の外側と内側から日常的にケアしていくことが大切です。

・物理的洗浄
花粉やダニなどのアレルゲンを物理的に除去します。ぬるま湯を使用し、成分を浸透させるため10分程度おいてから十分にすすぎます。

・保湿の徹底
シャンプー後はバリア機能が低下するため、セラミド等を含む保湿剤で速やかに保護します。1日1~2回の保湿が理想的です。

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・必須脂肪酸の補給
オメガ3脂肪酸(EPA, DHA)やオメガ6脂肪酸(リノール酸・γ-リノレン酸等)は、炎症緩和とバリア機能改善をサポートします。

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・腸内環境の整備
パラカゼイ菌(乳酸菌)やケストース(オリゴ糖)の摂取により、腸内フローラ(腸の中に生息する多種多様な細菌の集まりのこと。消化吸収の補助、免疫機能の調整、病原菌の抑制などに関与する。)を整え、皮膚の過剰なアレルギー反応を抑制します。

ある臨床研究では、従来の治療薬プレドニゾロンを90日間投与しても改善しなかったCADの犬15頭に、これらを併用した結果、症状の顕著な改善と抗生物質の使用量の減少が確認されました。これにより、パラカゼイ菌が免疫の偏りを是正し、ケストースが皮膚の保水力をサポートすることで、効率的な腸内環境改善と皮膚の健康維持が期待できることが示唆されています。

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アレルゲン回避のポイント

  • 室内湿度は40〜60%、温度20〜25℃程度に維持(ダニやカビの増殖を抑える)
  • 空気清浄機の活用
  • 週2〜3回以上の掃除機がけ
  • 寝具の定期的な洗濯と日光消毒(週1回程度)
  • 花粉の季節は散歩後に足や体を拭く

アトピー性皮膚炎の犬は、皮膚バリアの脆弱性から以下のような二次感染を併発しやすくなります。

表在性膿皮症
アトピー犬の約66%で発症し、かゆみをさらに増幅させます。赤いブツブツや膿を伴う湿疹が特徴です。

外耳炎
アトピー犬の80%以上に症状が見られ、耳だけの症状が初発となるケースも少なくありません。頻繁に頭を振る、耳を掻く、耳垢が増えるなどの症状に注意が必要です。

マラセチア皮膚炎
酵母菌の増殖により強い悪臭とベタつきが生じます。特に指の間、脇の下、耳などに発生しやすい傾向があります。

これらの疾患を繰り返す場合、あるいは一般的な治療でコントロールが困難な場合は、早期に「日本獣医皮膚科認定医」など皮膚疾患に詳しい獣医師の診察を受けることをおすすめします。


アトピー性皮膚炎は長い付き合いが必要な病気ですが、適切な治療と日常ケアにより、かゆみを良好にコントロールし、愛犬のQOLを維持することが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が穏やかな毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア不全、免疫異常、腸内環境の乱れが複雑に絡み合った疾患
  • 診断は、寄生虫、食物アレルギー、感染症を一つずつ除外していく丁寧なプロセスが必要
  • 治療薬には現在様々な種類があり、獣医師と相談の上、体質と皮膚にあったものを選択することが大切
  • 症状がない時期でも、日常的なスキンケアを続けていくことが再発防止の鍵となる
  • シャンプー・保湿・食事(脂肪酸)・腸活(乳酸菌)を組み合わせる多角的なアプローチが、薬の減量とQOL維持につながる
  • 症状が改善しない場合は、皮膚科専門医による診察を受けるのも選択肢の一つ

犬のアトピー性皮膚炎は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛犬のかゆみに不安を感じたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な治療管理が、愛犬の穏やかな生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。

猫の甲状腺機能亢進症~早期発見のポイントと治療の基本~【獣医師執筆】

「食欲旺盛なのに体重が減る」、「夜中に鳴き止まず、落ち着きがない」これらの症状は高齢猫に最も多く見られる、甲状腺機能亢進症という病気のサインかもしれません。
甲状腺機能亢進症は進行性の疾患ですが、適切な知識と治療によってコントロールできる慢性疾患です。

このコラムでは、病気のメカニズムと愛猫の生活の質(QOL)を最大限に高めるための治療の基本を分かりやすく解説します。


この疾患は、喉元にある甲状腺から「甲状腺ホルモン(T4)」というホルモンが過剰に分泌されることによって起こります。

このホルモンは、身体の代謝(エネルギー消費)をコントロールするアクセルのようなもので、過剰になると全身の臓器が異常に活発になり、心臓、腎臓、消化器などの全ての臓器が疲弊してしまいます。

8歳以上の高齢猫に多く、初期の症状は加齢による変化と見過ごされがちです。
しかし、早期に診断し治療を開始することが、心臓や腎臓への不可逆的なダメージを防ぐために極めて重要です。

甲状腺機能亢進症の原因の大部分は、甲状腺組織における良性の増殖、すなわち機能性甲状腺腺腫または腺腫様過形成に起因します。

分類詳細発生割合
機能性甲状腺腺腫/過形成甲状腺組織の中にできる良性腫瘍によるもの。腫瘍化した甲状腺が自律的にホルモンを過剰に作り出す。約98%以上
腺癌悪性の甲状腺腺癌(がん)によるもの。稀にみられる。約1〜2%

飼い主様が気づく愛猫の初期の変化には、以下のようなものがあります。

この病気の最も典型的なサインです。
食欲が非常に旺盛であるにもかかわらず、代謝率の異常な亢進により、体重が急激に減少していきます。

以前に比べて活動性が増す、落ち着きがない、夜鳴きが増えるといった神経質な行動が目立つようになります。

腎臓への血流増加や、ホルモン自体の作用により、水を飲む量と尿の量が増加します。

毛艶が悪化したり、部分的な脱毛が見られたりすることもあります。

心臓への過剰な負担による潜在的な心臓病の悪化(肥大型心筋症の悪化)や、二次的な高血圧などが認められることがあります。


症状、身体所見、および血液中の甲状腺ホルモン濃度の測定を組み合わせて行われますが、基本として血液検査により確定診断します。

最も大事な検査として甲状腺ホルモン(T4)の測定を行います。
T4には総T4(TT4)と遊離T4(fT4)があります。猫では主としてTT4を用い、補助的にfT4を用います。

甲状腺機能亢進症を強く疑う症状があるにもかかわらず、総T4(TT4)が正常高値である場合など、診断がグレーゾーンの際には、遊離T4(fT4)の検査値を用いることがあります。
fT4のほうが他の疾患の影響を受けにくいのですが、猫では偽高値になることがあるのでfT4単独では用いません。

TT4が高値であれば甲状腺機能亢進症と診断します。

甲状腺シンチグラフィーは、放射性同位元素を用いて、甲状腺組織がホルモンを取り込む能力を画像化する特殊な検査です。
有用ですが国内で行える施設は非常に少なく、代用として触診による甲状腺の大きさのチェック、超音波検査での測定があります。


治療方法は、根治を目的とする外科手術と、ホルモン値のコントロールを目的とする内服薬などの内科療法に分けられます。愛猫の性格や全身状態に応じて、最適な計画を立てていきます。

治療法作用機序特徴
内服薬(チアマゾール錠)T4合成を抑制する。
最も選択されている治療法。
症状に合わせて薬の量がコントロールしやすいが、毎日の投薬管理が必要。
塗布薬(外用チアマゾール製剤)T4合成を抑制する。
一日一回、耳の内側に塗布する。
投薬困難な猫でも使用できるため、治療の新しい選択肢として注目されている。(日本では未承認)
外科的切除原因となる甲状腺部位の切除を行う。根治が見込めるが、手術に伴う一般的なリスクがあり、取り切れないと再発する場合もある。
食事療法(ヨウ素制限食)食事中のヨウ素摂取を強く制限する。排他的給餌の徹底が必須。他の食物を摂取させると効果が期待できない。

甲状腺機能亢進症の治療において、最も注意すべきなのが「腎臓機能低下」の併発の有無です。

甲状腺ホルモンが過剰な状態は、腎臓の血流を一時的に増加させることで、隠れていた慢性腎臓病の兆候を覆い隠してしまっている可能性があります。
ホルモン値を正常化する治療を行うと、慢性腎臓病が急に悪化することがあるため注意が必要です。

T4を過度に抑制すると慢性腎臓病の進行を加速させる可能性があるため、腎臓保護の観点から、血清T4濃度を下げすぎないことも重要です。
腎機能の急速な悪化が認められる場合には、甲状腺機能亢進症の治療を中断する場合もあり、このバランスのコントロールに慎重な判断が求められます。


猫の甲状腺機能亢進症自体は適切な治療によってコントロール可能であり、T4正常化による予後は一般的に良好です。

しかし、予後を最終的に決定づけるのは、併発している重度の慢性腎臓病や心筋症の程度です。
甲状腺機能が安定した後も、少なくとも6か月ごとにホルモン値や腎数値などを血液検査、心臓精査による心筋症のチェックを行い、継続的にモニタリングすることが推奨されています。


甲状腺機能亢進症は、早期発見と適切な治療により良好なコントロールが可能です。
愛猫の行動の変化を見逃さず、気になることがあれば早めに動物病院を受診しましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • 猫の甲状腺機能亢進症は、高齢猫に多く見られる進行性の病気で、食欲旺盛なのに痩せていくのが特徴
  • 診断は血液中の総T4(TT4)測定が基本ですが、他疾患との鑑別のための遊離T4(fT4)の解釈には慎重な判断を要する
  • 治療方法には内服薬、塗布薬、外科的切除、食事療法があり、愛猫の状態に応じて選択する
  • 腎臓病を併発している場合は、腎血流を保護するため、T4値の厳密な管理が推奨される
  • 治療後も少なくとも6か月ごとの定期的なモニタリングが重要

猫の甲状腺機能亢進症は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛猫の症状に不安を感じたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な投薬管理が、愛猫の穏やかな生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。

【獣医師監修】猫のワクチン接種は本当に必要?科学的根拠から考える適切な予防接種

「完全室内飼いだから、ワクチンは必要ないのでは?」「毎年接種するのは猫の負担が大きすぎる」「副反応が心配」——そんな疑問や不安を抱えている飼い主さんは少なくありません。
猫のワクチン接種は法律で義務付けられていないからこそ、飼い主さん自身が正しい知識を持ち、愛猫にとって最適な選択をする必要があります。

このコラムでは、ワクチンの必要性を科学的根拠に基づいて客観的に解説し、接種のメリット・デメリットを踏まえた上で、愛猫に適した予防接種プログラムを考えるための情報を提供します。

【この記事を読んでわかること】

  • ワクチンで予防できる感染症の実態と致死率
  • コアワクチンとノンコアワクチンの違いと選択基準
  • ワクチン接種のメリットと副反応のリスク
  • 最新ガイドラインに基づく適切な接種スケジュール
  • 完全室内飼いの猫にもワクチンが必要な理由
  • 副反応を最小限に抑えるための実践的な対策

ワクチンとは、病原体の毒性を弱めたり無毒化したりしたものを体内に投与し、あらかじめ免疫を作っておく予防医療です。ワクチンには大きく分けて2つの効果があります。

ひとつは感染予防効果です。これは病原体の侵入を防ぐ、または感染しにくくする働きです。もうひとつは重症化予防効果で、仮に感染しても症状を軽く抑え、愛猫の命を守ることができます。

重要なのは、ワクチンは「100%感染を防ぐ」ものではなく、「感染リスクを大幅に下げ、感染しても重症化を防ぐ」手段であるという点です。

猫がかかる感染症には、非常に高い致死率を持つものがあります。例えば、猫パルボウイルス感染症の場合、子猫における致死率は50〜90%にも達し、治療が遅れるとわずか数日で命を落としてしまうこともあります。

さらに深刻なのは、多くのウイルス感染症には特効薬が存在しないという事実です。治療は対症療法が中心となり、猫自身の免疫力に頼るしかありません。また、猫ヘルペスウイルスのように一度感染すると体内に潜み続け、免疫力が低下するたびに再発を繰り返すウイルスもあります。猫白血病ウイルスは猫白血病ウイルス感染症の原因となることもあります。

感染力の高さも無視できません。猫パルボウイルスは環境中で数ヶ月間生存可能かつ、感染猫の少量の糞便に触れることで容易に感染してしまう危険性があります。

「うちの猫は完全室内飼いだから、感染症とは無縁」と考えている飼い主さんもいるかもしれません。しかし、実際には完全室内飼いの猫でも感染リスクはゼロではないのです。

人を介した感染経路として、飼い主の衣服や靴にウイルスが付着したり、来客が持ち込んでしまったりする場合があります。また、災害時の避難所など予期せぬ環境の変化、新しく迎え入れた猫や動物病院での接触なども感染の機会となります。

猫パルボウイルスのような環境中で長期間生き残るウイルスの場合、完全に感染を防ぐことは困難です。完全室内飼いにもかかわらず猫風邪を発症するケースは珍しくありません。


世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインでも、生活環境に関わらず全猫への接種が強く推奨されているのがコアワクチンです。これは3種混合ワクチンとして提供されています。

1. 猫パルボウイルス感染症(猫汎白血球減少症)

激しい嘔吐と下痢(しばしば血便を伴う)、高熱、食欲不振、脱水といった症状が現れます。さらに白血球の著しい減少により免疫不全状態に陥ります。子猫の致死率は50〜90%と非常に高く、発症後数日で死亡するケースも少なくありません。

感染経路は感染猫の糞尿や嘔吐物との接触です。このウイルスは環境中で数ヶ月〜数年生存する極めて強いウイルスで、特効薬は存在せず、輸血・点滴などの支持療法のみとなります。治療費も数万円〜十数万円と高額です。

2. 猫ヘルペスウイルス感染症(猫ウイルス性鼻気管炎)

大量の目やにと鼻水、結膜炎、角膜炎が特徴的な症状で、くしゃみの連発、発熱、食欲不振も見られます。重症化すると肺炎を併発することもあります。

このウイルスの厄介な点は、一度感染すると体内に潜伏し続け、免疫力が低下するたびに再発を繰り返すことです。慢性鼻炎や結膜炎に移行することも多く、生涯にわたる治療が必要になる場合もあります。感染経路は感染猫のくしゃみや鼻水による飛沫感染、食器やトイレの共有、グルーミング時の接触などです。

3. 猫カリシウイルス感染症

くしゃみ、鼻水、目やにといった症状に加えて、口内炎や舌・口腔粘膜の潰瘍が特徴的です。口内炎の痛みで食事ができなくなることもあり、子猫では脱水と栄養失調で死亡することもあります。

感染経路は感染猫のくしゃみや鼻水による飛沫感染、食器やトイレの共有、グルーミング時の接触などとなります。特効薬がなく対症療法のみとなり、回復後もウイルスを排出し続けることがあるため、多頭飼育では特に注意が必要です。

ノンコアワクチンは、猫の生活環境や感染リスクに応じて接種を検討するワクチンです。

4. 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

接種推奨対象:外出する猫、多頭飼育で他の猫との濃厚接触がある猫、FeLV陽性の猫と同居している猫に接種が推奨されます。症状としては免疫不全、貧血、慢性口内炎、下痢などが現れ、進行するとリンパ腫、白血病、腎不全を引き起こします。発症後3〜4年以内の死亡率が高い深刻な病気です。

感染経路は感染猫との濃厚接触(グルーミング、食器の共有)、咬傷、母子感染などです。重要なのは、初回接種前に必ず血液検査でFeLV感染の有無を確認する必要があるという点です。

5. 猫クラミジア感染症

接種推奨対象:多頭飼育環境にいる猫や、キャッテリー、ペットホテルを利用する猫に接種が推奨されます。結膜炎(特に初期は片目から始まることが多い)、大量の目やに、軽度の鼻炎やくしゃみが主な症状です。

症状は比較的軽度ですが、慢性化しやすいのが特徴です。また、稀ではありますが人に感染する可能性もある人獣共通感染症です。

6. 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV・猫エイズ)

接種推奨対象:外出する猫や野良猫との接触機会がある猫に推奨されます。主な感染経路は咬傷、つまりケンカによる噛みつきです。初回接種前に血液検査が必須で、ワクチン接種後は抗体検査で陽性となるため、実際の感染との区別が困難になるという点に注意が必要です。


1. 致死率の高い感染症から命を守る

猫パルボウイルスの場合、ワクチン接種猫の致死率は10%以下との報告もありますが、未接種猫では50〜90%にも達します。猫ヘルペスウイルスやカリシウイルスについても、接種することで発症率が減少することが分かっています。仮に感染しても症状が軽く、回復も早いという効果も期待できます。

2. 治療費の軽減

感染症治療には高額な医療費がかかります。猫パルボウイルス感染症の場合、入院費用は5〜15万円以上、猫風邪の重症例でも通院・入院で3〜10万円かかるともいわれています。慢性化した場合は生涯にわたる治療費が必要になることも珍しくありません。一方、ワクチン接種費用は年間5,000〜10,000円程度です。

3. 多頭飼育での感染拡大防止

多頭飼育の場合、一匹が感染すると他の猫にも感染が広がるリスクが高まります。全頭へのワクチン接種は、家庭内での感染症蔓延を防ぐ「集団免疫」の形成に貢献します。

ワクチン接種には一定の副反応リスクが存在します。ただし、適切な対応で重症化を防げるケースがほとんどです。

1. 軽微な副反応

接種部位の痛みや腫れ、軽度の発熱(24時間以内に自然回復)、元気消失、食欲低下(1〜2日程度)、嘔吐、下痢といった症状が見られることがあります。発生率は比較的高いものの、ほとんどは24時間以内に自然回復します。症状が強い場合や24時間以上続く場合は動物病院へ連絡しましょう。

2. アナフィラキシーショック

接種後数分〜30分以内に呼吸困難、虚脱、意識障害といった症状が現れます。猫のワクチン接種後のアナフィラキシー発生率は約0.01%、つまり10,000回に1回程度と稀です。

対策としては、接種後30分は動物病院内または近くで待機することが重要です。一度アナフィラキシーを起こした猫は、次回接種前に必ず獣医師に相談しましょう。

3. 注射部位肉腫

ワクチンを接種した部位に発生する悪性腫瘍で、発生率は10,000回の接種につき1〜4例といわれています。接種してから数年後に発症することもあります。

予防策として、毎回異なる部位(特に後肢など切除しやすい場所)に接種することが推奨されています。経過観察の目安として、接種後1ヶ月以上しこりが残る、しこりが2cm以上の大きさになる、しこりが大きくなり続けるといった場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。

4. 慢性腎臓病との関連性

最近の研究では、ワクチン接種頻度が高い猫が慢性腎臓病を発症する可能性があるとの報告があります。ただし、因果関係は完全には解明されていません。適切な接種間隔を守ることでリスクを最小化できます。

ワクチン接種をしない場合、致死率50〜90%の感染症に無防備な状態となり、治療費も数万円〜十数万円と高額になります。一方、ワクチン接種をする場合のリスクは、軽微な副反応(多くは24時間以内に回復)と重篤な副反応(発生率0.01〜0.04%)です。

科学的データから見れば、適切な頻度でのワクチン接種は、リスクを大きく上回るメリットがあると考えられます。


接種回時期目的
1回目生後6〜8週齢移行抗体が減少するタイミングでの初回免疫
2回目1回目から3〜4週後抗体価の上昇
3回目生後14~16週齢以降確実な免疫獲得
ブースター生後26〜52週齢(6〜12ヶ月)長期免疫の確立
※要否には個体差があります。

子猫接種で重要なのは、母猫からの初乳により得た移行抗体が生後8〜12週で消失するため、その時期に合わせて接種を開始することです。特に16週齢以降の接種が長期免疫の鍵となります。

コアワクチン(3種混合)の場合

完全室内飼いの猫には2つの選択肢があります。

ひとつは抗体価検査を活用した個別プログラムです。年に1回の健康診断時に抗体価検査を実施(費用6,000〜7,000円)し、抗体価が十分であれば接種を見送ります。最大3年間隔まで延ばすことが可能だと言われています。

もうひとつは3年に1回の定期接種です。抗体価検査を行わない場合の標準プログラムで、コアワクチンの免疫持続期間は7.5年以上との研究報告もあります。

一方、外出する猫や多頭飼育の猫には年に1回の定期接種が推奨されます。感染リスクが高いため、より確実な予防が必要になります。

ノンコアワクチンの場合

猫白血病ウイルス(FeLV)や猫クラミジアは免疫持続期間が短いため、年に1回の接種が推奨されます。

シニア猫には特別な配慮が必要です。接種前に血液検査で腎臓や肝臓などの機能を確認し、完全室内飼いであれば3年間隔も検討可能です。獣医師と相談しながら、個体ごとのリスク評価を行うことが大切です。


まず、愛猫の健康状態を確認しましょう。食欲や元気があるか、嘔吐・下痢はないかをチェックし、体調不良時は接種を延期します。

接種日は午前中が理想的です。万が一異変があった場合に対応できる時間的余裕があるからです。週初めや平日を選び、週末や祝日前は避けましょう。接種後24時間は在宅できる日を選ぶことも大切です。

獣医師には過去のワクチン接種歴と副反応の有無、現在服用中の薬やサプリメント、アレルギー体質や基礎疾患の有無をしっかり伝えましょう。

アナフィラキシーショックは接種後30分以内に発症することが多いため、接種後30分は病院付近で待機し、車中や待合室で猫の様子を観察します。

帰宅後は静かで落ち着ける場所を用意し、無理に遊ばせたり運動させたりしないようにします。食欲がなければ無理に食べさせる必要はありません。

呼吸が荒い・苦しそう、顔が急激に腫れる、嘔吐を繰り返す、立てない・ぐったりしているといった緊急度が高い症状が見られたら、すぐに動物病院に連絡しましょう。

また、24時間経過しても食事を全く食べない、元気がまったくない、高熱が続く、接種部位の腫れが拡大しているといった症状がある場合も受診が必要です。

接種後2〜3日間は、シャンプーや入浴、激しい運動や遊び、他の猫との濃厚接触、長時間の外出や旅行を避けましょう。愛猫の体が免疫を作り上げるために、安静な環境を提供することが大切です。


完全室内飼いでも感染経路は多様です。飼い主の衣服や靴に付着したウイルス、来客による持ち込み、災害時の避難所など、予期せぬ感染リスクが存在します。ただし、コアワクチン(3種混合)を3年に1回、または抗体価検査を併用するプログラムで十分なケースが多いです。

最新のガイドラインでは、コアワクチンは3年に1回でも十分な免疫が維持されることが分かっています。ただし、外出する猫、多頭飼育の猫、ペットホテル利用が多い場合は年1回接種が推奨されます。重要なのは、猫の生活環境と感染リスクに応じて獣医師と相談して決めることです。

高齢猫は確かに副反応リスクがやや高まりますが、同時に感染リスクも高まります。接種前に血液検査で健康状態を確認し、完全室内飼いであれば接種間隔を延ばす(3年に1回など)、抗体価検査を活用するなど、獣医師と相談して個別に判断することが重要です。

副反応への不安は理解できます。しかし、データで比較してみましょう。重篤な副反応の発生率は約0.01〜0.04%です。一方、猫パルボウイルス感染時の致死率(未接種)は50〜90%にも達します。

統計的に見れば、ワクチン接種のメリットは副反応のリスクを大きく上回ります。健康状態が良い時に接種し、接種後30分は病院付近で待機するなど、副反応を最小限に抑える対策を取ることで、安全性を高めることができます。


猫の感染症には致死率50〜90%の病気があり、治療薬がない感染症も多く存在します。予防が最善の対策であり、完全室内飼いでも感染リスクはゼロではありません。ワクチンは命を守る確実な予防手段といえます。

重篤な副反応の発生率は約0.01〜0.04%と低く、未接種での感染リスクと比較すれば、メリットは大きいです。また、適切な対策を取ることで副反応リスクは最小限に抑えられます。

「一律の毎年接種」ではなく、個別に獣医師と計画を立てましょう。完全室内飼いの子にはコアワクチンは3年に1回でも十分で、抗体価検査を活用すれば必要な時のみ接種できます。なお、外出猫や多頭飼育では年1回接種が推奨されます。

副反応対策としては、健康状態が良い時に午前中接種し、接種後30分は病院付近で待機、24〜48時間は注意深く観察することが重要です。

猫は自分の不調を言葉で伝えることができません。だからこそ、飼い主さんが正しい知識を持ち、愛猫にとって最適な選択をすることが求められます。

「ワクチンは絶対に毎年必要」という考えも、「ワクチンは危険だから打たない」という考えも極論です。大切なのは、愛猫の生活環境とリスクに応じた個別の判断です。情報に振り回されず、科学的根拠に基づいた判断を心がけましょう。そして愛猫の健康を守るため、獣医師と一緒に最適な方法を選びましょう。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

【獣医師監修】猫の目のケア完全ガイド ~目やに・涙やけから病気のサインまで、愛猫の瞳を守るために知っておきたいこと~

愛猫の目に目やにがついている・涙やけが気になる・目が充血している……そんな症状が見られたら、それは愛猫からのSOSかもしれません。
特に、目やにの色がいつもと違う、片目だけに症状が出ている、目をしょぼしょぼさせているといった変化があるときは、早めの対応が必要です。

このコラムでは、猫の目の健康を守るための正しい知識から日々のケア方法、病院を受診すべきタイミングまでを分かりやすく解説します。

【この記事を読んでわかること】

  • 正常な目やにと異常な目やにの見分け方
  • 目やにの原因となる主な病気(結膜炎、角膜炎、猫風邪など)
  • 自宅でできる正しい目のケア方法
  • 動物病院を受診すべきタイミングと緊急性の高い症状
  • 猫種別の注意点と日常的な予防法

最後まで記事を読んで、愛猫の目の健康について学んでみましょう。


猫の『目やに』は、涙、粘液、そして目の表面から剥がれ落ちた古い細胞などの老廃物やほこりなどの異物が混ざり合ってできた自然な分泌物です。

人間でも朝起きたときに目やにがつくことがあるように、猫にとっても目やには生理的な現象のひとつなのです。

健康な猫にも少量の目やには出ます。
以下のような特徴があれば、基本的には心配する必要はありません。

  • 色:薄い茶色から透明、あるいは黒っぽい茶色
  • 量:毎朝起きたときに目頭に少量ついている程度
  • 質感:乾燥してカサカサしている、またはやや湿っているが粘り気はほとんどない
  • 頻度:毎日少量出る程度で、日中に何度も拭く必要がない

以下のような目やには何らかの異常がある可能性が高いため、注意が必要です。

色が濃い、または異常な色

  • 黄色、黄緑色、緑色の目やに → 細菌感染の可能性
  • 血が混じった赤い目やに → 眼球に傷がある可能性

その他の異常サイン

  • ドロッとした膿のような質感
  • 悪臭がする
  • 一日に何度も拭く必要があるほど大量に出る
  • 片目だけに集中して出る
  • 目の充血、腫れ、涙が止まらない
  • くしゃみ、鼻水、発熱などの全身症状を伴う

これらの異常なサインが見られたら、早めに動物病院を受診することをおすすめします。


空気の乾燥やハウスダスト、花粉、煙草の煙、芳香剤などが目を刺激すると、涙の分泌量が増えて目やにも増加します。

対策

  • 室内の湿度を50〜60%に保つ
  • こまめに掃除をして清潔な環境を維持
  • 猫の近くで喫煙や強い香りのスプレーの使用を避ける

花粉、ハウスダスト、ダニ、カビ、特定の食物などが原因で、目のかゆみや充血、目やにの増加などが起こります。透明から白っぽい水っぽい目やにが特徴です。

秋はヨモギやブタクサなどの花粉によって症状が出やすい時期です。目をこすることで二次的に細菌感染を起こすと、黄色い目やにに変わることもあります。

猫ヘルペスウイルスやカリシウイルス、クラミジアなどによる感染症は、目やにの主要な原因のひとつです。

症状の特徴

  • 黄色から黄緑色、緑色のドロッとした膿のような目やに
  • 大量に出て目が塞がってしまうことも
  • 目の充血と腫れ
  • 発熱、くしゃみ、鼻水、食欲低下

子猫や高齢猫、免疫力が低下している猫は重症化しやすいため、早期の治療が必要です。
ワクチン接種で抵抗力を高められる病気も多いので、定期的なワクチン接種も重要です。

まぶたの内側と眼球の白目部分を覆っている結膜に炎症が起こる状態です。感染性、アレルギー性、刺激性などさまざまな原因で起こります。

症状

  • まぶたの内側が赤く腫れる
  • 白目が充血する
  • 目やにが増える((透明〜黄色)
  • 涙が多く出る
  • 目をこする、しょぼしょぼさせる
  • 目を開けにくそうにする

早期に適切な治療を行えば比較的短期間で改善しますが、放置すると慢性化したり、角膜炎に進行したりする恐れがあります。

目の表面を覆っている角膜に炎症や傷ができる病気です。猫同士のケンカによる引っかき傷、異物混入、ウイルス感染などが主な原因です。

症状

  • 透明から黄色の目やに
  • 涙が大量に出る
  • まぶしそうに目を細める
  • 目を開けられない
  • 目の表面が白く濁る

重症化すると角膜に穴が開き、最悪の場合は失明する危険性もあります。緊急性の高い疾患なので、すぐに動物病院を受診しましょう。

涙が常に目から溢れ出して、目の周囲の毛が茶色く変色してしまう状態です。鼻涙管という細い管が詰まると、涙が正常に排出されず目から溢れ出てしまいます。

特に短頭種(ペルシャ、ヒマラヤン、エキゾチックショートヘアなど)は、生まれつき鼻涙管の流れが悪かったり、鼻涙管の構造が正常でなかったりすることがあります。

対策

  • 鼻涙管閉塞の原因が先天的か疾患によるものかまずは受診する
  • 目の周りの毛を短くカットする
  • 毎日こまめに涙や目やにを拭き取る

準備するもの

  • 清潔なコットンやガーゼ
  • ぬるま湯(人肌程度)または動物用アイローション

※ティッシュペーパーは繊維が粗く、目を傷つける恐れがあるため避けましょう。

拭き取りの手順

  1. コットンやガーゼにぬるま湯を含ませます
  2. 目尻から目頭へ向かって優しく拭き取ります
  3. 強くこすらず、優しく押し当てるようにします
  4. 使用したコットンは一度使ったら必ず捨てます
  5. 片目だけに症状が出ている場合は、別のコットンで使い分けます

目やにが乾燥して固まっている場合は、無理に引っ張らず、まずぬるま湯で湿らせてふやかします。数秒間優しく押し当てて、目やにが柔らかくなってから取り除きましょう。

動物病院で目薬を処方された場合の点眼方法です。

  1. 利き手に目薬を持ち、反対の手で猫の下あごを支えます
  2. 上まぶたを軽く持ち上げ、目の上から点眼します
  3. 猫の背中側から、体を包み込むような体勢で行うとスムーズです
  4. 点眼後はたくさん褒めてあげましょう

清潔な環境を保つ

  • 飼育環境のこまめな掃除(週2〜3回以上が目安)
  • 空気清浄機の使用
  • 寝具の定期的な洗濯(週1回程度が目安)
  • 湿度管理(湿度50〜60%を保つ)

アレルゲンとの接触を減らす

  • 花粉の季節は体を拭く(外出する猫の場合)
  • 香りの強い芳香剤や柔軟剤は避ける
  • 猫の近くでの喫煙は絶対に避ける
  • 飛び散りにくい猫砂を選ぶ

毎日の触れ合いの中で、以下をチェックしましょう。

  • 目やにの色、量、質感
  • 目の充血や腫れ
  • 涙の量
  • 瞬膜が出ていないか
  • 目の周囲の毛の変色(涙やけ)

早期に異常を発見することで、適切に対処することができます。


以下のような症状が見られる場合は、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。

すぐに受診が必要な症状

  • 黄色・緑色・血の混じった目やに
  • 目を開けられない・痛がる
  • 片目だけに症状が出る
  • 目が腫れている・変形している
  • 目の表面が白く濁っている

目やにに加えて、くしゃみ、鼻水、発熱、食欲不振、元気がないなどの全身症状がある場合は、猫風邪などの感染症が疑われます。特に子猫や高齢猫では早急な治療が必要です。

自宅でケアをして1〜2日経っても症状が変わらない、あるいは悪化している場合は、早めに獣医師の診察を受けましょう。

  • いつから症状が始まったか
  • 目やにの色、量、質感の変化
  • どちらの目に症状があるか(片目/両目)
  • 他に見られる症状
  • 最近の環境や食事の変化
  • ワクチン接種の状況

また、自宅での目をこする様子や目やにの状態などを動画で撮影しておくと、獣医師への説明がより正確になります。

特に、普段は見せない行動や、夜間に激しくかゆがる様子など、診察室では確認できない症状を記録しておくことで、診断の大きな手がかりになります。


顔の骨格が独特で、鼻涙管が圧迫されやすく、生まれつき鼻涙管閉塞による涙やけになりやすい傾向があります。また、目が大きく飛び出しているため、異物が入りやすく、傷つきやすいリスクもあります。

ケアのポイント

  • 毎日必ず目やにと涙を拭き取る
  • 目の周りの毛を短くカットする

長い被毛が目に入りやすく、それが刺激となって涙や目やにが増えることがあります。

ケアのポイント

  • 目の周りの毛を定期的にカットまたはトリミング
  • ブラッシングで抜け毛が目に入らないよう注意する

7歳以上のシニア猫は、涙の分泌量や質の変化、免疫力の低下、自浄作用の低下などが起こり、目やにが増えやすくなります。

ケアのポイント

  • 飼い主さんが毎日ケアしてあげる
  • 年に1〜2回の健康診断で目の状態もチェック
  • 栄養バランスの良い高齢猫用フードを与える

愛猫とのスキンシップの時間を使って、毎日、目の状態をチェックする習慣をつけましょう。
少量の目やにであれば、毎朝清潔なコットンで優しく拭き取ります。

特に換毛期(春と秋)は、こまめなブラッシングで抜け毛を取り除きましょう。

健康そうに見えても、年に1〜2回は動物病院で健康診断を受けることをおすすめします。若い猫は年1回、7歳以上のシニア猫は年2回が目安です。

猫風邪など、目やにの原因となる感染症の多くは、ワクチンで重症化を防ぐことができます。

猫はストレスに弱い動物といわれており、ストレスが免疫力を低下させ、さまざまな病気にかかりやすくなるとの報告もあります。

対策

  • 静かで落ち着くことができる場所を用意する
  • 高い場所に登ることができるようにキャットタワーを設置する
  • 隠れられる場所を複数用意する
  • 規則正しい生活リズムを保つ

多頭飼いの場合は、感染症が広がりやすいため、一匹に『目やに』や『猫風邪』などの症状が出たら、すぐに隔離して他の猫への感染を防ぐようにする必要があります。


猫の目やには、単なる汚れではなく、愛猫の健康状態を知らせてくれる大切なサインです。

この記事のまとめ

  • 正常な目やには薄い茶色〜透明で少量、異常な目やには黄色・緑色・血混じりで大量
  • 主な原因は環境要因、アレルギー、感染症、結膜炎、角膜炎、鼻涙管閉塞など
  • 自宅ケアは清潔なコットンで優しく拭き取り、環境を清潔に保つことが基本
  • 黄緑色の目やに、目を開けられない、片目だけの症状などは早急に受診が必要
  • 短頭種や長毛種、高齢猫は特に注意が必要
  • 日常的な予防として定期的なケア、健康診断、ワクチン接種が重要

早期発見・早期治療が鍵
目のトラブルは、放置すると急速に悪化したり、慢性化したり、最悪の場合は失明につながったりする可能性があります。異常なサインが見られたら、できるだけ早く受診しましょう。

日常のケアと観察が予防につながる
毎日の目やにチェックと拭き取り、清潔な環境の維持、バランスの取れた食事、ストレス管理など、日常的なケアが目のトラブルの予防につながります。

飼い主としての責任
猫は自分の不調を言葉で伝えることができません。だからこそ、飼い主さんが日々の観察を通じて、小さな変化に気づいてあげることが大切です。

愛猫の目がいつもキラキラと輝いていられるように、日々のケアと観察を大切にしていきましょう。少しでも気になることがあれば、遠慮せずにかかりつけの動物病院に相談してください。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

犬の皮膚病『膿皮症』の基礎知識と治療の基本的アプローチ【獣医師執筆】

愛犬の皮膚に赤いブツブツができて、強い痒みで掻きむしっている姿を見ると、飼い主さんは心配でたまりません。
犬の膿皮症は、細菌感染による非常に一般的な皮膚病ですが、適切な治療を行わないと再発を繰り返してしまう慢性疾患です。
しかし、正しい知識と治療法、そして日々のケアによって症状をコントロールすることは十分に可能です。

このコラムでは、犬の膿皮症の病態から最新の治療アプローチ、そして再発を防ぐための具体的な管理方法までを分かりやすく解説します。


犬の膿皮症(Pyoderma)は、皮膚に細菌が増えて炎症を起こす、非常に一般的な皮膚病のひとつです。
細菌が感染する皮膚の深さによって、皮膚表面の「表面性膿皮症」、浅い層の「表在性膿皮症」、そして奥深くの「深在性膿皮症」の3つに分類されます。

今回は、犬の膿皮症の中で最もよく見られる表在性膿皮症(Superficial Pyoderma)に焦点を当てて解説します。

表在性膿皮症は、細菌が皮膚の浅い層(表皮や毛穴の入り口)に侵入し増殖することで発症します。
主な原因菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus pseudintermediusなど)です。犬の皮膚にいる常在菌ですが、なんらかの理由で皮膚の抵抗力(バリア機能)が弱った時に増殖し症状を引き起こします。

皮膚の抵抗力が低下する原因の多くは「基礎疾患」の存在です。アレルギーやホルモンの病気などで皮膚バリア機能が弱くなったり免疫力が低下した結果、細菌が増殖し膿皮症を引き起こします。
この根本原因となる疾患を治療しない限り膿皮症は再発を繰り返してしまうため、まず全身の精密検査により基礎疾患を特定することが重要となります。

分類主な基礎疾患病態への影響
アレルギー性疾患犬アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど皮膚バリア機能の破壊、痒みによる自傷行動
内分泌疾患甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症など全身的な免疫抑制、皮膚代謝の異常によるターンオーバーの低下
寄生虫疾患ニキビダニ症(デモデクシス)など免疫抑制、皮膚の局所的な炎症の惹起

膿皮症でよくみられる症状には、以下のようなものがあります。初期の頃は、飼い主さんは犬が身体を痒がることに気づき、よく見ると皮膚にニキビのような赤い湿疹ができ、脱毛していることに気づきます。

・赤いブツブツ(丘疹
細菌感染による初期の炎症性の発疹

・膿の袋(膿疱
細菌と炎症細胞が集まったもので、細胞診の最適な採取部位

・表皮小環
膿疱が破れた後に環状に残るフケやカサブタの痕。膿皮症に特徴的

・その他
脱毛、皮膚の赤み、強い痒みなど


膿皮症を疑う場合は、前述した丘疹や表皮小環を探し、検査のためのサンプルを採取します。第一に行うのは細胞診検査ですが、治療の経過により必要な場合は細菌培養・薬剤感受性検査を行い適切な治療薬を選択します。

膿疱などからサンプルを採取し顕微鏡で観察することで、細菌感染の有無、好中球など炎症細胞の存在、マラセチアなどの真菌の同時感染などを確認します。
膿皮症を疑う場合に最初に行う検査であり、この検査で細菌が認められなければ、他の鑑別疾患を疑います。

細菌の種類を特定し、その細菌に対して各抗生剤がどれくらいの効果があるのかを判定する検査です。メチシリン耐性ブドウ球菌などの耐性菌の存在する可能性を排除し、現在感染している細菌に有効な薬剤を選択するために必要な検査です。


膿皮症の治療で最も問題となる「耐性菌」は、治療の初期段階からさまざまな抗生剤を多用することで発生率が高くなります。
そのため現在の膿皮症治療では、安易に抗生剤を選択せず、外用薬やシャンプーをメインとして治療を進めることが多くなっています。

外用療法は、薬剤耐性のリスクを最小限に抑えつつ、細菌負荷を低減できるため、表在性膿皮症治療の中心的なアプローチとして位置づけられています。

外用療法作用機序・特徴
殺菌消毒液
(クロルヘキシジングルコン酸塩2~4%含有)
細菌の細胞壁を破壊し、細胞質タンパク質を凝固させることで殺菌。消毒作用が強く、表在性膿皮症の治療に有効性が示されている。
シャンプー療法
(クロルヘキシジングルコン酸塩2~4%含有)
上記のクロルヘキシジンを含有したシャンプー剤による洗浄療法。シャンプーとして使用する場合には、成分が皮膚に十分接触する時間を確保するため、10分程度おいてから洗い流すのが有効とされている。
局所抗生物質
(軟膏・クリーム・外用液など)
局所的に細菌の増殖を抑制し、抗菌作用を発揮する。限局性の病変に適用され全身投与(内服薬)を避けることができるため、薬剤耐性のリスクを低減できる。

抗生物質の内服は、「外用療法に反応しない」、「症状の出ている範囲が広く外用薬では対応しきれない」などの場合に行われます。
とくに近年では、耐性菌の増加が問題となっているため使用は極めて慎重に行われます。
そのため抗生物質適正使用の観点から、抗生物質を内服させる際には以下の点が重視されます。

①細菌培養・感受性試験の推奨
感染している細菌に対して感受性の高い(効果の高い)抗生物質を効率的に選ぶためにも、初期段階での検査実施が推奨されています。

②第一選択薬の使用
①の検査が行われない場合には、まず、第一選択薬とされている抗生物質を使用します。これらは、犬の膿皮症に対する臨床試験で良好な効果が確認され、政府の承認によって効果が裏付けられている薬剤です。具体的には、セファレキシン、アモキシシリン-クラブラン酸、クリンダマイシン、リンコマイシンなどがあります。

③治療期間の遵守
抗生物質による治療は、症状が改善した後も潜在的な細菌を根絶するために、獣医師の指示に従い一定期間継続することが必須です。途中で薬を中断すると、菌が生き残り耐性菌を生むリスクが高まるため、正確な量と間隔を守ることが重要です。


膿皮症の治療が成功した後も、その再発を防ぐための継続的な管理が不可欠です。
この長期の管理計画は、基礎疾患のコントロールと皮膚バリア機能の持続的な維持というのが重要なポイントです。

膿皮症は二次的な疾患で発症することが多いため、細菌感染が治癒した後も、その根本原因となった基礎疾患(アレルギー疾患や内分泌疾患など)に対する治療を継続しなければ常に再発しやすい状態にあります。
したがって、アレルギーに対する免疫調整薬や食事管理、内分泌疾患に対するホルモン補充療法など、基礎疾患に対する治療を地道に継続することが、膿皮症の長期的な再発予防の土台となります。

基礎疾患の管理に加え、皮膚の細菌負荷を低く保つための予防的な局所管理が効果的です。
獣医師の指導のもと、皮膚の状態に合わせて適切な頻度で薬用シャンプーを継続するなど、発症を予防するプロアクティブな外用療法を行うことは、再発の頻度や重症度を軽減する有効な手段となり得ます。

難治性で再発性の高いケース、あるいは多剤耐性菌が確認された深刻な症例については、一般診療での対応が困難になることがあります。
このような場合には、皮膚病に詳しい獣医師の診察を受けるのも選択肢の一つです。日本国内には、日本獣医皮膚科学会の認定医試験に合格した「日本獣医皮膚科認定医」の資格を持つ獣医師が全国に約120名(2025年現在)存在しており、学会のウェブサイトで確認することができます。


膿皮症は再発しやすい慢性疾患ですが、適切な日常的ケアで症状をコントロールすることが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が快適な毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • 膿皮症は、多くの場合、基礎疾患(アレルギーや内分泌疾患など)によって二次的に発症する
  • 主な原因菌は常在菌であり、皮膚の抵抗力が下がると異常増殖する
  • 外用療法(消毒薬シャンプーなど)が最も重要な治療であり、耐性菌対策として優先される
  • 全身抗生物質の内服は、慎重に選択し、一定期間服用を継続することが大切
  • 基礎疾患の継続的な治療と、予防的な皮膚の衛生管理が再発予防の鍵となる

犬の膿皮症は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛犬の皮膚トラブルに気づいたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な外用療法の継続が、愛犬の快適な生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。

犬の皮膚病『マラセチア性皮膚炎』に対する正しい知識とケア方法【獣医師執筆】

愛犬の皮膚が赤くなり、強いかゆみと独特の臭いが続く「マラセチア性皮膚炎」。
慢性的な症状は愛犬のQOL(生活の質)を著しく低下させ、飼い主さんも心を痛めることが少なくありません。
しかし、マラセチア性皮膚炎は適切な知識と治療、そして日々のケアで症状をコントロールできる疾患です。

このコラムでは、マラセチア性皮膚炎の正しい知識から最新の治療法、そしてご自宅で愛犬を支えるための具体的なケア方法までを分かりやすく解説します。


マラセチア性皮膚炎は、酵母(カビ)の一種であるマラセチア・パチデルマティス(Malassezia pachydermatis)という皮膚常在菌が異常増殖することで起こる皮膚疾患です。

この疾患は犬の皮膚科診療で最も頻繁に遭遇する疾患の一つであり、症状を抑えるだけでなく、「なぜ菌が増えたのか」という根本原因を特定し、長期的に管理することが再発予防の鍵となります。

マラセチアは、犬の皮膚から分泌される皮脂(脂質)を必須の栄養源とする脂質依存性(リポフィルス)という性質を持ちます。

そのため、皮脂腺が豊富で湿度が高くなりやすい部位、特に皮膚と皮膚が重なる間擦部や耳の内部で活発に増殖します。

好発部位(高湿度・高皮脂エリア)誘発される症状
間擦部(脇、股、指間、顔の皺、尾の付け根)紅斑や苔癬化、悪臭が発生
皮膚表面の脂っぽいベタつき
外耳道・耳介左右対称性の外耳炎
ベタベタしたワックス状の耳垢を形成

異常増殖したマラセチアは、皮脂を分解する際に酵素(リパーゼ)や代謝産物を大量に産生します。これらの物質が皮膚細胞を刺激し、炎症を引き起こします。

また、マラセチアの細胞壁成分がアレルゲン(抗原)として認識されることで、過敏症(アレルギー)を併発することがあります。これにより、掻痒が劇的に悪化し、単なる殺菌だけではコントロールが難しくなります。


マラセチア性皮膚炎のリスクを高める基礎疾患は、主に皮膚のバリア機能の破綻や皮脂の過剰分泌を引き起こします。

特にウエストハイランド・ホワイト・テリアやシー・ズーは、犬アトピー性皮膚炎(CAD)と脂漏症の両方の好発品種であり、遺伝的素因が深く関与しています。これらの犬種を治療する際は、生涯にわたる基礎疾患の管理が必要となる場合も少なくありません。

基礎疾患の種類好発犬種(遺伝的素因)マラセチア増殖への影響
犬アトピー性皮膚炎
(CAD)
ウエストハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、ゴールデン・レトリバー、チワワなど慢性炎症による皮膚バリア機能の低下と微小環境の悪化
原発性脂漏症ウエストハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、アメリカン・コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザー皮脂の過剰分泌(マラセチアの栄養源)が強力に増大
解剖学的要因ブルドッグ(しわが多い短頭種)、垂れ耳の犬種皮膚が蒸れやすく、高湿度環境を形成する

診断は、実際の臨床症状(紅斑、脂漏、悪臭など)と皮膚の細胞診(テープによる押捺法)によって行います。

細胞診では「雪だるま型」のマラセチアが多数認められます。菌数が少ないにもかかわらず、かゆみが非常に強い場合は、マラセチアに対する過敏症(アレルギー反応)が起きている可能性があります。この場合は殺菌だけでなく、マラセチアに対する過敏症をコントロールするための複雑な管理が必要となります。


マラセチア性皮膚炎の治療では、「菌の抑制(殺菌)」、「炎症と掻痒の緩和」、「基礎疾患のコントロール」の3つが重要なポイントです。

主には、外用療法(シャンプーや塗布薬など)と経口薬による全身療法があります。

シャンプー療法は、皮膚表面のマラセチアを物理的に洗い流すことで微生物負荷を迅速に軽減し、マラセチアが産生した炎症物質や皮脂を除去するため最も不可欠な治療です。

目安は週に1~2回で、症状に合わせて行っていきます。

治療薬製品例と主な成分成分の作用機序と効果
薬用シャンプー・マラセブ
・マラセブ ライト
・マラセキュア
(ミコナゾール硝酸塩2% / クロルヘキシジングルコン酸塩2%)
ミコナゾール(抗真菌):マラセチアの細胞膜必須成分であるエルゴステロールの合成を阻害し殺菌作用を発揮する

クロルヘキシジン(殺菌):細菌やマラセチアの細胞膜に障害を与え、広範囲の抗菌・抗真菌作用をする
外用抗真菌薬・ケトコナゾールクリーム
・ミコナゾールクリーム
アゾール系クリームは、患部に直接塗布することでエルゴステロールの合成を阻害し、マラセチアを殺菌・抑制する

広範囲の病変、重度な感染、あるいは外用療法の実施が困難な場合には、経口薬が選択されるケースもあります。治療初期の症状が重度な時期に使用し、その後はなるべく外用療法のみで維持できるようにするのが目標です。

治療目的薬剤の種類作用機序と注意点
抗真菌薬・イトラコナゾール
・フルコナゾール
・ケトコナゾール
アゾール系経口抗真菌薬。全身作用で真菌を抑制する。長期投与で肝障害の副作用リスクがあるため定期的な血液検査が推奨される。
掻痒・炎症の緩和・JAK阻害薬
(アポキル錠 / オクラシチニブ)
アレルギーの掻痒と炎症を惹起するサイトカイン(特にIL-31)のシグナル伝達経路であるヤヌスキナーゼ(JAK)を選択的に阻害し、痒みサイクルを早期に断ち切る。
掻痒・炎症の緩和・グルココルチコイド
(ステロイド)
炎症性サイトカインや炎症メディエーターの産生を抑制し、免疫反応を調整することで強い抗炎症・止痒作用がある。肝障害や易感染などの副作用リスクのため、症状に応じて用量・期間を調整する。
掻痒・炎症の緩和・抗体製剤
(サイトポイント / ロキベトマブ)
IL-31を直接的に中和し、長期的な掻痒をコントロールする。

【JAK阻害薬(アポキル錠/オクラシチニブ)について】
アポキル(オクラシチニブ)は、副作用リスクがステロイドに比べて低く、マラセチア性皮膚炎での掻痒に対してもよく使用されています。投与後4時間以内に速やかに効果を発現するなど、ステロイドに匹敵する即効性が大きな特長です。長期投与を行う際は、年に数回の血液検査を実施し、副作用(白血球減少など)をチェックすることが推奨されます。

マラセチア性皮膚炎は、根本原因となる基礎疾患を治療戦略の中心に据える必要があります。

基礎疾患疾患の管理方法
犬アトピー性皮膚炎
(CAD)
アレルギー治療薬(JAK阻害薬、抗体製剤、シクロスポリンなど)による長期的な炎症管理。食物アレルギーの除外のための除去食試験の実施。
脂漏症遺伝的または代謝異常による皮脂の過剰分泌を管理するため、食事療法、サプリメント(必須脂肪酸)、角質溶解作用のあるシャンプー(硫黄、サリチル酸など)によるスキンケアの実施。
内分泌疾患
(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症など)
治療方法は疾患により異なるため、まず全身の精査(血液検査・超音波検査など)により確定診断を行う。マラセチア性皮膚炎の治療とともに疾患の治療を並行して行い、全身状態を正常化させる。

マラセチア性皮膚炎の治療は長期にわたりますが、病態を正しく理解し、定期的な通院と日々のケアを続けることで、症状をコントロールすることが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が快適な毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • マラセチアは皮脂を栄養源とする皮膚常在菌で、異常増殖すると皮膚炎を引き起こす
  • 脇、股、指間、耳などの湿った部位で増殖しやすい
  • シャンプー療法が最も重要な治療で、週1~2回が目安
  • 犬アトピー性皮膚炎や脂漏症などの基礎疾患のコントロールが再発予防の鍵
  • 定期的なスキンケアと衛生的な生活環境の管理が重要

マラセチア性皮膚炎は再発しやすい慢性疾患ですが、適切な治療と日常的なケアで症状をコントロールすることが可能です。
愛犬の皮膚トラブルに気づいたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。定期的なシャンプーや生活環境の管理など、日々のホームケアが愛犬の快適な生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。

【獣医師監修】犬猫の皮膚トラブル、アレルギーかも?と思ったら知っておきたいこと

愛犬や愛猫が頻繁に体を掻いている、皮膚が赤くなっている、毛が抜けている…そんな症状が見られたら、それはアレルギーのサインかもしれません。
特に、食事内容や生活環境を変えた後にこれらの症状が現れたときは、何らかのアレルゲンが影響している可能性があります。

このコラムでは、アレルギーの正しい知識から治療法、そしてご自宅でできる具体的なケア方法までを分かりやすく解説します。

【この記事を読んでわかること】

  • アレルギーは免疫システムが無害なものに過剰反応して起こる
  • 犬アトピー性皮膚炎が最も多く、食物アレルギーを併発することも多い
  • かゆがる様子の動画撮影が診断に有効
  • 治療にはアレルゲンの回避、薬物療法、食事療法などがある
  • 環境管理(掃除、湿度管理)と定期的な皮膚の状態チェックが重要
  • ノミ・マダニもアレルギーの原因になるため定期的な予防が必要
  • おやつや人の食べ物を与えない、疾患によっては療法食を続けることが大切

最後まで記事を読んで、犬と猫のアレルギーについて学んでみましょう。


アレルギーとは、体の免疫システムが本来は無害な物質に対して過剰に反応し、炎症を起こす状態です。

私たちの体には、ウイルスや細菌などの外敵から身を守る「免疫応答」が備わっています。免疫応答では「抗体」という武器をつくりだして異物を排除します。この戦いの過程で炎症が起こります。

アレルギーは、この免疫応答が花粉など体にとって問題のないものに対しても起こってしまい、炎症を引き起こすことをいいます。

アレルギーというと皮膚の病気を連想する方が多いと思いますが、実は皮膚症状以外にも鼻炎や下痢などさまざまな症状を引き起こすことがあります。

アレルギーの原因となるもの(アレルゲン)には、ノミ、マダニ、ダニ、花粉、食べ物などがあります。

犬のアレルギー性皮膚炎の中で最も多いものが犬アトピー性皮膚炎となっています。
犬アトピー性皮膚炎では食物アレルギーを併発していることも多いと報告されています。

アレルギーの種類主な原因
犬アトピー性皮膚炎花粉、ダニ、カビ、ハウスダスト
食物アレルギー牛肉、鶏肉、小麦、卵、乳製品
ノミ、マダニアレルギー性皮膚炎ノミやマダニの唾液
接触性アレルギーシャンプー、洗剤、植物、化学物質

アレルギーは複数の原因がかさなって起こっている場合もあるため、総合的な対策が必要です。

食物アレルギーは食べ物が原因でおこるアレルギーのことですが、実はアレルギー全体から見ると、純粋に食物が原因のアレルギーはそれほど多いわけではありません。

食物アレルギーの場合は、食べ物に含まれるタンパク質が主な原因といわれています。ただ、どのタンパク質が原因なのかは犬・猫1頭1頭それぞれで異なります。

●犬でアレルゲンとして報告されることが多い食材
犬のアレルゲンとして報告されている主な食材には、牛肉、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルトなど)、鶏肉、小麦、卵、大豆、ラム肉、トウモロコシなどがあります。

猫でアレルゲンとして報告されることが多い食材
猫のアレルゲンとして報告されている主な食材には、牛肉、魚類(特にキャットフードによく使用されるマグロ、サバ、サーモンなど)、鶏肉、乳製品、小麦、卵、ラム肉などがあります。
これらの食材は一般的なペットフードに含まれることが多いため、長期間摂取することでアレルギーを発症する可能性があります。

食物アレルギーの特徴
食物アレルギーは初めて食べたものに対して起こることがある一方で、過去に摂取したことのある食材が原因となることも多いと報告されています。
つまり、今まで問題なく食べていたものでも、ある時から突然アレルギー反応を示すようになることがあります。


激しいかゆみが最も特徴的で、頻繁に体を掻いたり、床や壁などに顔や足をこすりつけたりするしぐさが見られます。皮膚の赤みや炎症、かさぶたや脱毛も一般的です。足先を執拗に舐める行動や外耳炎も多く見られ、重症化すると皮膚が黒く厚くなることがあります。また、消化器症状として嘔吐や下痢などが見られることもあります。

皮膚が薄い部位に症状が現れやすい傾向があります。具体的には、顔(目や口の周り)、耳の内側、お腹、足の裏、わきの下、内股などです。

過剰なグルーミング(執拗に体を舐め続ける)、脱毛(特に耳の後ろ、お腹、内股)、皮膚の赤みやかさぶたなどが見られます。

猫はもともとグルーミングをよく行う動物ですが、アレルギーがあるとかゆみからひたすら特定の部位を舐め続け、その部分の毛が薄くなったり脱毛したりすることがあります。また、消化器症状として嘔吐や下痢などが見られることもあります。

1歳までに発症した、うんちの回数が多い、季節に関係なくかゆがる、口や目のまわり・背中などに炎症がある、下痢や嘔吐を伴うなどの兆候がみられる場合は、食物アレルギーが疑われます。


かゆがっている様子をスマートフォンなどで動画撮影しておくことが診断に非常に役立ちます。

夜間に激しくかゆがる様子など、診察室では確認できない症状を記録することで、診断の大きな手がかりになります。

かゆみの原因は多く存在するため、段階的に検査を進めていきます。

ステップ1:外部寄生虫の検査
ノミやマダニなどの寄生虫の予防状況を確認します。この時点で適切な予防を行っていなければ、まずは駆除薬を投与して症状の有無を観察します。

ステップ2:感染症の検査
膿皮症、マラセチアなどの感染がないか確認します。多くの場合は症状がある部位の皮膚の一部を採取し、顕微鏡で観察します。感染が見られれば抗生剤や抗真菌薬などの投与を行います。

ステップ3:アレルギーの検査
食物アレルギーを疑う場合は、アレルゲンとなる食材が含まれている可能性の低いフードのみを与える「除去食試験」という検査を行います。8週間ごとにフードの種類を変え、症状の改善が認められるかをみていきます。また、同時に、血液検査でアレルゲンに対する反応を調べる検査も行う場合があります。

ステップ4:アトピー性皮膚炎の可能性
1~3の検査や治療を行っても改善が見られない場合は、アトピー性皮膚炎の可能性が高くなります。
ステップ3のアレルゲンを調べる血液検査では、同時に環境のアレルゲン(ダニ・花粉など)についても調べることができますので、その結果も診断の大きな手掛かりになります。

診断の際には、いくつかの重要なポイントがあります。
まず季節性があるかどうか、つまりアレルゲンとなりやすい花粉の時期に悪化するかどうかを確認します。発症年齢も重要で、多くは1〜3歳で発症することが多いとされています。
また、症状の出る部位が特定の部位に集中する傾向があるかも診断の手がかりになります。

診断には時間がかかる場合がありますが、獣医師とよく相談しながら検査を進めることが重要です。


アレルギーの対処方法の基本はアレルゲンを取り除くことです。
ノミやマダニが原因であれば適切なスケジュールにて予防を行うと共に、清潔な環境を整えることが大切です。食物アレルギーであればアレルゲンを含まない食事を与えることが重要です。
アトピー性皮膚炎と診断された場合でも、フードを変更することで症状がよくなる場合も多くあります。

アレルゲンを取り除くことに加えて症状の程度によっては以下のような薬物を使用することもあります。

分子標的薬(JAK阻害薬・ヤヌスキナーゼ阻害薬

  • 比較的副作用が少なく、かゆみや炎症を抑える効果があります
  • かゆみ止めの第一選択として使われることも多い薬です
  • オクラシチニブは『犬アトピー性皮膚炎の治療ガイドライン(2015年アップデート版)』において、急性及び慢性の犬アトピー性皮膚炎に「推奨度A」で推奨されています

抗ヒスタミン剤

  • かゆみや炎症を抑える効果があります
  • 副作用が少ないですが、効果も比較的穏やかで、効き目には個体差があります

ステロイド剤

  • 強力な抗炎症作用があります
  • 長期使用には副作用のリスクがあるため慎重な管理が必要です

免疫抑制剤

  • 重度のアレルギーに使われることがあります
  • 長期使用には副作用のリスクがあるため慎重な管理が必要です

抗生物質・抗真菌薬

  • 細菌やマラセチアなどによる二次的な皮膚感染症を治療します

食物アレルギーが疑われる場合は、食事療法が取り入れられます。
基本的には原因となっている食べ物を与えないことが大切です。
具体的には、今まで食べたことのないタンパク質を選ぶことになります。
その際、できるだけ消化性の高い良質のタンパク質を、できるだけ種類を限定して与えます。多くの場合、除去食試験の際に使用して改善が見られた療法食を継続して使用します。

●新奇タンパク食(今までに食べたことのないタンパク質の食事)
最近では、ペットフード会社から以下に示すような様々な新奇タンパク質源となる肉を使用したフードが販売されています。

  • ダック(鴨・アヒル)
  • ターキー(七面鳥)
  • 鹿肉
  • バイソン
  • カンガルー
  • うさぎ
  • うずら
  • ダチョウ

これらは一般的なペットフードにはあまり使用されないタンパク質源です。
ただし、個体ごとに食歴が異なるため、獣医師が今まで食べたことのないタンパク質を選択します。

加水分解タンパク食(アミノ酸オリゴペプチド食)
タンパク質をアミノ酸や、アミノ酸が2〜数十個結合したオリゴペプチド(ペプチド)にまで細かく分解することで、免疫システムが反応しにくくなるように調整した療法食となります。


食事アレルギーに対する食事管理は、一生のおつきあいとなります。獣医師の指導のもと、継続して行いましょう。また、その他の治療方法としてアレルゲンを洗い流したり、皮膚のバリア機能を正常化したりすることを目的としてシャンプー療法も行われることがあります。


食事管理は獣医師の指導のもと継続して行いましょう。

1. おやつ、人の食べ物は与えないようにしましょう
せっかく食物アレルギーに対応した療法食でタンパク質の種類を限定しているのに、おやつや人の食べ物を与えてしまうと、与えるタンパク質の種類を限定することができなくなってしまいます。
療法食以外は何も与えないようにしましょう。

家族のなかで知らない間におやつや人の食べ物を与えてしまっている人がいないように、家族全員におやつや人の食べ物をあげてはいけないことを知らせ、守ってもらうようにしましょう。また、拾い食いにも注意しましょう。

2. 食事療法食の使用を勝手にやめないようにしましょう
基本的にアレルゲンとなってしまった食べ物は生涯ずっとアレルゲンであり続けるため、療法食は生涯ずっと続けていく必要があります。
また、皮膚が新しく生まれ変わるには3~4週間ほどの時間が必要なこと並びに治療を始めてから変化が見られるまで少なくとも犬で5週間、猫で6週間かかり、90%以上の犬猫で症状が改善するには8週間かかるとの報告もあります。

よって、改善しないからといって使用をやめるのではなく、まずは獣医師が選んだ療法食を続けて様子を観察しましょう。


●清潔な環境を保つ
特にアトピー性皮膚炎の場合は環境アレルゲンを減らすために、家の中を清潔に保つことを心がけましょう。
こまめな掃除(週2〜3回以上が目安)、空気清浄機の使用、寝具の定期的な洗濯(週1回程度が目安)、湿度管理(湿度50〜60%を保つことが推奨されます)などが効果的です。

ダニやカビの発生を防ぐためにはこまめな掃除や湿度管理が効果的です。これにより、症状が悪化するのを防ぐことが期待できます。

●アレルゲンとの接触を減らす
アトピー性皮膚炎にすでに罹患してもいなくても、可能な限りアレルゲンとなる物質との接触は控えることが大切です。
花粉の季節は散歩後に足や体を拭くこと、香りの強い芳香剤や柔軟剤は避けることなども有効です。

毎日の触れ合いの中で、皮膚の赤みや腫れ、脱毛の有無、かさぶたや傷、耳の汚れや赤みなどをチェックしましょう。早期に異常を発見することで、適切に対処することができます。

皮膚と被毛の健康は、食事から摂る栄養にも大きく左右されます。良質なタンパク質を含むバランスの取れた食事を与えることで、皮膚トラブルを予防できる可能性があります。

適切なスケジュールにてノミ・マダニの予防を行っていない場合、脱毛の原因として、まずは外部寄生虫によるものかどうかの確認が大切です。

ノミアレルギー性皮膚炎は、たった1匹のノミに刺されただけでも激しいかゆみと脱毛を引き起こすといわれており、ノミ・マダニ駆除薬を使用することで症状が改善することがあります。

定期的なノミ・マダニに対する予防は、これらの寄生虫による皮膚トラブルを未然に防ぐために非常に重要です。

もし、皮膚に何かしらの皮膚炎症状を発見したら、患部を清潔に保ち、エリザベスカラーなどを利用して掻きむしりを防ぐこと、ストレスを軽減することが大切です。シャンプーや患部の洗浄は、かえって皮膚に刺激を与えることがあるため、無理に洗浄せず、そのまま動物病院を受診するのが最善です。

脱毛やかゆみが続く、膿や血が出ている、脱毛が広がっている、皮膚から悪臭がする、食欲がない、元気がないといった症状が見られたら、早めに獣医師に相談してください。軽度の皮膚トラブルでも、放置すると悪化し、治療が長引くことがあります。

診察の際には、自宅での様子、症状が出始めた時期、最近の環境や食事の変化、他に見られる症状、過去の病歴などの情報を獣医師に伝えると診断がスムーズになります。

また、自宅でのかゆがる様子や掻く頻度、グルーミングの状態などを動画で撮影しておくと、獣医師への説明がより正確になります。

特に、普段は見せない行動や、夜間に激しくかゆがる様子など、診察室では確認できない症状を記録しておくことで、診断の大きな手がかりになります。

これらの情報を基に、獣医師が正確な診断を行い、適切な治療を開始できるでしょう。

●人用の薬を勝手に使わない
人間用の薬は、犬や猫には有害なものがあります。例えば、猫はアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)に対して中毒を起こすことが知られており、命に関わることもあります。お薬投与の際には必ず獣医師の診察を受けてください。

症状が改善しても勝手に治療をやめない
アレルギーは慢性疾患であり、症状が治まっても根本的な体質は変わりません。治療を中断すると再発する可能性が高いため、獣医師の指示に従って継続することが大切です。

過度な洗浄やシャンプー
かゆがっているからといって、頻繁にシャンプーをすると、かえって皮膚のバリア機能を低下させることがあります。獣医師から指示された通りの頻度と方法で行いましょう。


アレルギーの治療は長期にわたりますが、病態を正しく理解し、定期的な通院と日々のケアを続けることで、症状の頻度を抑えてあげることが可能です。

この記事のまとめ

  • アレルギーは免疫システムが無害なものに過剰反応して起こる
  • 犬アトピー性皮膚炎が最も多く、食物アレルギーを併発することも多い
  • かゆがる様子の動画撮影が診断に有効
  • 治療にはアレルゲンの回避、薬物療法、食事療法などがある
  • 環境管理(掃除、湿度管理)と定期的な皮膚の状態チェックが重要
  • ノミ・マダニもアレルギーの原因になるため定期的な予防が必要
  • おやつや人の食べ物を与えない、疾患によっては療法食を続けることが大切

犬と猫のアレルギーは適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

アレルギー性皮膚炎は、犬や猫にとってつらい症状を引き起こしますが、適切なケアや治療で症状を和らげることができます。早期の発見と治療が大切であり、日常生活での予防やケアも欠かせません。

愛犬や愛猫の皮膚や被毛に気になることがあれば、早めに動物病院を受診することをおすすめします。まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な投薬管理が、愛犬・愛猫の穏やかな生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

犬のてんかん~正しい知識とケアで支える、慢性疾患との向き合い方~【獣医師執筆】

愛犬が突然倒れ、手足をバタつかせる「てんかん発作」。
何の予兆もなく起こる場合が多いため、飼い主さんは発作を起こしている愛犬の姿に驚き、大きなショックを受けることも少なくありません。
しかし、てんかんは適切な知識と治療があればコントロールできるケースも多い慢性疾患です。

このコラムでは、てんかんの正しい知識から最新の治療薬、そしてご自宅で愛犬を支えるための具体的なケア方法までを分かりやすく解説します。


てんかん(Epilepsy)とは、「24時間以上あけて、少なくとも2回以上の原因不明の発作が生じる病態」と定義されています。

つまり、一度きりの発作ではてんかんとは診断されません。発作は、脳の神経細胞が一時的に異常な電気信号を放出し、過剰に興奮することによって引き起こされます。

ここで大切なのは、「てんかん発作」と「反応性発作」を区別することです。

・反応性発作(非てんかん)
低血糖や肝臓の病気、中毒など、脳以外の全身的な病気が原因で起こる一時的な発作です。原因となっている病気を治療することで発作が起きなくなります。

・てんかん
全身性の病気が除外され、脳自体に原因がある、あるいは原因不明の発作ことをいいます。

てんかんはその原因によって、遺伝的な体質の可能性か、脳の疾患かの二つに分類されます。

分類説明犬での割合(目安)主な原因
特発性てんかん(IT)脳に明らかな異常や病変が見つからないタイプ。多くは遺伝的な体質が関わると考えられている。約69%(約7割)遺伝的素因、神経細胞の機能的なバランスの崩れ
構造性てんかん(ST)脳腫瘍、脳炎、外傷、脳血管障害など、脳に器質的な病変(異常な構造)があるタイプ。約31%(約3割)脳炎、脳腫瘍、脳の奇形、外傷など

【年齢と原因の目安】
てんかんの初発年齢は、原因を探るための重要な手がかりです。

  • 若齢(5歳未満)で初発:特発性てんかん(IT)の可能性が高い。
  • 高齢(5歳以降)で初発:脳腫瘍や脳炎など、構造性てんかん(ST)の可能性が非常に高くなる。

てんかんの診断は、実際の発作が起きている場面を獣医師が直接見る機会は少ないため、飼い主さんからの情報と精密検査によって進められます。

まず、発作の頻度、持続時間、発作時の様子などを詳しく獣医師に伝えます。
最も重要なのは、発作時の様子をスマートフォンなどで動画撮影しておくことです。
真のてんかん発作であるか、どのような発作型であるかを正確に判断する大きな手掛かりとなります。

また、発作が起きていない間欠期に神経学的検査を行います。
もしこの検査で異常があれば、脳に病変がある構造性てんかん(ST)の可能性が高まります。特発性てんかん(IT)の場合、間欠期は正常で異常所見が認められません。

てんかんと診断する前に、低血糖や肝臓病などの全身性の病気(反応性発作の原因)を除外する必要があります。このため、血液検査や尿検査などの基本的なスクリーニング検査が必須となります。

全身性の病気が除外されたら、特発性か構造性かを鑑別します。

・MRI検査:脳の腫瘍、炎症、出血などの器質的病変がないかを確認するために行われます。このMRIで異常が見つからなければ、臨床的に「特発性てんかん」と診断されます。

・脳波検査(EEG):動物への負担が少なく、抗てんかん薬で脳の異常興奮がしっかり抑えられているかなどを判断します。治療効果を客観的に評価する上で有用です。


抗てんかん薬(AEDs)による治療は、発作を抑えることだけでなく、『発作が繰り返されることで脳に生じる不可逆的なダメージを防ぐこと』が最大の目的です。

発作が軽度で間隔が2ヶ月以上あいている場合は治療を見送ることもありますが、以下のいずれかの条件を満たす場合は、速やかに治療を開始する必要があります。

  1. 発作間隔が2ヶ月を切る場合(頻繁な発作)
  2. 群発発作(24時間以内に複数回発作)を繰り返す場合
  3. 重積発作(5分以上発作が続く、または発作の間に意識が戻らない状態)を繰り返す場合

てんかん治療の理想的な目標は「発作の完全抑制」ですが、現実的には、発作の頻度、重症度、持続時間を減らし、副作用を最小限に抑えることで愛犬のQOL(生活の質)を維持することを目指します。


てんかん治療の基本は、発作を抑えるための抗てんかん薬(AEDs)による内科療法です。
抗てんかん薬の役割は、脳の異常な興奮を落ち着かせ、発作の頻度や重症度を下げ、発作が繰り返されることによる脳のダメージを防ぐという重要な目的があります。

現在、犬のてんかん治療で主に使用される薬剤には、主に以下の種類があります。

薬剤名選択の目安主な作用(興奮を抑える仕組み)
ゾニサミド (ZNS)第一選択薬
併用薬
神経細胞の異常興奮を抑える(Na+チャネル抑制など)。
フェノバルビタール (PB)昔からある第一選択薬抑制性の神経伝達物質(GABA)の働きを強める。高用量では肝障害のリスクがある。
イメピトイン(IMP)獣医療で最も新しいAEDs
(2025年現在)
抑制性の神経伝達物質(GABA)の働きを強める。神経細胞の異常興奮を抑える働きもある。近年日本でも発売され、副作用が比較的少ない薬として注目されている。
臭化カリウム (KBr)第二選択薬
併用薬
神経細胞の膜を安定化させる。
効果の発現・安定に時間がかかる。
レベチラセタム (LEV)救急薬
併用薬
興奮物質の放出を抑える(SV2A結合)。
1日3回の投薬が必要。

どの薬を選ぶかは、愛犬の状況によって異なります。薬の選択は薬効だけでなく、副作用の特性、投与のしやすさ、愛犬の健康状態を総合的に判断して行われます。

・愛犬の健康状態:特に肝臓や腎臓に基礎疾患がある場合、薬ごとにその代謝や排泄経路が異なるため、特定の薬剤(例:肝臓に負担がかかりやすいフェノバルビタール)は避けて、より負担の少ない薬剤を選択することがあります。

・副作用を考慮:薬によって、沈静、多飲多尿、食欲不振など、現れやすい副作用が異なります。愛犬の性格や生活環境を考慮し、なるべく負担なくQOL(生活の質)を維持できる薬を選びます。

・投与の頻度:薬の種類により、1日1~3回程度の投薬が必要になります。お仕事の都合で、日中の投薬が難しいなどのケースも少なくありません。飼い主さんが確実に、決まった時間に投薬できるかどうかも重要な判断基準です。

ゾニサミドは、現在、犬の特発性てんかんの治療において、フェノバルビタールと並ぶ主要な第一選択肢の一つとして推奨されています。

ゾニサミドの有用性

・広域スペクトラム
幅広いタイプの発作に有効です。

・肝臓への配慮
従来の標準薬であるフェノバルビタールと比較して、肝臓の酵素を誘導する作用が少なく、肝臓への負担が少ないことが大きなメリットです。既存の肝機能に不安がある犬や、フェノバルビタールによる重度の副作用が懸念される場合に特に優先されます。

・投与のしやすさ
比較的作用時間が長く、1日2回の投与で安定した血中濃度を保てるため、飼い主さんにとっても負担が少なく、投薬コンプライアンス(規則正しい投薬)を維持しやすいです。

・注意点
一般的な副作用は軽度な沈静や食欲不振などですが、長期投与では稀に腎結石のリスクが指摘されています。定期的な血液・尿検査によるモニタリングは他の薬と同様に必要となります。

抗てんかん薬の治療では、定期的な「薬の血中濃度のモニタリング」が非常に重要です。
薬の効き目には個体差があるため、この検査によって「効きすぎ(副作用が頻発)でもなく、効かなすぎ(発作が再発)もしない」最適な投薬量を見つけ出し、長期的に調整していく必要があります。


てんかんは動物病院での治療だけでなく、ご自宅での日々のケアが発作コントロールの重要なカギとなります。

ご自宅でのケアで重要なのは、発作日誌の記録をつけることです。
日誌は、獣医師が薬の用量調整を行うための大切な客観的データとなります。

記録すべき内容

  • 発作が発生した日時と時間帯
  • 発作の持続時間
  • 発作型(全身の痙攣、顔面だけの引きつりなど)
  • 発作前後の愛犬の行動(いつもと違う行動、沈静など)
  • いつもと違う重篤な発作が起きた場合の詳細

発作は突然起こりますが、飼い主さんは決してパニックにならず、冷静に対応することが最も重要です。発作中に慌てて抱きかかえたりすると、かえって危険な場合もあるため注意が必要です。

発作時には、以下のような対処がおすすめです。

ポイント具体的な対処方法
安全の確保発作中の犬が怪我をしないよう、周囲の危険物から遠ざけます。口の中に手を入れるのは噛まれる危険があるため厳禁です。
動画撮影可能であれば、発作の様子を動画で記録します。
注意深く見守る体を揺さぶったりせず、発作が終わるのを待ちます。呼吸が止まったり、チアノーゼを起こしていないかなどもチェックしましょう。

以下の状態では、脳に大きなダメージを与えるリスクが高いため、速やかに動物病院に連絡して指示を受けましょう。

  • 発作が5分以上継続している場合(重積発作)
  • 24時間以内に複数回、発作を繰り返している場合(群発発作)
  • 発作中あるいは発作後に呼吸が確認できない場合

てんかんの治療は長期にわたりますが、病態を正しく理解し、定期的な通院と日々のケアを続けることで、発作の頻度を抑えてあげることが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が穏やかな毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • てんかんは24時間以上あけて2回以上の原因不明の発作が生じる病態
  • 特発性てんかん(約7割)と構造性てんかん(約3割)に分類される
  • 発作時の動画撮影が診断に非常に有効
  • 治療は抗てんかん薬(AEDs)による内科療法が基本
  • ゾニサミドは肝臓への負担が少ない第一選択薬の一つ
  • 自宅での発作日誌の記録が治療効果の判断に重要
  • 発作が5分以上続く、または24時間以内に複数回起こる場合は緊急受診が必要

犬のてんかんは適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛犬の発作に不安を感じたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な投薬管理が、愛犬の穏やかな生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。

【獣医師監修】犬猫の歯肉炎の治療薬は?インターベリーαの効果や使い方を解説

犬や猫の歯肉炎の症状を和らげるインターベリーαという医薬品があります。
この記事では、犬猫の歯肉炎について、主な原因や症状、インターベリーαの効果や使い方、自宅でできる口腔ケアなどを幅広く解説しています。

【この記事を読んでわかること】

  • 2歳以上の犬猫の約8割が歯周病に罹患している
  • インターベリーαは歯肉炎の症状を和らげる医薬品
  • 歯周病の悪化と慢性腎臓病の発症には強い相関関係がある
  • 自宅での口腔ケアは歯磨きが基本

最後まで記事を読んで、犬猫の歯肉炎とインターベリーαについて学んでみましょう

インターベリーαの購入を検討中の方は、ぜひ動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にご相談ください。


歯肉炎とは、口腔内に溜まった歯垢や歯石によって細菌が繁殖し歯茎に炎症が起こった状態のことをいいます。

歯周病は歯肉炎が悪化してしまった結果、歯の周囲の歯肉や骨などの組織が炎症を起こし破壊される疾患のことを示し、歯肉炎は歯周病の初期症状の一つです。

歯肉炎とは

2歳以上の犬や猫の約8割が歯周病に罹患しているといわれており、非常に多くのペットが歯周病のリスクにさらされています。

リスクの高い個体では1歳未満から歯周病が始まっていることもあるため、早期からの予防が重要です。

歯周病になると、以下のような症状が見られます。

  • 口臭
  • 食欲不振・体重減少
  • 眼の下の腫れ
  • 歯茎の赤み・腫れ
  • 口からの出血

歯周病の細菌が体内に侵入すると、さまざまな病気を引き起こすリスクが高まります。

特に猫では、歯周病の悪化と慢性腎臓病の発症との間に強い相関関係があることが指摘されております。
健康な歯を持つ猫と比較し中等度の歯周病の猫では約14倍、重度歯周病の猫では約35倍も慢性腎臓病を発症するリスクが高まると報告されています。

また、犬においても心臓の弁に菌が付着することで僧帽弁閉鎖不全症や感染性心内膜炎などの心疾患のリスクが高まるとの報告があります。


項目内容
有効成分改変イヌインターフェロン アルファ-4発現イチゴ果実凍結乾燥粉末
適応症犬および猫の歯肉炎の症状軽減
対象動物6ヶ月齢以上の犬および猫
内容量2.75g(10回分)

インターベリーαは、犬と猫の歯周病の初期症状の一つである歯肉炎の症状を和らげるための医薬品です。

2023年2月10日付けで猫の歯肉炎に対する適応症が承認され、犬だけでなく猫にも使用できるようになりました。

インターフェロンαは口腔内の免疫を活性化させる効果を持っています。
口の中の免疫バランスを改善し、歯周病の原因となる細菌数を減少させます。
それにより、歯肉炎の症状を軽減する効果が期待できます。

  • イチゴ風味で使いやすい
  • 動物用医薬品として国から承認を得ており、ペット保険の適用になる場合もある
  • スケーリングや歯みがき等、適切なオーラルケアを並行しながら定期的に使用することで歯周病の進行を抑制することが期待できる

『用法・用量

インターベリーαの使い方は以下のとおりです。

  1. 獣医師が本剤1包装分(2.75g:10回分)を1回分ずつに分包する
  2. 飼い主は指先を水道水で濡らして本剤の1回分を1日1回、犬または猫の歯肉に塗り込み投与する
  3. 投与は3~4日に一回の間隔で合計10回行う

大体週2回、合計5週間使うイメージです。

『使用時の注意点

インターベリーは歯肉に塗る薬です。飲ませても効果はありません
・指先に水を少しつけて、その水でインターベリーの粉を溶かしながら歯肉に塗る
・力加減に注意し、できるだけ優しく行う


歯周病を予防するためには、日頃の口腔ケアが重要です。

最も良いとされる方法はペット用のデンタルブラシで歯磨きをしてあげることです。
できれば毎日、お家でのデンタルケアを実践しましょう。

嫌がる犬や猫も少なくないので、少しずつ時間をかけて習慣づけてあげることが大切です。

まずはお口周りを触ってみて嫌がらなければ、前歯から始めて奥歯までタッチできるか挑戦します。

問題なく歯に触れるようになれば、愛犬や愛猫が好きな風味のデンタルジェルなどを指先につけてゆっくりと歯を磨いてあげるようにしましょう。

デンタルジェルでの歯磨きが上手にできるようになったら、いよいよ歯ブラシを使用して磨いてあげてみてください。

歯ブラシでの歯磨きが難しい場合は、以下のような方法もあります。

・使い捨てタイプの歯磨きシート
・おもちゃタイプ:楽しく遊びながらケア
・おやつタイプ:自然と噛むだけでケア
・デンタルジェル

・歯周病の兆候がある場合、歯茎がもろくなっていて出血や痛みを感じやすいことがあります
・犬や猫が不快感を覚えると、後々の歯のケアが難しくなる可能性があります


ここまで、犬猫の歯肉炎について、主な原因や症状、インターベリーαの効果や使い方、自宅でできる口腔ケアなどを幅広く解説してきました。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • 2歳以上の犬猫の約8割が歯周病に罹患している
  • インターベリーαは歯肉炎の症状を和らげる医薬品
  • 歯周病の悪化と慢性腎臓病や心疾患の発症には強い相関関係がある
  • 自宅での口腔ケアは歯磨きが基本

犬猫の歯周病は多くのペットが抱える問題であり、早期からの予防と適切な治療が重要です。

インターベリーαは歯肉炎の症状を和らげる効果が期待できますが、日頃の口腔ケアも並行して行うことが大切です。歯肉炎の症状が見られたら、まずはお近くの動物病院を受診し、獣医師の指示を理解した上で適切にお薬を使用しましょう。

なお、インターベリーαの購入を検討中の方は、ぜひ動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にご相談ください。

ねこあざらし薬店では、決済完了から最短翌日にお薬をお受け取りいただけます。
また、お薬に関するお悩みは、24時間いつでもLINEから薬剤師へご相談いただけます。
ねこあざらし薬店で販売しているインターベリーαは、以下からご覧ください。