【獣医師監修】シンパリカ・シンパリカ トリオの違いを徹底比較!愛犬に最適な駆虫薬の選び方

愛犬のノミ・マダニ対策やフィラリア症予防で動物病院を受診した際、よく提案されるのが「シンパリカ」シリーズです。

現在、「シンパリカ」と「シンパリカ トリオ」の2種類がラインナップされていますが、「名前が似ていて何が違うのかわからない」「うちの子にはどれを選べばいいの?」と悩まれる飼い主様も少なくありません。

この記事では、2つの製品の違いを、詳しく解説します。


まずは2製品の最大の違いである「医薬品区分」「配合成分」と「効果効能(防げる虫)」の対応範囲を比較してみましょう。

項目 シンパリカ シンパリカ トリオ
医薬品区分 一般動物用医薬品 要指示医薬品 / 指定医薬品 / 劇薬
配合成分数 1成分
(サロラネル)
3成分
(サロラネル+モキシデクチン+ピランテルパモ酸塩)
ノミ・マダニ駆除
(ノミ3時間・マダニ8時間で発現)

(ノミ4時間・マダニ8時間で発現)
フィラリア予防 ×
東洋眼虫 予防 ×
消化管寄生虫 ×
(犬回虫、犬小回虫、犬鉤虫)
ミミヒゼンダニ ×
センコウヒゼンダニ・ニキビダニ
対象条件 8週齢以上、体重1.3kg以上 8週齢以上、体重1.5kg以上
最大適応体重 〜40.1kg未満
(組み合わせで60.1kg可)
〜60.1kg未満
味・フレーバー ミートフレーバー
(牛由来成分不使用/ポークレバー等)
ミートフレーバー
(牛由来成分不使用/ポークレバー等)
食餌の影響 なし
(絶食時でも投薬可能)
なし
(絶食時でも投薬可能)

・「フィラリア予防は通年別で行っており、ノミ・マダニ対策や皮膚のダニトラブルを予防・改善したい」
👉 シンパリカがおすすめ

・「毎月1回のおやつタイプで、フィラリア予防・ノミマダニ・お腹の虫・東洋眼虫・皮膚のダニまでまとめて対策したい」
👉 シンパリカ トリオがおすすめ


・医薬品区分: 一般動物用医薬品
・有効成分: サロラネル(5mg / 10mg / 20mg / 40mg / 80mg)
・効能・効果:
1. 犬:ノミ及びマダニの駆除
2. ミミヒゼンダニ及びイヌセンコウヒゼンダニの駆除
3. イヌニキビダニの駆除による全身性毛包虫症の改善

成分の作用と特徴
イソオキサゾリン系成分『サロラネル』が、無脊椎動物の神経受容体を選択的に遮断して速やかに駆除します。

・速効性
投与後わずか3時間でノミ、8時間でマダニへの効果が発現。効果は35日間持続するため、1ヶ月の投与サイクルを余裕をもってカバーします。

・耳のトラブルに対応できる唯一の選択肢
激しい耳の痒みを引き起こす「ミミヒゼンダニ」の駆除効果は単剤のシンパリカのみに承認されています。
「イヌセンコウヒゼンダニ」「イヌニキビダニ(アカラス)」の駆除・改善効果も備えており、皮膚科診療の強い味方です。

・医薬品区分: 要指示医薬品、指定医薬品、劇薬
・有効成分: サロラネル + モキシデクチン + ピランテルパモ酸塩
・効能・効果:
1. 犬糸状虫症の予防(フィラリア症予防)及び東洋眼虫の寄生予防
2. ノミ及びマダニの駆除
3. イヌセンコウヒゼンダニの駆除、イヌニキビダニの駆除による全身性毛包虫症の改善
4. 消化管内寄生虫の駆除(犬回虫、犬小回虫、犬鉤虫)

成分の作用と特徴
サロラネルによる速やかなノミ・マダニ・皮膚ダニ駆除に加え、モキシデクチンがフィラリア(犬糸状虫)やメマトイが媒介する「東洋眼虫」の寄生を予防。さらにピランテルパモ酸塩との相乗効果でお腹の虫(回虫・鉤虫)を速やかに駆除します。

・オールインワンの進化形
1錠でフィラリア予防・消化管寄生虫・皮膚ダニ(センコウヒゼンダニ・ニキビダニ)まで幅広くカバーできるため、投薬の手間や飲み忘れを防止できます。


愛犬の体重に合わせた適切なサイズを選択します。
シンパリカ トリオは超大型犬(〜60.1kg未満)に対応する「XXLサイズ」がラインナップされているのが特徴です。

・超小型犬用(5mg錠):1.3kg以上 〜 2.6kg未満
・小型犬用(10mg錠):2.6kg以上 〜 5.1kg未満
・中型犬用(20mg錠):5.1kg以上 〜 10.1kg未満
・大型犬用(40mg錠):10.1kg以上 〜 20.1kg未満
・超大型犬用(80mg錠):20.1kg以上 〜 40.1kg未満
(※40.1kg〜60.1kg未満は40mg錠と80mg錠を各1錠組み合わせ投与)

・XS:1.5kg以上 〜 2.6kg未満
・S:2.6kg以上 〜 5.1kg未満
・M:5.1kg以上 〜 10.1kg未満
・L:10.1kg以上 〜 20.1kg未満
・XL:20.1kg以上 〜 40.1kg未満
・XXL:40.1kg以上 〜 60.1kg未満


両製品とも嗜好性の高い小粒なチュアブル錠ですが、ポークレバーやコーンスターチ、小麦胚芽などを主原料としており、牛肉由来成分を含みません。牛肉アレルギーのある愛犬でも安心して投与いただけます。

他の駆虫薬の中には、食事の脂質と一緒に摂らないと吸収率が落ちるものもありますが、シンパリカの有効成分『サロラネル』は絶食時でも86.5%という高い生物学的利用率(吸収率)を示します。
そのため、食前・食後・空腹時を問わず、飼い主様の好きなタイミングでいつでも投薬できるのが大きなメリットです。


・投与頻度・タイミング
月に1回、経口投与します。フィラリアおよび東洋眼虫の予防を兼ねるシンパリカ トリオは、蚊やメマトイの活動開始後1ヵ月以内から活動終了後1ヵ月以内まで毎月1回投薬します。

・吐き出してしまった場合
万が一、投薬直後や短時間で丸ごと吐き出してしまった場合は、成分が十分吸収されていない可能性があるため、再投与について獣医師にご相談のうえ適切に対応してください。

・処方・受診について
「シンパリカ トリオ」は要指示医薬品のため、入手には獣医師の処方または指示書が必要となります。
また、投与前には必ず動物病院でフィラリア非感染を確認する血液検査が必須です。
「シンパリカ」は一般の動物用医薬品ですが、皮膚症状や健康状態に応じた最適な使用のために獣医師へのご相談をおすすめします。


シンパリカシリーズは、愛犬の予防目的や症状に合わせてベストな製品を選択できます。

  • ミミヒゼンダニ(耳の痒み)の治療・予防、またはフィラリア予防を別で行う場合
    👉 シンパリカ
  • 1錠でフィラリア・東洋眼虫・ノミマダニ・お腹の虫・皮膚ダニ(ニキビダニ等)まで最広域に予防したい場合
    👉 シンパリカ トリオ

なお、「愛犬にどの製品が適しているか」につきましては、症状や環境によります。
まずは一度、かかりつけの動物病院へご相談ください。

また、動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

猫の肥満細胞腫~犬との違い・皮膚型と内臓型・見逃せないサインと治療薬~【獣医師執筆】

肥満細胞とは、細胞内にヒスタミンなどを含む顆粒を多く蓄えた免疫細胞のことで、体が「太っているかどうか」とは関係がありません。

この肥満細胞が腫瘍化したものが「肥満細胞腫(Mast Cell Tumor:MCT)」であり、猫では皮膚腫瘍の中でも発生率の高い腫瘍のひとつとして知られています。
犬の肥満細胞腫は皮膚・皮下に発生するケースがほとんどですが、猫の場合は皮膚だけでなく、脾臓などの内臓や消化管にも比較的高い頻度で発生する点が大きな特徴です。

今回は、猫の肥満細胞腫について、参考として犬の肥満細胞腫との違いも織り交ぜながら、基礎知識から診断・治療薬までわかりやすく解説します。


猫の肥満細胞腫は発生部位と細胞の形態によって分類されます。
以下の表で全体像を把握しておくと、診断や治療方針の理解がスムーズになります。

大分類 中分類 特徴 頻度の目安
皮膚型 高分化型 多くは緩徐な経過をたどる。猫の肥満細胞腫の大部分を占める。 約60%
皮膚型 未分化型 転移リスクがやや高め。核異型が強く、増殖が速いタイプ。 約25〜28%
皮膚型 異形型(非定型) シャム猫の若齢個体に多く、自然退縮することもある。 約10〜20%
内臓型 脾臓型 内臓型の中で最多。脾臓のみの発生であれば、摘出後に長期生存が得られることもある。 数%程度
内臓型 消化管型 内臓型の中では少数。悪性度が高く、予後不良のことが多い。 数%程度

※頻度はSabattiniら(2010)・Henry & Herreraら(2013)・Litster & Sorenmoら(2006)のレビューをもとにした目安です。

肥満細胞腫は、猫の皮膚にできる腫瘍(できもの)の中で、基底細胞腫に次いで2番目に多く見られる病気です。
皮膚にできる腫瘍のおよそ5個に1個がこの肥満細胞腫と言われるほど身近な病気で、日常のチェックで気づかれることも決して珍しくありません。

肥満細胞は犬と同様、皮膚・粘膜・消化管など全身の結合組織に広く分布し、アレルギー反応や炎症反応、寄生虫への防御などに関わる免疫細胞です。
細胞内の顆粒にはヒスタミン・ヘパリン・プロテアーゼなどが含まれ、刺激を受けると顆粒の内容物を放出(脱顆粒)して炎症反応を引き起こします。

猫の肥満細胞腫でも、細胞増殖のシグナルを伝える受容体型チロシンキナーゼ「KIT」の異常が一部の症例で関与しているとされますが、犬に比べてc-kit遺伝子変異が検出される頻度は低いことが報告されています。
そのため、分子標的薬の効果を予測するうえでの遺伝子変異検査は、犬ほど確立されていないのが現状です。

犬では皮膚・皮下への発生がほとんどですが、猫では大きく「皮膚型」と「内臓型」に分けられます。
皮膚型がもっとも多く全体の大部分を占め、内臓型はそれに比べると頻度は低いものの、より重篤な経過をたどりやすいとされています。

内臓型はさらに「脾臓型」と「消化管型」に分かれます。皮膚型は頭頸部(耳介など)、体幹部に好発し、単発の数mmの小さな皮膚病変として見つかることが多いです。

犬の肥満細胞腫では、はっきりと盛り上がった「しこり」として見つかることが多いのに対し、猫の皮膚型は直径数mm程度の小さなピンク〜赤色の丘疹(きゅうしん)や結節として見つかることが多く、必ずしも明瞭に隆起しているとは限りません

表面がやや脱毛していたり、かさぶた状になっていたり、平坦に近い皮膚の変化として気づかれることもあり、初期には虫刺されや軽い皮膚炎と見分けがつきにくいこともあります。
頭部・耳介に多くみられますが、体幹や四肢にできることもあります。

発生年齢の中央値は9歳前後と報告されていますが、実際には若齢でもよく見られ、4歳以下での発生も全体の約20%に上るとするデータもあります。筆者自身も、3歳以下での発生を何例も経験しています。「まだ若いから大丈夫」と思わず、日ごろから皮膚の変化をチェックすることが大切です。

また、猫では皮膚に複数の病変が同時に見つかること(多発例)も珍しくありません。
1個見つかったときに、確認のために全身の毛刈りをしてみると、筆者の場合は最大で17個見つかったこともあります。

しかし、犬とは異なり、猫では多発していること自体が必ずしも予後の悪化に直結しないとされている点も大きなポイントです。

【犬との違いのポイント:ダリエ徴候】

犬の肥満細胞腫ほど典型的ではありませんが、猫でも刺激によって肥満細胞が脱顆粒し、病変の周囲が一時的に赤くなったり腫れたりする反応(ダリエ徴候)がみられることがあります。猫では症状が目立ちにくいこともありますが、病変を繰り返し触ったり揉んだりすることは避け、変化に気づいたら早めに動物病院を受診しましょう。


第1章の分類早見表でふれたとおり、「皮膚型」は細胞の形態によってさらに詳しく分類されます。
犬では予後予測に広く用いられる統一的なグレーディングシステムが確立されていますが、猫ではまだ確立されていません。これは犬との大きな違いのひとつで、代わりに以下のような組織学的分類が参考にされます。

分類 概要 頻度の目安
肥満細胞型
(高分化型)
細胞の分化度が高く、核異型が少ないタイプ。肥満細胞型の大部分を占め、多くは緩徐な経過をたどる。 全体の約60%
肥満細胞型
(未分化型)
核異型が強く、増殖が速いタイプ。転移リスクが比較的高いとされる。 全体の約25〜28%
異形型
(非定型)
若齢〜シャム猫に好発する特殊型。自然退縮する例が報告されている。 全体の約10〜20%

※上記の頻度は、Sabattiniら(2010、症例数25例)やHenry & Herreraら(2013)のレビューをもとにした目安です。報告数が限られているため、施設や地域によって数値には幅があります。

内臓型(脾臓型)では腹部超音波検査による脾臓の腫大や構造の評価、消化管型では消化管壁の肥厚・潰瘍の有無の確認が重要です。

皮膚型であっても、一定数は脾臓などへの転移が疑われるケースがあるため、皮膚の病変のみと思われる場合でも超音波検査による内蔵の確認が推奨されます


≪青丸:肥満細胞腫≫

猫の肥満細胞腫は発生部位によって現れる症状が大きく異なります。以下のような点をチェックしてみましょう。

症状・所見 背景となるメカニズム
皮膚の丘疹・結節 肥満細胞の増殖により病変を形成。数mmのピンク色で。小さな湿疹と間違われることも少なくない。
触ると赤くなる・軽度に腫れる 刺激による脱顆粒でヒスタミンが放出される反応(軽度のダリエ徴候)。無理に触らず早めに受診を。
元気消失・食欲不振・体重減少 脾臓型での脾腫大や、それに伴う貧血・全身状態の悪化によって生じる。
嘔吐・下痢・黒色便(タール便) ヒスタミンによる胃酸分泌の亢進で、胃・十二指腸潰瘍や消化管出血が起こる。特に消化管型で顕著。
腹部の触知可能な腫瘤・膨満感 脾臓の腫大や消化管腫瘤、腹水の貯留などによって生じる。
リンパ節の腫れ 所属リンパ節への転移により腫大することがある。触診・エコーでの評価が重要。

≪赤丸:一個の肥満細胞 、 青矢印:細胞内顆粒≫

皮膚の病変に対しては、細い針で細胞を吸引する針生検(Fine Needle Aspiration:FNA)が第一に行われます。
通常、腫瘍の確定診断には病理検査(ある程度切除して検査に出す)が必要で、簡易検査であるFNAだけで確定診断までできる腫瘍は多くありません。
しかし、肥満細胞腫は細胞内に特徴的な紫色の顆粒を持つため、麻酔なしのこの検査で迅速に診断できることも多いです。

猫では内臓型・消化管型の頻度が比較的高いため、腹部超音波検査(脾臓・肝臓・消化管の評価)が特に重要です。
また、あわせて胸部X線検査、血液検査(一般臨床検査に加え、血液中への肥満細胞の出現の有無を確認する塗抹検査など)も行われます。

民間の検査センターで猫のKIT(c-kit)遺伝子変異検査を実施することも可能ですが、前述の通り猫では変異の検出頻度自体が犬より低く、分子標的薬の効果予測における臨床的な位置づけは、犬ほど確立されていません。
今後の症例データの蓄積が期待される分野です。


猫の肥満細胞腫の治療の第一選択は手術で切除することですが、発生部位(皮膚型/脾臓型/消化管型)によって治療のアプローチが異なります

皮膚型で転移のない肥満細胞腫に対しては、外科的完全切除一択です。

犬では従来、周囲2〜3cm程度のマージン(腫瘍の周りを何㎝広く切除するか)が目安とされることが多いのに対し、猫ではこうした明確なマージン基準はまだ確立されておらず、通常の狭い切除幅であっても良好な予後を示す報告も多くあります

脾臓型(内臓型)に対しては、脾臓摘出術が第一選択となります。脾臓のみの発生であれば、摘出後に長期の生存が得られる例も少なくありません

消化管型では、腫瘤の存在する腸管の切除が検討されますが、他のタイプに比べて予後は厳しい傾向にあります。

完全切除が難しい部位や、切除後に断端に腫瘍細胞が残存した場合には、放射線治療が選択肢となります。
猫でも局所再発の抑制効果が期待されていますが、実施頻度は多くありません。

転移がみられる症例や、脾臓型・消化管型などで外科的切除が難しい場合には、全身療法として化学療法が検討されます。

従来から適応外で用いられているビンブラスチンなどの抗がん剤に加え、近年では犬用の分子標的薬であるトセラニブを猫の肥満細胞腫に適応外で使用する報告が増えており、治療の選択肢のひとつとなっています

ただし、猫における投与量や副作用のモニタリング方法については、確立されたプロトコルがまだ十分ではないのが現状です。


猫の肥満細胞腫の治療では、外科手術を軸に「全身療法(抗がん剤・分子標的薬)」や「症状緩和のための支持療法薬」を発生部位や悪性度に応じて組み合わせて管理していきます。

成分(製品名) 特徴・役割
トセラニブ
(パラディア)
KITを標的とする分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)。犬の肥満細胞腫に承認されている経口薬だが、猫の肥満細胞腫(特に切除困難例・転移例)に対しても臨床現場での使用が増えている。腫瘍細胞の増殖シグナルの抑制と血管新生の抑制が期待される一方、猫では消化器症状などの副作用に対するモニタリングがより重要となる。

※トセラニブは犬用の医薬品であり、猫の医薬品として承認されているものではありません。実際の使用にあたっては、必ず獣医師の診断と指導のもとで行われます。

ビンブラスチン
(エクザール)
プレドニゾロンと併用する形で従来から用いられている注射用の抗がん剤で、脾臓型・消化管型など全身療法が必要な高悪性度の症例で選択される。猫では消化管の神経への影響により、便秘・食欲不振などが生じるケースもあり、投与後は排便や食欲の様子を注意深く観察することが重要とされる。

※ビンブラスチンは人間用の医薬品であり、猫の医薬品として承認されているものではありません。実際の使用にあたっては、必ず獣医師の診断と指導のもとで行われます。

副腎皮質ステロイド 抗炎症・抗アレルギー作用があり、単独あるいは他の抗がん剤と併用される。脾臓摘出後の補助療法や、切除困難な腫瘍の緩和目的でも使われる。
抗ヒスタミン薬 肥満細胞から放出されたヒスタミンが引き起こす皮膚の赤み・腫れ・かゆみを抑える目的で使用。手術前後や脱顆粒のリスクがある場面でも併用される。
胃酸分泌抑制薬 ヒスタミンの刺激による胃酸の過剰分泌を抑え、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や嘔吐・食欲不振を予防・軽減する目的で併用される。消化管型では特に重要。

※上記は学術情報に基づく一般的な内容であり、実際の使用にあたっては必ず獣医師の指示に従ってください。


実際の臨床現場では、猫の肥満細胞腫は、皮膚の小さな病変として見つかるケースが一番多いです。
また、猫は犬や人間ほど頻繁には体表に丘疹(ニキビや虫刺されのような赤い湿疹)はできません。
ただの一時的な湿疹だと思っても、数日で引かないようであれば念のため動物病院で相談しましょう。

  • 猫の肥満細胞腫は、皮膚型だけでなく内臓型(脾臓型・消化管型)の発生も少なくない
  • 皮膚に小さな丘疹や結節を見つけたら自己判断せず、早めに針生検(FNA)を受ける
  • 皮膚型でも一定数は内臓への転移が疑われるため、腹部超音波検査などの確認が重要
  • 猫では統一的なグレード分類やマージン基準が犬ほど確立されておらず、症例ごとの評価がより重要になる
  • 切除が難しい場合でも、抗がん剤や分子標的薬の適応外使用、症状を和らげるお薬など治療の選択肢がある
  • 富士フイルム株式会社. 病理・細胞診 診断医コラム 第4回:猫の皮膚肥満細胞腫(獣医療従事者向け)約400症例のデータ解析. https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/veterinary/
  • Litster AL, Sorenmo KU. Characterisation of the signalment, clinical and survival characteristics of 41 cats with mast cell neoplasia. J Feline Med Surg. 2006.
  • Melville K, Smith KC, Dobromylskyj MJ. Feline cutaneous mast cell tumours: a UK-based study comparing signalment and histological features with long-term outcomes. J Feline Med Surg. 2015.
  • Sabattini S, Bettini G. Prognostic value of histologic and immunohistochemical features in feline cutaneous mast cell tumors. Vet Pathol. 2010.
  • Sabattini S, Bettini G. Grading cutaneous mast cell tumors in cats. Vet Pathol. 2019.
  • Henry C, Herrera C. Mast cell tumors in cats: clinical update and possible new treatment avenues. J Feline Med Surg. 2013.
  • Chastain CB, Turk MA, O’Brien D. Benign cutaneous mastocytomas in two litters of Siamese kittens. J Am Vet Med Assoc. 1988.
  • Molander-McCrary H, et al. Cutaneous mast cell tumors in cats: 32 cases (1991-1994). J Am Anim Hosp Assoc. 1998.
  • London CA, Thamm DH. Mast cell tumors. In: Withrow SJ, Vail DM, Page RL, eds. Withrow & MacEwen’s Small Animal Clinical Oncology. Saunders-Elsevier.
  • Berger EP, Johannes CM, Post GS, et al. Retrospective evaluation of toceranib phosphate (Palladia) use in cats with mast cell neoplasia. J Feline Med Surg. 2018.
  • Veterinary Society of Surgical Oncology (VSSO). Splenic MCT ― Feline. https://vsso.org/splenic-mct
  • ゾエティス・ジャパン株式会社. パラディア錠 添付文書・製品情報. https://www.zoetis.jp/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html

【獣医師監修】『クレデリオ』シリーズ3種を比較して徹底解説!

愛犬のノミ・マダニ対策やフィラリア予防で動物病院を受診した際、よく提案されるのが「クレデリオ」シリーズです。現在、「クレデリオ錠」「クレデリオプラス錠」「クレデリオクワトロ錠」の3種類がラインナップされていますが、「名前が似ていて何が違うのかわからない」「うちの子にはどれを選べばいいの?」と悩まれる飼い主様も少なくありません。
この記事では、3つの製品の「予防・駆除できる範囲(効能・効果)」「配合成分の役割」「医薬品分類」「体重別の規格サイズ」「味(フレーバー)」の違いを、詳しく解説します。


まずは3製品の最大の違いである「医薬品区分」「配合成分」「効果効能(防げる対象)」などを比較してみましょう。

項目 クレデリオ錠 クレデリオプラス錠 クレデリオクワトロ錠
医薬品区分 動物用医薬品 動物用医薬品、指定医薬品、要指示医薬品 動物用医薬品、指定医薬品、要指示医薬品
配合成分 1成分
(ロチラネル)
2成分
(ロチラネル+ミルベマイシンオキシム)
4成分
(ロチラネル+モキシデクチン+プラジクアンテル+ピランテルパモ酸塩)
ノミ・マダニ
フィラリア予防 ×
消化管寄生虫 ×
(犬回虫、犬鉤虫〔成虫・幼虫〕、犬鞭虫)

(犬回虫〔未成熟虫・成虫〕、犬小回虫、犬鉤虫〔未成熟虫・成虫〕、条虫類〔瓜実条虫、単包条虫・多包条虫(エキノコックス)〕)
イヌニキビダニ × ×
対象の条件 8週齢以上
体重1.5kg以上
8週齢以上
体重1.7kg以上
8週齢以上
体重1.5kg以上
ビーフフレーバー
(豚肝臓由来)
ビーフフレーバー
(豚肝臓由来)
ビーフフレーバー
(動物由来タンパク不使用、ミートフリー)

「フィラリア予防は別の投薬や注射で済ませており、ノミ・マダニ対策を確実に行いたい」
👉 クレデリオ錠がおすすめ

「毎月1回のおやつタイプで、ノミ・マダニ対策・フィラリア予防・基本的なお腹の虫駆除を1錠で終わらせたい」
👉 クレデリオプラス錠がおすすめ

「フィラリアやノミマダニだけでなく、エキノコックスや条虫(サナダムシ)、ニキビダニまで1回で最広域に予防・駆除したい」「肉類アレルギーがある」
👉 クレデリオクワトロ錠がおすすめ


医薬品区分: 一般動物用医薬品
有効成分: ロチラネル(56.25mg / 112.5mg / 225mg / 450mg / 900mg)

効能・効果:
犬:ノミ及びマダニの駆除

成分の作用と特徴:
有効成分ロチラネルは、イソキサゾリン系に分類される抗寄生虫成分です。寄生虫の神経伝達系(GABA受容体)に選択的に作用し、麻痺させて駆除します。

速効性と持続性:
投与後、ノミに対しては6時間以内(新規寄生は4時間以内)、マダニに対しては8時間以内(新規寄生は48時間以内)に駆除効果を発揮します。1回の投与で効果が1ヶ月間持続します。

こんな子に:
「フィラリア予防は通年注射で行っている」「ノミマダニ対策だけを行いたい」という場合に最適です。

医薬品区分: 要指示医薬品、指定医薬品
有効成分: ロチラネル + ミルベマイシンオキシム

効能・効果:
・犬糸状虫症の予防(フィラリア症予防)
・ノミ及びマダニの駆除
・消化管内寄生虫の駆除(犬回虫、犬鉤虫〔成虫・幼虫〕、犬鞭虫)

成分の作用と特徴:
ロチラネルのノミ・マダニ駆除効果に加え、マクロライド系のミルベマイシンオキシムを配合。犬糸状虫の幼虫(L3/L4)を駆除して心臓への寄生を防ぐとともに、お腹の代表的な有害寄生虫(回虫・鉤虫・鞭虫)を同時に撃退します。

こんな子に
ノミ・マダニ対策とフィラリア予防のシーズンが重なる時期に、投薬の手間や飲み忘れを最小限に抑えたい場合。

医薬品区分: 要指示医薬品、指定医薬品
有効成分: ロチラネル + モキシデクチン + プラジクアンテル + ピランテルパモ酸塩

効能・効果:
・犬糸状虫の寄生予防(フィラリア症予防)
・ノミ及びマダニの駆除
・イヌニキビダニの駆除による全身性毛包虫症の改善
・消化管内寄生虫の駆除(犬回虫〔未成熟虫・成虫〕、犬小回虫、犬鉤虫〔未成熟虫・成虫〕)
・条虫類の駆除(瓜実条虫、単包条虫、多包条虫〔エキノコックス〕)

成分の作用と特徴:
4つの有効成分を組み合わせることで、従来のオールインワン剤では対応できなかった寄生虫までカバー範囲を広げた最新の製剤です。

追加効果①: 頑固な皮膚病の原因となるイヌニキビダニを駆除
追加効果②: 瓜実条虫サナダムシ)や人獣共通感染症として重要視される多包条虫(エキノコックス)などの各種寄生虫を駆除

こんな子に:
草むらやドッグランによく行く子、野山でお散歩する子、人への感染リスクも徹底的に防ぎたいご家庭にベストです。


愛犬の体重に合わせた適切なサイズ(S/M/L/LL/XL)を選択します。
有効成分の組み合わせにより、製品ごとに投与可能な最小体重や体重区分が異なります。

クレデリオ錠(対象:8週齢以上、体重1.5kg以上)
・S:1.5kg以上 〜 2.5kg以下
・M:2.5kg超 〜 5.5kg以下
・L:5.5kg超 〜 11.0kg以下
・LL:11.0kg超 〜 22.0kg以下
・XL:22.0kg超 〜 45.0kg以下

クレデリオプラス錠(対象:8週齢以上、体重1.7kg以上)
・S:1.7kg以上 〜 2.8kg以下
・M:2.8kg超 〜 5.5kg以下
・L:5.5kg超 〜 11.0kg以下
・LL:11.0kg超 〜 22.0kg以下
・XL:22.0kg超 〜 45.0kg以下

クレデリオクワトロ錠(対象:8週齢以上、体重1.5kg以上)
・S:1.5kg以上 〜 2.8kg以下
・M:2.8kg超 〜 5.5kg以下
・L:5.5kg超 〜 11.0kg以下
・LL:11.0kg超 〜 22.0kg以下
・XL:22.0kg超 〜 45.0kg以下


すべての製品がワンちゃんにとって嗜好性の高い小粒型錠剤ですが、原材料の構成に違いがあります。

● クレデリオ錠、クレデリオプラス錠
ポークレバー由来成分等を使用したビーフ風味(豚肝臓由来)。高い食いつき率が確認されています。

● クレデリオクワトロ錠
動物性タンパク質不使用(ミートフリー/ポークフリー)のビーフフレーバー(野菜由来)。
牛肉・豚肉・鶏肉などの食物アレルギーがある愛犬でも安心して投与しやすい設計です。
また、プラジクアンテル特有の苦みを抑える特殊製法が施されています。


● 投与頻度とタイミング
月に1回、「食事と同時」または「食後30分以内」に経口投与します。

有効成分であるロチラネルは、脂溶性が高く、食事に含まれる脂質と一緒に消化吸収されることで、血液中の薬物濃度が十分に高まるという特性を持っています。
空腹時に投与してしまうと成分が十分に吸収されず、本来のノミ・マダニ駆除効果や持続期間が得られない可能性があります。必ず毎日のフードやおやつと一緒に与えてください。

● 受診・処方について
「クレデリオプラス錠」および「クレデリオクワトロ錠」は要指示医薬品のため、投与前には必ず獣医師の診察およびフィラリア非感染を確認する血液検査が必要です。
万が一、すでに体内にフィラリアの成虫が寄生している状態で予防薬を投与すると、ミクロフィラリア(幼虫)が一斉に死滅し、ショック症状などの重篤な副作用を引き起こす危険性があります。
そのため、毎年投薬を開始する前には必ず動物病院でフィラリア感染の有無を確かめる血液検査を受けてください。

また、ねこあざらし薬店のような店舗で購入される場合、獣医師が発行した『指示書』の提出が法令上必須となります。受診の際、獣医師にご相談のうえ『指示書』をご記載いただいてください。

『指示書』に関する詳細な手順を確認する

なお、ノミ・マダニ駆除単剤の「クレデリオ錠」は一般動物用医薬品で購入に『指示書』は不要ですが、愛犬の健康状態に合わせた適切な使用方法について、事前に獣医師に相談することが推奨されます。


クレデリオシリーズは、ライフスタイルやアレルギーの有無に合わせて最適な製品を選ぶことができます。

  • ノミ・マダニ対策で十分 👉 クレデリオ錠
  • 定番のオールインワンでフィラリア・お腹の虫まで予防したい 👉 クレデリオプラス錠
  • エキノコックス・条虫・ニキビダニまでカバーし、お肉アレルギーにも配慮したい 👉 クレデリオクワトロ錠

愛犬の健康状態や体質に合わせた選択につきましては、かかりつけの動物病院にご相談ください。

また、動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

【獣医師監修】犬のマラセチア皮膚炎治療薬ガイド~マラセブとマラセブライトの違いと使い分け~

愛犬がベタつきや赤み、かゆみなどを伴う「マラセチア皮膚炎」を起こした際、動物病院で使用される代表的な薬用シャンプーに『マラセブ』があります。さらに、新しい基剤を採用した『マラセブライト』がラインナップに加わりました。
ここでは、2つのシャンプーの「有効成分」「洗浄成分と特徴」「使い分けの目安」「使い方・注意点」を解説します。


【状態1】皮脂(あぶら)が多く脱脂が必要なとき
👉 マラセブ(中程度の脱脂作用でしっかり洗える標準タイプ)

【状態2】皮脂が軽度、またはシャンプー後の乾燥が気になるとき
👉 マラセブライト(マイルドな洗浄力で過乾燥しにくい新タイプ)


項目 マラセブ マラセブライト
有効成分 ミコナゾール硝酸塩 2%(抗真菌成分)
クロルヘキシジングルコン酸塩 2%(殺菌成分)
ミコナゾール硝酸塩 2%(抗真菌成分)
クロルヘキシジングルコン酸塩 2%(殺菌成分)
洗浄成分 両性界面活性剤 非イオン(ノニオン)界面活性剤
洗浄力・特徴 中程度の脱脂作用を有する マイルドな洗浄力で洗浄後に過乾燥しにくい
刺激性 陰イオン界面活性剤と比べて低刺激 他のイオン性界面活性剤に比べて皮膚や粘膜への刺激性が低く、生体親和性が高い
使用例・適した症例 皮脂(あぶら)の分泌が中程度以上のマラセチア皮膚炎に ①皮脂(あぶら)の分泌が軽度のマラセチア皮膚炎に
②シャンプー後の乾燥が気になる症例に

※界面活性剤とは:水と油を混ぜ合わせることで、脂汚れを落とせるようにする成分。


有効成分:ミコナゾール硝酸塩 2%、クロルヘキシジングルコン酸塩 2%を配合。マラセチア(真菌)およびブドウ球菌(細菌)に対して優れた有効性を発揮します。

洗浄成分:両性界面活性剤を使用。中程度の脱脂作用を備えており、皮脂の分泌が多くてベタつきやニオイが強い時期に適しています。

有効成分:マラセブと同じく、ミコナゾール硝酸塩 2%、クロルヘキシジングルコン酸塩 2%を配合。殺菌力や有効成分の濃度はマラセブと同様です。

洗浄成分:非イオン(ノニオン)界面活性剤を採用。皮膚や粘膜への刺激性が低く生体親和性が高いため、マイルドな洗浄力で過乾燥を防ぎます。皮脂の分泌が比較的軽度な症例や、シャンプー後の乾燥が気になる場合に向いています。


正しい効果を得るための使用手順と注意点です。

▶ 全身をしっかり湿らせる
ぬるま湯で犬の被毛と皮膚を十分に濡らします。

▶ 重症な部位から泡立てる
適量を手にとり全身になじませます。
わきの下や指の間、お腹周りなど症状が重い部分や菌が増殖しやすい部分から泡立てていくのが効果的です。

正確に約10分間放置する(最重要)
有効成分を皮膚に行き渡らせるため、泡をつけたまま時計を見て約10分間放置します。

 ⚠️ 放置中の注意点
 放置中に泡を大量に舐めたり吸い込んだりすると、消化管障害などを引き起こすおそれがあります。
 必ず目を離さず、身震いによる薬液の飛び散りや目・耳への侵入に注意しましょう。

▶ しっかりすすぎ、優しく乾かす
泡が完全になくなるよう5〜10分かけて十分に洗い流し、タオルで優しく水分を拭き取ってしっかり乾かします。

▶ 投与頻度
通常は1日1回、3日以上間隔をあけて週2回使用します。
※用法用量については必ず獣医師の指示に従ってください。


『マラセブ』シリーズは、皮膚の状態に合わせて使い分けることができます。

  • ベタつきが強い時期は「マラセブ」でしっかり脱脂・洗浄
  • ベタつきが落ち着いた後や乾燥しやすい子は「マラセブライト」で優しくケア

愛犬の症状や状態に合わせた選択・使用につきましては、必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。

また、動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

犬猫の歯周病『放置は危険!口臭・歯石の放置が全身を蝕む理由』【獣医師執筆】

愛犬・愛猫の口臭が気になったことはありませんか?その口臭は「歯周病」のサインであることがほとんどです。歯周病は2〜3歳以上の犬猫の実に約8割が罹患しているといわれるほど身近な疾患の一つです。
歯周病は、放置すると心臓・腎臓・肝臓といった重要な臓器にダメージを与えることが、近年の研究で明らかになってきています。

今回は、歯周病の分類から最新の治療薬・サプリメントまでを詳しく解説します。


歯周病は、歯を支える「歯周組織(歯肉・歯根膜・セメント質・歯槽骨)」に炎症が起こる病気の総称で、進行度によって「歯肉炎」と「歯周炎」の2段階に大別されます。

歯垢(プラーク)中の細菌が引き起こす歯肉の炎症で、歯を支える組織そのものはまだ破壊されていません。
歯肉の発赤・軽度の腫れ・歯磨き時の出血が主な症状で、この段階であれば適切なケアによって健康な状態へ回復させることが可能です。

歯肉炎を放置すると、細菌や炎症性物質が歯周ポケット(歯と歯肉のすき間)の奥深くまで侵入し、歯根膜や歯槽骨(歯を支える骨)を破壊し始めます。
一度破壊された歯周組織は自然には再生しないため、進行すると治療の目標は「症状の維持・緩和」が中心になります。

歯槽骨の吸収が進むと歯がぐらつき、最終的には自然脱落することもあります。

【プラークが歯石に変わるまで】

経過時間 口腔内の状態
0時間〜 歯垢(プラーク=生きた細菌の塊)が歯の表面に付着し始める
24〜48時間 唾液中のミネラルと結合して石灰化し、硬い歯石へと変化する
歯石形成後 表面がざらつき、さらに細菌が付着しやすくなる悪循環に陥る

歯石になってしまうと歯ブラシでは除去できず、動物病院でのスケーリングが必要になります。


歯周病の原因菌や進行の仕組みは犬猫で共通していますが、実際にリスクを高める背景要因は犬と猫でまったく異なります。それぞれの特徴を分けて理解しておくことが、適切な予防・早期発見につながります。

犬では、歯の並び方や顎の大きさに関わる犬種的な特徴が歯周病リスクに直結します。

要因 特徴
小型犬・超小型犬の歯列 トイプードル・チワワ・ヨークシャーテリアなどは顎に対して歯が密集して生えやすく、歯垢がたまりやすい。若齢のうちから歯周病が進行するケースが目立つ。
乳歯遺残 乳歯が抜けずに残ることで歯列が乱れ、歯垢が付着しやすくなる。
短頭種の歯の重なり パグ・フレンチブルドッグなど、顎が短い犬種では歯が重なりやすく、清掃が行き届きにくい。
加齢・慢性疾患の影響 加齢に伴い唾液の分泌量が減ると、自浄作用が低下し歯垢がつきやすくなる。また基礎疾患により免疫力が落ちていると、歯周病原細菌に対する抵抗力も低下し悪化しやすい。

猫の場合、単純な歯垢・歯石の蓄積による歯周病に加えて、犬にはあまり見られない特有の口腔トラブルが複数存在するため、より注意深い観察が必要です。

要因 特徴 サイン
猫慢性歯肉口内炎(FCGS) 歯や歯垢に対する免疫の過剰反応が関与していると考えられ、歯肉だけでなく口腔粘膜全体に強い炎症が広がる。通常の歯周病治療だけでは改善しにくいことも多い。 ひどいよだれ、口臭、体重減少、グルーミング量の低下、強い痛みによる食欲不振
破歯細胞吸収病巣(FORL/TR) 歯そのものが体内から徐々に吸収されていく病態。原因は完全には解明されていない。外見上の変化に乏しく、デンタルX線検査でなければ発見できないことも多い。 片側だけで噛む、食事中に急に鳴く、硬いフードを避ける
FIV・FeLV感染(猫免疫不全ウイルス/猫白血病ウイルス) 猫の重度かつ難治性の歯周病で多い原因の一つ。いずれも免疫機能そのものを低下させるウイルス感染症。口腔内の細菌・炎症に対する抵抗力が弱まることで重症化しやすくなる。 繰り返す重度の口内炎、治療への反応が乏しい
猫カリシウイルス感染 いわゆる猫風邪の原因ウイルスの一種。急性・慢性の口内炎の原因となることがある。 口内の潰瘍、よだれ

原因不明の重度な口内炎・歯肉炎が続く猫では、歯周病そのものの検査だけでなく、FIV・FeLVの感染検査もあわせて行うことが推奨されます。
ウイルス感染の有無によって、ステロイドや免疫抑制剤の使用可否、治療の見通しが大きく変わります。


犬猫は本能的に痛みを隠す習性があるため、飼い主が異変に気づいたときにはすでに進行しているケースが少なくありません。以下のようなサインを見逃さないことが大切です。

カテゴリー サイン
口腔内の変化 口臭、歯肉の発赤・腫れ・出血、歯石の付着、よだれの増加
行動・食事の変化 片側だけで噛む、硬いものを避ける、食欲低下、口や顔を触られるのを嫌がる
進行時のサイン 歯の動揺・脱落、頬や顎の腫れ(歯根膿瘍)、くしゃみ・鼻水(口腔鼻腔瘻)
全身症状 元気消失、発熱 ※重度感染時に見られる

炎症を起こした歯肉の血管から進入した細菌や炎症性物質は、血流に乗って心臓・腎臓・肝臓など全身へ波及する危険性があります。

特に猫では、歯周病の重症度が慢性腎臓病の発症リスクと関連するとの報告もあり、口腔内の健康管理が全身の寿命に直結します。


歯肉の色・腫れ・出血の有無、歯石の付着量、口臭の強さなどを確認します。
近年は、口腔内の炎症で生じる揮発性硫黄化合物(チオール類)を専用の試験紙(オーラストリップなど)で検出し、目視だけでは判断しにくい初期の歯周病を簡便にスクリーニングする検査法も普及してきています。

歯肉の下に隠れた歯根や歯槽骨の状態は、目視だけでは評価できません。
歯槽骨の吸収度合いや根尖膿瘍の有無を確認するために、全身麻酔下でのデンタルX線検査を行う場合があります。
歯肉の見た目は軽度でも、レントゲンで重度の骨吸収が見つかることは珍しくありません。

全身のスクリーニングとして行いますが、特に重度の口内炎・歯肉炎を繰り返す猫では、FIV(猫免疫不全ウイルス)・FeLV(猫白血病ウイルス)の感染検査もあわせて実施することが重要です。
ウイルス感染によって重症化している場合には、通常の歯周病治療だけでは症状が改善しにくく、治療方針そのものを見直す必要があります。


歯周病治療の基本は「歯垢・歯石の除去」「炎症・感染のコントロール」「進行後の再発予防」の3本柱です。
重度の歯周炎では外科的処置が中心となりますが、麻酔リスクの高い高齢動物や、飼い主の判断で外科処置を迷うケースでは、薬剤やサプリメントを組み合わせた内科的アプローチも重要です。

全身麻酔下でのスケーリング(歯石除去)や抜歯が最も根本的な治療であり、どんな薬剤・サプリメントも外科処置の代わりにはなりません。

▶ スケーリング・ルートプレーニング(歯石除去処置)

歯の表面だけでなく歯周ポケット内部の歯石まで徹底的に除去し、表面を滑らかに研磨する処置です。
歯垢・歯石を除去することで炎症の原因そのものを取り除き、歯肉炎〜軽度の歯周炎であれば大きな改善が期待できます。

▶ 抜歯

歯周炎が進行して歯槽骨の破壊が大きい歯や、ぐらつきが強く保存が難しい歯は、抜歯によって感染源を取り除くことが優先されます。
「歯を抜く」ことに抵抗を感じる飼い主も多いですが、痛みや感染の温床となっている歯を残すことの方が、犬猫にとって長期的な負担になるケースが少なくありません。

歯肉の炎症が強い場合や、外科処置前後の細菌感染のコントロールに抗菌薬が必要になることがあります。
自己判断で使用・中断せず、獣医師の指示に従いましょう。

抜歯やスケーリングなど外科処置後の痛み・炎症のコントロールに用いられます。いずれも選択的COX-2阻害薬であり、炎症や痛みの原因となるプロスタグランジンの産生に関わるCOX-2を選択的に阻害することで、胃粘膜保護などに関わるCOX-1への影響を抑えながら鎮痛・抗炎症効果を発揮します。
製品ごとの違いは以下のとおりです。

製品名(有効成分) 特徴
オンシオール(ロベナコキシブ) COX-2高選択性で作用発現が早く、炎症部位に長くとどまる。犬猫どちらにも使用でき、嗜好性の高いビーフ風味の錠剤で食欲が落ちた個体にも投与しやすい。
メタカム(メロキシカム) 経口懸濁液のほか、チュアブル錠・注射液など剤形が豊富で、体重に応じた細かな用量調整がしやすい。犬・猫の関節疾患や術後の疼痛管理に広く使用されている。
フィロコックス(フィロコキシブ) 胃粘膜保護などに関わるCOX-1への影響が特に少ないとされ、消化器系への副作用が少なく、慢性疼痛の長期投与に使用されるケースもある。フレーバー付きのチュアブル錠で投薬時のストレスが少ない。

※COX(シクロオキシゲナーゼ)とは、体内で炎症や痛みのもとになる物質(プロスタグランジン)をつくる酵素のこと。COX-2は主に炎症が起きている部分で働くため、これを選択的に抑えることで、胃腸など正常な組織への影響を抑えながら痛みや炎症をやわらげることができる。

製品名(有効成分) 特徴
インターベリーα(改変イヌインターフェロンアルファ-4) 犬猫の歯肉炎に承認されている外用薬。歯肉に塗布して口腔内の免疫バランスを整え、歯周病原細菌を減らす。内服が苦手な子や、免疫の関与が疑われる猫の歯肉炎・口内炎ケアにも取り入れやすい。また、猫の難治性の歯周病に対して効果が認められ近年多く使用されている。

長期的な口腔環境の維持や、歯磨きが難しい犬猫への補助的ケアとして活用されています。
効果を実感するまでに時間がかかることが多いため、すぐにやめず、数か月は継続することが大切です。

製品名(主成分) 特徴
デンタルバイオ(口腔内善玉菌+ラクトフェリン) 犬猫用の口腔内専用プロバイオティクスサプリメント。チキン風味の高嗜好性錠剤で、口腔内善玉菌とラクトフェリンの働きにより口腔内フローラのバランスを整えることを目的とする。
1-TDC(1-テトラデカノール複合体) 歯茎・歯肉のサポートを目的とした犬猫用サプリメント。カプセルの中身を歯茎に直接塗布して使用するタイプで、歯肉炎・口内炎を起こしやすい猫にも取り入れやすい。
製品名(主成分) 特徴
C.E.T.アクアデントフレッシュ(ザクロエキス・エリスリトール・イヌリン配合) 動物病院で取り扱われる、飲み水に混ぜるだけの液体デンタルケア製品。細菌のバイオフィルム形成を抑制するザクロエキス、口腔内の健康を守るエリスリトール、腸内フローラを整えるイヌリンを配合。歯磨きが難しい場合の導入としても使いやすい。
C.E.T.歯みがきペースト(ラクトペルオキシダーゼ・グルコースオキシダーゼ配合) 犬猫専用の歯みがきペースト。唾液由来の天然酵素を配合し、歯の健康を守る成分の生成を助ける。すすぎ不要で、歯ブラシに慣れていない子は指につけて舐めさせるだけでも使用できる。

歯周病の予防・再発防止には、日々の歯磨きが最も効果的です。「痛くない」「怖くない」というポジティブな体験を重ね、無理なく習慣化することが長続きのポイントです。

いきなり歯ブラシを使うと多くの犬猫は嫌がるため、「口周りに触れる」→「唇をめくる」→「ガーゼや指サックブラシで拭く」→「歯ブラシで磨く」という順に段階を踏み、1つの段階に数日〜数週間かけて少しずつ慣らしていきましょう。

歯ブラシに慣れたら、犬猫専用の歯みがきペーストを使い、歯と歯肉の境目を意識して小刻みに磨きます。どうしても苦手な子には、第5章で紹介したデンタルケア用品を併用するのも良いです。

  • 短時間から始めて少しずつ時間を延ばし、嫌がって暴れる場合は無理強いせず翌日に持ち越す。
  • 食後や就寝前など毎日同じタイミングで行い、ケアの後は必ずご褒美で終えて習慣化する。

自宅での歯磨き習慣に加えて、少なくとも年に1回(シニアやトラブル既往歴のある子は半年に1回)は動物病院でプロの口腔チェックを受けましょう。


犬猫の歯周病は、単に口臭や歯石だけの問題ではなく、放置すれば命にもかかわる重大な疾患を引き起こすケースもあります。早期の歯肉炎の段階で発見できるようこまめにチェックをして、早めにケアを始めましょう。

  • 歯周病は「歯肉炎(可逆性)」と「歯周炎(不可逆性)」に分けられ、進行度によって治療方針が異なる。
  • 歯周病菌は血流を介して心臓・腎臓・肝臓など全身に影響を及ぼす可能性がある。
  • スケーリングによる歯石除去が最も根本的な治療であり、抗菌薬やサプリメントはあくまで補助的な位置づけ。
  • 日々の歯磨き習慣が、最も効果的で経済的な予防法である。
  • Harvey CE. Management of periodontal disease: understanding the options. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2005;35(4):819-836.
  • Pavlica Z, et al. Periodontal disease burden and pathological changes in organs of dogs. J Vet Dent. 2008;25(2):97-105.
  • DeBowes LJ, et al. Association of periodontal disease and histologic lesions in multiple organs from 45 dogs. J Vet Dent. 1996;13(2):57-60.
  • Trevejo RT, Lefebvre SL, Yang M, et al. Survival analysis to evaluate associations between periodontal disease and the risk of development of chronic azotemic kidney disease in cats evaluated at primary care veterinary hospitals. J Am Vet Med Assoc. 2018;252(6):710-720.
  • Niemiec BA. Periodontal disease. Top Companion Anim Med. 2008;23(2):72-80.
  • 農林水産省動物医薬品検査所.動物用医薬品等データベース(インターベリーα・オンシオール・メタカム・フィロコックス添付文書).

犬の肥満細胞腫~がん早期発見のポイントと治療薬~【獣医師執筆】

肥満細胞とは、細胞内に脂肪のような顆粒を多く含む姿から名づけられたもので、太っているかどうかとは無関係な免疫細胞です。

犬の皮膚にできる「できもの・しこり」の多くは良性のものですが、その中で最も注意したい悪性腫瘍(がん)のひとつが「肥満細胞腫(Mast Cell Tumor:MCT)」です。見た目だけでは良性のイボや脂肪腫と区別がつかず、そのしこりに触ると急に赤くなったり、腫れて大きさが変わるなど特殊な性質を持っています。

今回は、肥満細胞腫の基礎知識から、早期発見のポイント、治療薬までわかりやすく解説します。


肥満細胞は、もともと皮膚や粘膜、消化管などの結合組織に広く分布し、アレルギー反応や炎症反応、寄生虫への防御などに関わる免疫細胞の一種です。細胞内にはヒスタミンやヘパリン、プロテアーゼなどを含む顆粒を蓄えており、刺激を受けると顆粒の内容物を放出(脱顆粒)して炎症反応を引き起こします。

肥満細胞腫は、この肥満細胞が腫瘍化し、主に皮膚や皮下組織で異常に増殖した状態です。
肥満細胞腫では、細胞の増殖シグナルを伝える受容体型チロシンキナーゼ「KIT」の異常が関与していることが多く、一部ではc-kit遺伝子変異が認められます。

KITは細胞表面にある「増殖してよい」という指令を受け取るスイッチのような受容体で、通常は特定の物質(幹細胞増殖因子:SCF)が結合したときだけ増殖のスイッチが入ります。しかし、c-kit遺伝子に変異が生じると、SCFが結合していなくてもKITが常に活性化した状態となり、細胞が際限なく増殖してしまいます。
このKITの異常は、後述する分子標的薬が効果を発揮する重要な標的にもなっています。

肥満細胞腫は犬の皮膚腫瘍の中で最も発生率が高く、全皮膚腫瘍のおよそ16〜21%を占めるとされています。
発症の平均年齢は8〜9歳ですが、若齢での発生も珍しくありません。
犬種としてはボクサー・パグ・ボストンテリア・ラブラドールレトリーバー・ゴールデンレトリーバー・シーズー・フレンチブルドッグなどで発生率が高い傾向があります。
見た目は赤く盛り上がったイボ状のものから、皮下にできる柔らかいしこり状などさまざまで、大きさが数日〜数週間で変動することもあります。

ダリエ徴候とは、しこりを触ったり擦ったりした刺激によって肥満細胞からヒスタミンが放出され、その部分が一時的に赤く腫れたり、蕁麻疹のように盛り上がったりする反応のことです。
まれに、強い刺激によって全身に大量のヒスタミンが放出されると、嘔吐・元気消失・血圧低下といった全身状態の急変につながるリスクがあります。

「しこりが大きくなったり小さくなったりする」「触ると赤くなる」と感じたら何度も触ったり揉んだりせず、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。


肥満細胞腫は「見た目」だけでは悪性度が分からないため、必ず病理組織検査によるグレード(悪性度)評価が行われます。
代表的な分類が、従来から用いられている「Patnaikグレード分類(3段階)」と、より予後予測に優れるとされる「Kiupel(2段階)分類」があり、両方を併用して評価するのが一般的です。

分類方式 区分 概要
Patnaikグレード
(3段階)
グレードⅠ
(高分化型)
細胞の異型性が少なく、多くは外科的完全切除で予後良好。
グレードⅡ
(中間型)
分化度・転移リスクが症例によって幅広く、慎重な経過観察が必要。
グレードⅢ
(低分化・未分化型)
細胞異型が強く、転移・再発リスクが高い。積極的な集学的治療が必要。
Kiupel分類
(2段階)
低グレード
(Low grade)
予後良好群。生存期間の中央値が長い傾向。
高グレード
(High grade)
転移・再発リスクが高く、生存期間が短くなる傾向。予後予測の一致率が高いとされる。

グレードとは別に、腫瘍の数・大きさ・リンパ節転移・遠隔転移の有無から「臨床病期(ステージ0〜Ⅳ)」を評価し、治療方針を総合的に決定します。
近年は、腫瘍組織を用いて、前述のKIT遺伝子(c-kit)のエクソン11領域における変異(内部縦列重複:ITD)の有無を調べる検査も普及しており、変異が陽性の場合は分子標的薬(トセラニブなど)への反応性が高いことが知られ、治療選択の重要な判断材料になっています。


肥満細胞腫は皮膚・皮下のどこにでも発生し、単発のこともあれば多発することもあります。
以下のような点をチェックしてみましょう。

症状・所見 背景となるメカニズム
赤く盛り上がったしこり・イボ状の腫瘤 肥満細胞の増殖により腫瘤を形成。良性の脂肪腫や皮膚炎と非常に似ることがある。
触ると赤く腫れる・大きさが変動する 刺激により肥満細胞が脱顆粒し、ヒスタミンが放出されることで局所の炎症が悪化する(ダリエ徴候)。※この場合は無理に触らず早めに病院を受診しましょう
嘔吐・下痢・食欲不振・黒色便(タール便) 放出されたヒスタミンが胃酸分泌を過剰に促し、胃・十二指腸潰瘍や出血を引き起こす。
しこり周囲のあざ・出血傾向 ヘパリンなどの抗凝固物質が放出され、局所の出血や内出血が生じやすくなる。
リンパ節の腫れ 所属リンパ節への転移により腫大することがある。触診・エコーでの評価が重要。
元気消失・ぐったりする 広範囲の脱顆粒により、血圧低下やアナフィラキシー様反応など全身性の症状を起こすことがある。

しこりを見つけたら、まず行われるのが細い針で腫瘤の細胞を吸引する「針生検(Fine Needle Aspiration:FNA)」です。

肥満細胞腫の細胞は特徴的な紫色の顆粒を持つため、多くの場合、麻酔なしの外来検査で迅速に診断できます。
しかし、グレード(悪性度)の判定には、外科的切除後の病理組織検査が必要になります。

腫瘍の広がりやリンパ節・内臓への転移の有無を調べるため、所属リンパ節の細胞診に加えて、腹部超音波検査、胸部X線検査、血液検査が行われます。

特にグレードが高い(Ⅱ〜Ⅲ)、所属リンパ節に転移が疑われる、腫瘍が大きい・完全切除が難しい部位にある、再発例といった場合には、腹部超音波検査は重要な検査です。
しかし、小さく低グレードなケースでも、内臓への転移が見つかる確率自体は低いものの、可能であれば受けておくことをおすすめします。

近年は民間の検査センターでも、前述のKIT(c-kit)遺伝子の変異を調べる検査が実施可能になっており、分子標的薬の選択や予後予測の一助として活用が広がっています。


肥満細胞腫の治療は、グレード・ステージ・発生部位・全身状態を総合的に評価したうえで、外科手術を中心に、放射線治療・化学療法・分子標的薬・局所療法などを組み合わせて行われます。

低〜中グレードで転移のない肥満細胞腫に対しては、外科的完全切除が第一選択です。
「マージン」とは、腫瘍細胞を残さず取りきるために、目に見える腫瘍の周囲をどれくらい一緒に切除するかの幅のことで、「横方向(周囲の皮膚)」と「深さ方向(皮下組織・筋膜など)」の両方で設定されます。
肥満細胞腫は目に見える範囲を超えて周囲の組織へ細胞が浸潤しやすいため、横方向へ幅をとるだけでなく、深部方向にも未侵襲の筋膜を含めて切除する「十分かつ適切なマージン確保」が、再発を防ぐ上で極めて重要になります。

腫瘍が大きく完全切除が難しい部位(顔面・四肢末端など)や、切除後に断端に腫瘍細胞が残存した場合には、放射線治療が有効な選択肢となります。局所再発の抑制に高い効果が期待できます。

高グレード、多発性、リンパ節・内臓への転移がある場合は、全身療法として化学療法や分子標的薬が用いられます。
ビンブラスチンやロムスチン(CCNU)などの抗がん剤は現在も標準的な治療薬として広く使われており、これに加えて近年は後述するトセラニブのような分子標的薬が重要な選択肢となっています。
特に高グレード・転移症例では、ビンブラスチンとトセラニブを併用する治療法の有効性を示す報告も増えており、単剤よりも高い奏効率が得られる可能性が示唆されています。
ただし化学療法については「これ一つが絶対的な正解」という確立したプロトコル(使用方法)があるわけではなく、犬の状態や病院の方針により使い分けられているのが現状です。


肥満細胞腫の治療では、外科手術を軸に「全身療法として使う薬剤」「症状緩和のための薬剤」を組み合わせて管理していきます。

以下の薬剤は、外科手術と組み合わせて処方される中心的な薬です。グレード・ステージにより複数の薬を組み合わせて使用します。

成分(製品名) 特徴・役割
トセラニブ
(パラディア)
KITを標的とする分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)。再発した皮膚の肥満細胞腫(Patnaikグレード中間型・未分化型)に承認されている経口薬。腫瘍細胞の増殖シグナルを抑えるとともに、腫瘍への新生血管形成も抑制。従来の抗がん剤と異なり自宅投与が可能で、通院間隔をあけやすい点も特徴。消化器症状や好中球減少などの副作用管理のため、定期的な血液・尿検査を行い、必要に応じて制吐剤(マロピタント等)や下痢止めを併用することがある。
副腎皮質ステロイド 抗炎症・抗アレルギー作用があり、単独あるいは他の抗がん剤と併用される。腫瘍を外科手術前に縮小させる目的で使われることもある。単独では効果が限定的なため他剤と組み合わせるのが基本。
抗ヒスタミン薬 肥満細胞から放出されたヒスタミンが引き起こす、皮膚の赤み・腫れ・かゆみやアレルギー反応を抑える目的で使用。手術前後や脱顆粒のリスクがある場面でも併用される。
胃酸分泌抑制薬 ヒスタミンの刺激による胃酸の過剰分泌を抑え、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や嘔吐・食欲不振を予防・軽減する目的で併用される。

※記載内容は学術情報・各製品の添付文書情報に基づく一般的な内容であり、実際の使用にあたっては必ず獣医師の指示に従ってください。


肥満細胞腫は、比較的簡易な検査で診断できる可能性のある数少ない腫瘍のひとつです。
早期発見・早期の病理診断ができれば、外科的完全切除だけで良好な経過をたどるケースも少なくありません。
愛犬の体に小さなしこりを見つけたら、早めに動物病院で相談しましょう。

  • しこりを見つけたら自己判断せず、早めに針生検(FNA)を受ける
  • 触って赤く腫れる・大きさが変動するしこりは、ダリエ徴候として肥満細胞腫を疑う重要なサイン、無理に触らずすぐ病院へ
  • グレード・ステージに応じて、外科手術・放射線治療・化学療法・分子標的薬を組み合わせる
  • KIT遺伝子変異検査は、分子標的薬の選択や予後予測の重要な判断材料になる
  • Warland J, Dobson J. Breed predispositions in canine mast cell tumour: a single centre experience in the United Kingdom. Vet J. 2013;197(2):496-498.
  • Webster JD, et al. The role of c-KIT in tumorigenesis: evaluation in canine cutaneous mast cell tumors. Neoplasia. 2006;8(2):104-111.
  • Patnaik AK, et al. Canine cutaneous mast cell tumor: morphologic grading and survival time in 83 dogs. Vet Pathol. 1984;21(5):469-474.
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  • ゾエティス・ジャパン株式会社. パラディア錠 添付文書・製品情報. https://www.zoetis.jp/ca/dogs/palladia/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html

【獣医師監修】犬猫のお腹のお薬ガイド~ディアバスター・ビオイムバスター・ボミットバスターの違いと使い方~

愛犬や愛猫が「下痢」や「吐き気」を起こした際、動物病院で使用される代表的なお薬に『ディアバスター』、『ビオイムバスター』、『ボミットバスター』があります。名前が似ているため「どれが何のお薬?」と困ってしまう飼い主さまも少なくありません。

このコラムでは、上記3つのお薬を比較しながら分かりやすく解説します。

【この記事を読んでわかること】

  • 症状別の適切な使い分け(下痢止め、整腸剤、吐き気止め)
  • 3つのお薬の有効成分と承認されている効能・効果の違い
  • 各薬剤の体重別用法・用量と臨床改善効果
  • 抗生物質との併用注意など飲み合わせのポイント
  • 嫌がる子にお薬を上手に飲ませる安全な工夫

動物病院では、愛犬・愛猫のその時の症状に合わせてこれらのお薬を選んだり、組み合わせて処方したりします。

【症状1】つらい下痢や軟便をピタッと止めたいとき
👉 ディアバスター錠(下痢止め)

【症状2】食欲がなく、消化不良やお腹の乱れが気になるとき
👉 ビオイムバスター錠(整腸・消化酵素)

【症状3】何度も吐いてしまう・吐き気でご飯が食べられないとき
👉 ボミットバスター錠(吐き気止め)


薬剤名有効成分(1錠中)承認されている主な効能・効果
ディアバスター錠・タンニン酸ベルベリン
・次硝酸ビスマス
・ゲンノショウコ乾燥エキス
・五倍子末
犬・猫:
下痢の症状緩和
ビオイムバスター錠・有胞子性乳酸菌
・パンクレアチン
犬・猫:
食欲不振、消化不良、単純性下痢
ボミットバスター錠2mg・塩酸メトクロプラミド犬: 胃炎・腸炎等に伴う嘔吐、駆虫剤投与時の嘔吐
猫: 胃炎・腸炎等に伴う嘔吐・食欲不振

●有効成分(1錠中)
・タンニン酸ベルベリン:25.0mg
・次硝酸ビスマス:100.0mg
・ゲンノショウコ乾燥エキス:25.0mg
・五倍子末:25.0mg

●用法・用量(1日2回経口投与)
・5kg未満:1回 1/2錠
・5〜20kg未満:1回 1錠
・20kg以上:1回 2錠

●主な役割・作用
腸内の殺菌・腐敗抑制: 腸内有害細菌の増殖を抑え、有害アミンの発生(腸内腐敗)を防ぎます。
腸運動の抑制・粘膜保護: 過剰なぜん動運動を静めるとともに、荒れた腸粘膜に保護膜を形成して炎症を鎮めます。
高い改善効果: 急性下痢を起こした犬に対する試験では、平均2.3日で完治・改善に至る効果(改善率87.1%)が確認されています。

●注意点・併用のポイント
整腸剤(ビオイムバスター錠等)と組み合わせて使用することで、より高い相乗効果を発揮します。

●有効成分(1錠中)
・有胞子性乳酸菌(Bacillus coagulans):30.0mg
・パンクレアチン:60.0mg

●用法・用量(1日2回経口投与)
・小型犬・猫(5kg未満):1回 1/2錠〜1錠
・中型犬(5〜20kg未満):1回 1錠〜2錠
・大型犬(20kg以上):1回 2錠〜3錠

●主な役割・作用
生きて腸まで届く乳酸菌: 殻(胞子)に守られた乳酸菌のため胃酸に負けずに腸へ到達し、腸内フローラを整えます。
消化のサポート: 総合消化酵素パンクレアチンが脂肪・タンパク質・でんぷんの分解を助け、胃腸の負担を軽減します。

●注意点・併用のポイント
抗生物質との併用注意: 抗生物質(抗菌薬)と同時に服用すると、本剤の乳酸菌の働きが弱まるため、投与タイミングをずらす(2時間ほどあける)等の注意が必要です。
下痢止めとの併用: 下痢止め(ディアバスター錠)と併用することで、総合改善率が98.6%まで向上することが確認されています。
アレルギー: 原材料に魚由来ペプチド、豚パンクレアチン、酵母エキスが含まれるため、アレルギーのある方は事前に獣医師へ相談してください。

●有効成分(1錠中)
・塩酸メトクロプラミド:2.0mg

●用法・用量(1日2回経口投与)
・犬・猫共通:体重1kgあたり塩酸メトクロプラミドとして0.2〜0.5mgを基準とし、1日2回経口投与します。

●主な役割・作用
吐き気のブロック: 脳にある「嘔吐のスイッチ(CTZ)」を抑え、吐き気を根本から鎮めます。
胃腸の運動促進: 消化管の運動障害を改善し、胃内容物の逆流や嘔吐を抑えます。
高い改善効果: 臨床試験において、犬で89.74%、猫で92.59%という高い改善効果が示されています。

●注意点・併用のポイント
慎重投与・副作用: 幼若動物や低体重のペットでは過剰投与にならないよう慎重な投与が必要です。まれによだれが出たり、体がふるえたりソワソワしたりする副作用が出ることがあります。
分割時の注意: 錠剤を分割して使用する場合は、吸湿を防ぐため速やかに投与してください。


お腹の調子や気分が悪いときは、いつも以上にお薬を嫌がってしまうことがあります。
無理なく飲ませるための工夫をご紹介します。

●投薬補助ペーストやおやつで包む
粒のまま飲むのが苦手な子の場合は、投薬用ペーストや、一口サイズのウェットフード・お肉などに包んでそのまま飲み込ませる工夫が効果的です。
(※錠剤を割ったり潰したりして与える場合は、味の苦味が出たり吸湿劣化したりすることがあるため、あらかじめ獣医師にご相談ください。)

●吐き気や嘔吐がある時の与え方
強い吐き気がある時にお薬やごはんを無理に口へ入れると、そのまま吐き戻してしまうことがあります。
嘔吐が続いている場合のお薬を飲ませるタイミングや順番については、自己判断せず獣医師の指示に従いましょう。


動物病院で使用される「バスターシリーズ」は、愛犬・愛猫のその時の症状(下痢・消化不良・吐き気)に合わせて的確に使い分けられています。

この記事のまとめ

  • 下痢を止める「ディア」、お腹を整える「ビオイム」、吐き気を鎮める「ボミット」とそれぞれ目的が異なる
  • 症状が治まったように見えても自己判断で途中でやめず指定期間飲ませ切る
  • 抗生物質など他のお薬と併用する場合は時間間隔など獣医師の指示を守る

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

猫の関節炎のサインとは?高い所に登らないのは病気?治療薬やサプリを解説【獣医師執筆】

愛猫が「最近あまり高いところに飛び乗らなくなった」「毛づくろいが減った気がする」と感じたことはありませんか?こうした変化は、実は関節炎が原因であることが少なくありません。

猫の関節炎は犬以上に発見が遅れやすい疾患です。
6歳以上の猫の約6割、12歳以上では9割前後に変形性関節症が確認されるという報告もあるほど一般的でありながら、実際に診断・治療を受けている猫は全体のごく一部とされています。

今回は、猫の関節炎の分類・気づきにくい痛みのサイン・最新の治療薬までを詳しく解説します。


猫の関節炎も犬と同じく、関節内に炎症が起きているかどうかによって「非炎症性」と「炎症性」の2つに大別されます。そして炎症性関節炎はさらに、原因が細菌などの病原体によるものか(感染性)、免疫の異常によるものか(非感染性)で分けられます。
猫で圧倒的に多いのは「非炎症性」の変形性関節症ですが、好発する関節の場所や原因となる疾患は犬とは異なる点が多く、猫ならではの特徴を理解しておくことが大切です。
また、遺伝的な原因から関節疾患を起こしやすい猫種にも注意が必要です。

変形性関節症(Degenerative Joint Disease:DJD、Osteoarthritis:OAとも呼ばれる)は、猫の関節疾患のなかで最も多く見られます。
関節軟骨が徐々に摩耗・変性し、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成や関節包の肥厚が進行することで、慢性的な痛みと関節機能の低下をもたらします。

猫では肘関節が最も好発部位とする報告が複数あり、ほかに股関節や脊椎(特に腰椎〜仙椎)も多く侵されることが知られています。
脊椎に変化が起きると神経症状(痛みによる排泄困難など)が見られたり、背中をなでることを嫌がる場合もあります。

▶ 原発性変形性関節症(加齢性)

明らかな基礎疾患がなく、加齢に伴う軟骨の自然劣化が主な原因です。この原発性タイプは6歳前後から始まり、12歳以上ではほとんどの個体に何らかのX線上の変化が見られるとされています。(レントゲン上で変化が認められても、実際には無症状であるケースも多くあります。)

▶ 続発性変形性関節症(整形外科疾患由来)

基礎となる整形外科疾患や外傷が要因で二次的に発症するものであり、犬ほど高頻度ではありません。一方で、猫ならではの遺伝性疾患として「骨軟骨異形成症」が重要な原因のひとつとなっています。

▶ 骨軟骨異形成症 ── 猫に特有の遺伝性関節疾患

骨軟骨異形成症は、成長段階で関節軟骨の形成に異常が起こり、関節部分がこぶ状に腫れる「骨瘤(こつりゅう)」を生じる遺伝性疾患です。手首・足首・尾の関節に好発し、進行すると関節が動かしにくくなり、足を引きずる・抱っこや高い場所への着地を嫌がるといった症状が若齢のうちから現れる場合もあります。根治療法はなく、痛みのコントロールが治療の中心となります。

💡 骨軟骨異形成症を起こしやすい主な猫種

猫種 特徴
スコティッシュ・フォールド 最も発症リスクが高い猫種。耳が折れる遺伝子と骨軟骨異形成症の素因が連動しているため、多くがこの病気を抱えているとされる。手首・足首にこぶ状の骨瘤ができやすい。(スコティッシュには立ち耳のタイプの猫も存在し、折れ耳タイプの猫に比べると症状は軽度のことが多い。)
マンチカン 短い四肢を特徴とする品種改良の影響で、関節・軟骨形成に異常が出やすい。
アメリカンカール/ヒマラヤン/ペルシャ 骨軟骨異形成症の好発品種として知られる。鼻ぺちゃ・特徴的な体型を作る遺伝的背景が関節の発育にも影響する。

自己免疫機能の異常により、免疫システムが誤って自分の関節の滑膜を攻撃することで炎症が起こるタイプです。比較的犬での症例が多く、猫での発生はまれですが確認されています。発熱・元気消失・食欲低下といった全身症状を伴うことが多く、複数の関節に同時に痛みが出る(多発性関節炎)のが特徴です。猫でもX線検査で骨・軟骨の破壊像(びらん)が認められるかどうかによって、「非びらん性」と「びらん性」に分けられます。

▶ 非びらん性免疫介在性関節炎

X線では骨・軟骨の破壊像は見られないタイプです。特発性多発性関節炎や、基礎疾患に伴う反応性多発性関節炎、全身性エリテマトーデス(SLE)関連などが含まれます。猫では関節液検査による評価が変形性関節症との鑑別に重要です。

▶ びらん性免疫介在性関節炎(慢性進行性多発性関節炎など)

X線で骨・軟骨の破壊像が認められるタイプです。猫に特有のものとして「慢性進行性多発性関節炎」があり、1.5〜5歳前後の若い雄猫に多く発生するという特徴があります。猫白血病ウイルス(FeLV)などとの関連が指摘されていますが、直接的な因果関係は証明されていません。手首・足首の関節に好発し、進行すると関節の変形につながります。

細菌などの病原体が関節内に侵入することで起こる関節炎です。犬でより多く見られ、猫での発生はまれとされています。猫の場合は咬傷(猫同士のケンカによる傷)からの直接感染が主な経路です。通常は単一の関節に強い炎症・腫脹・熱感・疼痛が急激に生じます。関節液の細菌培養・感受性検査が診断の鍵となり、適切な抗菌薬投与と関節洗浄が治療の基本です。


猫は犬よりもさらに痛みを隠す傾向が強い動物です。犬と違ってお散歩の習慣もないため、歩き方や動きの変化に気づくきっかけ自体が少なくなりがちです。
次のような行動の変化は、痛みのサインである可能性があります。

カテゴリー 具体的なサイン
ジャンプ・移動の変化 高い場所に飛び乗らなくなった、段差を避ける、寝ている時間が増えた
毛づくろい・爪の変化 毛づくろいが減り毛玉ができやすくなった、爪とぎの頻度が減り爪が太くなる
排泄・行動の変化 トイレの縁を越えるのを嫌がる、触られるのを嫌がる、隠れがちになる
全身症状(炎症性に多い) 発熱・食欲不振・元気消失、複数の関節が同時に腫れる

猫の関節炎は症状だけでは判断が難しく、また猫はX線撮影などの検査自体がストレスになりやすいため、行動評価と画像検査を組み合わせた総合的な判断が重要です。

自宅での様子(ジャンプ・段差の昇降・毛づくろい・トイレの様子など)の問診や、飼い主による評価指数(Feline Musculoskeletal Pain Index:FMPIなど)が役立ちます。動画があれば診察時の評価がより正確になります。

関節の可動域・腫れ・熱感・痛みへの反応を確認します。ただし猫は病院で警戒・緊張しやすく、自宅では痛がる動きを病院では見せないこともあるため、診察だけで判断が難しい場合があります。

骨棘形成・関節裂隙の狭小化など変形性関節症の所見を確認します。ただし猫の変形性関節症は、X線上の変化の程度と実際の痛みの強さが必ずしも一致しないことが知られており、画像所見が乏しくても臨床的には強い痛みを伴っている場合があります。

炎症性関節炎が疑われる場合に行います。関節液中の炎症細胞の有無や細菌の有無を確認し、変形性関節症との鑑別、感染性・免疫介在性の判断に用いられます。


猫の関節炎治療における課題は、猫に安全に長期使用できる鎮痛薬の選択肢が多くないという点です。
猫は薬物代謝の特性上、NSAIDsの長期使用に大きな制約があり、また高齢猫では慢性腎臓病を合併していることが多いため、薬剤選択には特に注意が必要です。
各々使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で状態を確認することが大切です。

猫用のNSAIDsは、犬用と同じ有効成分の製品であっても「急性の疼痛・炎症の緩和」を目的とした短期使用が前提となっており、添付文書上の反復投与期間が定められています。
腎機能のモニタリングをしながら獣医師の管理下で慎重に使用する必要があります。

製品名 有効成分 猫における特徴・制約
オンシオール ロベナコキシブ COX-2高選択性のコキシブ系NSAID(COX-1阻害に対する選択性は猫で約40倍)。猫での効能は運動器疾患に伴う急性の疼痛及び炎症の緩和で、反復投与は日数制限がある。COX-2選択性が高いため理論上は胃腸・腎臓への影響がメロキシカムより少ないとされるが、慢性腎臓病の猫では油断せず慎重に使用する必要がある。副作用として嘔吐・軟便・食欲不振などの消化器症状が報告されている。
メタカム/メロキシリン メロキシカム 非選択的にCOX-1・COX-2を阻害するNSAID。猫での効能は運動器疾患に伴う急性の炎症及び疼痛の緩和で、反復投与する場合は日数制限がある。経口懸濁液タイプで微量からの用量調整がしやすい点が特徴で、より細かい体重対応が必要な場合に使われることがある。胃腸障害・腎機能低下・肝数値上昇などの副作用が報告されており、オンシオールと同様、長期・頻回の使用は推奨されない。

※ 猫の慢性腎臓病はNSAIDsの使用を大きく制限する要因です。NSAIDsはプロスタグランジンの産生を抑えますが、このプロスタグランジンは腎血流の維持にも関わっているため、腎機能が低下している猫では症状を悪化させるリスクがあります。慢性的な疼痛管理を目的とする場合は、後述する抗NGF抗体薬が選択肢になります。

2023年に日本で発売された、猫の変形性関節症向けの注射薬です。有効成分フルネベトマブ(frunevetmab)は、変形性関節症の慢性疼痛に関わる「NGF(神経成長因子)」を標的とするネコ化モノクローナル抗体製剤で、痛みの神経シグナル伝達をブロックします。NSAIDsとは異なる作用機序で、月1回の皮下注射により投与します。効果の発現には個体差があり、1回目の投与直後から劇的に動くようになる猫もいれば、2〜3回目の投与を重ねることでじわじわと本来の活気を取り戻す猫もいます。
肝臓・腎臓の代謝経路に依存しないため、NSAIDsの長期使用が難しい慢性腎臓病合併猫にも使用しやすい点が大きなメリットです。

長期的な関節の健康維持・進行予防・症状緩和の補助として広く活用されています。
治療薬との併用が一般的で、効果が出るまでに数か月かかることを念頭においたうえで継続することが大切です。
自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

製品名(主成分) 主な作用・特徴
コセクイン パウダーイン
(グルコサミン+低分子コンドロイチン硫酸)
猫用は錠剤ではなくパウダーインのカプセルタイプ。フードにふりかけるか、そのまま与えられる。
ダスクイン パウダーイン
(グルコサミン+低分子量コンドロイチン+ASU)
コンドロイチンを低分子化し腸での吸収率を高めた犬猫共用のカプセルタイプ。フードに混ぜて与えやすい。
アンチノール プラス 猫用
(EAB-277:モエギイガイ抽出脂質+クリルオイル)
海洋性脂質が関節の炎症を抑制し、皮膚・被毛・腎臓など全身の健康維持にも関与する。基本はソフトカプセルタイプだが、先端をカットして中身を出しやすい猫専用設計のカプセルも発売されている。
アンセット
(モエギイガイ抽出脂質)
アンチノールと同系統のモエギイガイ抽出脂質を主成分とする。関節・皮膚・被毛の健康補助を目的とし、カプセルが小さめで猫にもお口に含ませやすい形状。
グリコフレックスプラス猫用(おやつタイプ)
(グルコサミン+コンドロイチン+MSM+DMG)
軟骨基質の合成を支援するとともに、抗炎症作用により関節内の炎症や軟骨分解を抑制し、変形性関節症に伴う疼痛や関節機能の低下を軽減する。関節の健康維持や運動機能の改善を目的として用いられる。
SOPHIA スムーズラン
(グルコサミン+コンドロイチン+イミダゾールジペプチド)
関節成分(グルコサミン・コンドロイチン)に加え、筋肉の疲労回復・機能維持に関わるイミダゾールジペプチドを配合したサプリ。関節と筋力の両面をサポートする。

薬物療法を補完する目的で、以下のような補助療法が選択肢になることがあります。猫は犬よりも警戒心が強く、施術自体がストレスになる場合もあるため、猫の様子を見ながら無理のない範囲で行うことが大切です。

  • 低出力レーザー療法:患部にレーザーを照射し、血行促進・消炎・疼痛緩和を図る治療法。痛みを伴わず、麻酔も不要なため猫にも負担が少ない。
  • 鍼灸(中獣医学):経穴(ツボ)への鍼やお灸により血行を促進し、痛みの緩和を図る治療法。中獣医学の認定資格(獣医中医師など)を持つ獣医師が在籍する動物病院で受けられる。往診専門の動物病院が自宅で行えるよう取り入れているケースもある。

日常の生活環境を関節に負担をかけにくい形に整えることも、QOL向上につながります。愛猫の目線に立って、段差や障害物を猫の通り道から除去し、痛みのある動作を減らしてあげることも大切です。

  • スロープ・ステップの設置:ジャンプが必要な高さへの昇降をサポートし、関節への衝撃を和らげる。
  • トイレ・食器の見直し:縁の低いトイレへの変更、フードボウル・ウォーターボウルを低い位置に置くことで、足を高く上げる動作を減らす。
  • 爪とぎ環境の見直し:縦型から床置き型・スロープ型の爪とぎへの変更により、伸びをするような姿勢を取らずに爪とぎができるようにする。
  • 床材・寝床の工夫:滑りやすいフローリングにマットやクッションフロアを敷き、踏ん張る際の関節負担を減らす。寝床は低い場所に移動し、クッション性を高める。

  • 猫の関節炎は「非炎症性(変形性関節症)」「炎症性・非感染性(免疫介在性)」「炎症性・感染性(細菌性)」の3つに分類され、骨軟骨異形成症という特徴的な遺伝性疾患が存在する。
  • 猫はNSAIDsの長期使用に制約があり、慢性腎臓病合併例も多いため薬剤選択には特に注意が必要。
  • 抗NGF抗体薬ソレンシアは肝臓・腎臓への負担が少なく、月1回の注射で慢性疼痛にアプローチできる新しい選択肢。
  • サプリメントは猫が飲みやすい剤形(パウダー・小粒カプセルなど)への工夫が進んでいる。

猫の関節炎は犬よりもさらに気づかれにくく、高齢になればなるほど高い確率で存在している疾患です。
日常の小さな変化に目を向けることが、早期発見への第一歩になります。
お薬だけに頼らず、生活環境の整備を組み合わせることがQOL向上の鍵となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

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  • Gruen ME, Thomson AE, Griffith EH, et al. A feline-specific anti-nerve growth factor antibody improves mobility in cats with degenerative joint disease-associated pain: a pilot proof of concept study. J Vet Intern Med. 2016;30(4):1138-1148.
  • Lascelles BDX, et al. Cross-sectional study evaluating the prevalence of radiographic degenerative joint disease in cats. Vet Surg. 2010;39(5):535-544.
  • Bennett D, et al. Osteoarthritis in the cat: 1. how common is it and how easy to recognise? J Feline Med Surg. 2012;14(1):65-75.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(オンシオール・メタカム・ソレンシア添付文書).
  • エランコジャパン株式会社. オンシオール錠 添付文書情報. https://my.elanco.com/jp/products/onsior
  • ゾエティス・ジャパン株式会社. ソレンシア 製品情報.

犬の関節炎とは?痛みのサインと治療薬について解説【獣医師執筆】

愛犬が「最近なんとなく動きが鈍くなった」と感じたことはありませんか?
こうした変化は、単なる老化ではなく「関節炎」が原因である可能性があります。「関節炎」は犬に非常に多い疾患のひとつで、特に中高齢犬では40%以上が何らかの関節疾患を抱えているという報告もあります。
痛みをうまく表現できない犬の場合、症状が見過ごされやすく、適切なケアが遅れがちです。

今回は、関節炎の正しい分類・痛みのサイン、最新の治療薬とサプリメントまでを詳しく解説します。


犬の関節炎は、まず関節内に炎症が起きているかどうかによって「非炎症性」と「炎症性」の2つに大別されます。
そして「炎症性」関節炎はさらに、『原因が細菌などの病原体によるもの(感染性)』と『免疫の異常によるもの(非感染性)』に分けられます。

また、一般に「関節炎」と聞くと炎症のイメージが強いですが、犬で最も多いのは実は「非炎症性」の変形性関節症です。同じ「跛行(足をかばう歩き方)」という症状でも、関節炎の種類によって治療法が異なります。

以下、各々の「関節炎」について解説していきます。

変形性関節症(Osteoarthritis:OA)は、犬の関節疾患のなかで最も多く見られます。関節軟骨が徐々に摩耗・変性し、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成や関節包の肥厚が進行することで、慢性的な痛みと関節機能の低下をもたらします。進行の主体は軟骨の破壊であり、関節液中の炎症細胞は少ないのが特徴です。一度失われた軟骨は自然には再生しないため、治療の目標は「進行を遅らせること」と「痛みを緩和すること」が中心になります。

▶ 原発性変形性関節症

明らかな基礎疾患がなく、加齢に伴う軟骨の自然劣化が主な原因です。高齢犬に多く、複数の関節に症状が出ることもあります。

▶ 続発性変形性関節症

基礎となる整形外科疾患や外傷が要因となり、二次的に発症するものです。犬では原発性より発生が多く、大型犬・超大型犬で多い傾向がありますが、小型犬に多い膝蓋骨脱臼のように犬種によってリスクが異なります。若齢時の関節異常が中高齢になってから変形性関節症として現れるケースも少なくありません。

💡 変形性関節症を起こす主な関節疾患と好発犬種

主な疾患 概要と好発傾向
股関節形成不全(HD) 股関節の発育異常で関節に緩みや摩耗が生じ、中高齢で変形性関節症へ移行しやすい。大型犬に多く、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなどで特に注意。
肘関節形成不全(ED) 肘関節を構成する骨の発育不均衡による疾患の総称。若齢期から跛行が現れ関節炎へ進行する。大型犬(ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなど)に多い。
膝蓋骨脱臼(パテラ) 膝の皿(膝蓋骨)が正常位置から外れる疾患。繰り返すことで軟骨が摩耗し関節炎へ移行する。小型犬全般(トイプードル、チワワ、ポメラニアンなど)に多い。
前十字靭帯断裂 膝関節を安定させる靭帯の断裂。放置すると関節炎へ進行する。中〜大型犬や肥満犬(ラブラドール・レトリーバー、ロットワイラーなど)で多いが、小型犬でも発生する。
骨軟骨症(OCD) 急成長期に軟骨の一部が剥離・遊離する疾患。大型・超大型犬の若齢期に多い(ラブラドール・レトリーバー、グレートデーンなど)。

※ 肥満・過剰な運動・栄養不均衡はいずれの犬種でも続発性変形性関節症のリスクを高めます。

自己免疫機能の異常により、免疫システムが誤って自分の関節の滑膜を攻撃することで炎症が起こるタイプです。変形性関節症とは異なり、関節液中に炎症細胞が多数認められます。発熱・元気消失・食欲低下といった全身症状を伴うことが多く、複数の関節に同時に痛みが出る(多発性関節炎)、症状に波があるといった特徴があります。X線検査で軟骨・骨に破壊像(びらん)が認められるかどうかによって、「非びらん性」と「びらん性」に分けられます。

▶ 非びらん性免疫介在性関節炎(特発性多発性関節炎など)

免疫介在性関節炎のなかで最も多いタイプです。レントゲン検査では骨・軟骨の破壊像は見られず、関節液検査で炎症細胞(主に好中球)の増加が確認されます。特定の基礎疾患が見当たらない「特発性」のものが最多で、3〜7歳での発症が多いとされますが、幅広い年齢で発症します。繰り返す発熱・複数関節の腫れ・移動性の跛行(痛む場所が変わる)が典型的なサインです。治療はステロイド(プレドニゾロン)が主体です。

▶ びらん性免疫介在性関節炎(関節リウマチなど)

犬での発症は比較的まれです。レントゲン検査で軟骨・骨の進行性破壊像(びらん)が認められます。手根関節・足根関節に生じやすく、進行すると関節が変形することがあります。非びらん性よりも予後が慎重で、ステロイドに加えて免疫抑制剤の使用が必要となるケースがあります。

細菌などの病原体が関節内に侵入することで起こる関節炎です。外傷・手術・隣接部位からの感染波及(骨髄炎など)が原因となることが多く、通常は単一の関節に強い炎症・腫脹・熱感・疼痛が急激に生じます。関節液の細菌培養・感受性検査が診断の鍵となり、適切な抗菌薬投与と関節洗浄が治療の基本です。早期治療が遅れると関節の不可逆的な破壊が進行するため、迅速な対応が求められます。


犬は本能的に痛みを隠す傾向があります。「まだ歩けているから大丈夫」ではなく、日常行動の小さな変化を見逃さないことが大切です。主な症状には以下のようなものがあります。

カテゴリー 具体的なサイン
動作・歩様の変化 階段・段差の昇降をためらう、飛び降りができなくなった、跛行(足をかばう歩き方)、歩き始めがぎこちないが動くと楽になる、痛む足が変わる(移動性跛行)
活動性・体の変化 散歩をいやがる・すぐ疲れる、横になる時間が増えた、背中を丸める、関節の腫れ・熱感、筋肉の左右差(萎縮)
行動・態度の変化 触られるのを嫌がる・性格が変わった(攻撃的・引きこもり)、患部をなめる・噛む、夜中に鳴く
全身症状 発熱・食欲不振・元気消失、複数の関節が同時に腫れる、症状に波がある ※炎症性関節炎に多い

変形性関節症と炎症性関節炎では治療法が根本的に異なります。「どの種類の関節炎か」を正確に診断することが、適切な治療への第一歩です。

各関節の触診による腫れ・熱感・可動域の確認、歩様の観察が基本です。オルソレーニテスト(股関節形成不全)や引き出し試験(前十字靭帯損傷)など、疾患ごとの特異的な検査も行われます。

変形性関節症では骨棘形成・関節裂隙の狭小化・軟骨下骨の硬化が確認できます。びらん性関節炎では軟骨・骨の破壊像が認められ、非びらん性との鑑別に重要です。初期段階では変化が乏しいことがあるため、症状経過とあわせて総合的に判断します。

炎症性との鑑別に最重要な検査です。関節腔に針を刺して関節液を採取し、色・粘稠度・炎症細胞の種類と数・菌の有無を観察します。変形性関節症では細胞数が少なく、炎症性関節炎では好中球などの炎症細胞が著明に増加します。感染性が疑われる場合は細菌培養・感受性試験も行います。

炎症マーカー(CRP・白血球数)の上昇は炎症性関節炎を示唆します。免疫介在性の評価には抗核抗体(ANA)なども用いられます。NSAIDs長期投与前後の腎臓・肝臓機能のモニタリングにも必須です。

靭帯・軟骨・滑膜など軟部組織の状態評価や、手術適応の検討に使用されます。MRIは軟骨損傷・滑膜炎の精密評価に優れています。


犬の関節炎の治療は「痛みの緩和・進行の抑制・QOL(生活の質)の維持」が目標です。
変形性関節症には薬物療法・サプリメント・体重管理・理学療法・環境整備を組み合わせたアプローチが推奨されます。また、免疫介在性関節炎では免疫抑制療法が主体となり、治療方針が大きく変わります。
各々使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で状態を確認することが大切です。

変形性関節症・感染性関節炎の痛みと炎症に対する第一選択薬です。現在では、COX-2を選択的に阻害するコキシブ系などの製品が主流で、従来の非選択的NSAIDsと比較して胃腸への負担が少なく、長期使用に適しています。
なお、免疫介在性関節炎にはステロイド・免疫抑制剤が主体となるため、NSAIDsの適応ではありません。長期投与時は定期的な血液検査(腎臓・肝臓の評価)が必須です。他のNSAIDsやステロイドとの併用は禁忌です。

製品名 有効成分 特徴
オンシオール ロベナコキシブ COX-2高選択性のコキシブ系NSAID。炎症部位に集積・持続する特性があり、作用発現が早く効果が持続する。1日1回投与。急性・慢性どちらにも使用可。
リマダイル カルプロフェン 長年の使用実績がある代表的NSAIDs。長期投与が可能。チュアブル錠もあり、投薬しやすい。
メタカム / インフラカム メロキシカム 経口懸濁液・チュアブル錠の剤形あり。体重に合わせて細かく用量調整しやすく、小型犬から大型犬まで幅広く対応可能。長期投与の実績が豊富なNSAIDsのひとつ。
フィロコックス / プレビコックス フィロコキシブ 犬専用の選択的COX-2阻害薬。チュアブル錠で投薬しやすく、変形性関節症に伴う慢性疼痛・炎症を緩和する。消化器系への影響が少ない。

免疫介在性関節炎では、免疫抑制療法が治療の主体となります。

  • プレドニゾロン(ステロイド):免疫抑制量で開始し、症状の改善とともに漸減します。多くの症例で速やかな効果が得られますが、長期使用では多飲多尿・体重増加・感染症リスクなどの副作用に注意が必要です。
  • シクロスポリンなどの免疫抑制剤:ステロイド単独での維持が難しい場合や、副作用軽減のためにステロイドの減量を目的として追加・切り替えが行われます。

治療期間は長期に及ぶことが多く、6ヶ月以上の継続が目安となります。しっかりと再発を防ぐためにも、焦らず腰を据えてモニタリングを続けていくことが大切です。

2023年に日本で承認された、犬の変形性関節症向けの新しい鎮痛薬です。
有効成分ベジンベトマブは、変形性関節症の慢性疼痛に関わる「NGF(神経成長因子)」を標的とするモノクローナル抗体製剤で、痛みの神経シグナル伝達を根本からブロックします。月1回の皮下注射で投与します。

NSAIDsとはまったく異なる作用機序のため、今までの飲み薬であまり効果がなかった犬や、腎臓・肝臓への負担が懸念される高齢犬でも使用を検討できる点が大きなメリットです。
効果の発現は投与後7日目から認められ、はっきりとした効果が実感できるのは2〜3回目の投与以降が多いとされています。

有効成分としてポリ硫酸ペントサンナトリウムを配合。
軟骨基質の産生促進・軟骨破壊酵素の阻害・関節液の粘稠性改善・滑膜の血流改善など、多角的な関節保護作用をもつ注射剤です。

NSAIDsと組み合わせることで相乗効果が期待でき、初期〜中等度の変形性関節症に有用とされています。
通常は7日おきに1回×4週間を『1クール』として皮下注射します。

長期的な関節の健康維持・進行予防・症状緩和の補助として広く活用されています。治療薬との併用が一般的で、効果が出るまでに数か月かかることを念頭においたうえで継続することが大切です。
犬の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

製品名(主成分) 主な作用・特徴
コセクイン
(グルコサミン+コンドロイチン硫酸)
グルコサミンは軟骨の構成材料として軟骨細胞の修復・保護を助け、コンドロイチン硫酸は軟骨のクッション性と関節液の粘度を維持する。2成分の相乗効果が期待される定番製品。
ダスクイン
(グルコサミン+低分子量コンドロイチン+ASU+MSM)
コンドロイチンを低分子化し腸での吸収率を約70%に向上。アボカド大豆不鹸化物(ASU)・MSMも配合し、軟骨保護と抗炎症作用を多角的にサポート。
アンチノール プラス
(EAB-277:モエギイガイ抽出脂質+クリルオイル)
脂肪酸を含む海洋性脂質が関節の炎症を抑制。抗炎症作用・関節保護に加え、皮膚・被毛・心血管・腎臓など全身の健康維持にも関与する。
アンセット
(モエギイガイ抽出脂質)
アンチノールと同系統のモエギイガイ抽出脂質を主成分とする。関節・皮膚・被毛の健康補助を目的とし、カプセルが小さめで小型犬にもお口に含ませやすい形状。
グリコフレックスプラス
(グルコサミン+コンドロイチン+MSM+DMG)
軟骨基質の合成を支援するとともに、抗炎症作用により関節内の炎症や軟骨分解を抑制し、変形性関節症に伴う疼痛や関節機能の低下を軽減する。関節の健康維持や運動機能の改善を目的として用いられる。
SOPHIA スムーズラン
(グルコサミン+コンドロイチン+イミダゾールジペプチド)
関節成分(グルコサミン・コンドロイチン)に加え、筋肉の疲労回復・機能維持に関わるイミダゾールジペプチドを配合したサプリ。関節と筋力の両面をサポートする。
  • 理学療法・リハビリテーション:水中トレッドミル(水中歩行)、マッサージ、ストレッチ、温熱療法など。筋力維持・血流促進・疼痛軽減に有効で、薬物療法との組み合わせが推奨される。
  • 低出力レーザー療法:疼痛緩和・組織修復促進を目的として使用。副作用が少なく高齢犬にも適用しやすい。
  • 鍼灸:慢性疼痛の緩和に一定の効果が報告されており、薬物療法の補完として活用されることがある。
  • 外科手術:股関節全置換術・関節固定術・骨切り術など。内科療法で管理困難な重症例に実施される。

  • 犬の関節炎は「非炎症性(変形性関節症)」「炎症性・非感染性(免疫介在性)」「炎症性・感染性(細菌性)」の3つに分類される。
  • 変形性関節症は軟骨の摩耗・変性が主体で犬の関節炎で最も多い。NSAIDsが第一選択薬で、新薬リブレラ(抗NGF抗体)も有力な選択肢。
  • 免疫介在性関節炎は発熱・全身症状・移動性跛行が特徴。治療はステロイド・免疫抑制剤が主体で、NSAIDsは適応外となる。
  • 鑑別診断には関節液検査が最重要。同じ「跛行」でも原因によって治療が大きく変わる。
  • 体重管理・適切な運動・環境整備を治療と組み合わせることが長期管理の基本。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

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犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)~見逃しやすい症状と治療薬について~【獣医師執筆】

「最近、水をよく飲むようになった」「お腹がぽっこり膨らんできた」「毛が抜けて薄くなってきた気がする」──愛犬のそんな変化に気づいたとき、病気が隠れているかもしれません。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、中高齢の犬に比較的よく見られるホルモンの病気ですが、症状が「老化のせいかな」と見逃されやすく、飼い主さんが異常に気付いて病院を受診するまでに、病状が進行してしまっているケースも少なくありません。今回は、クッシング症候群の基本の診断・よくみられる症状・基本となる治療薬について解説します。


副腎は腎臓のすぐ近くにあります。犬ではわずか数mm程度の厚さの小さな臓器で、生体にとって欠かせない複数のホルモンを分泌しています。その中でも特に重要なのが「コルチゾール(糖質コルチコイド)」です。

コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、血糖値の調整・炎症の抑制・免疫のコントロール・脂質やタンパク質の代謝など、非常に広範な働きを担っています。病院でよく使われるステロイド系消炎薬(プレドニゾロンなど)は、このコルチゾールをもとに作られた薬です。

コルチゾールの分泌量は、脳と副腎の間の精密なフィードバック回路「HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)」によって厳密に制御されています。

  • 視床下部がCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌
  • CRHを受けた下垂体がACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌
  • ACTHが副腎に届き、コルチゾールが合成・分泌される
  • 血中コルチゾールが増えると視床下部・下垂体へのフィードバックで分泌にブレーキがかかる

この制御機構のどこかに異常が生じてブレーキが効かなくなると、コルチゾールが過剰に出続ける状態を引き起こします。この過剰なホルモンが、体内のあらゆるところで悪影響を及ぼすのがクッシング症候群です。

コルチゾール過剰の原因は大きく3つに分類され、タイプによって好発犬種・治療方針が大きく異なります。
自然発生型の発症は8〜11歳前後が中心で、5歳以上からリスクが高まります。

タイプ 原因・割合・特徴 好発犬種・体型
下垂体性(PDH) 脳の下垂体に腫瘍ができACTHが過剰分泌され、副腎を慢性的に刺激し続ける。全体の約80〜85%を占める最多タイプ。基本的に両側副腎が肥大する。 小型犬に多い。プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ヨークシャーテリア、ボクサー・ボストンテリアなど。
副腎腫瘍性(AT) 副腎が腫瘍(良性・悪性)化し自律的にコルチゾールを過剰分泌。全体の約15〜20%。悪性(腺がん)が約50%を占め転移リスクあり。 特定犬種の好発傾向は確認されていないが、中大型犬に多い傾向。小型犬での発症も珍しくはない。
医原性クッシング ステロイド薬の長期・過剰投与により、外部からコルチゾール相当のホルモンが供給され続けた結果生じる。自然発生とは本質的に別の病態で、原因薬の漸減により改善する。 長期的にステロイドの投与を受けている犬全般が対象。

クッシング症候群は症状がゆっくり進行するうえ、老化として見逃されやすいのが特徴です。
以下のサインを一つでも感じたら、念のため獣医師に相談してみましょう。

症状 メカニズム
多飲・多尿(飲水量が増える・尿が増える) コルチゾール過剰が抗利尿ホルモン(ADH)の分泌・作用を阻害することで腎臓が水を再吸収できなくなり、尿が大量に出る。それを補うため飲水量も増加する。体重1kgあたり1日100ml以上の飲水量(例:5kgの犬で500ml/日超)が続く場合は要注意。
多食 メカニズムは完全には解明されていないが、コルチゾールが中枢神経系の食欲調節に影響を与えると考えられている。
腹部膨満(お腹がポッコリ) 腹腔内脂肪の蓄積に加え、コルチゾールによる腹筋の萎縮が重なり、たれ腹状になる。体重の割にお腹だけ目立って大きくなる。
左右対称の脱毛・皮膚症状 コルチゾールが皮膚組織を萎縮させることで、尾の付け根・背中・脇腹などに左右対称の脱毛や皮膚石灰化などが生じる。
筋力低下・運動不耐性 筋肉が萎縮し、特に体幹部が弱る。散歩を嫌がる・疲れやすくなる。
息切れ・呼吸が浅い 腹部膨満による横隔膜の圧迫で呼吸が苦しくなるほか、筋力低下で体力も落ちているため疲れやすい。
皮膚が薄くなる・毛細血管が透けて見える コルチゾールが皮膚コラーゲンを破壊し続けることで皮膚が非常に脆くなる。傷つきやすく感染しやすい状態になり細菌性皮膚炎をおこしやすくなる場合がある。

クッシング症候群を治療せずにいると、糖尿病・高血圧・肺血栓塞栓症(突然の呼吸困難)・細菌性膀胱炎や皮膚感染症・骨粗鬆症・皮膚や組織への石灰沈着、さらに下垂体腫瘍が大きくなった場合には眼振・旋回・痙攣などの神経症状が現れることがあります。


外見上の皮膚や被毛の状態、飲水量などの情報からクッシング症候群を疑う場合には、まず血液検査・尿検査・超音波検査を行います。クッシング症候群に特徴的な異常として、以下のものが挙げられます。

  • ALT・ALP(肝酵素)の著明な上昇(特にALP)
  • コレステロール・中性脂肪の高値
  • 好酸球の減少、リンパ球の減少(ストレス白血球像)
  • 尿比重の低下(希薄な尿)、尿タンパク陽性
  • 超音波検査で副腎の大きさチェック(大きさが正常でも完全否定はできない)

クッシング症候群の確定診断にはホルモン機能検査が必要です。主に以下の検査が行われます。

検査名 方法・内容 特徴・注意点
低用量デキサメサゾン抑制試験(LDDST) デキサメサゾンを投与し、8時間後のコルチゾールを測定。正常なら抑制されるが、クッシングでは抑制されない。 感度が高く、副腎腫瘍性との鑑別にも役立つ。ただし非副腎疾患やストレスで偽陽性が出やすい点に注意。
ACTH刺激試験 最もよく行われる検査。合成ACTHを投与し、投与前後のコルチゾールを測定。クッシングでは過剰反応を示す。 治療モニタリングにも使用。医原性クッシングの鑑別にも重要。
尿中コルチゾール/クレアチニン比(UCC) 尿中のコルチゾールとクレアチニンの比率を計測。 採尿が自宅でも可能。スクリーニングに有用。

超音波検査(エコー)で両側の副腎の大きさ・形態を確認します。
下垂体性では両側副腎が対称的に肥大し、副腎腫瘍性では腫瘍側が肥大する一方、対側の副腎はACTH低下により萎縮・小型化する場合が多いです。この左右差がタイプ鑑別の重要な手がかりになります。
MRI/CTは下垂体腫瘍の存在確認や、副腎腫瘍の転移・浸潤評価に用いられる場合があります。


クッシング症候群の治療の目的は「コルチゾールの過剰分泌を抑制し、症状を改善してQOL(生活の質)を保つこと」です。タイプによって方針が異なりますが、内科的治療(薬剤治療)が中心となります。

下垂体性・副腎腫瘍性のどちらにも、コルチゾールの合成や分泌を抑制する薬剤を用います。
詳しくは次章で解説します。治療は基本的に終生継続となります。

副腎腫瘍性で良性かつ切除可能な場合、外科的切除が根治につながる可能性があります。
一方、下垂体性では下垂体腫瘍の摘出術や放射線治療が根本的な治療ですが、実施できる施設は限られており、治療リスクもあるため内科治療を行うことがほとんどです。

ステロイド薬の長期使用が原因のため、獣医師の指示のもとで少しずつ減量します。
突然の中止は「副腎クリーゼ」(急性のショック症状)を引き起こす危険があるため、自己判断でやめてはいけません。


クッシング症候群の内科治療薬は、作用機序がそれぞれ大きく異なります。いずれも獣医師の処方・指示のもとで使用し、定期的なモニタリングが必須です。

項目 内容
作用機序 副腎でコルチゾールを合成する酵素(3β-HSD)を選択的に阻害し、産生を抑制する。副腎を破壊せず「合成を抑える」可逆的なアプローチを行うため、ミトタンよりも安全性が高く第一選択薬として用いられる。
効果 投与開始から数日〜2週間で多飲多尿・食欲の改善が始まることが多い。脱毛の改善には数か月を要する場合もある。
注意点・副作用 過剰投与による副腎壊死・副腎クリーゼ(嘔吐・虚脱・元気消失)が最大リスク。電解質バランスや肝酵素への影響も定期的に確認する。
モニタリング 投与開始後10〜14日目にACTH刺激試験でコルチゾールを確認し用量調整。以降は1〜3か月ごとに継続する。検査頻度は犬の状態で個別に判断する。
項目 内容
作用機序 副腎皮質細胞を選択的に壊死・萎縮させコルチゾール産生能力そのものを低下させる。「副腎を壊す」ため過剰投与に十分な注意が必要。
効果 導入が成功すると長期寛解が得られる症例もある。
注意点・副作用 副腎クリーゼ・アジソン病への移行リスクもあり、嘔吐・下痢・虚脱が出たら即中止+緊急受診が必要。
現在の位置づけ トリロスタンが普及した現在、使用頻度は減少していますが、トリロスタンが無効な症例や重症例、また入手困難な状況などにおいては、今なお重要な選択肢となる場合があります。なお、本剤は国内において人間用医薬品としてのみ承認されており、動物用医薬品としての承認は受けていません。獣医師が必要に応じて適応外使用することがあります。

クッシング症候群に対する有効性が明確に確認されたサプリメントはありません。
以下は理論的根拠や他疾患でのエビデンスを類推して使われているものです。薬剤治療の代替にはならない点を踏まえたうえ、獣医師の指導の下で適切に使用しましょう。

成分 使用される理由・根拠の現状 製品例
シリマリン(ミルクシスル)・SAMe・タウリン 犬の慢性肝疾患への肝保護作用は獣医学的に認知されており臨床現場でも広く使われている。コルチゾール過剰やトリロスタン投与が肝臓に負担をかけるという理論的背景から補助的に用いられることがある。 リバガード、ヘパアクト
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA) 犬の関節炎・皮膚炎・高脂血症への抗炎症効果は複数の研究で示されている。クッシングに伴う高脂血症・皮膚症状・心血管リスクへの補助として使われることがあるが、クッシング特異的なエビデンスはない。 ANSET(アンセット)、モエギタブ

  • 多飲多尿・腹部膨満・脱毛・多食など、「老化と思いがちな症状」に注意する
  • 確定診断には血液検査・尿検査・ホルモン機能検査・画像検査の組み合わせが必要
  • 副腎クリーゼ(嘔吐・元気消失・虚脱)が出たら即投薬中止・緊急受診
  • 定期的なホルモン検査・血液検査・尿検査で継続的にモニタリングする

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

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