犬の関節炎とは?痛みのサインと治療薬について解説【獣医師執筆】

愛犬が「最近なんとなく動きが鈍くなった」と感じたことはありませんか?
こうした変化は、単なる老化ではなく「関節炎」が原因である可能性があります。「関節炎」は犬に非常に多い疾患のひとつで、特に中高齢犬では40%以上が何らかの関節疾患を抱えているという報告もあります。
痛みをうまく表現できない犬の場合、症状が見過ごされやすく、適切なケアが遅れがちです。

今回は、関節炎の正しい分類・痛みのサイン、最新の治療薬とサプリメントまでを詳しく解説します。


犬の関節炎は、まず関節内に炎症が起きているかどうかによって「非炎症性」と「炎症性」の2つに大別されます。
そして「炎症性」関節炎はさらに、『原因が細菌などの病原体によるもの(感染性)』と『免疫の異常によるもの(非感染性)』に分けられます。

また、一般に「関節炎」と聞くと炎症のイメージが強いですが、犬で最も多いのは実は「非炎症性」の変形性関節症です。同じ「跛行(足をかばう歩き方)」という症状でも、関節炎の種類によって治療法が異なります。

以下、各々の「関節炎」について解説していきます。

変形性関節症(Osteoarthritis:OA)は、犬の関節疾患のなかで最も多く見られます。関節軟骨が徐々に摩耗・変性し、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成や関節包の肥厚が進行することで、慢性的な痛みと関節機能の低下をもたらします。進行の主体は軟骨の破壊であり、関節液中の炎症細胞は少ないのが特徴です。一度失われた軟骨は自然には再生しないため、治療の目標は「進行を遅らせること」と「痛みを緩和すること」が中心になります。

▶ 原発性変形性関節症

明らかな基礎疾患がなく、加齢に伴う軟骨の自然劣化が主な原因です。高齢犬に多く、複数の関節に症状が出ることもあります。

▶ 続発性変形性関節症

基礎となる整形外科疾患や外傷が要因となり、二次的に発症するものです。犬では原発性より発生が多く、大型犬・超大型犬で多い傾向がありますが、小型犬に多い膝蓋骨脱臼のように犬種によってリスクが異なります。若齢時の関節異常が中高齢になってから変形性関節症として現れるケースも少なくありません。

💡 変形性関節症を起こす主な関節疾患と好発犬種

主な疾患 概要と好発傾向
股関節形成不全(HD) 股関節の発育異常で関節に緩みや摩耗が生じ、中高齢で変形性関節症へ移行しやすい。大型犬に多く、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなどで特に注意。
肘関節形成不全(ED) 肘関節を構成する骨の発育不均衡による疾患の総称。若齢期から跛行が現れ関節炎へ進行する。大型犬(ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなど)に多い。
膝蓋骨脱臼(パテラ) 膝の皿(膝蓋骨)が正常位置から外れる疾患。繰り返すことで軟骨が摩耗し関節炎へ移行する。小型犬全般(トイプードル、チワワ、ポメラニアンなど)に多い。
前十字靭帯断裂 膝関節を安定させる靭帯の断裂。放置すると関節炎へ進行する。中〜大型犬や肥満犬(ラブラドール・レトリーバー、ロットワイラーなど)で多いが、小型犬でも発生する。
骨軟骨症(OCD) 急成長期に軟骨の一部が剥離・遊離する疾患。大型・超大型犬の若齢期に多い(ラブラドール・レトリーバー、グレートデーンなど)。

※ 肥満・過剰な運動・栄養不均衡はいずれの犬種でも続発性変形性関節症のリスクを高めます。

自己免疫機能の異常により、免疫システムが誤って自分の関節の滑膜を攻撃することで炎症が起こるタイプです。変形性関節症とは異なり、関節液中に炎症細胞が多数認められます。発熱・元気消失・食欲低下といった全身症状を伴うことが多く、複数の関節に同時に痛みが出る(多発性関節炎)、症状に波があるといった特徴があります。X線検査で軟骨・骨に破壊像(びらん)が認められるかどうかによって、「非びらん性」と「びらん性」に分けられます。

▶ 非びらん性免疫介在性関節炎(特発性多発性関節炎など)

免疫介在性関節炎のなかで最も多いタイプです。レントゲン検査では骨・軟骨の破壊像は見られず、関節液検査で炎症細胞(主に好中球)の増加が確認されます。特定の基礎疾患が見当たらない「特発性」のものが最多で、3〜7歳での発症が多いとされますが、幅広い年齢で発症します。繰り返す発熱・複数関節の腫れ・移動性の跛行(痛む場所が変わる)が典型的なサインです。治療はステロイド(プレドニゾロン)が主体です。

▶ びらん性免疫介在性関節炎(関節リウマチなど)

犬での発症は比較的まれです。レントゲン検査で軟骨・骨の進行性破壊像(びらん)が認められます。手根関節・足根関節に生じやすく、進行すると関節が変形することがあります。非びらん性よりも予後が慎重で、ステロイドに加えて免疫抑制剤の使用が必要となるケースがあります。

細菌などの病原体が関節内に侵入することで起こる関節炎です。外傷・手術・隣接部位からの感染波及(骨髄炎など)が原因となることが多く、通常は単一の関節に強い炎症・腫脹・熱感・疼痛が急激に生じます。関節液の細菌培養・感受性検査が診断の鍵となり、適切な抗菌薬投与と関節洗浄が治療の基本です。早期治療が遅れると関節の不可逆的な破壊が進行するため、迅速な対応が求められます。


犬は本能的に痛みを隠す傾向があります。「まだ歩けているから大丈夫」ではなく、日常行動の小さな変化を見逃さないことが大切です。主な症状には以下のようなものがあります。

カテゴリー 具体的なサイン
動作・歩様の変化 階段・段差の昇降をためらう、飛び降りができなくなった、跛行(足をかばう歩き方)、歩き始めがぎこちないが動くと楽になる、痛む足が変わる(移動性跛行)
活動性・体の変化 散歩をいやがる・すぐ疲れる、横になる時間が増えた、背中を丸める、関節の腫れ・熱感、筋肉の左右差(萎縮)
行動・態度の変化 触られるのを嫌がる・性格が変わった(攻撃的・引きこもり)、患部をなめる・噛む、夜中に鳴く
全身症状 発熱・食欲不振・元気消失、複数の関節が同時に腫れる、症状に波がある ※炎症性関節炎に多い

変形性関節症と炎症性関節炎では治療法が根本的に異なります。「どの種類の関節炎か」を正確に診断することが、適切な治療への第一歩です。

各関節の触診による腫れ・熱感・可動域の確認、歩様の観察が基本です。オルソレーニテスト(股関節形成不全)や引き出し試験(前十字靭帯損傷)など、疾患ごとの特異的な検査も行われます。

変形性関節症では骨棘形成・関節裂隙の狭小化・軟骨下骨の硬化が確認できます。びらん性関節炎では軟骨・骨の破壊像が認められ、非びらん性との鑑別に重要です。初期段階では変化が乏しいことがあるため、症状経過とあわせて総合的に判断します。

炎症性との鑑別に最重要な検査です。関節腔に針を刺して関節液を採取し、色・粘稠度・炎症細胞の種類と数・菌の有無を観察します。変形性関節症では細胞数が少なく、炎症性関節炎では好中球などの炎症細胞が著明に増加します。感染性が疑われる場合は細菌培養・感受性試験も行います。

炎症マーカー(CRP・白血球数)の上昇は炎症性関節炎を示唆します。免疫介在性の評価には抗核抗体(ANA)なども用いられます。NSAIDs長期投与前後の腎臓・肝臓機能のモニタリングにも必須です。

靭帯・軟骨・滑膜など軟部組織の状態評価や、手術適応の検討に使用されます。MRIは軟骨損傷・滑膜炎の精密評価に優れています。


犬の関節炎の治療は「痛みの緩和・進行の抑制・QOL(生活の質)の維持」が目標です。
変形性関節症には薬物療法・サプリメント・体重管理・理学療法・環境整備を組み合わせたアプローチが推奨されます。また、免疫介在性関節炎では免疫抑制療法が主体となり、治療方針が大きく変わります。
各々使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で状態を確認することが大切です。

変形性関節症・感染性関節炎の痛みと炎症に対する第一選択薬です。現在では、COX-2を選択的に阻害するコキシブ系などの製品が主流で、従来の非選択的NSAIDsと比較して胃腸への負担が少なく、長期使用に適しています。
なお、免疫介在性関節炎にはステロイド・免疫抑制剤が主体となるため、NSAIDsの適応ではありません。長期投与時は定期的な血液検査(腎臓・肝臓の評価)が必須です。他のNSAIDsやステロイドとの併用は禁忌です。

製品名 有効成分 特徴
オンシオール ロベナコキシブ COX-2高選択性のコキシブ系NSAID。炎症部位に集積・持続する特性があり、作用発現が早く効果が持続する。1日1回投与。急性・慢性どちらにも使用可。
リマダイル カルプロフェン 長年の使用実績がある代表的NSAIDs。長期投与が可能。チュアブル錠もあり、投薬しやすい。
メタカム / インフラカム メロキシカム 経口懸濁液・チュアブル錠の剤形あり。体重に合わせて細かく用量調整しやすく、小型犬から大型犬まで幅広く対応可能。長期投与の実績が豊富なNSAIDsのひとつ。
フィロコックス / プレビコックス フィロコキシブ 犬専用の選択的COX-2阻害薬。チュアブル錠で投薬しやすく、変形性関節症に伴う慢性疼痛・炎症を緩和する。消化器系への影響が少ない。

免疫介在性関節炎では、免疫抑制療法が治療の主体となります。

  • プレドニゾロン(ステロイド):免疫抑制量で開始し、症状の改善とともに漸減します。多くの症例で速やかな効果が得られますが、長期使用では多飲多尿・体重増加・感染症リスクなどの副作用に注意が必要です。
  • シクロスポリンなどの免疫抑制剤:ステロイド単独での維持が難しい場合や、副作用軽減のためにステロイドの減量を目的として追加・切り替えが行われます。

治療期間は長期に及ぶことが多く、6ヶ月以上の継続が目安となります。しっかりと再発を防ぐためにも、焦らず腰を据えてモニタリングを続けていくことが大切です。

2023年に日本で承認された、犬の変形性関節症向けの新しい鎮痛薬です。
有効成分ベジンベトマブは、変形性関節症の慢性疼痛に関わる「NGF(神経成長因子)」を標的とするモノクローナル抗体製剤で、痛みの神経シグナル伝達を根本からブロックします。月1回の皮下注射で投与します。

NSAIDsとはまったく異なる作用機序のため、今までの飲み薬であまり効果がなかった犬や、腎臓・肝臓への負担が懸念される高齢犬でも使用を検討できる点が大きなメリットです。
効果の発現は投与後7日目から認められ、はっきりとした効果が実感できるのは2〜3回目の投与以降が多いとされています。

有効成分としてポリ硫酸ペントサンナトリウムを配合。
軟骨基質の産生促進・軟骨破壊酵素の阻害・関節液の粘稠性改善・滑膜の血流改善など、多角的な関節保護作用をもつ注射剤です。

NSAIDsと組み合わせることで相乗効果が期待でき、初期〜中等度の変形性関節症に有用とされています。
通常は7日おきに1回×4週間を『1クール』として皮下注射します。

長期的な関節の健康維持・進行予防・症状緩和の補助として広く活用されています。治療薬との併用が一般的で、効果が出るまでに数か月かかることを念頭においたうえで継続することが大切です。
犬の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

製品名(主成分) 主な作用・特徴
コセクイン
(グルコサミン+コンドロイチン硫酸)
グルコサミンは軟骨の構成材料として軟骨細胞の修復・保護を助け、コンドロイチン硫酸は軟骨のクッション性と関節液の粘度を維持する。2成分の相乗効果が期待される定番製品。
ダスクイン
(グルコサミン+低分子量コンドロイチン+ASU+MSM)
コンドロイチンを低分子化し腸での吸収率を約70%に向上。アボカド大豆不鹸化物(ASU)・MSMも配合し、軟骨保護と抗炎症作用を多角的にサポート。
アンチノール プラス
(EAB-277:モエギイガイ抽出脂質+クリルオイル)
脂肪酸を含む海洋性脂質が関節の炎症を抑制。抗炎症作用・関節保護に加え、皮膚・被毛・心血管・腎臓など全身の健康維持にも関与する。
アンセット
(モエギイガイ抽出脂質)
アンチノールと同系統のモエギイガイ抽出脂質を主成分とする。関節・皮膚・被毛の健康補助を目的とし、カプセルが小さめで小型犬にもお口に含ませやすい形状。
グリコフレックスプラス
(グルコサミン+コンドロイチン+MSM+DMG)
軟骨基質の合成を支援するとともに、抗炎症作用により関節内の炎症や軟骨分解を抑制し、変形性関節症に伴う疼痛や関節機能の低下を軽減する。関節の健康維持や運動機能の改善を目的として用いられる。
SOPHIA スムーズラン
(グルコサミン+コンドロイチン+イミダゾールジペプチド)
関節成分(グルコサミン・コンドロイチン)に加え、筋肉の疲労回復・機能維持に関わるイミダゾールジペプチドを配合したサプリ。関節と筋力の両面をサポートする。
  • 理学療法・リハビリテーション:水中トレッドミル(水中歩行)、マッサージ、ストレッチ、温熱療法など。筋力維持・血流促進・疼痛軽減に有効で、薬物療法との組み合わせが推奨される。
  • 低出力レーザー療法:疼痛緩和・組織修復促進を目的として使用。副作用が少なく高齢犬にも適用しやすい。
  • 鍼灸:慢性疼痛の緩和に一定の効果が報告されており、薬物療法の補完として活用されることがある。
  • 外科手術:股関節全置換術・関節固定術・骨切り術など。内科療法で管理困難な重症例に実施される。

  • 犬の関節炎は「非炎症性(変形性関節症)」「炎症性・非感染性(免疫介在性)」「炎症性・感染性(細菌性)」の3つに分類される。
  • 変形性関節症は軟骨の摩耗・変性が主体で犬の関節炎で最も多い。NSAIDsが第一選択薬で、新薬リブレラ(抗NGF抗体)も有力な選択肢。
  • 免疫介在性関節炎は発熱・全身症状・移動性跛行が特徴。治療はステロイド・免疫抑制剤が主体で、NSAIDsは適応外となる。
  • 鑑別診断には関節液検査が最重要。同じ「跛行」でも原因によって治療が大きく変わる。
  • 体重管理・適切な運動・環境整備を治療と組み合わせることが長期管理の基本。

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