毛包虫症は、「ニキビダニ(Demodex属)」という犬や猫の皮膚にもともと共生しているダニが、何らかのきっかけで異常増殖することで起こる皮膚病です。通常、ダニが寄生すると激しいかゆみが起こる場合が多いですが、毛包虫症では「かゆみがあまりないのに毛が抜ける」という特徴的な症状があり、症状の原因が判明するまで時間がかかりやすい理由でもあります。犬と猫に寄生するニキビダニは主に4種類が知られており、形状・寄生部位・症状・感染性がそれぞれ大きく異なります。今回は4種の違いを詳しく整理したうえで、診断から最新の治療薬まで解説します。
第1章:ニキビダニの種類と生態

ニキビダニ(Demodex属)とは
ニキビダニは節足動物門・クモ綱・ニキビダニ科に属するダニで、哺乳類の毛包や皮脂腺に共生していて、目視では確認できないほど小さなダニです。同じく皮膚の下に潜み、目視不可であるヒゼンダニ(疥癬の原因となるダニ)とは分類上まったく異なります。ニキビダニは健康な犬猫の毛包内にも少数が常在しており、免疫機能が正常であれば病気を引き起こしません。発症しやすい素因としては遺伝的な体質・若齢・老齢・基礎疾患による免疫低下などが挙げられており、これらをきっかけにダニが異常増殖することで「毛包虫症(ニキビダニ症)」を発症します。
各ニキビダニの主な特徴
犬猫に寄生するニキビダニには、主にイヌニキビダニ(Demodex canis)、イヌ短型ニキビダニ(Demodex injai)、ネコニキビダニ(Demodex cati)、猫浅在性ニキビダニ(Demodex gatoi)の4種類があり、それぞれ以下のような特徴があります。
※上記画像はイヌニキビダニ(Demodex canis)
| ダニの種類 | 宿主 | 発生割合 | 形状の特徴 | 検出しやすさ |
| イヌニキビダニ | 犬 | 犬の毛包虫症の約95%以上を占める。 | 細長い葉巻き型。体長 約0.25〜0.3mm | ◎ 比較的検出しやすい。深部皮膚掻爬検査+複数箇所採取が推奨 |
| イヌ短型ニキビダニ | 犬 | 稀(数%程度) | 体が太く短い葉巻き型。体長 約0.34〜0.37mm | △ やや困難。皮脂腺の深部に寄生し、検査で発見されにくい。 |
| ネコニキビダニ | 猫 | 猫の毛包虫症では最多。 | イヌニキビダニに似た細長い葉巻き型。体長 約0.2〜0.27mm | △ やや困難。深部皮膚掻爬検査が基本。 |
| 猫浅在性ニキビダニ | 猫 | ネコニキビダニと同程度の頻度で報告(地域差あり) | 体が太く丸みのある短い葉巻き型。体長 約0.17〜0.2mm | ★ 困難。検出率が低く試験的治療を要することが多い |
第2章:犬の毛包虫症の症状と経過

犬の毛包虫症は、発症パターンによって「局所型(限局型)」と「全身型(汎発型)」の2種類に分けられます。局所型は主に1歳未満の若齢犬に多く、顔・前肢などの限られた部位に脱毛が生じますが、成犬になり免疫力がついてくると自然に治癒する場合もあります。一方、全身型は病変が全身に及び、難治性になることも多く、成犬・老犬での発症では背景に免疫を抑制するような基礎疾患が潜んでいることが少なくありません。
| 犬の毛包虫症の特徴 | 内容 |
| ニキビダニの種類 | イヌニキビダニが主、イヌ短型ニキビダニは稀。 |
| 感染経路 | 主に分娩時・哺乳期に母犬から子犬へ移行すると言われている。成犬間で感染する可能性は極めて低い。 |
| 人への感染 | 犬のニキビダニは人に定着しない(人獣共通感染のリスクはほぼなし) |
局所型と全身型の違い
| 局所型(限局型) | 全身型(汎発型) | |
| 病変の範囲 | 5か所未満の局所的な脱毛・紅斑 | 5か所以上、または全身・足先(足部型)に広がる |
| 好発年齢 | 免疫力が低い1歳未満の若齢犬に多い | 若齢〜高齢まで幅広い。特に成犬・老犬での発症は基礎疾患を疑う。 |
| 好発部位 | 顔面(目・口の周囲)・前肢など | 体幹・四肢全体・足先など。 |
| かゆみ | 軽度orほとんど認められないことも | 通常は軽度。二次感染が加わるとかゆみが出る |
| 症状の経過 | 自然治癒するケースもある | 自然治癒は稀。積極的な長期治療が必要 |
| 二次感染 | 比較的少ない | 膿皮症(細菌感染)を合併しやすい |
好発犬種
毛包虫症には遺伝的素因が関与することも言われています。以下の犬種を飼っている場合は、若齢時の皮膚の変化に特に注意してください。
- 短頭種・皮膚のたるみが多い犬:フレンチ・ブルドッグ、イングリッシュ・ブルドッグ、パグ
- その他:シャーペイ、ダックスフンド、ドーベルマン、ボクサー、スタッフォードシャー・ブル・テリアなど
全身型で注意すべき基礎疾患
成犬・老犬で全身型が発症した場合、免疫機能が何らかの原因で低下した状態(免疫抑制状態)にあることが多く見られます。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、悪性腫瘍、長期的なステロイド投与などが代表例です。ニキビダニの駆除だけでなく、こうした基礎疾患を同時に治療しなければ、症状が一度改善しても再発しやすくなります。
【犬の毛包虫症を疑うべき症状チェックリスト】
- 顔・目の周り・口周辺、または前肢に円形〜不整形の脱毛がある
- 脱毛部位の皮膚が赤く、フケ(鱗屑)・かさぶた(痂皮)がある
- かゆみは軽度〜ほとんどない(疥癬との重要な鑑別ポイント)
- フレンチ・ブルドッグ、シャーペイなど好発犬種である
- 1歳未満の子犬で皮膚症状が出ている
- 成犬・老犬で突然、多発性の脱毛・皮膚炎が出た(基礎疾患の可能性)
これらの症状が複数認められる場合には、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。
第3章:猫の毛包虫症の症状と経過

猫の毛包虫症は、原因ダニの種類によって症状・感染様式が異なります。毛包深部に寄生するネコニキビダニはかゆみが少なく、免疫が低下した猫で発症しやすい傾向があります。一方、表皮の角質層に寄生する猫浅在性ニキビダニは猫間で感染が広がる感染性を持ち、強いかゆみを伴い、「過剰グルーミング」によって体の左右対称性の脱毛が特徴的に現れます。特に猫浅在性ニキビダニは多頭飼育環境や保護猫との接触を通じてひそかに広がることがあるため注意が必要です。
| 猫の毛包虫症の特徴 | 内容 |
| ニキビダニの種類 | ネコニキビダニ(毛包内寄生)、猫浅在性ニキビダニ(角質層寄生・感染性あり) |
| 感染経路 | ネコニキビダニ:主に分娩時・哺乳期に母猫から子猫へ移行する。猫浅在性ニキビダニ:感染猫との接触・グルーミングで広がる |
| 人への感染 | 猫のニキビダニは人に定着しない |
ネコニキビダニと猫浅在性ニキビダニの特徴の違い
| ネコニキビダニ | 猫浅在性ニキビダニ | |
| 寄生部位 | 毛包・皮脂腺の深部 | 表皮の角質層(非常に浅い) |
| 感染性 | 成猫間の感染力は低い | ★猫間で感染する。接触・グルーミングで広がる |
| かゆみ | 軽度 | ★強い。過剰グルーミング・対称性脱毛が特徴 |
| 好発部位 | 頭部・耳介・頸部。重症化すると全身へ拡大。 | 体幹・側腹部・四肢。左右対称性の脱毛・鱗屑 |
| 自然治癒 | 自然治癒は稀。基礎疾患の治療と並行した駆虫が必要 | 自然治癒は稀。感染源の特定と全頭同時治療が必要 |
| 二次感染 | 皮膚の細菌感染を併発する場合もある | 過剰グルーミングによる皮膚損傷から細菌感染を併発することがある |
好発しやすい背景・リスクとなる要因
猫のニキビダニ症は、原因となるダニの種類によってリスク要因が異なります。
| ネコニキビダニの場合 | 猫浅在性ニキビダニの場合 |
| 🔑 免疫抑制状態が主なリスク 以下の免疫抑制状態にある猫に多い: ・FIV(猫免疫不全ウイルス)陽性 ・FeLV(猫白血病ウイルス)陽性 ・糖尿病 ・悪性腫瘍 ・長期的なステロイド投与中 | 🔑 免疫状態に関わらず感染・発症 以下の環境要因が主なリスク: ・保護猫や外出猫との接触 ・多頭飼育環境 ・感染猫と同居している |
【猫の毛包虫症を疑うべき症状チェックリスト】
以下の症状に当てはまる場合は、動物病院での診断をおすすめします。
| ネコニキビダニを疑う症状 | 猫浅在性ニキビダニを疑う症状 |
| ・頭部・耳周り・頸部に限局した脱毛がある ・フケやかさぶたが目立つ ・かゆみは少ない、または軽度 ・免疫抑制状態にある(FIV/FeLV陽性、糖尿病、悪性腫瘍、ステロイド長期投与中) | ・体幹〜側腹部の対称性脱毛がある ・強いかゆみがある ・過剰グルーミング(毛づくろいが異常に多い) ・保護猫や外出猫との接触後に皮膚症状が出た ・多頭飼育環境で複数の猫に同様の症状がある |
⚠️ 特に注意:多頭飼育環境で複数の猫に同じ症状が出ている場合、猫浅在性ニキビダニの集団感染の可能性が高いです。
第4章:診断方法~毛包虫の検出~

① 深部皮膚掻爬(そうは)検査
最も基本となる検査であり、ニキビダニを疑う場合は必ず行います。ニキビダニは毛包の深部や皮脂腺に潜んでいるため、皮膚の表面をなでる程度では採取できません。病変部(脱毛・発赤・鱗屑が見られる部位)を手術用のメス刃の背や鈍的な器具(鋭匙)で強めに擦って掻き取り(スクレーピング)、毛包の内容物ごと採取します。採取した組織を顕微鏡用のスライドガラスに広げ、顕微鏡で観察しニキビダニを探します。複数の病変部から採取することで検出率が上がるため、1か所だけでなく複数箇所を採取することが推奨されます。
② 毛包絞出法(もうほうしぼりだしほう)
病変部の皮膚をピンセットや指でつまんで圧迫し、毛包内の内容物をにじみ出させて採取する方法です。①の検査の補助として、または目の周囲など皮膚が薄く強い掻爬が困難な部位に用いられます。絞り出した内容物をスライドガラスに広げ、顕微鏡で観察します。掻爬と組み合わせて使うことで検出率を高めることができます。
③ 毛の抜き取り検査(毛根部の観察)
ピンセットで病変部付近の毛を数本引き抜き、毛根部(毛球部)を顕微鏡で観察する検査です。毛包内に寄生しているニキビダニが毛根に付着した状態で観察できることがあります。侵襲が少なく犬猫への負担が軽いため、目の周囲など繊細な部位や、痛みを嫌がる動物への補助的な検査として活用されます。①や②と組み合わせて用いるのが一般的です。
第5章:治療と予防 ~最適な治療薬の選び方~

治療の基本原則
毛包虫症(ニキビダニ症)の治療は、ニキビダニの駆除を目的とした駆虫薬の投与が基本です。局所型(犬)は経過観察で自然治癒することも多いですが、全身型は長期にわたる積極的な治療が必要です。また、同時に、基礎疾患や二次感染の治療も行っていきます。
治療・予防薬一覧(2026年3月現在)
毛包虫症(ニキビダニ症)の治療薬として近年最も注目されているのが、神経細胞の塩素チャネル(GABA受容体)を選択的に阻害してダニを麻痺・死滅させる「イソオキサゾリン系」薬剤です。哺乳類への選択性が低く安全性が高いことから、現在では多くの獣医師が第一選択として用いています。
表の見方:◎=国内添付文書に適応あり △=適応なし・査読論文に有効性の報告あり
【犬用製品】
| 製品名(剤形) | 有効成分 | 効果 | 製品の特徴 |
| ブラベクト錠 (チュアブル錠) | フルララネル | ◎ | 3か月に1回の投与で済み、投薬頻度が少なく、長期治療が必要な全身型に特に適している。ノミ・マダニにも対応。 |
| シンパリカ (チュアブル錠) | サロラネル | ◎ | 牛肉フレーバーで投薬しやすい。イヌニキビダニ症・ノミ・マダニ・犬疥癬にも対応。※シンパリカトリオはイヌニキビダニ症への適応なし。 |
| アドボケート犬用 (スポット剤) | イミダクロプリド+モキシデクチン | ◎ | 滴下タイプ。錠剤が苦手な犬に最適。国内でイヌニキビダニ症の適応あり。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。 |
| ネクスガード (チュアブル錠) | アフォキソラネル | △ | 国内で承認はないが海外では有効性が多数報告されており、適応外処方として使用する場合がある。ノミ・マダニにも対応。 |
【猫用製品】
| 製品名(剤形) | 有効成分 | 効果 | 製品の特徴 |
| レボリューション (スポット剤) | セラメクチン | △ | 6週齢以上の若齢から使用可能。ノミ・フィラリア・回虫にも対応。 |
| レボリューションプラス (スポット剤) | セラメクチン+サロラネル | △ | レボリューションにマダニ・鉤虫駆除も追加。 |
| アドボケート猫用 (スポット剤) | イミダクロプリド+モキシデクチン | △ | 滴下タイプ。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。猫ニキビダニ症で使用例の報告あり。 |
| ネクスガードキャットコンボ (スポット剤) | エサフォキソラネル+エプリノメクチン+プラジクアンテル | △ | 滴下タイプ。ノミ・マダニ・フィラリア・条虫・回虫・鉤虫にも対応。猫用イソオキサゾリン系製剤として有効性の報告あり。 |
※本表は一般的な学術情報および海外の研究報告に基づく一覧です。効果が△の製品は国内での効能・効果が承認されていません。これらは獣医師の判断により適応外使用されるケースがありますが、当サイトがその使用を推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指示に従ってください。
まとめ
- 犬と猫に寄生するニキビダニは主に4種類あり、形状・寄生部位・感染性・かゆみの有無がそれぞれ異なる。
- 毛包虫症では、皮膚に脱毛や赤みなどの症状があっても、かゆみが軽度またはほとんど出ないことが多い。
- 若齢犬の局所型は自然治癒するケースもあるが、基礎疾患のある成犬や老犬では長期化しやすい。
- 寄生数が少ない場合は一度の検査で検出できないこともあるため、複数回の検査が必要なケースもある。
- ダニが見つからなくても、症状や経過から強く疑われる場合には、獣医師の判断により試験的駆虫が行われるのが一般的。
ニキビダニは一度異常増殖すると皮膚症状が長引き、二次感染が重なることで治療がより複雑になります。愛犬愛猫の年齢・既往歴・生活環境をもとに、獣医師と相談しながら最適な製品を選びましょう。
参考文献
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