猫はもともと砂漠の動物であったため、水分を節約するために尿を濃縮する性質をもっています。その反面、尿路に結晶や炎症が生じやすく、泌尿器トラブルを起こしやすい体質でもあります。「何度もトイレに行くのに、おしっこが出ていない」「砂に血が混じっている」——そんなサインに気づいたとき、もしかしたら猫の下部尿路疾患(FLUTD)のSOSかもしれません。今回は、FLUTDの基本から最新の治療薬・サプリメントまで詳しく解説します。
第1章:猫の下部尿路疾患(FLUTD)とは?

FLUTDの定義
FLUTD(Feline Lower Urinary Tract Disease:猫下部尿路疾患)とは、猫の膀胱から尿道にかけての下部尿路に起こるさまざまな病気や症状の総称です。
FLUTDの主な原因疾患には以下のものが含まれます。①特発性膀胱炎(FIC:Feline Idiopathic Cystitis)、②尿路結石症(尿石症)、③細菌性膀胱炎、④尿道栓子(尿道プラグ)、⑤解剖学的異常や腫瘍などです。このうち最も多いのが「特発性膀胱炎」で、FLUTDの約半分を占めるとされています。次いで尿石症が1/4程度です。
なりやすい猫の特徴
FLUTDは年齢・性別・生活環境に関係なく発症しますが、以下の特徴をもつ猫では発症リスクが特に高いことがわかっています。
| リスク因子 | 詳細 |
| 性別(オス) | オスの尿道はメスより細長く、結石・炎症産物・粘液が詰まりやすいため「尿道閉塞」を起こしやすい。去勢済みでは尿道粘膜が萎縮してさらに狭くなる傾向がある。 |
| 年齢 | 10歳以上では免疫機能低下・飲水量減少により細菌性膀胱炎が増える。また、糖尿病・慢性腎不全などの基礎疾患を抱える高齢猫は尿路感染症の二次発症リスクが高まる。 |
| 肥満・運動不足 | 肥満猫は活動量が落ちて水を飲まなくなるため尿が濃縮し、ミネラルが結晶化しやすくなる。理想体重の20%以上超過した猫ではFLUTDの発症率が有意に高くなるという報告がある。 |
| 食事・水分摂取 | ドライフード主体では慢性的な水分不足になりやすい。水分摂取が少ないと尿が濃縮されてミネラルが析出しやすくなる。また、マグネシウム・リンが多い食事はストルバイト結石リスクを高める。 |
| ストレス(特発性膀胱炎の最大のトリガー) | 引越し・新入り動物・工事音・トイレ環境の変化・飼い主の生活スケジュール変化などがストレスの要因となり、特発性膀胱炎の発症を助長しやすくなる。 |
第2章:猫の下部尿路疾患の分類

特発性膀胱炎(FIC)──猫のFLUTDで最も多い原因
「特発性(とくはつせい)」とは「明らかな原因が特定できない」という意味です。FICは若〜中年齢の猫に多く、検査を行っても細菌や結石が見つからないにもかかわらず、頻尿・血尿・排尿痛などの症状が出現します。
現在の研究では、ストレスが引き金となって神経・内分泌系が乱れ、膀胱の粘膜バリアが崩れることが発症メカニズムの中心と考えられています。膀胱の粘膜を覆っているGAG(グリコサミノグリカン)層が薄くなると、尿の刺激が直接粘膜に伝わり炎症が起きやすくなります。特発性膀胱炎は「治っても再発しやすい」という厄介な側面もあります。
尿路結石症(尿石症)──ストルバイトとシュウ酸カルシウム
尿石症は、尿中のミネラル成分が結晶化して結石が形成される疾患です。猫で問題になる主な結石には大きく2種類あります。なお、オス猫では結石や炎症産物が細い尿道に詰まる「尿道閉塞」が起こることがあり、48時間以内に急性腎不全や膀胱破裂など命に関わる緊急事態となるリスクもあるため、尿が全く出ない・ぐったりしているなどの状態は直ちに動物病院を受診してください。
| 結石の種類 | 特徴・主な発症条件 |
| ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム) | 猫で最も多い尿路結石。食事療法で溶解できる可能性のある唯一の結石。アルカリ性尿(pH7.0以上)で形成されやすく、細菌感染(ウレアーゼ産生菌)が関与することもある。若〜中年齢の猫に多い。フードを変更して1〜2か月目あたりは要注意。 |
| シュウ酸カルシウム | 酸性尿(pH6.0以下)で形成されやすく、一度形成されると食事で溶かすことができない硬い結石。中〜高齢猫(7歳以上)に多い。 |
細菌性膀胱炎──高齢猫や免疫低下猫に多い
細菌性膀胱炎は、大腸菌・ブドウ球菌などの細菌が尿道から膀胱に侵入して増殖することで起こります。若い猫では比較的少ない(約1〜5%)ですが、10歳以上の高齢猫・糖尿病・ステロイド長期使用・慢性腎臓病を抱える猫では頻度が増えます。細菌性膀胱炎は抗生物質治療が必要で、放置すると細菌が腎臓に上行して腎盂腎炎を引き起こすこともあります。
第3章:FLUTDの症状とチェックポイント

FLUTDはじわじわと進行するため、初期段階では「なんとなくトイレの回数が増えた」程度しか気づかないことも多くあります。以下のサインに一つでも心当たりがあれば、早めに動物病院を受診してください。
| 症状 | 背景・要因 |
| 頻尿 | 炎症・痙攣・閉塞により残尿感が生じる。何度もトイレに行くが少量しか出ない、全く出ない場合は要注意。※健康な猫のトイレ回数は1日2〜4回が目安。 |
| 血尿 | 膀胱・尿道粘膜が傷ついて出血する。ピンク色〜赤色の尿がでる。肉眼では赤くみえなくても尿検査をすると血尿(+)のこともある。 |
| 排尿困難・排尿時の鳴き声 | 炎症の痛みや物理的閉塞が排尿を妨げる。力んでも尿が出ない場合は尿道閉塞を疑う。 |
| 食欲低下・元気消失 | 排尿痛による全身ストレスが原因。尿道閉塞が進むと尿毒症となり、吐き気・倦怠感・体温低下が現れる。 |
| 腹部膨満・嘔吐 | 尿道閉塞により膀胱が過拡張した状態。急性腎傷害・尿毒症に進行しており、至急の受診が必要。 |
第4章:基本の検査と診断方法

尿検査(尿沈渣・尿比重・pH測定)
FLUTDの診断で最も基本となる検査です。新鮮な尿を採取し、以下の項目を確認します。動物病院で直接採尿するのが確実ですが、自宅で採尿する場合は採取後すぐに検査に持っていきましょう。
| 検査項目 | 内容 |
| ①尿比重 | 腎臓の尿の濃縮機能の目安。猫では1.035を下回ると腎臓の濃縮機能低下が疑われる。 |
| ②尿pH | ストルバイトはpH7.0以上のアルカリ性で形成されやすく、シュウ酸カルシウムは酸性側で形成されやすい。 |
| ③尿沈渣 | 顕微鏡で結晶・細菌・白血球・赤血球の有無を確認する。 |
| ④尿タンパク・潜血 | 炎症・出血の有無を確認する。 |
尿培養・薬剤感受性検査
細菌性膀胱炎が疑われる場合に実施します。尿を培養して細菌の種類を特定し、どの抗生物質が効くかを特定します。培養結果が出るまで3〜7日かかるため、結果待ちの間は経験的に選んだ抗生物質を先行投与することが多いです。
画像検査(超音波・レントゲン)
超音波(エコー)検査は必須の検査です。結石の有無、腎臓〜尿管〜膀胱〜尿道の状態(蓄尿の状況も含む)を確認します。レントゲン検査は結石の形や数、位置などを把握するために行います。
血液検査
尿道閉塞が続いた場合、腎臓への逆流圧がかかり腎機能が急激に低下することがあります(急性腎傷害:AKI)。血液検査ではBUN(血液尿素窒素)・クレアチニン・リン・カリウムなどの電解質を測定し、腎機能障害の有無と重症度を確認します。
第5章:治療の基本ポイント

食事療法と水分摂取〜FLUTDケアの最重要ポイント〜
予防と治療において最も重要なのが、「食事の見直し」と「水分摂取量の増加」です。尿が十分に薄まると結晶が析出しにくくなり、膀胱粘膜への刺激も大きく軽減されます。水分は複数箇所への水皿設置・流水器の導入・ウェットフードの活用など工夫して増やし、疾患タイプに合った療法食を選ぶことが再発予防の土台となります。
【療法食の選び方】
| 疾患タイプ | 概要・代表製品 |
| ストルバイト結石 | 低マグネシウム・尿酸性化設計の療法食(pH6.0〜6.5)でストルバイトを溶解・予防できる。ウェットタイプが特に有効。酸性化しすぎるとシュウ酸カルシウムリスクが高まるため、定期的な尿pH測定が必要。 【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O、ヒルズ s/d、ヒルズ c/dマルチケア |
| シュウ酸カルシウム結石 | 食事では溶かせないため完治には外科処置が必要。予防は水分摂取増加と、尿を過度に酸性化しない食事が基本。ストルバイト用の強酸性化食を誤って与えると悪化する場合があるため注意が必要。 【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O、ヒルズ c/d マルチケア |
| 特発性膀胱炎(FIC) | 高水分食(ウェットフード主体)が最優先。ストレスケア成分(加水分解ミルクタンパク・トリプトファン)配合フードも有効。食事の急な変更もストレスになるため、1〜2週間かけて段階的に移行する。 【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O+CLT、ヒルズ c/d マルチケア コンフォート |
※療法食は自己判断で選ぶと、結石の種類によっては逆効果になる恐れがあります。必ず検査結果に基づき、獣医師の指導下で選びましょう。
特発性膀胱炎予防のためのストレス対策
特発性膀胱炎の再発予防に欠かせないのが、猫が毎日安心して過ごせる環境づくりです。トイレは「頭数+1個」を目安に常に清潔に保ち、キャットタワーや押し入れの隅など高い場所・隠れ場所を用意することで猫の安心感が高まります。じゃらし棒やパズルフィーダーを使った遊びを1日2回程度行うことでストレスを解消し、運動不足と肥満の予防にもなります。多頭飼育では食器・水飲み場もそれぞれに用意し、猫同士が資源をめぐって競合しない環境を整えましょう。
閉塞解除処置・外科手術による結石の除去
尿道閉塞の緊急処置として、まず麻酔下でカテーテルを尿道から挿入して閉塞を解除します。その後、膀胱内を洗浄して安定化させ、入院管理を行います。食事療法で溶解できないシュウ酸カルシウム結石が膀胱内に留まる場合は、外科手術が必要な場合もあります。また、繰り返す閉塞に対しては、尿道を広げる「会陰尿道瘻術」が選択されることもあります。
第6章:治療薬・サプリメントの選び方

直接的に症状を治療できる内服薬はないため、細菌感染やFLUTDを予防するためのサプリメントが中心となります。使用にあたっては必ず獣医師に相談しましょう。
細菌性膀胱炎に使用する抗菌薬(要指示医薬品)
細菌性膀胱炎の治療には抗生物質(抗菌薬)が必須です。自己判断で投薬を中断すると耐性菌が生じるリスクがあるため、獣医師の指示に従って最後まで飲み切ることが重要です。
| 成分名(製品名) | 系統 | 特徴・注意点 |
| エンロフロキサシン(エンロクリア錠・バイトリル錠) | ニューキノロン系 | 広域スペクトルを持ち、難治例・再発例の二次選択薬として使用されることが多い。猫では高用量・長期投与で網膜障害(失明)のリスクが報告されている。 |
| オルビフロキサシン(ビクタスSS錠) | ニューキノロン系 | 犬猫に適応をもつ動物用ニューキノロン系抗菌薬。グラム陽性菌・陰性菌に広域スペクトルをもつ。尿中移行性が高い。 |
サプリメント(治療の補助・予防ケア)
サプリメントを組み合わせることで、より包括的なケアが可能になります。サプリメントは補助的なものであり、薬剤の代替にはなりませんので、獣医師の指示の下で食事療法などその他の治療と合わせて活用しましょう。
| 成分・カテゴリー | 製品例 | 特徴・期待される効果・注意点 |
| クランベリーエキス+ウラジロガシエキス+GAG(N-アセチルグルコサミン) | ・ウロアクトプラス ・ウロアクトシロップ |
【複合型泌尿器サプリ】 クランベリーエキスが細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、N-アセチルグルコサミンがGAG層を補強して粘膜を保護。ウラジロガシエキスは利尿・尿石溶解をサポート。シュウ酸カルシウム結石の場合は悪化のリスクがあるため注意が必要。 |
| クランベリーエキス主体(プロアントシアニジン) | ・PEクランベリーU液 ・PEクランベリーチュアブル |
細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、細菌性膀胱炎の再発予防が期待される。シュウ酸カルシウム結石の場合は悪化のリスクがあるため注意が必要。 |
| オメガ3脂肪酸 | ・アンチノールプラス | 【EPA・DHA】 モエギイガイ由来の脂肪酸複合体PCSO-524にクリルオイルを配合した海洋性脂質(EAB-277)が主成分。EPA・DHAをはじめ91種類の脂肪酸を含み、抗炎症作用により膀胱の慢性炎症緩和が期待される。関節・皮膚・腎臓ケアとの兼用もできる。 |
| 鎮静系サプリメント | ・フェリウェイ各種 ・ジルケーン |
ストレスを緩和する目的で使用。ジルケーンは牛乳由来カゼインをトリプシン加水分解した「α-カソゼピン」が主成分。脳のGABA受容体に働きかけて不安・興奮を和らげる効果が報告されている。 |
| N-アセチルグルコサミン+ヒアルロン酸+L-トリプトファン | ・シストファン | 【膀胱粘膜保護・ストレスケア】 N-アセチル-D-グルコサミンとヒアルロン酸が膀胱粘膜層の健康を維持し、L-トリプトファンが環境変化などのストレスケアをサポートする。膀胱粘膜保護とストレス緩和の両面に働く。 |
| クランベリー由来プロアントシアニジン+マンナンオリゴ糖+プロバイオティクス | ・シストプロ | 【細菌性膀胱炎予防・腸内環境サポート】 クランベリー由来プロアントシアニジンが細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、マンナンオリゴ糖とプロバイオティクスが腸内環境を整えることで免疫機能をサポートする。細菌性膀胱炎の再発予防補助として使用。 |
| N-アセチルグルコサミン+L-テアニン+ハイビスカスフラワーエキス | ・フェルロ | 【膀胱粘膜保護+ストレスケア】 N-アセチルグルコサミンが膀胱細胞の健康をサポートし、L-テアニン(緑茶抽出ポリフェノール)が猫の安心ケアを、ハイビスカスフラワーエキスが健康な膀胱環境と尿の性状維持をサポートする。液体タイプでフードにかけて与えやすい。 |
まとめ
猫の下部尿路疾患(FLUTD)は「一度なったら終わり」ではなく、再発防止が最も大切です。適切な食事管理と水分補給、ストレスを与えないような環境づくりを心がけましょう。
- 毎日のトイレチェックを習慣化する(回数・量・色・においの変化に敏感になる)
- 水分摂取を増やす工夫をする(流水器の導入・ウェットフードの活用・複数箇所への水皿設置)
- ストレスを減らす環境整備(十分なトイレ数・隠れ家・遊びの機会)を徹底する
- 尿石症の種類を把握したうえで、その子に合った療法食・食事管理を続ける
- 「尿が全く出ない」「元気がない」「腹部が張っている」は緊急サイン。すぐに受診する
- 薬剤・サプリメントの使用は必ず獣医師の指示のもとで。自己判断での使用は避ける

日本大学卒業、獣医師免許取得。関東の動物病院で15年以上にわたり小動物医療に従事し、犬猫を中心にうさぎ・フェレット・モルモット・ハムスター・ハリネズミなど幅広い動物種の診療を行っている。また、診療業務を行う傍ら、行政書士の資格を取得し個人事務所を開業。主にペット関連の法務を扱っており、人と動物が幸せに暮らすためのサポートを行っている。
参考文献
- Buffington CA, et al. Pandora syndrome in cats. J Vet Intern Med. 2022;36(1):4–11.
- Westropp JL, et al. Feline lower urinary tract disorders. In: Ettinger SJ, Feldman EC, Cote E, eds. Textbook of Veterinary Internal Medicine. 8th ed. Elsevier, 2017.
- Dorsch R, et al. Feline lower urinary tract disease in a German cat population. Tierarztl Prax Ausg K Kleintiere Heimtiere. 2014;42(4):231–239.
- エランコジャパン株式会社. バイトリル錠 添付文書. https://my.elanco.com/jp/
- 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html
- ビルバック ジャパン株式会社. フェルロ 製品情報. https://www.virbac.com/jp/
- アントパック株式会社. シストファン・シストプロ 製品情報. https://antpack.co.jp/
- 日本全薬工業株式会社. ウロアクトプラス 製品情報. https://www.nippon-zenyaku.co.jp/
- 大日本住友製薬株式会社. ビクタスSS錠 添付文書. https://ds-pharma.jp/
