猫の慢性腎臓病について。治療薬とともに詳細を解説【獣医師執筆】

猫の慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、猫に最も多く見られる病気の一つです。
シニア猫(7歳以上)の約3割が何らかの腎機能低下を抱えているとされており、特に高齢になるほど有病率は高まります。腎臓は一度ダメージを受けると機能が回復しない臓器であるため、「気づいたときには手遅れ」になりやすいのが最大の問題です。

だからこそ、早期発見と適切な管理が愛猫の寿命と生活の質(QOL)を大きく左右します。
今回は、猫の慢性腎臓病の基本から近年の最新情報まで詳しく解説していきます。


腎臓は血液をろ過して老廃物・毒素を尿として排出する臓器ですが、それだけではありません。血圧の調節、造血ホルモン(エリスロポエチン)の分泌、電解質(カリウム・リン・ナトリウム)のバランス維持、活性型ビタミンDの産生など、全身の恒常性維持に深く関わっています。

国際腎臓病研究グループ(IRIS:International Renal Interest Society)が定めた分類では、血中クレアチニン値・SDMA値・尿タンパク・血圧を組み合わせてCKDをステージ1〜4に分類します。

ステージ クレアチニン(猫) SDMA 臨床的な状態の目安
ステージ1 <1.6 mg/dL <18 µg/dL 腎機能低下はあるが症状なし(非azotemia=血中老廃物は正常範囲)
ステージ2 1.6〜2.8 mg/dL 18〜35 µg/dL 軽度の低下。症状は軽微なことが多い
ステージ3 2.9〜5.0 mg/dL 36〜54 µg/dL 中等度。食欲不振・体重減少・多飲多尿が出始める
ステージ4 >5.0 mg/dL >54 µg/dL 重度の腎不全。嘔吐・衰弱・口臭(アンモニア臭)が顕著

猫はもともと砂漠起源の動物で、少ない水分で効率よく生きていくための特殊な生理機能を持っています。尿を高度に濃縮して排泄できる反面、その濾過装置である腎臓には常に高い負荷がかかり続けるという側面があります。

また、猫は肉食動物としてタンパク質を主なエネルギー源とするため、代謝産物(尿素窒素など)の処理量が多く、いわば「腎臓をフル稼働させなければならない」身体の仕組みを持っています。

さらに、近年の研究ではウイルス感染(FIV・FeLV)や歯科疾患による慢性炎症が腎臓へ悪影響を及ぼすことに加え、「AIMタンパク質の不活性化」という猫特有の遺伝的特性が慢性腎臓病(CKD)の大きな引き金となっていることも明らかになってきました。


CKDはじわじわと進行するため、初期段階では「なんとなく元気がない」「水をよく飲む」程度の変化しか出ないことが多く、飼い主が気づきにくいのが特徴です。
もし以下の項目にひとつでも心当たりがある場合は、体内では見た目以上に進行しているサインかもしれません。一度、健康診断を兼ねて動物病院で相談してみることをおすすめします。

症状 背景となるメカニズム
多飲・多尿 腎臓の濃縮能力が低下し薄い尿が大量に出るため、補うように水分摂取が増える
食欲低下・体重減少 尿毒症物質の蓄積による食欲中枢への影響と、食事量の低下
嘔吐・下痢・便秘 消化管粘膜への尿毒症の影響。便秘は脱水の影響。
口臭(アンモニア臭) 血中に増えた尿素窒素が唾液中で分解されアンモニアが発生する
毛並みの悪化、毛艶の低下 栄養状態の悪化とグルーミング意欲の低下
元気の低下・ぐったり 腎性貧血や低カリウム血症による全身倦怠感
突然の失明・眼底出血 腎性高血圧が原因。高血圧性網膜症として現れることがある

CKDの診断と進行度の評価において、血液検査は最も基本的かつ重要な検査です。腎臓がどれだけの老廃物をろ過・排泄できているかを複数の指標から把握することで、ステージの判定や治療効果の確認を行います。

検査項目 検査項目の示す内容
尿素窒素(BUN) タンパク質が分解される際に生じる老廃物。腎機能が低下すると排泄できず血中に蓄積する。ただし食事内容・脱水・消化管出血によっても変動するため、単独では判断しにくい
クレアチニン(Cre) 筋肉の代謝産物で、腎臓でろ過・排泄される。腎機能低下で血中濃度が上昇する代表的な指標。ただし腎不全初期には上がりにくく、筋肉量が少ない猫では低く出やすいなど、早期の異常を見逃す可能性がある
SDMA(対称性ジメチルアルギニン) 腎機能が約25〜40%低下した段階から早期に上昇する指標。クレアチニンより感度が高く、筋肉量の影響も受けにくいため、近年の早期発見に欠かせないマーカーとなっている
リン(P) 食事から摂取されるミネラルで、腎臓から排泄される。腎機能低下で血中に蓄積し、腎臓の線維化(正常組織が機能を持たない繊維組織に置き換わること)を加速させる。
カリウム(K) 神経・筋肉の機能に欠かせない電解質。CKD猫では多尿により失われやすく、低カリウム血症になりやすい。
ヘマトクリット・赤血球数 血液中の赤血球の割合。腎臓から分泌される造血ホルモン(エリスロポエチン)が低下すると貧血が起こりやすく、倦怠感・食欲低下の原因となる。

尿検査は、血液検査と並んで病気の早期発見に欠かせない重要なステップです。腎臓の大きな役割の一つに、体内の水分を逃さないよう尿をギュッと濃縮する働きがありますが、この能力を数値化したものが「尿比重」です。

健康な猫の腎臓は、少ないお水で老廃物を効率よく捨てるために、通常は「1.035以上」という非常に濃い尿を作ります。しかし、腎臓の機能が落ちてくると、この「濃縮する力」自体が弱まり、お水に近い薄い尿(1.010〜1.020程度)しか作れなくなってしまいます。

CKD猫の約60〜70%で高血圧が認められるとされています。高血圧は腎臓の細血管にさらなるダメージを与え、腎障害の悪化を加速させる悪循環を生み出します。また、重度の高血圧は突然の失明(高血圧性網膜症)を引き起こすこともあるため、定期的に血圧をチェックすることが大切です。

目安として、収縮期血圧(上の血圧)が160mmHg以上で治療の対象となり、180mmHgを超えると失明などの重大なリスクが高まります。ただし、病院での緊張で血圧が上がることもあるため、安静時の数値を慎重に見極める必要があります。


慢性腎臓病は現時点では「完治」できない病気です。
治療の目的は腎機能のさらなる低下を防ぎ、快適に長く過ごせるようサポートすることです。
治療は食事療法・サプリメント摂取・薬剤・輸液療法をメインとして、これらを組み合わせて行います。

食事管理はどのステージでも最優先の対策です。
腎臓療養食への切り替えを基本としつつ、以下のポイントを意識した食事内容を心がけてください。

チェックポイント ポイント詳細
リンを低く抑える リンの蓄積は腎臓の線維化を加速させる。腎臓療養食への切り替えや、リン吸着サプリを併用する。
タンパク質は量より質 BUNの上昇を抑えるため、たんぱく質を抑えた食事が推奨されるが、過度に制限すると筋肉量が落ち体力低下につながる。適度に抑えつつ消化吸収のよい良質なタンパク源を選ぶ。
水分をしっかり摂取 ウェットフードや飲水量を増やす工夫で腎臓への血流を維持する。
塩分(ナトリウム)を控える 過剰な塩分は血圧上昇・腎臓への負担増加につながる。おやつや一般食の塩分量にも注意。
オメガ3脂肪酸の摂取 EPA・DHAには抗炎症・腎保護効果がある。腎臓療養食に含まれるほか、魚油サプリで別途補うことも可能。
「食べること」を優先 食欲不振の猫に無理に療法食を強いると、栄養失調を招く可能性も。食べてくれる食事を優先し、段階的に療養食への切り替えを。

血液検査などの結果を踏まえ、必要に応じて薬剤やサプリメントを、それぞれの状態に応じて組み合わせて摂取します。

上記1,2でも数値が悪化する場合や、急性増悪や重篤な脱水・尿毒症を起こしている場合には、腎臓への血流を確保し老廃物を排出しやすくするために輸液療法を行います。過剰な輸液は心臓に負担をかけるため、動物病院での定期的な検査結果に基づき必要な輸液量を細かく調整します。


「①慢性腎不全関連薬(主軸)」「②サプリメント(継続補助)」「③その他の薬剤(合併症・状態に応じて)」の3つに分けて解説していきます。
なお、下記に関しては農林水産省動物医薬品検査所データベース(参考文献参照)および各製品の承認情報に基づきます。
※本表は学術情報・公開データに基づく情報であり、特定製品の使用を推奨するものではありません。

製品名(成分) 剤形 特徴
ラプロス
(ベラプロストナトリウム)
錠剤 腎血流改善・抗炎症・抗線維化作用。国内臨床試験でステージ2〜3猫の生存日数延長を報告。
コバルジン
(クレメジン原体)
カプセル・粉末 腸管内で尿毒症物質吸着し血中への吸収を抑える。

ラプロスは2017年に国内で世界初の「猫の慢性腎臓病治療薬」として承認された動物用医薬品です。
腎臓内の細血管を拡張し、血液をろ過する毛細血管の塊である糸球体への血流を改善します。また尿細管の細胞を保護し、炎症や線維化(正常組織が機能を失った繊維組織に置き換わること)を抑える作用が報告されています。
一方で、効果には個体差があり、猫の状況によってはラプロスによって逆に症状が悪化してしまうリスクも存在します。使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で猫の状態を確認することが大切です。

コバルジン(クレメジン原体)は、腸管内で尿毒症物質を吸着し、血中への吸収を抑える経口吸着炭製剤です。腎機能の低下に伴い蓄積する有害物質を体外に排出することで、尿毒症症状の改善・進行抑制を助けます。

FeliAIMは、猫の慢性腎臓病(CKD)に対して、これまでの対症療法とは一線を画す「新しい作用機序」を持つ製剤として注目されています。しかし、2026年4月現在は農林水産省への承認申請に向けた段階にあり、国による製造販売承認はまだ下りていません。そのため、一般の動物病院での販売や処方は開始されておらず、最終的な実用化の時期や具体的な効能、安全性についても、現時点ではあくまで「期待されている段階」の未確定な情報であることに注意が必要です。

この製剤の核となるAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)とは、宮崎徹教授らが発見したタンパク質(CD5L)で、本来は腎尿細管に蓄積した老廃物や死細胞に付着し、マクロファージによる除去を促す「掃除の目印」の役割を担っています。多くの哺乳類ではこの自浄作用が正常に機能しますが、猫は遺伝的にAIMが血液中の免疫グロブリン(IgM)と強力に結合しており、ゴミが発生しても切り離されず「機能不全(休眠状態)」に陥っています。この「掃除ができない」体質が、猫が宿命的にCKDを発症しやすい根本原因の一つと考えられています。

話題となった「L-シスチン」などのアミノ酸は、猫の体内に元々ある休眠状態のAIMをIgMから切り離して活性化させるスイッチの役割を期待したものであり、現在は主に健康維持や予防を目的としたフードやサプリメントに配合され流通しています。対してFeliAIMは、人工的に作製した「最初から活性化した状態の猫AIMタンパク質」そのものを製剤化した治療薬候補です。外から働くAIMを直接補完することで、より強力に老廃物の除去能力をサポートし、病態の維持・改善を目指すものとして開発が進められています。

2026年4月現在、治験を終えて承認申請のプロセスにありますが、今後の審査結果によっては実用化の時期が前後したり、対象となる症状が限定されたりする可能性も多分に含まれています。承認された暁には、実際の臨床現場における長期的な安全性や、ステージ別の有効性について、さらなるデータの蓄積が待たれる画期的な治療薬候補とされています。

薬剤治療と並行して、各種サプリメントを組み合わせることでより包括的なCKD管理が可能になります。

製品名(成分) 剤形 特徴
カリナール1
(炭酸カルシウム)
パウダー 腸内でリンを吸着・排泄し血中リン濃度の上昇を抑える。無味無臭で食事に混ぜやすい。療法食に切り替えられない猫のリン対策に。
カリナール2
(乳酸菌・フルクトオリゴ糖等)
パウダー 善玉菌が腸内の窒素老廃物を減らし、腸内環境を整える。タンパク制限食を受け入れない猫に特に有効。
カリナールコンボ
(炭酸カルシウム+乳酸菌+オリゴ糖)
パウダー リン吸着+腸内環境改善。3種の乳酸菌を含有。1と2を別々に与えるより少量で済む。
アゾディル
(特定善玉菌 KB19・KB27・KB31)
カプセル 善玉菌が大腸で窒素老廃物を代謝・排泄。1カプセルに150億個以上の生菌数。冷蔵保存が必要。
オメガ3脂肪酸
(EPA・DHA)
液体・カプセル 腎臓の炎症を抑え糸球体への負荷を軽減。腎臓療養食に含まれる場合も多い。魚油サプリで別途補うことも可能。
ビタミンB群・水溶性ビタミン パウダー・錠剤 多尿で失われやすいビタミンを補給。特にビタミンB12は食欲低下が著しい場合に有効とされる。継続的な補給が大切。

以下の薬剤は、CKDに伴う合併症(高血圧・貧血・低カリウム血症・タンパク尿など)が認められた場合に、検査結果と愛猫の状態を見ながら使用します。
猫の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

対象となる合併症・状態 製品名の例(成分・種類) 概要・注意点
高血圧(腎性高血圧) カルシウム拮抗薬(アムロジピンベシル酸塩)、ACE阻害薬(ベナゼプリル塩酸塩) 高血圧の状態が続くと、腎障害がさらに悪化する。血管を拡張して血圧を下げたり、糸球体内圧を下げタンパク尿も軽減する目的で使用する。
腎性貧血 赤血球造血刺激因子製剤(ダルベポエチンアルファ、エポエチンベータ) 腎臓が分泌する造血ホルモンの低下により貧血が起こった場合の補充療法。骨髄抑制などの副作用に注意が必要。
低カリウム血症 カリウム製剤(塩化カリウム、グルコン酸カリウム) 血液検査でカリウム低値を確認してから補給する。過剰投与は高カリウム血症のリスクがある。
タンパク尿 ACE阻害薬(ベナゼプリル塩酸塩)、ARB(テルミサルタン) 糸球体内圧を下げてタンパク尿を軽減する目的で使用する。

猫の慢性腎臓病(CKD)は、適切な早期発見と継続的な管理により、その後の経過を大きく変えることができる病気です。愛猫の腎臓を守るために、特に7歳を超えたら年に1〜2回は血液検査・尿検査を受けることをおすすめします。

  • CKDは7歳以上の猫に特に多く、定期的な血液・尿検査・血圧測定による早期発見が何より重要。
  • 初期には無症状のことが多く、症状が出てからでは進行していることが多い。
  • 治療の4本柱は「食事療法」「サプリメント摂取」「薬剤の内服・注射薬」「輸液療法」。これらを組み合わせて総合的に管理する。
  • ラプロスは国内唯一の猫CKD適応承認薬で臨床試験の生存期間延長データがある一方、個体差があり状況に応じて獣医師と相談が必須。
  • 高血圧・貧血・低カリウム血症・タンパク尿などの合併症は、検査結果に基づき獣医師が必要な薬剤を追加する。自己判断での使用は避ける。
  • IRIS(International Renal Interest Society). IRIS Staging of CKD. http://www.iris-kidney.com/
  • Mizutani, H. et al. Randomized clinical trial of the effect of beraprost sodium on survival time in cats with chronic kidney disease. Journal of Veterinary Internal Medicine, 2017.(ラプロスの国内臨床試験)
  • Miyazaki, T. et al. Discovery of AIM and its role in kidney disease. Cell Metabolism, 2007.
  • Kuwahara, Y. et al. Feline AIM protein and its association with CKD. Scientific Reports, 2021.
  • Sparkes, A.H. et al. ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Feline Chronic Kidney Disease. Journal of Feline Medicine and Surgery, 2016.
  • Inatomi, T. et al. Oral adsorbent AST-120 and chronic kidney disease. Nephron, 2017.(コバルジンの根拠)
  • Rishniw, M. and Wynn, S.G. Azodyl, a synbiotic, fails to alter azotemia in cats with chronic kidney disease when sprinkled onto food. Journal of Feline Medicine and Surgery, 13(6):405-409, 2011.
  • 三島英換, 阿部高明. 腸内細菌叢が腎臓病に与える影響. 日腎会誌 59(4):557-561, 2017.
  • エランコジャパン株式会社. カリナールコンボ製品情報. https://mypetandi.elanco.com/jp/carenal-combo
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(ラプロス錠・コバルジン・フォルテコール添付文書). https://www.maff.go.jp/nval/index.html
  • 共立製薬株式会社. ラプロス錠 添付文書. https://kyoritsuseiyaku.co.jp/
  • バイエル薬品株式会社. コバルジン添付文書(動物医薬品検査所データベース収載).