猫の下部尿路疾患(FLUTD)~尿路結石・膀胱炎の予防と治療~【獣医師執筆】

猫はもともと砂漠の動物であったため、水分を節約するために尿を濃縮する性質をもっています。その反面、尿路に結晶や炎症が生じやすく、泌尿器トラブルを起こしやすい体質でもあります。「何度もトイレに行くのに、おしっこが出ていない」「砂に血が混じっている」——そんなサインに気づいたとき、もしかしたら猫の下部尿路疾患(FLUTD)のSOSかもしれません。今回は、FLUTDの基本から最新の治療薬・サプリメントまで詳しく解説します。


FLUTD(Feline Lower Urinary Tract Disease:猫下部尿路疾患)とは、猫の膀胱から尿道にかけての下部尿路に起こるさまざまな病気や症状の総称です。

FLUTDの主な原因疾患には以下のものが含まれます。①特発性膀胱炎(FIC:Feline Idiopathic Cystitis)、②尿路結石症(尿石症)、③細菌性膀胱炎、④尿道栓子(尿道プラグ)、⑤解剖学的異常や腫瘍などです。このうち最も多いのが「特発性膀胱炎」で、FLUTDの約半分を占めるとされています。次いで尿石症が1/4程度です。

FLUTDは年齢・性別・生活環境に関係なく発症しますが、以下の特徴をもつ猫では発症リスクが特に高いことがわかっています。

リスク因子 詳細
性別(オス) オスの尿道はメスより細長く、結石・炎症産物・粘液が詰まりやすいため「尿道閉塞」を起こしやすい。去勢済みでは尿道粘膜が萎縮してさらに狭くなる傾向がある。
年齢 10歳以上では免疫機能低下・飲水量減少により細菌性膀胱炎が増える。また、糖尿病・慢性腎不全などの基礎疾患を抱える高齢猫は尿路感染症の二次発症リスクが高まる。
肥満・運動不足 肥満猫は活動量が落ちて水を飲まなくなるため尿が濃縮し、ミネラルが結晶化しやすくなる。理想体重の20%以上超過した猫ではFLUTDの発症率が有意に高くなるという報告がある。
食事・水分摂取 ドライフード主体では慢性的な水分不足になりやすい。水分摂取が少ないと尿が濃縮されてミネラルが析出しやすくなる。また、マグネシウム・リンが多い食事はストルバイト結石リスクを高める。
ストレス(特発性膀胱炎の最大のトリガー) 引越し・新入り動物・工事音・トイレ環境の変化・飼い主の生活スケジュール変化などがストレスの要因となり、特発性膀胱炎の発症を助長しやすくなる。

「特発性(とくはつせい)」とは「明らかな原因が特定できない」という意味です。FICは若〜中年齢の猫に多く、検査を行っても細菌や結石が見つからないにもかかわらず、頻尿・血尿・排尿痛などの症状が出現します。

現在の研究では、ストレスが引き金となって神経・内分泌系が乱れ、膀胱の粘膜バリアが崩れることが発症メカニズムの中心と考えられています。膀胱の粘膜を覆っているGAG(グリコサミノグリカン)層が薄くなると、尿の刺激が直接粘膜に伝わり炎症が起きやすくなります。特発性膀胱炎は「治っても再発しやすい」という厄介な側面もあります。

尿石症は、尿中のミネラル成分が結晶化して結石が形成される疾患です。猫で問題になる主な結石には大きく2種類あります。なお、オス猫では結石や炎症産物が細い尿道に詰まる「尿道閉塞」が起こることがあり、48時間以内に急性腎不全や膀胱破裂など命に関わる緊急事態となるリスクもあるため、尿が全く出ない・ぐったりしているなどの状態は直ちに動物病院を受診してください。

結石の種類 特徴・主な発症条件
ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム) 猫で最も多い尿路結石。食事療法で溶解できる可能性のある唯一の結石。アルカリ性尿(pH7.0以上)で形成されやすく、細菌感染(ウレアーゼ産生菌)が関与することもある。若〜中年齢の猫に多い。フードを変更して1〜2か月目あたりは要注意。
シュウ酸カルシウム 酸性尿(pH6.0以下)で形成されやすく、一度形成されると食事で溶かすことができない硬い結石。中〜高齢猫(7歳以上)に多い。

細菌性膀胱炎は、大腸菌・ブドウ球菌などの細菌が尿道から膀胱に侵入して増殖することで起こります。若い猫では比較的少ない(約1〜5%)ですが、10歳以上の高齢猫・糖尿病・ステロイド長期使用・慢性腎臓病を抱える猫では頻度が増えます。細菌性膀胱炎は抗生物質治療が必要で、放置すると細菌が腎臓に上行して腎盂腎炎を引き起こすこともあります。


FLUTDはじわじわと進行するため、初期段階では「なんとなくトイレの回数が増えた」程度しか気づかないことも多くあります。以下のサインに一つでも心当たりがあれば、早めに動物病院を受診してください。

症状 背景・要因
頻尿 炎症・痙攣・閉塞により残尿感が生じる。何度もトイレに行くが少量しか出ない、全く出ない場合は要注意。※健康な猫のトイレ回数は1日2〜4回が目安。
血尿 膀胱・尿道粘膜が傷ついて出血する。ピンク色〜赤色の尿がでる。肉眼では赤くみえなくても尿検査をすると血尿(+)のこともある。
排尿困難・排尿時の鳴き声 炎症の痛みや物理的閉塞が排尿を妨げる。力んでも尿が出ない場合は尿道閉塞を疑う。
食欲低下・元気消失 排尿痛による全身ストレスが原因。尿道閉塞が進むと尿毒症となり、吐き気・倦怠感・体温低下が現れる。
腹部膨満・嘔吐 尿道閉塞により膀胱が過拡張した状態。急性腎傷害・尿毒症に進行しており、至急の受診が必要。

FLUTDの診断で最も基本となる検査です。新鮮な尿を採取し、以下の項目を確認します。動物病院で直接採尿するのが確実ですが、自宅で採尿する場合は採取後すぐに検査に持っていきましょう。

検査項目 内容
①尿比重 腎臓の尿の濃縮機能の目安。猫では1.035を下回ると腎臓の濃縮機能低下が疑われる。
②尿pH ストルバイトはpH7.0以上のアルカリ性で形成されやすく、シュウ酸カルシウムは酸性側で形成されやすい。
③尿沈渣 顕微鏡で結晶・細菌・白血球・赤血球の有無を確認する。
④尿タンパク・潜血 炎症・出血の有無を確認する。

細菌性膀胱炎が疑われる場合に実施します。尿を培養して細菌の種類を特定し、どの抗生物質が効くかを特定します。培養結果が出るまで3〜7日かかるため、結果待ちの間は経験的に選んだ抗生物質を先行投与することが多いです。

超音波(エコー)検査は必須の検査です。結石の有無、腎臓〜尿管〜膀胱〜尿道の状態(蓄尿の状況も含む)を確認します。レントゲン検査は結石の形や数、位置などを把握するために行います。

尿道閉塞が続いた場合、腎臓への逆流圧がかかり腎機能が急激に低下することがあります(急性腎傷害:AKI)。血液検査ではBUN(血液尿素窒素)・クレアチニン・リン・カリウムなどの電解質を測定し、腎機能障害の有無と重症度を確認します。


予防と治療において最も重要なのが、「食事の見直し」と「水分摂取量の増加」です。尿が十分に薄まると結晶が析出しにくくなり、膀胱粘膜への刺激も大きく軽減されます。水分は複数箇所への水皿設置・流水器の導入・ウェットフードの活用など工夫して増やし、疾患タイプに合った療法食を選ぶことが再発予防の土台となります。

【療法食の選び方】

疾患タイプ 概要・代表製品
ストルバイト結石 低マグネシウム・尿酸性化設計の療法食(pH6.0〜6.5)でストルバイトを溶解・予防できる。ウェットタイプが特に有効。酸性化しすぎるとシュウ酸カルシウムリスクが高まるため、定期的な尿pH測定が必要。
【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O、ヒルズ s/d、ヒルズ c/dマルチケア
シュウ酸カルシウム結石 食事では溶かせないため完治には外科処置が必要。予防は水分摂取増加と、尿を過度に酸性化しない食事が基本。ストルバイト用の強酸性化食を誤って与えると悪化する場合があるため注意が必要。
【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O、ヒルズ c/d マルチケア
特発性膀胱炎(FIC) 高水分食(ウェットフード主体)が最優先。ストレスケア成分(加水分解ミルクタンパク・トリプトファン)配合フードも有効。食事の急な変更もストレスになるため、1〜2週間かけて段階的に移行する。
【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O+CLT、ヒルズ c/d マルチケア コンフォート

※療法食は自己判断で選ぶと、結石の種類によっては逆効果になる恐れがあります。必ず検査結果に基づき、獣医師の指導下で選びましょう。

特発性膀胱炎の再発予防に欠かせないのが、猫が毎日安心して過ごせる環境づくりです。トイレは「頭数+1個」を目安に常に清潔に保ち、キャットタワーや押し入れの隅など高い場所・隠れ場所を用意することで猫の安心感が高まります。じゃらし棒やパズルフィーダーを使った遊びを1日2回程度行うことでストレスを解消し、運動不足と肥満の予防にもなります。多頭飼育では食器・水飲み場もそれぞれに用意し、猫同士が資源をめぐって競合しない環境を整えましょう。

尿道閉塞の緊急処置として、まず麻酔下でカテーテルを尿道から挿入して閉塞を解除します。その後、膀胱内を洗浄して安定化させ、入院管理を行います。食事療法で溶解できないシュウ酸カルシウム結石が膀胱内に留まる場合は、外科手術が必要な場合もあります。また、繰り返す閉塞に対しては、尿道を広げる「会陰尿道瘻術」が選択されることもあります。


直接的に症状を治療できる内服薬はないため、細菌感染やFLUTDを予防するためのサプリメントが中心となります。使用にあたっては必ず獣医師に相談しましょう。

細菌性膀胱炎の治療には抗生物質(抗菌薬)が必須です。自己判断で投薬を中断すると耐性菌が生じるリスクがあるため、獣医師の指示に従って最後まで飲み切ることが重要です。

成分名(製品名) 系統 特徴・注意点
エンロフロキサシン(エンロクリア錠・バイトリル錠) ニューキノロン系 広域スペクトルを持ち、難治例・再発例の二次選択薬として使用されることが多い。猫では高用量・長期投与で網膜障害(失明)のリスクが報告されている。
オルビフロキサシン(ビクタスSS錠) ニューキノロン系 犬猫に適応をもつ動物用ニューキノロン系抗菌薬。グラム陽性菌・陰性菌に広域スペクトルをもつ。尿中移行性が高い。

サプリメントを組み合わせることで、より包括的なケアが可能になります。サプリメントは補助的なものであり、薬剤の代替にはなりませんので、獣医師の指示の下で食事療法などその他の治療と合わせて活用しましょう。

成分・カテゴリー 製品例 特徴・期待される効果・注意点
クランベリーエキス+ウラジロガシエキス+GAG(N-アセチルグルコサミン) ・ウロアクトプラス
・ウロアクトシロップ
【複合型泌尿器サプリ】
クランベリーエキスが細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、N-アセチルグルコサミンがGAG層を補強して粘膜を保護。ウラジロガシエキスは利尿・尿石溶解をサポート。シュウ酸カルシウム結石の場合は悪化のリスクがあるため注意が必要。
クランベリーエキス主体(プロアントシアニジン) ・PEクランベリーU液
・PEクランベリーチュアブル
細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、細菌性膀胱炎の再発予防が期待される。シュウ酸カルシウム結石の場合は悪化のリスクがあるため注意が必要。
オメガ3脂肪酸 ・アンチノールプラス 【EPA・DHA】
モエギイガイ由来の脂肪酸複合体PCSO-524にクリルオイルを配合した海洋性脂質(EAB-277)が主成分。EPA・DHAをはじめ91種類の脂肪酸を含み、抗炎症作用により膀胱の慢性炎症緩和が期待される。関節・皮膚・腎臓ケアとの兼用もできる。
鎮静系サプリメント ・フェリウェイ各種
・ジルケーン
ストレスを緩和する目的で使用。ジルケーンは牛乳由来カゼインをトリプシン加水分解した「α-カソゼピン」が主成分。脳のGABA受容体に働きかけて不安・興奮を和らげる効果が報告されている。
N-アセチルグルコサミン+ヒアルロン酸+L-トリプトファン ・シストファン 【膀胱粘膜保護・ストレスケア】
N-アセチル-D-グルコサミンとヒアルロン酸が膀胱粘膜層の健康を維持し、L-トリプトファンが環境変化などのストレスケアをサポートする。膀胱粘膜保護とストレス緩和の両面に働く。
クランベリー由来プロアントシアニジン+マンナンオリゴ糖+プロバイオティクス ・シストプロ 【細菌性膀胱炎予防・腸内環境サポート】
クランベリー由来プロアントシアニジンが細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、マンナンオリゴ糖とプロバイオティクスが腸内環境を整えることで免疫機能をサポートする。細菌性膀胱炎の再発予防補助として使用。
N-アセチルグルコサミン+L-テアニン+ハイビスカスフラワーエキス ・フェルロ 【膀胱粘膜保護+ストレスケア】
N-アセチルグルコサミンが膀胱細胞の健康をサポートし、L-テアニン(緑茶抽出ポリフェノール)が猫の安心ケアを、ハイビスカスフラワーエキスが健康な膀胱環境と尿の性状維持をサポートする。液体タイプでフードにかけて与えやすい。

猫の下部尿路疾患(FLUTD)は「一度なったら終わり」ではなく、再発防止が最も大切です。適切な食事管理と水分補給、ストレスを与えないような環境づくりを心がけましょう。

  • 毎日のトイレチェックを習慣化する(回数・量・色・においの変化に敏感になる)
  • 水分摂取を増やす工夫をする(流水器の導入・ウェットフードの活用・複数箇所への水皿設置)
  • ストレスを減らす環境整備(十分なトイレ数・隠れ家・遊びの機会)を徹底する
  • 尿石症の種類を把握したうえで、その子に合った療法食・食事管理を続ける
  • 「尿が全く出ない」「元気がない」「腹部が張っている」は緊急サイン。すぐに受診する
  • 薬剤・サプリメントの使用は必ず獣医師の指示のもとで。自己判断での使用は避ける
  • Buffington CA, et al. Pandora syndrome in cats. J Vet Intern Med. 2022;36(1):4–11.
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  • エランコジャパン株式会社. バイトリル錠 添付文書. https://my.elanco.com/jp/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html
  • ビルバック ジャパン株式会社. フェルロ 製品情報. https://www.virbac.com/jp/
  • アントパック株式会社. シストファン・シストプロ 製品情報. https://antpack.co.jp/
  • 日本全薬工業株式会社. ウロアクトプラス 製品情報. https://www.nippon-zenyaku.co.jp/
  • 大日本住友製薬株式会社. ビクタスSS錠 添付文書. https://ds-pharma.jp/

『僧帽弁閉鎖不全症』犬で最も多い心疾患について解説【獣医師執筆】

犬の心臓病のなかで、最も多く見られるのが「僧帽弁閉鎖不全症(MVD:Mitral Valve Disease)」です。特に小型犬の高齢期に多く発症し、チワワ・マルチーズ・ポメラニアン・キャバリア・シーズーなどでは珍しくない疾患です。「最近咳が増えた気がする」「なんだか息切れが早くなった」──そんなサインに気づいたとき、もしかしたら心臓がSOSを出しているかもしれません。

8歳以上の小型犬では、半数以上が何らかの心臓疾患を抱えているとも言われており、早期発見・早期対応が愛犬の寿命と生活の質を大きく左右します。
今回は、僧帽弁閉鎖不全症の基本から最新の治療薬・サプリメントまで詳しく解説します。


犬の心臓は人と同じく4つの部屋(左心房・左心室・右心房・右心室)に分かれており、全身に血液を送り出すポンプとして働いています。このうち「左心房」と「左心室」の間にある弁が「僧帽弁(そうぼうべん)」です。正常な状態では、僧帽弁は左心室が収縮する(血液を送り出す)タイミングで完全に閉じることで、血液が左心房へ逆流するのを防ぎます。ところが、この弁の組織が変性・肥厚・変形することで完全に閉じなくなると、収縮のたびに一部の血液が逆流してしまいます。これが「僧帽弁閉鎖不全症」の本質です。

逆流が続くと、左心房・左心室に過剰な血液が蓄積し、心臓は「もっと頑張らなければ」と過剰に働き続けます。その結果として心臓が拡大し、やがては肺への血液うっ滞(肺水腫)や全身への血流低下が起こります。

僧帽弁閉鎖不全症は遺伝的な素因が非常に強く、チワワ・マルチーズ・ポメラニアン・シーズー・ダックスフンド・コッカースパニエルなどの小型〜中型犬種で発症率が高いことが知られています。

中でもキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(CKCS)は特に注意が必要な犬種で、2〜3歳という若齢で心雑音が確認される例も珍しくありません。8歳以上の小型犬では、半数以上が何らかの心臓疾患を抱えているとも言われています。


僧帽弁閉鎖不全症は、国際的な獣医内科学会(ACVIM)のコンセンサスガイドライン(2019年改定)によりステージA〜Dの4段階に分類されます。ステージによって治療方針・投薬開始タイミングが異なります。

ステージ 状態 概要・治療方針の目安
ステージA 発症リスク群 心臓病はまだない。好発犬種・遺伝リスクあり。定期スクリーニング推奨。
ステージB1 無症候・心拡大なし 心雑音あり・心拡大なし。原則投薬不要。年1〜2回の定期検査で経過観察。
ステージB2 無症候・心拡大あり 心雑音あり+心エコー/X線で心拡大確認。状況により投薬が推奨される段階。
ステージC 心不全症状あり 咳・呼吸困難・運動不耐性などが出現。利尿薬・ACE阻害薬・強心薬を組み合わせて積極治療。
ステージD 難治性心不全 標準治療に反応しない重篤な心不全。薬剤追加・専門管理・手術検討が必要。

僧帽弁閉鎖不全症はじわじわと進行するため、初期段階(B1)では「なんとなく元気がない」程度しか出ないことも多く、気づきにくいのが特徴です。
以下のサインに一つでも心当たりがあれば、早めに動物病院を受診してください。

症状 背景となるメカニズム
咳・空咳 心臓の拡大が気管を圧迫することで生じる。肺水腫(肺への血液うっ滞)が起きると悪化する。
運動不耐性(すぐ疲れる・歩くのを嫌がる) 心拍出量の低下により以前より早く疲れる。散歩途中で立ち止まる、抱っこを求めるなどの変化が見られる。
呼吸が速い・荒い・腹式呼吸 肺に水が溜まる(肺水腫)と呼吸が苦しくなる。特に安静時・睡眠時の呼吸数増加は要注意。
失神・虚脱 重度の心拍出量低下や不整脈で一時的に意識を失うことがある。
腹部膨満 重症化すると、病態によっては腹水が溜まりお腹が丸く膨らんで見える場合がある。
食欲低下・体重減少 全身の血流低下が続くと食欲も落ち、筋肉量が減る「心臓悪液質」が生じることがある。

【要注意サイン】
安静時(寝ているとき)の呼吸数が1分間に40回を超える場合は、肺水腫の可能性などを考慮し、元気でも念のため病院を受診されることをおすすめします。日頃から「睡眠時呼吸数モニタリング」(横に寝ているときに胸の上下を1分間数える)を習慣にしましょう。


まず動物病院で行われるのが聴診です。僧帽弁閉鎖不全症では逆流する血液が弁を通過する際に「心雑音(しんざつおん)」が生じます。雑音の強さはGrade 1〜6に分類され、Grade 3以上になると心拡大を伴っている可能性が高まります。ただし雑音の大きさだけでは重症度は判断できないため、画像検査・血液検査が不可欠です。

心臓の大きさや形・肺の状態を確認します。心拡大の指標として「VHS(椎骨心臓スコア)」が使われ、犬の平均は9.7±0.5とされています(犬種によって基準値が異なる場合があります)。肺水腫が起きていると肺野が白く映るため、緊急性の判断にも重要な検査です。

ステージ判定と治療方針決定に欠かせない最重要検査です。
弁の逆流の程度・心腔の大きさ・心機能(短縮率・駆出率)などを定量的に評価できます。心雑音が聴取されたら、定期的に心臓の超音波検査を行い、進行の有無など経過を細かく確認していきます。

血液検査は、心臓への負荷・ダメージを客観的に示すバイオマーカーの測定と経時的なモニタリングが重要です。近年は心臓専門マーカーの測定が普及しており、早期スクリーニングや治療効果の評価に活用されています。

検査項目 内容と意義
NT-proBNP(N末端プロBNP) 心筋が過剰なストレスを受けると放出されるホルモン前駆体。心臓病スクリーニングの最も重要なバイオマーカーの一つ。心拡大の程度に比例して高値になり、B1とB2の鑑別や治療効果のモニタリングにも有用。主に外注検査でチェックするが、簡易キットも普及している。
cTnI・cTnT(心筋トロポニン) 心筋細胞が傷害を受けると血中に漏れ出るタンパク質。急性の心筋ダメージや不整脈の評価に有用。近年普及した高感度トロポニン(hs-cTnI)は早期の心筋障害をより精度高く検出できる。

僧帽弁閉鎖不全症は現時点では内科的治療で「完治」させることはできません。
治療の目的は「心不全の発症を遅らせること」「心不全症状をコントロールしてQOLを保つこと」「できる限り長く、快適に生きられるようサポートすること」です。
治療は薬剤・食事療法・環境管理・手術を状態に応じて組み合わせます。

心臓病の犬には塩分(ナトリウム)を控えた食事が推奨されます。市販の心臓サポート食(療養食)は塩分制限に加え、オメガ3脂肪酸・タウリン・カルニチンなど心臓に有益な成分が配合されています。食欲不振の犬に無理に療養食を与えると栄養不足を招くため、まず「食べること」を優先しながら段階的に切り替えていくのが基本です。

ステージB1〜B2では激しい運動を避けつつ、適度な散歩は継続することが推奨されます。ステージCになると心臓への負担を抑えるための運動制限が必要です。獣医師の指示のもと、愛犬の状態に合わせた運動量を設定してください。

高温多湿の環境では心拍数が増加して心臓への負担が急増します。室内温度・湿度の管理を徹底し、夏の散歩は早朝・夕方の涼しい時間帯に短時間で行うようにしましょう。花火や工事音など興奮・ストレスの原因も心拍数を上げる原因となるため注意しましょう。

近年、「僧帽弁修復術(Mitral Valve Repair)」によって根本的な完治を目指せるようになりました。実施できる施設は国内でもごく限られた専門病院のみで費用も高額ですが、手術成績は向上しており、ステージB2〜Cの段階でかかりつけ医に相談しておくことで適応の幅が広がります。


「主軸となる心不全治療薬」「サプリメント(継続補助)」をまとめて解説します。なお、本内容は学術情報・各製品の添付文書情報に基づくものであり、使用にあたっては必ず獣医師の指示に従ってください。

以下の薬剤はACVIMガイドラインに基づいて処方される中心的な薬です。
ステージが進むにつれて複数の薬を組み合わせて使用するのが一般的です。

成分(製品名) 特徴・役割
ピモベンダン
(dsピモハート、ピモベハート)
心筋の収縮力を高める強心作用+血管拡張作用。ステージB2からの早期投与が推奨される第一選択薬。EPIC試験(※)で心不全発症までの期間が大幅に延長されるとの報告がある。カルシウム感受性を高めることで心筋収縮力を上げるため、従来の強心薬より不整脈を誘発しにくいとされる。食前1時間の空腹時投与が吸収率の点で望ましい。
ベナゼプリル塩酸塩
(フォルテコール、ベナゼハート)
血管拡張で心臓の負担を軽減するACE阻害薬。心リモデリング(病的変形)の抑制効果もある。フレーバー錠で投薬しやすい。腎臓への保護作用も報告されており、心臓病に伴う腎機能低下が懸念される症例にも使われる(状態による)。
アラセプリル
(アピナック)
日本で開発されたACE阻害薬。RAA系を介する血管拡張作用に加え、RAA系を介さず末梢交感神経を直接抑制するトリプルアクションを持つ。代謝物のSH基による活性酸素消去作用もある。他のACE阻害薬からの切り替えで咳の改善が見られた報告も。
フロセミド
(ループ利尿薬)
体内の余分な水分を尿として排出し肺水腫・体液貯留を改善。ステージCから主軸に。緊急時は注射で速効投与。電解質バランスへの影響があるため定期血液検査が必要。
トラセミド
(アプカード)
1日1回で長時間効く強力な利尿薬。フロセミドより耐性が生じにくいため、長期管理の切り替え薬として選ばれることが増えている。腎機能モニタリングが必要。
スピロノラクトン
(抗アルドステロン薬)
アルドステロン阻害で心リモデリングを抑制。カリウム保持作用がありフロセミドとの相乗効果が期待できる。ACE阻害薬と組み合わせてよく使われる。
アムロジピンベシル酸塩
(カルシウム拮抗薬)
強力な血管拡張で血圧を下げる。ステージ進行・肺高血圧・高血圧合併例で追加されることがある。

※EPIC試験とは:心拡大が認められるB2ステージの犬にピモベンダンを症状が出る前から投与し、投薬なし群と比べて心不全発症までの期間が約15か月延長されることが示された試験。この結果が2019年のACVIMガイドライン改定でB2への早期投与推奨が盛り込まれた根拠となっています。

薬剤治療を補う目的でサプリメントを組み合わせることで、より包括的な心臓ケアが可能になります。
ただし、サプリメントはあくまで補助的なものであり、薬剤の代替にはなりません。獣医師と相談のうえ活用してください。

成分名 特徴・期待される効果
タウリン・L-カルニチン 心筋のエネルギー代謝を支えるアミノ酸。拡張型心筋症との関連で注目されており、心臓サポート用サプリに広く配合されている。
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA) 抗炎症・心臓の炎症を抑える効果が期待される。心臓悪液質(体重減少・筋肉量低下)の予防にも有益とされる。心臓療養食に含まれる場合も多く、魚油サプリで別途補うことも可能。
ビタミンE・ビタミンC 心臓への酸化ストレスを軽減することが期待される抗酸化ビタミン。ビタミンEは細胞膜の酸化を防ぎ、ビタミンCはビタミンEの再生にも働く。心臓ケアサプリの成分として広く用いられている。

  • 年に1〜2回は聴診・X線・心エコー・血液検査(NT-proBNP等)を受け、早期にステージを把握する。
  • 安静時呼吸数モニタリングをご自宅で習慣化する(40回/分超えは緊急受診)。
  • ステージB2以上では、獣医師の判断のもとピモベンダンの早期開始を検討する。
  • 夏と冬は温度管理(室温22〜26℃目安)と湿度の管理が特に重要。
  • 食事・サプリメント・薬剤・環境管理を組み合わせた総合的なアプローチが大切。

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、適切な早期発見と継続的な治療管理によって、その後の経過を大きく変えることができる病気です。大切な愛犬が少しでも長く元気に過ごせるよう、日々の観察と定期検査を続けていきましょう。

  • Boswood A, et al. Effect of Pimobendan in Dogs with Preclinical Mitral Valve Disease and Cardiomegaly (EPIC Study). J Vet Intern Med. 2016;30(6):1765-1779.
  • Keene BW, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J Vet Intern Med. 2019;33(3):1127-1140.
  • Boswood A, et al. Biomarkers in cardiology – Part 1: Biomarkers of heart failure. J Small Anim Pract. 2004;45(10):501-508.
  • Oyama MA, et al. Prognostic value of plasma cardiac troponin I concentration in dogs with cardiac disease. J Vet Intern Med. 2004;18(3):345-350.
  • 物産アニマルヘルス. アピナック®錠 製品情報(アラセプリル). https://vet-i.jp/contents/product/apinac/index.html
  • エランコジャパン株式会社. フォルテコール錠フレーバー・フォルテコールプラス添付文書. https://my.elanco.com/jp/
  • 共立製薬株式会社. ピモベハート錠 添付文書. https://kyoritsuseiyaku.co.jp/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html
  • ねこあざらし薬店. 心臓病の薬(要・犬)商品ページ. https://nekoazarasi.com/

猫の慢性腎臓病について。治療薬とともに詳細を解説【獣医師執筆】

猫の慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、猫に最も多く見られる病気の一つです。
シニア猫(7歳以上)の約3割が何らかの腎機能低下を抱えているとされており、特に高齢になるほど有病率は高まります。腎臓は一度ダメージを受けると機能が回復しない臓器であるため、「気づいたときには手遅れ」になりやすいのが最大の問題です。

だからこそ、早期発見と適切な管理が愛猫の寿命と生活の質(QOL)を大きく左右します。
今回は、猫の慢性腎臓病の基本から近年の最新情報まで詳しく解説していきます。


腎臓は血液をろ過して老廃物・毒素を尿として排出する臓器ですが、それだけではありません。血圧の調節、造血ホルモン(エリスロポエチン)の分泌、電解質(カリウム・リン・ナトリウム)のバランス維持、活性型ビタミンDの産生など、全身の恒常性維持に深く関わっています。

国際腎臓病研究グループ(IRIS:International Renal Interest Society)が定めた分類では、血中クレアチニン値・SDMA値・尿タンパク・血圧を組み合わせてCKDをステージ1〜4に分類します。

ステージ クレアチニン(猫) SDMA 臨床的な状態の目安
ステージ1 <1.6 mg/dL <18 µg/dL 腎機能低下はあるが症状なし(非azotemia=血中老廃物は正常範囲)
ステージ2 1.6〜2.8 mg/dL 18〜35 µg/dL 軽度の低下。症状は軽微なことが多い
ステージ3 2.9〜5.0 mg/dL 36〜54 µg/dL 中等度。食欲不振・体重減少・多飲多尿が出始める
ステージ4 >5.0 mg/dL >54 µg/dL 重度の腎不全。嘔吐・衰弱・口臭(アンモニア臭)が顕著

猫はもともと砂漠起源の動物で、少ない水分で効率よく生きていくための特殊な生理機能を持っています。尿を高度に濃縮して排泄できる反面、その濾過装置である腎臓には常に高い負荷がかかり続けるという側面があります。

また、猫は肉食動物としてタンパク質を主なエネルギー源とするため、代謝産物(尿素窒素など)の処理量が多く、いわば「腎臓をフル稼働させなければならない」身体の仕組みを持っています。

さらに、近年の研究ではウイルス感染(FIV・FeLV)や歯科疾患による慢性炎症が腎臓へ悪影響を及ぼすことに加え、「AIMタンパク質の不活性化」という猫特有の遺伝的特性が慢性腎臓病(CKD)の大きな引き金となっていることも明らかになってきました。


CKDはじわじわと進行するため、初期段階では「なんとなく元気がない」「水をよく飲む」程度の変化しか出ないことが多く、飼い主が気づきにくいのが特徴です。
もし以下の項目にひとつでも心当たりがある場合は、体内では見た目以上に進行しているサインかもしれません。一度、健康診断を兼ねて動物病院で相談してみることをおすすめします。

症状 背景となるメカニズム
多飲・多尿 腎臓の濃縮能力が低下し薄い尿が大量に出るため、補うように水分摂取が増える
食欲低下・体重減少 尿毒症物質の蓄積による食欲中枢への影響と、食事量の低下
嘔吐・下痢・便秘 消化管粘膜への尿毒症の影響。便秘は脱水の影響。
口臭(アンモニア臭) 血中に増えた尿素窒素が唾液中で分解されアンモニアが発生する
毛並みの悪化、毛艶の低下 栄養状態の悪化とグルーミング意欲の低下
元気の低下・ぐったり 腎性貧血や低カリウム血症による全身倦怠感
突然の失明・眼底出血 腎性高血圧が原因。高血圧性網膜症として現れることがある

CKDの診断と進行度の評価において、血液検査は最も基本的かつ重要な検査です。腎臓がどれだけの老廃物をろ過・排泄できているかを複数の指標から把握することで、ステージの判定や治療効果の確認を行います。

検査項目 検査項目の示す内容
尿素窒素(BUN) タンパク質が分解される際に生じる老廃物。腎機能が低下すると排泄できず血中に蓄積する。ただし食事内容・脱水・消化管出血によっても変動するため、単独では判断しにくい
クレアチニン(Cre) 筋肉の代謝産物で、腎臓でろ過・排泄される。腎機能低下で血中濃度が上昇する代表的な指標。ただし腎不全初期には上がりにくく、筋肉量が少ない猫では低く出やすいなど、早期の異常を見逃す可能性がある
SDMA(対称性ジメチルアルギニン) 腎機能が約25〜40%低下した段階から早期に上昇する指標。クレアチニンより感度が高く、筋肉量の影響も受けにくいため、近年の早期発見に欠かせないマーカーとなっている
リン(P) 食事から摂取されるミネラルで、腎臓から排泄される。腎機能低下で血中に蓄積し、腎臓の線維化(正常組織が機能を持たない繊維組織に置き換わること)を加速させる。
カリウム(K) 神経・筋肉の機能に欠かせない電解質。CKD猫では多尿により失われやすく、低カリウム血症になりやすい。
ヘマトクリット・赤血球数 血液中の赤血球の割合。腎臓から分泌される造血ホルモン(エリスロポエチン)が低下すると貧血が起こりやすく、倦怠感・食欲低下の原因となる。

尿検査は、血液検査と並んで病気の早期発見に欠かせない重要なステップです。腎臓の大きな役割の一つに、体内の水分を逃さないよう尿をギュッと濃縮する働きがありますが、この能力を数値化したものが「尿比重」です。

健康な猫の腎臓は、少ないお水で老廃物を効率よく捨てるために、通常は「1.035以上」という非常に濃い尿を作ります。しかし、腎臓の機能が落ちてくると、この「濃縮する力」自体が弱まり、お水に近い薄い尿(1.010〜1.020程度)しか作れなくなってしまいます。

CKD猫の約60〜70%で高血圧が認められるとされています。高血圧は腎臓の細血管にさらなるダメージを与え、腎障害の悪化を加速させる悪循環を生み出します。また、重度の高血圧は突然の失明(高血圧性網膜症)を引き起こすこともあるため、定期的に血圧をチェックすることが大切です。

目安として、収縮期血圧(上の血圧)が160mmHg以上で治療の対象となり、180mmHgを超えると失明などの重大なリスクが高まります。ただし、病院での緊張で血圧が上がることもあるため、安静時の数値を慎重に見極める必要があります。


慢性腎臓病は現時点では「完治」できない病気です。
治療の目的は腎機能のさらなる低下を防ぎ、快適に長く過ごせるようサポートすることです。
治療は食事療法・サプリメント摂取・薬剤・輸液療法をメインとして、これらを組み合わせて行います。

食事管理はどのステージでも最優先の対策です。
腎臓療養食への切り替えを基本としつつ、以下のポイントを意識した食事内容を心がけてください。

チェックポイント ポイント詳細
リンを低く抑える リンの蓄積は腎臓の線維化を加速させる。腎臓療養食への切り替えや、リン吸着サプリを併用する。
タンパク質は量より質 BUNの上昇を抑えるため、たんぱく質を抑えた食事が推奨されるが、過度に制限すると筋肉量が落ち体力低下につながる。適度に抑えつつ消化吸収のよい良質なタンパク源を選ぶ。
水分をしっかり摂取 ウェットフードや飲水量を増やす工夫で腎臓への血流を維持する。
塩分(ナトリウム)を控える 過剰な塩分は血圧上昇・腎臓への負担増加につながる。おやつや一般食の塩分量にも注意。
オメガ3脂肪酸の摂取 EPA・DHAには抗炎症・腎保護効果がある。腎臓療養食に含まれるほか、魚油サプリで別途補うことも可能。
「食べること」を優先 食欲不振の猫に無理に療法食を強いると、栄養失調を招く可能性も。食べてくれる食事を優先し、段階的に療養食への切り替えを。

血液検査などの結果を踏まえ、必要に応じて薬剤やサプリメントを、それぞれの状態に応じて組み合わせて摂取します。

上記1,2でも数値が悪化する場合や、急性増悪や重篤な脱水・尿毒症を起こしている場合には、腎臓への血流を確保し老廃物を排出しやすくするために輸液療法を行います。過剰な輸液は心臓に負担をかけるため、動物病院での定期的な検査結果に基づき必要な輸液量を細かく調整します。


『①慢性腎不全関連薬』『②サプリメント』『③その他の薬剤』の3つに分けて解説していきます。
なお、下記に関しては農林水産省動物医薬品検査所データベースおよび参考文献、各製品の承認情報に基づきます。
本表は学術情報・公開データに基づく情報であり、特定製品の使用を推奨するものではありません。

製品名(成分) 剤形 特徴
ラプロス
(ベラプロストナトリウム)
錠剤 腎血流改善・抗炎症・抗線維化作用。国内臨床試験でステージ2〜3猫の生存日数延長を報告。
コバルジン
(クレメジン原体)
カプセル・粉末 腸管内で尿毒症物質吸着し血中への吸収を抑える。

ラプロスは2017年に国内で世界初の「猫の慢性腎臓病治療薬」として承認された動物用医薬品です。
腎臓内の細血管を拡張し、血液をろ過する毛細血管の塊である糸球体への血流を改善します。また尿細管の細胞を保護し、炎症や線維化(正常組織が機能を失った繊維組織に置き換わること)を抑える作用が報告されています。
一方で、効果には個体差があり、猫の状況によってはラプロスによって逆に症状が悪化してしまうリスクも存在します。使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で猫の状態を確認することが大切です。

コバルジン(クレメジン原体)は、腸管内で尿毒症物質を吸着し、血中への吸収を抑える経口吸着炭製剤です。腎機能の低下に伴い蓄積する有害物質を体外に排出することで、尿毒症症状の改善・進行抑制を助けます。

FeliAIMは、猫の慢性腎臓病(CKD)に対して、これまでの対症療法とは一線を画す「新しい作用機序」を持つ製剤として注目されています。しかし、2026年4月現在は農林水産省への承認申請に向けた段階にあり、国による製造販売承認はまだ下りていません。そのため、一般の動物病院での販売や処方は開始されておらず、最終的な実用化の時期や具体的な効能、安全性についても、現時点ではあくまで「期待されている段階」の未確定な情報であることに注意が必要です。

この製剤の核となるAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)とは、宮崎徹教授らが発見したタンパク質(CD5L)で、本来は腎尿細管に蓄積した老廃物や死細胞に付着し、マクロファージによる除去を促す「掃除の目印」の役割を担っています。多くの哺乳類ではこの自浄作用が正常に機能しますが、猫は遺伝的にAIMが血液中の免疫グロブリン(IgM)と強力に結合しており、ゴミが発生しても切り離されず「機能不全(休眠状態)」に陥っています。この「掃除ができない」体質が、猫が宿命的にCKDを発症しやすい根本原因の一つと考えられています。

話題となった「L-シスチン」などのアミノ酸は、猫の体内に元々ある休眠状態のAIMをIgMから切り離して活性化させるスイッチの役割を期待したものであり、現在は主に健康維持や予防を目的としたフードやサプリメントに配合され流通しています。対してFeliAIMは、人工的に作製した「最初から活性化した状態の猫AIMタンパク質」そのものを製剤化した治療薬候補です。外から働くAIMを直接補完することで、より強力に老廃物の除去能力をサポートし、病態の維持・改善を目指すものとして開発が進められています。

2026年4月現在、治験を終えて承認申請のプロセスにありますが、今後の審査結果によっては実用化の時期が前後したり、対象となる症状が限定されたりする可能性も多分に含まれています。承認された暁には、実際の臨床現場における長期的な安全性や、ステージ別の有効性について、さらなるデータの蓄積が待たれる画期的な治療薬候補とされています。

薬剤治療と並行して、各種サプリメントを組み合わせることでより包括的なCKD管理が可能になります。猫の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

製品名(成分) 剤形 特徴
カリナール1
(炭酸カルシウム)
パウダー 腸内でリンを吸着・排泄し血中リン濃度の上昇を抑える。無味無臭で食事に混ぜやすい。療法食に切り替えられない猫のリン対策に。
カリナール2
(乳酸菌・フルクトオリゴ糖等)
パウダー 善玉菌が腸内の窒素老廃物を減らし、腸内環境を整える。タンパク制限食を受け入れない猫に特に有効。
カリナールコンボ
(炭酸カルシウム+乳酸菌+オリゴ糖)
パウダー リン吸着+腸内環境改善。3種の乳酸菌を含有。1と2を別々に与えるより少量で済む。
アゾディル
(特定善玉菌 KB19・KB27・KB31)
カプセル 善玉菌が大腸で窒素老廃物を代謝・排泄。1カプセルに150億個以上の生菌数。冷蔵保存が必要。
オメガ3脂肪酸
(EPA・DHA)
液体・カプセル 腎臓の炎症を抑え糸球体への負荷を軽減。腎臓療養食に含まれる場合も多い。魚油サプリで別途補うことも可能。
ビタミンB群・水溶性ビタミン パウダー・錠剤 多尿で失われやすいビタミンを補給。特にビタミンB12は食欲低下が著しい場合に有効とされる。継続的な補給が大切。

以下の薬剤は、CKDに伴う合併症(高血圧・貧血・低カリウム血症・タンパク尿など)が認められた場合に、検査結果と愛猫の状態を見ながら使用します。猫の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

対象となる合併症・状態 製品名の例(成分・種類) 概要・注意点
高血圧(腎性高血圧) カルシウム拮抗薬(アムロジピンベシル酸塩)、ACE阻害薬(ベナゼプリル塩酸塩) 高血圧の状態が続くと、腎障害がさらに悪化する。血管を拡張して血圧を下げたり、糸球体内圧を下げタンパク尿も軽減する目的で使用する。
腎性貧血 赤血球造血刺激因子製剤(ダルベポエチンアルファ、エポエチンベータ) 腎臓が分泌する造血ホルモンの低下により貧血が起こった場合の補充療法。骨髄抑制などの副作用に注意が必要。
低カリウム血症 カリウム製剤(塩化カリウム、グルコン酸カリウム) 血液検査でカリウム低値を確認してから補給する。過剰投与は高カリウム血症のリスクがある。
タンパク尿 ACE阻害薬(ベナゼプリル塩酸塩)、ARB(テルミサルタン) 糸球体内圧を下げてタンパク尿を軽減する目的で使用する。

猫の慢性腎臓病(CKD)は、適切な早期発見と継続的な管理により、その後の経過を大きく変えることができる病気です。愛猫の腎臓を守るために、特に7歳を超えたら年に1〜2回は血液検査・尿検査を受けることをおすすめします。

  • CKDは7歳以上の猫に特に多く、定期的な血液・尿検査・血圧測定による早期発見が何より重要。
  • 初期には無症状のことが多く、症状が出てからでは進行していることが多い。
  • 治療の4本柱は「食事療法」「サプリメント摂取」「薬剤の内服・注射薬」「輸液療法」。これらを組み合わせて総合的に管理する。
  • ラプロスは国内唯一の猫CKD適応承認薬で臨床試験の生存期間延長データがある一方、個体差があり状況に応じて獣医師と相談が必須。
  • 高血圧・貧血・低カリウム血症・タンパク尿などの合併症は、検査結果に基づき獣医師が必要な薬剤を追加する。自己判断での使用は避ける。
  • IRIS(International Renal Interest Society). IRIS Staging of CKD. http://www.iris-kidney.com/
  • Mizutani, H. et al. Randomized clinical trial of the effect of beraprost sodium on survival time in cats with chronic kidney disease. Journal of Veterinary Internal Medicine, 2017.(ラプロスの国内臨床試験)
  • Miyazaki, T. et al. Discovery of AIM and its role in kidney disease. Cell Metabolism, 2007.
  • Kuwahara, Y. et al. Feline AIM protein and its association with CKD. Scientific Reports, 2021.
  • Sparkes, A.H. et al. ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Feline Chronic Kidney Disease. Journal of Feline Medicine and Surgery, 2016.
  • Inatomi, T. et al. Oral adsorbent AST-120 and chronic kidney disease. Nephron, 2017.(コバルジンの根拠)
  • Rishniw, M. and Wynn, S.G. Azodyl, a synbiotic, fails to alter azotemia in cats with chronic kidney disease when sprinkled onto food. Journal of Feline Medicine and Surgery, 13(6):405-409, 2011.
  • 三島英換, 阿部高明. 腸内細菌叢が腎臓病に与える影響. 日腎会誌 59(4):557-561, 2017.
  • エランコジャパン株式会社. カリナールコンボ製品情報. https://mypetandi.elanco.com/jp/carenal-combo
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(ラプロス錠・コバルジン・フォルテコール添付文書). https://www.maff.go.jp/nval/index.html
  • 共立製薬株式会社. ラプロス錠 添付文書. https://kyoritsuseiyaku.co.jp/
  • バイエル薬品株式会社. コバルジン添付文書(動物医薬品検査所データベース収載).

犬猫の毛包虫症(ニキビダニ症)について。発症しやすい原因と最新の治療薬について解説【獣医師執筆】

毛包虫症は、「ニキビダニ(Demodex属)」という犬や猫の皮膚にもともと共生しているダニが、何らかのきっかけで異常増殖することで起こる皮膚病です。

通常、ダニが寄生すると激しいかゆみが起こる場合が多いですが、毛包虫症では「かゆみがあまりないのに毛が抜ける」という特徴的な症状があり、症状の原因が判明するまで時間がかかりやすい理由でもあります。

犬と猫に寄生するニキビダニは主に4種類が知られており、形状・寄生部位・症状・感染性がそれぞれ大きく異なります。今回は4種の違いを詳しく整理したうえで、診断から最新の治療薬まで解説します。


ニキビダニは節足動物門・クモ綱・ニキビダニ科に属するダニで、哺乳類の毛包や皮脂腺に共生していて、目視では確認できないほど小さなダニです。同じく皮膚の下に潜み、目視不可であるヒゼンダニ(疥癬の原因となるダニ)とは分類上まったく異なります。ニキビダニは健康な犬猫の毛包内にも少数が常在しており、免疫機能が正常であれば病気を引き起こしません。発症しやすい素因としては遺伝的な体質・若齢・老齢・基礎疾患による免疫低下などが挙げられており、これらをきっかけにダニが異常増殖することで「毛包虫症(ニキビダニ症)」を発症します。

犬猫に寄生するニキビダニには、主にイヌニキビダニ(Demodex canis)、イヌ短型ニキビダニ(Demodex injai)、ネコニキビダニ(Demodex cati)、猫浅在性ニキビダニ(Demodex gatoi)の4種類があり、それぞれ以下のような特徴があります。
※上記画像はイヌニキビダニ(Demodex canis)

ダニの種類宿主発生割合形状の特徴検出しやすさ
イヌニキビダニ犬の毛包虫症の約95%以上を占める。細長い葉巻き型。体長 約0.25〜0.3mm◎ 比較的検出しやすい。深部皮膚掻爬検査+複数箇所採取が推奨
イヌ短型ニキビダニ稀(数%程度)体が太く短い葉巻き型。体長 約0.34〜0.37mm△ やや困難。皮脂腺の深部に寄生し、検査で発見されにくい。
ネコニキビダニ猫の毛包虫症では最多。イヌニキビダニに似た細長い葉巻き型。体長 約0.2〜0.27mm△ やや困難。深部皮膚掻爬検査が基本。
猫浅在性ニキビダニネコニキビダニと同程度の頻度で報告(地域差あり)体が太く丸みのある短い葉巻き型。体長 約0.17〜0.2mm★ 困難。検出率が低く試験的治療を要することが多い

犬の毛包虫症は、発症パターンによって「局所型(限局型)」と「全身型(汎発型)」の2種類に分けられます。局所型は主に1歳未満の若齢犬に多く、顔・前肢などの限られた部位に脱毛が生じますが、成犬になり免疫力がついてくると自然に治癒する場合もあります。一方、全身型は病変が全身に及び、難治性になることも多く、成犬・老犬での発症では背景に免疫を抑制するような基礎疾患が潜んでいることが少なくありません。

犬の毛包虫症の特徴内容
ニキビダニの種類イヌニキビダニが主、イヌ短型ニキビダニは稀。
感染経路主に分娩時・哺乳期に母犬から子犬へ移行すると言われている。成犬間で感染する可能性は極めて低い。
人への感染犬のニキビダニは人に定着しない(人獣共通感染のリスクはほぼなし)
局所型(限局型)全身型(汎発型)
病変の範囲5か所未満の局所的な脱毛・紅斑5か所以上、または全身・足先(足部型)に広がる
好発年齢免疫力が低い1歳未満の若齢犬に多い若齢〜高齢まで幅広い。特に成犬・老犬での発症は基礎疾患を疑う。
好発部位顔面(目・口の周囲)・前肢など体幹・四肢全体・足先など。
かゆみ軽度orほとんど認められないことも通常は軽度。二次感染が加わるとかゆみが出る
症状の経過自然治癒するケースもある自然治癒は稀。積極的な長期治療が必要
二次感染比較的少ない膿皮症(細菌感染)を合併しやすい

毛包虫症には遺伝的素因が関与することも言われています。以下の犬種を飼っている場合は、若齢時の皮膚の変化に特に注意してください。

  • 短頭種・皮膚のたるみが多い犬:フレンチ・ブルドッグ、イングリッシュ・ブルドッグ、パグ
  • その他:シャーペイ、ダックスフンド、ドーベルマン、ボクサー、スタッフォードシャー・ブル・テリアなど

成犬・老犬で全身型が発症した場合、免疫機能が何らかの原因で低下した状態(免疫抑制状態)にあることが多く見られます。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、悪性腫瘍、長期的なステロイド投与などが代表例です。ニキビダニの駆除だけでなく、こうした基礎疾患を同時に治療しなければ、症状が一度改善しても再発しやすくなります。

【犬の毛包虫症を疑うべき症状チェックリスト】

  • 顔・目の周り・口周辺、または前肢に円形〜不整形の脱毛がある
  • 脱毛部位の皮膚が赤く、フケ(鱗屑)・かさぶた(痂皮)がある
  • かゆみは軽度〜ほとんどない(疥癬との重要な鑑別ポイント)
  • フレンチ・ブルドッグ、シャーペイなど好発犬種である
  • 1歳未満の子犬で皮膚症状が出ている
  • 成犬・老犬で突然、多発性の脱毛・皮膚炎が出た(基礎疾患の可能性)

これらの症状が複数認められる場合には、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。


猫の毛包虫症は、原因ダニの種類によって症状・感染様式が異なります。毛包深部に寄生するネコニキビダニはかゆみが少なく、免疫が低下した猫で発症しやすい傾向があります。

一方、表皮の角質層に寄生する猫浅在性ニキビダニは猫間で感染が広がる感染性を持ち、強いかゆみを伴い、「過剰グルーミング」によって体の左右対称性の脱毛が特徴的に現れます。

特に猫浅在性ニキビダニは多頭飼育環境や保護猫との接触を通じてひそかに広がることがあるため注意が必要です。

猫の毛包虫症の特徴内容
ニキビダニの種類ネコニキビダニ(毛包内寄生)、猫浅在性ニキビダニ(角質層寄生・感染性あり)
感染経路ネコニキビダニ:主に分娩時・哺乳期に母猫から子猫へ移行する。猫浅在性ニキビダニ:感染猫との接触・グルーミングで広がる
人への感染猫のニキビダニは人に定着しない
ネコニキビダニ猫浅在性ニキビダニ
寄生部位毛包・皮脂腺の深部表皮の角質層(非常に浅い)
感染性成猫間の感染力は低い★猫間で感染する。接触・グルーミングで広がる
かゆみ軽度★強い。過剰グルーミング・対称性脱毛が特徴
好発部位頭部・耳介・頸部。重症化すると全身へ拡大。体幹・側腹部・四肢。左右対称性の脱毛・鱗屑
自然治癒自然治癒は稀。基礎疾患の治療と並行した駆虫が必要自然治癒は稀。感染源の特定と全頭同時治療が必要
二次感染皮膚の細菌感染を併発する場合もある過剰グルーミングによる皮膚損傷から細菌感染を併発することがある

猫のニキビダニ症は、原因となるダニの種類によってリスク要因が異なります。

ネコニキビダニの場合猫浅在性ニキビダニの場合
🔑 免疫抑制状態が主なリスク
以下の免疫抑制状態にある猫に多い:
・FIV(猫免疫不全ウイルス)陽性
・FeLV(猫白血病ウイルス)陽性
・糖尿病
・悪性腫瘍
・長期的なステロイド投与中
🔑 免疫状態に関わらず感染・発症
以下の環境要因が主なリスク:
・保護猫や外出猫との接触
・多頭飼育環境
・感染猫と同居している

【猫の毛包虫症を疑うべき症状チェックリスト】

以下の症状に当てはまる場合は、動物病院での診断をおすすめします。

ネコニキビダニを疑う症状猫浅在性ニキビダニを疑う症状
・頭部・耳周り・頸部に限局した脱毛がある
・フケやかさぶたが目立つ
・かゆみは少ない、または軽度
・免疫抑制状態にある(FIV/FeLV陽性、糖尿病、悪性腫瘍、ステロイド長期投与中)
・体幹〜側腹部の対称性脱毛がある
・強いかゆみがある
・過剰グルーミング(毛づくろいが異常に多い)
・保護猫や外出猫との接触後に皮膚症状が出た
・多頭飼育環境で複数の猫に同様の症状がある

⚠️ 特に注意:多頭飼育環境で複数の猫に同じ症状が出ている場合、猫浅在性ニキビダニの集団感染の可能性が高いです。


最も基本となる検査であり、ニキビダニを疑う場合は必ず行います。ニキビダニは毛包の深部や皮脂腺に潜んでいるため、皮膚の表面をなでる程度では採取できません。病変部(脱毛・発赤・鱗屑が見られる部位)を手術用のメス刃の背や鈍的な器具(鋭匙)で強めに擦って掻き取り(スクレーピング)、毛包の内容物ごと採取します。採取した組織を顕微鏡用のスライドガラスに広げ、顕微鏡で観察しニキビダニを探します。複数の病変部から採取することで検出率が上がるため、1か所だけでなく複数箇所を採取することが推奨されます。

病変部の皮膚をピンセットや指でつまんで圧迫し、毛包内の内容物をにじみ出させて採取する方法です。①の検査の補助として、または目の周囲など皮膚が薄く強い掻爬が困難な部位に用いられます。絞り出した内容物をスライドガラスに広げ、顕微鏡で観察します。掻爬と組み合わせて使うことで検出率を高めることができます。

ピンセットで病変部付近の毛を数本引き抜き、毛根部(毛球部)を顕微鏡で観察する検査です。毛包内に寄生しているニキビダニが毛根に付着した状態で観察できることがあります。侵襲が少なく犬猫への負担が軽いため、目の周囲など繊細な部位や、痛みを嫌がる動物への補助的な検査として活用されます。①や②と組み合わせて用いるのが一般的です。


毛包虫症(ニキビダニ症)の治療は、ニキビダニの駆除を目的とした駆虫薬の投与が基本です。局所型(犬)は経過観察で自然治癒することも多いですが、全身型は長期にわたる積極的な治療が必要です。また、同時に、基礎疾患や二次感染の治療も行っていきます。

毛包虫症(ニキビダニ症)の治療薬として近年最も注目されているのが、神経細胞の塩素チャネル(GABA受容体)を選択的に阻害してダニを麻痺・死滅させる「イソオキサゾリン系」薬剤です。哺乳類への選択性が低く安全性が高いことから、現在では多くの獣医師が第一選択として用いています。

表の見方:◎=国内添付文書に適応あり △=適応なし・査読論文に有効性の報告あり

【犬用製品】

製品名(剤形)有効成分効果製品の特徴
ブラベクト錠
(チュアブル錠)
フルララネル3か月に1回の投与で済み、投薬頻度が少なく、長期治療が必要な全身型に特に適している。ノミ・マダニにも対応。
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル牛肉フレーバーで投薬しやすい。イヌニキビダニ症・ノミ・マダニ・犬疥癬にも対応。※シンパリカトリオはイヌニキビダニ症への適応なし。
アドボケート犬用
(スポット剤)
イミダクロプリド+モキシデクチン滴下タイプ。錠剤が苦手な犬に最適。国内でイヌニキビダニ症の適応あり。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ネクスガード
(チュアブル錠)
アフォキソラネル国内で承認はないが海外では有効性が多数報告されており、適応外処方として使用する場合がある。ノミ・マダニにも対応。

【猫用製品】

製品名(剤形)有効成分効果製品の特徴
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン6週齢以上の若齢から使用可能。ノミ・フィラリア・回虫にも対応。
レボリューションプラス
(スポット剤)
セラメクチン+サロラネルレボリューションにマダニ・鉤虫駆除も追加。
アドボケート猫用
(スポット剤)
イミダクロプリド+モキシデクチン滴下タイプ。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。猫ニキビダニ症で使用例の報告あり。
ネクスガードキャットコンボ
(スポット剤)
エサフォキソラネル+エプリノメクチン+プラジクアンテル滴下タイプ。ノミ・マダニ・フィラリア・条虫・回虫・鉤虫にも対応。猫用イソオキサゾリン系製剤として有効性の報告あり。

※本表は一般的な学術情報および海外の研究報告に基づく一覧です。効果が△の製品は国内での効能・効果が承認されていません。これらは獣医師の判断により適応外使用されるケースがありますが、当サイトがその使用を推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指示に従ってください。


  • 犬と猫に寄生するニキビダニは主に4種類あり、形状・寄生部位・感染性・かゆみの有無がそれぞれ異なる。
  • 毛包虫症では、皮膚に脱毛や赤みなどの症状があっても、かゆみが軽度またはほとんど出ないことが多い。
  • 若齢犬の局所型は自然治癒するケースもあるが、基礎疾患のある成犬や老犬では長期化しやすい。
  • 寄生数が少ない場合は一度の検査で検出できないこともあるため、複数回の検査が必要なケースもある。
  • ダニが見つからなくても、症状や経過から強く疑われる場合には、獣医師の判断により試験的駆虫が行われるのが一般的。

ニキビダニは一度異常増殖すると皮膚症状が長引き、二次感染が重なることで治療がより複雑になります。愛犬愛猫の年齢・既往歴・生活環境をもとに、獣医師と相談しながら最適な製品を選びましょう。

  • Mäkinen, O.K. et al. Efficacy of oral fluralaner for the treatment of Demodex canis infestations in dogs. Veterinary Dermatology, 26(5):379-382, 2015.
  • Fourie, J.J. et al. Efficacy of orally administered sarolaner (Simparica) in the treatment of naturally occurring generalized demodicosis in dogs. Veterinary Dermatology, 26(6):407-412, 2015.
  • Mueller, R.S. et al. Treatment of canine generalized demodicosis with a ‘spot-on’ formulation containing 10% moxidectin and 2.5% imidacloprid (Advocate, Bayer Healthcare). Veterinary Dermatology, 20(5-6):441-446, 2009.
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  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(ブラベクト錠・アドボケート犬用・シンパリカ添付文書).

犬のマダニ予防の重要性~人も危ない!SFTS(重症熱性血小板減少症候群)の恐怖~【獣医師執筆】

マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、人が感染した場合の致死率が10〜30%にのぼる極めて危険な疾患です。さらに深刻なのは、身近なパートナーである犬や猫の発症リスクです。
厚生労働省の報告によると発症時の致死率は犬で約40%、猫では約60%に達し、人間を遥かに上回る脅威となっています。

SFTSは、感染したペットの唾液や血液を介して飼い主にもうつる「人獣共通感染症(ズーノーシス)」です。愛犬をマダニから守ることは、大切な家族の命を守ることに直結します。
手遅れになる前に、定期的なマダニ対策を徹底しましょう。


SFTSは2011年に中国で初めて発見され、日本では2013年に初の国内感染例が報告されました。病原体はフレボウイルス属のSFTSウイルスであり、主にフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)が媒介します。2024年時点で、国内では年間100件前後の感染が報告されており、現時点で承認されたワクチンも特効薬も存在せず、対症療法が治療の中心です。

犬はSFTSウイルスに感染しても無症状〜軽症で経過するケースが多いとされていますが、一方で重篤な症状を呈し死亡する事例も報告されています。犬での潜伏期間は明確には解明されていませんが、マダニ咬傷から数日〜2週間程度とされています。

臨床症状で最も多く見られるのは、39.5℃以上の高熱・著明な元気消失・食欲廃絶・嘔吐・下痢です。身体検査ではリンパ節の腫大が触知されることがあり、血液検査では血小板減少・白血球減少・CRP上昇・ALT・AST・LDHの上昇が認められます。重症例では播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全・神経症状(ふらつき・痙攣・意識障害)に至ることがあり、予後不良となる場合もあります。

【SFTSを疑うべき症状チェックリスト】

  • 39.5℃以上の発熱
  • 元気消失・食欲廃絶(24時間以上続く)
  • 嘔吐・下痢
  • リンパ節の腫れ(首・脇の下・鼠径部)
  • 歯茎・結膜の蒼白または黄疸

これらの症状が複数認められる場合には、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。

犬のSFTSで特に注意すべきは、「症状が出ている犬の血液・唾液・尿・糞便が飼い主に感染しうる」という点です。国内では、SFTSを発症した犬を看病・介護した飼い主が感染した事例が複数報告されており、国立感染症研究所も注意喚起を発出しています。以下の行動は非常に危険です。感染が疑われる犬のお世話をする際は必ず手袋を着用し、処置後は石けんで十分に手洗いを行ってください。

  • 感染犬を素手で触る・傷口を舐めさせる
  • 体液(血液・尿・糞便・嘔吐物)を素手で処理する
  • 感染犬の使用済みタオルや食器を素手で扱う

マダニに刺されてから発症するまでの潜伏期間はおよそ6〜14日とされています。マダニに刺された後2週間以内に高熱・消化器症状・倦怠感が出現した場合は、速やかに医療機関を受診し、マダニへの暴露(野外活動・ペットとの接触)の可能性も必ず申告しましょう。以下は、感染経過と表れやすい主な症状です。

発症初期(1〜4日目):

38〜40℃台の高熱・強い倦怠感・頭痛・筋肉痛・関節痛が現れます。悪心・嘔吐・下痢・腹痛も高頻度に見られ、インフルエンザや感染性胃腸炎と間違われやすいのが特徴です。

中期(4〜7日目):

血小板減少・白血球減少・AST・ALT・LDHの顕著な上昇などが認められます。これはウイルスが骨髄・脾臓・リンパ節などの免疫細胞に直接侵入して破壊することに加え、血球の産生が抑制されることによって生じます。

重症期(7日目以降):

多臓器不全・播種性血管内凝固症候群(DIC)・神経症状(意識障害・振戦・痙攣)へと進行し、死亡に至るケースがあります。回復した場合も倦怠感・記憶力低下などの後遺症が数ヶ月続くことが報告されています。


マダニ(硬ダニ科:Ixodidae)は蜘蛛綱ダニ目に属する節足動物で、日本国内では主にフタトゲチマダニ・ヤマトマダニ・キチマダニなどが重要な媒介種とされています。ライフサイクルは「卵→幼ダニ→若ダニ→成ダニ」という4段階で構成され、それぞれの段階で宿主(犬や猫など)から吸血を行います。このうち若ダニ(若虫)の段階でSFTSウイルス保有率が最も高く、かつ体が小さいため気づきにくく、愛犬や人への感染リスクとして特に問題視されています。

マダニは草の先端や葉の縁に前脚を伸ばして待機し(クエスティング行動)、温度センサー・振動センサー・CO₂センサーを使って宿主を感知し付着します。吸血を開始してから1〜2日は痒みなどの反応が出にくく、飼い主が気づかないまま長時間の吸血が続くことも珍しくありません。

発育段階 宿主・環境 特徴・臨床的意義
卵(図①) 土壌・落葉の中 雌成虫が数千個の卵を産卵。数週間で幼虫に孵化する。
幼ダニ(6脚)(図②) 小型哺乳類・鳥類 吸血後、地表に落下して脱皮する。この段階でウイルス・細菌を獲得する場合がある。
若ダニ(8脚)(図③) 中型哺乳類・犬・猫 SFTSウイルス保有率が最も高い段階。体が小さく気づきにくいため感染リスクが特に高い。
成ダニ(8脚)(図④⑤) 大型哺乳類・人・犬 吸血量は体重の100倍以上に膨張。唾液中にウイルス・細菌を放出し宿主に伝播する。雌は産卵後に死亡。

マダニは気温が5℃を超えると活動を始め、15〜25℃で最も盛んになります。近年の地球温暖化により活動期間は全国的に延長傾向にあり、「冬だから大丈夫」と思わず、地域に合わせた予防が必要です。マダニは都市部の公園や河川敷にも生息しているため、山林に限らず、近所の草むらを散歩するだけでも感染リスクは十分にあります。

地域区分 主な該当エリア マダニの活動期間と予防の推奨時期
寒冷地 北海道・東北山間部 4月〜10月。春の融雪期に急増する傾向がある。
中間地 関東・関西・中部・中四国 3月〜11月。春(3〜5月)と秋(9〜11月)の二峰性ピークに注意。通年予防を推奨する施設が増加。
温暖地 南九州・沖縄 通年活動。冬でも5℃以上になる日は活動するため、年間を通じた予防薬の投与を強く推奨。

マダニは単なる吸血害虫ではなく、複数の深刻な病原体を媒介しています。SFTSをはじめとした以下の疾患は、犬と人間の双方に影響します。

疾患名 病原体 主な症状・特徴
SFTS(重症熱性血小板減少症候群) SFTSウイルス(フレボウイルス属) 高熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少、多臓器不全。致死率10〜30%。犬から人への感染例あり。
バベシア症 Babesia gibsoni、B. canis 溶血性貧血、血色素尿(赤褐色の尿)、黄疸、発熱、血小板減少。重症化すると致死的。犬特有の疾患。
日本紅斑熱 Rickettsia japonica 高熱、発疹(四肢→体幹)、刺し口の形成。抗菌薬が有効だが診断の遅れで重症化するケースも。
ライム病 Borrelia burgdorferi 遊走性紅斑、関節炎、神経症状。国内では主に北海道・一部本州で確認されている。
マダニ麻痺(Tick Paralysis) マダニの唾液毒素 唾液中の神経毒により上行性弛緩性麻痺が起こる。感染症ではなく、マダニを除去すると通常は回復する。

散歩後には全身をくまなく触診し、マダニの付着がないか確認することを習慣にしましょう。マダニが好む付着部位は、耳の周囲・指の間・腋の下・鼠径部(内股)・まぶた・首のたるんだ皮膚あたりです。マダニを発見した場合、なるべく動物病院で除去してもらうことをおすすめします。自宅で除去する際は、市販の「ダニ取り専用ツール(ティック・ツイスター等)」を使用し、皮膚に対して平行に保ちながら回転させてゆっくり引き出します。除去後は付着部位を消毒し、マダニはビニール袋に入れて密封廃棄してください。

  • ピンセットで強引に引き抜く:
    口器が皮膚内に残留し、二次感染・肉芽腫の原因になります。
  • アルコール・ワセリン・除光液をかける:
    マダニがストレスでSFTSウイルスを含む体液を逆流放出するリスクが高まります。
  • ライターで炙る・熱を加える
  • 素手で潰す

予防薬の投与(化学的防除)と環境管理(物理的防除)・行動習慣の見直しを組み合わせることが、マダニ対策の基本です。

  • 庭の草を定期的に刈り込み、落葉を除去する(マダニは湿った落葉が堆積した場所を好みます)。
  • 散歩から帰宅した際は、玄関でブラッシングと触診を行う習慣をつける。
  • 山林・河原・草地を歩いた後は、犬だけでなく飼い主自身の衣服・体も必ずチェックする。
  • マダニ活動ピーク期(春・秋)のハイキングや里山散歩では、ドッグウェアの活用も有効。

製品選びは、愛犬の体重・年齢・既往歴(特に神経系疾患)・ライフスタイル(散歩の頻度・山林への立ち入り)・フィラリア予防との併用ニーズなどを考慮した上で、かかりつけの獣医師と相談して選ぶようにしましょう。

製品名(形状) 主要有効成分 対象寄生虫 特徴・投与のポイント
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル ノミ・マダニ・ミミヒゼンダニ・イヌセンコウヒゼンダニ・イヌニキビダニ 【嗜好性◎】牛肉フレーバー。投与後8時間以内にマダニ駆除効果が発現。
クレデリオ錠
(フレーバー錠)
ロチラネル ノミ・マダニ・イヌニキビダニ 【嗜好性◎、小粒】ミートフレーバー。投与後12時間以内に効果が発現。サイズが小さく投与しやすい。
ブラベクト
(チュアブル錠)
フルララネル ノミ・マダニ 【3ヶ月持続・内服】1錠で3ヶ月間有効。投薬回数を少なくしたい飼い主に最適。
ブラベクト スポット
(スポット剤)
フルララネル ノミ・マダニ 【3ヶ月持続・外用】錠剤が苦手・吐き戻す場合などにおすすめ。背中に垂らすだけで3ヶ月間有効。
マイフリーガードα
(スポット剤)
フィプロニル/(s)-メトプレン ノミ(成虫・卵・幼虫)・マダニ・シラミ・ハジラミ 【外用・コスパ◎】背中に垂らすタイプ。ノミの卵・幼虫にも効果。経口薬が苦手な犬に。

オールインワン製剤もおすすめ】

ノミ・マダニの駆除に加え、フィラリア予防や消化管内線虫(回虫・鉤虫・鞭虫)の駆除まで1錠でカバーできるオールインワンのお薬も存在します。
毎月の投薬管理をシンプルにしたい場合や、複数の薬を管理する手間を省きたい飼い主さんに便利な選択肢です。ただし、フィラリア予防成分を含む製剤は、投与前にフィラリア感染の有無を確認する検査が必要です。投薬前にかかりつけの獣医師にご相談ください。


  • マダニは犬だけでなく、人間の命にも関わるウイルス・細菌を媒介します。愛犬のマダニ対策を徹底して家族への感染リスクを減らしましょう。
  • SFTSを疑う症状(発熱・元気消失・食欲廃絶・嘔吐・下痢等)が現れた場合は、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。
  • 感染が疑われる場合には、愛犬の体液に触れる際は必ず手袋を着用し、処置後は十分に手洗いを行ってください。
  • マダニの活動時期を正確に把握し、地域に合った通年予防を意識しましょう。
  • 散歩後のマダニチェックを習慣化しましょう。発見したら、できれば動物病院で除去してもらうようにしましょう。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • 国立感染症研究所. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)2023年度発生動向年報.
  • Ixodid ticks and their significance in veterinary public health: A review of Haemaphysalis longicornis. Parasites & Vectors, 2022.
  • Inokuma, H. et al. Babesiosis in dogs in Japan: epidemiology and current knowledge. Veterinary Parasitology, 2021.
  • Pfaff, U. et al. Isoxazoline compounds and their mode of action in tick and flea control. Frontiers in Veterinary Science, 2023.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品の使用に関するガイドライン改訂版, 2024.
  • National Institute of Infectious Diseases. SFTS in companion animals: human infection risk assessment, 2023.

犬猫の疥癬・耳疥癬~激しい痒みの原因と最新のダニ予防薬~【獣医師執筆】

「うちの子、ずっとかゆがっている。アレルギーかな?」——そう思って病院に行ったら、実はダニの寄生が原因だったというケースは珍しくありません。

犬猫の「疥癬(かいせん)」「耳疥癬」は、それぞれ特定の種類のダニが引き起こす皮膚疾患で、非常に強いかゆみと急速な悪化が特徴です。
放置すれば飼い主にも感染してしまう可能性のある人獣共通感染症(ズーノーシス)でもあります。

今回は、暖かくなると発生が増えてくる疥癬・耳疥癬について、主な症状や診断方法などを詳しく解説します。


疥癬の原因は「ヒゼンダニ(疥癬虫)」という節足動物です。

マダニのように体表に付着するのではなく、表皮の角質層の中にトンネル(疥癬トンネル)を掘り、その中で産卵・孵化・脱皮を繰り返します。このトンネル内での活動と、ダニ・糞・卵に対するアレルギー反応が激しいかゆみの正体です。
成虫でも肉眼では見えないほど小さいため、通常のダニと違い外見からは判らないのが厄介なところです。(ミミヒゼンダニは肉眼で確認できる場合あり)

また、犬と猫では寄生するダニの種が異なります。

疾患名 原因ダニ 対象動物 成虫の大きさ
犬疥癬 イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. canis) 犬(人・猫に一時的感染あり) 約0.2〜0.4mm
猫疥癬 ネコショウセンコウヒゼンダニ(Notoedres cati) 猫(犬・人に一時的感染あり) 約0.2〜0.3mm
耳疥癬 ミミヒゼンダニ(Otodectes cynotis) 犬・猫 約0.35〜0.5mm 

Screenshot

上記表の3種類のダニの中で最も強い痒みを引き起こします。

眠れないほど痒く、痒み止めや消炎剤といった対症療法の薬剤が効かないため、感染すると犬にとって非常にストレスがかかります。また、激しいかゆみで出血するほどかき続け、二次的な細菌感染(膿皮症)を合併することもあります。
重症化すると皮膚の肥厚・苔癬化・広範囲の脱毛・痂皮形成が起こり、衰弱に至る場合もあります。

感染数が少なく見つけにくいため、検査で検出できなくても、疑わしい場合には試験的駆虫として予防薬を投与することが一般的です。

【犬の疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 耳縁を触ると後ろ足でかく(耳介‐足反射陽性)
  • 肘・膝・耳縁・腹部に赤いブツブツとフケがある
  • かゆみが非常に強く、夜中もかき続けている
  • 他の犬や野生動物と最近接触した
  • 飼い主にも腕や腹部にかゆいブツブツが出ている
犬疥癬の特徴 内容
原因ダニ Sarcoptes scabiei var. canis(イヌセンコウヒゼンダニ)
対象動物 犬。人・猫に一時的な感染あり(定着しない)
潜伏期間 2〜6週間
好発部位(初期) 耳縁・肘・膝の突出部・腹部・鼠径部
かゆみの強さ 非常に強い。昼夜を問わず続き、出血するほどかき続けることも
飼い主への感染 一時的に感染あり(腕・腹部などにかゆいブツブツが出ることがある)

猫の疥癬の原因はネコショウセンコウヒゼンダニで、犬に寄生するイヌセンコウヒゼンダニとは別種です。まれに犬や人にも一時的に寄生しますが、ほとんど定着しません。
屋外への出入りや感染猫との接触が主なリスクです。
比較的検査で検出しやすいため、多くの場合は一度の検査で診断可能です。

【猫の疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 顔面・耳介・首にフケ・丘疹・かさぶたがある
  • 顔周りを頻繁に掻く
  • 野良猫や外出歴のある猫と接触した
  • 同居の猫に同じような症状がある
  • 飼い主にも一時的なかゆみ・ブツブツが出た
猫疥癬の特徴 内容
原因ダニ Notoedres cati(ネコショウセンコウヒゼンダニ)
対象動物 猫。犬・人に一時的な感染あり(定着しない)
感染リスクが高い状況 屋外へ出入りする猫、野良猫や感染猫との接触、多頭飼育環境
好発部位(初期) 顔面(鼻・まぶた周囲)・耳介・首・顎の下
かゆみの強さ 強い。顔・耳周りを絶えずひっかき続ける
飼い主への感染 一時的に感染あり(定着しない)

耳疥癬の原因は犬と猫で共通しており、耳道内に潜むミミヒゼンダニです。
ヒゼンダニ(疥癬虫)が角質層内に潜るのと異なり、外耳道の表面に寄生します。
特に猫で感染率が高く、猫の外耳炎原因の過半数を占めるともいわれています。
感染力が非常に強いため、多頭飼育では全頭同時に治療・予防を行うことが再発防止の鉄則です。
放置すると慢性外耳炎・中耳炎へ進行するケースもあります。
以下に複数当てはまる場合は速やかに受診しましょう。

【耳疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 耳を激しく掻く、頭を振り続けている
  • 耳道内に黒褐色のコーヒーかす状の耳垢が多い
  • 野良猫や外出歴のある猫と接触した、あるいは外に出た
  • 耳介(耳の外側)に引っかき傷がある
  • 同居の犬猫にも同じような耳の症状がある

主には、皮膚の一部を専用の器具で掻爬し皮膚内のダニを検出する「皮膚掻爬検査」、耳垢を採取して中のダニをチェックする「耳垢検査」があります。
どちらの検査も、採取物を顕微鏡で観察して、ダニ本体や虫卵の有無を確認します。
ミミヒゼンダニ(耳疥癬)だけは、最大約0.5mmと3種の中で最も大きく白っぽい色をしているため、耳垢をよく観察すると動いている様子が肉眼でも確認できる場合があります。

疾患 検査方法 検出しやすさ・注意点
犬疥癬 皮膚掻爬検査(深部掻爬) ★検出率が非常に低い(20〜50%)。かならず皮膚の複数か所から採取して検査を行う
猫疥癬 皮膚掻爬検査(顔面・耳介の痂皮部) 犬疥癬より比較的検出しやすい。顔面・耳介の厚い痂皮部分からダニ・卵を検出できる
耳疥癬(ミミダニ) ①耳垢の顕微鏡検査
②耳鏡による肉眼確認
3種の中で最も検出しやすい。①綿棒で採取した耳垢を顕微鏡で確認 ②耳鏡で外耳道内の動く白い点(成虫)を目視で探す

疥癬の治療は駆虫薬によるヒゼンダニの駆除が基本です。

駆虫薬の多くは卵には効かないため、症状が改善しても2〜3週間おきに複数回の投薬が必要です。途中でやめると再発のリスクが高まります。多頭飼育の場合は、全頭同時に治療を行わないと再感染が繰り返されます。
二次的な細菌感染(膿皮症)を合併している場合は、抗菌薬による治療も並行して行います。

駆虫後もかゆみがしばらく残る場合には、ダニの死骸・産物に対するアレルギー反応が続いている可能性があるため、短期間のステロイド製剤やJAK阻害薬で対症療法を行うこともあります。
また、寝具・クッションの熱湯洗濯やケージ・グルーミング器具の消毒、治療中の感染動物の隔離も再感染予防に有効です。

ヒゼンダニは一度寄生すると痒みが強く、夜も熟睡できずに愛犬愛猫に強いストレスを与えてしまいます。
定期的な予防・駆除薬の投与は、ヒゼンダニ・ミミヒゼンダニを含む寄生虫感染全般のリスクを大幅に下げる最も効果的な手段です。

愛犬愛猫の体重・年齢・既往歴・生活環境を踏まえ獣医師と相談の上、適切な製品を選びましょう。

ヒゼンダニ(疥癬)とミミヒゼンダニ(耳疥癬)の予防・駆除薬の製品のほとんどは、基本的にノミやマダニへの効果をメインとしています。ヒゼンダニ・ミミヒゼンダニへの効果は国内未承認の場合も多く、効果効能に記載のある製品は少ないのが現状です。

しかし、臨床の現場では学術的根拠に基づき、獣医師の裁量によって適応外処方として活用されるケースもあります。これらの使用に関しては、愛犬・愛猫の健康状態や感染状況に合わせた専門的な判断が不可欠ですので、必ず動物病院で獣医師による診察と指示を受けてください。

表の見方:◎=適応あり △=適応なし・査読論文に有効性の報告あり

【犬用製品】

製品名(剤形) 有効成分 犬疥癬 耳疥癬 製品の特徴
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル 牛肉フレーバーで投与しやすい。ノミ・マダニ・イヌニキビダニにも対応。
(注意:シリーズ製品のシンパリカトリオには、現在、犬疥癬・耳疥癬に対しての適応なし)
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン 犬疥癬には適用外。
特に耳ダニに対してよく使用されている。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも有効。
アドボケート
(スポット剤)
イミダクロプリド/モキシデクチン 耳疥癬には適用外。
ノミ・イヌニキビダニ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ブラベクト錠
(チュアブル錠)
フルララネル 耳疥癬には適用外。
3ヶ月に1回投与。現在承認されているスポットオン製剤では最も長く予防効果が続く。ノミ・マダニ・イヌニキビダニにも対応。

【猫用製品】

製品名(剤形) 有効成分 猫疥癬 耳疥癬 製品の特徴
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン 猫疥癬には適用外。
耳ダニ・猫疥癬では臨床現場で使用率が高い。ノミ・フィラリア・回虫にも対応。
レボリューション プラス
(スポット剤)
セラメクチン/サロラネル 猫疥癬には適用外。
レボリューションにマダニ・鉤虫駆除も追加のオールインワン製剤。

アドボケート
(スポット剤)

イミダクロプリド/モキシデクチン 猫疥癬には適用外。
ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ネクスガードキャットコンボ
(スポット剤)
エサフォキソラネル/エプリノメクチン/プラジクアンテル 猫疥癬には適用外。
ノミ・マダニ・フィラリア・条虫・回虫・鉤虫にも対応。

※本表は一般的な学術情報および海外の報告に基づく一覧です。一部の疾患に対し、国内未承認の適応外処方として獣医師の判断で使用されるケースもありますが、当サイトがその使用を推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指示に従ってください。


  • 犬疥癬・猫疥癬・耳疥癬はそれぞれ原因となるダニの種類が異なり、好発部位・症状も異なります。
  • 犬疥癬の皮膚掻爬検査は検出率が20〜50%程度と低く、陰性でも否定できません。症状・接触歴から強く疑う場合は診断的治療(試験的投薬)が有効です。
  • 疥癬・耳疥癬は感染力が非常に強く、多頭飼育では全頭同時治療が再発防止の鉄則です。
  • 治療は複数回の駆虫薬投与が必要です。二次感染(膿皮症などの皮膚症状)がある場合は同時に治療を行います。

予防薬の選択肢が広がり、飼い主様の意識が高まったことで、重症化するケースは以前より抑えられるようになりました。しかし、疥癬や耳疥癬の感染リスクはいまだに高く、一度発生するとその治療には長い時間と費用を要し、何より愛犬・愛猫に「眠れないほどの激しい痒み」という大きな負担を強いることになります。
疥癬は、放置すれば同居動物や飼い主様にも広がる恐れがある、油断できない感染症です。
「あの時、予防していれば……」と後悔しないために。動物病院に通い、愛犬・愛猫の体質や生活環境に合ったお薬で、日頃から確実な予防を心がけましょう。

  • Six, R.H. et al. Efficacy and safety of selamectin against Sarcoptes scabiei on dogs and Otodectes cynotis on dogs and cats presented as veterinary patients. Veterinary Parasitology, 91(3-4):291-309, 2000. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10940530/
  • Itoh, N. et al. Treatment of Notoedres cati infestation in cats with selamectin. Veterinary Record, 154(13):409, 2004. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15083980/
  • Hellmann, K. et al. Efficacy of imidacloprid 10%/moxidectin 1% spot-on in the treatment of Notoedres cati infestation in cats. Parasitology Research, 112(8):2837-2845, 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23760872/
  • Taenzler, J. et al. Efficacy of fluralaner against Otodectes cynotis infestations in dogs and cats. Parasites & Vectors, 10:30, 2017. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5240227/
  • Beugnet, F. et al. Efficacy of sarolaner against Sarcoptes scabiei and Otodectes cynotis in naturally infested dogs. Parasites & Vectors, 9:1, 2016.
  • Knaus, M. et al. Efficacy of a novel combination of esafoxolaner, eprinomectin and praziquantel (NexGard Combo) against Otodectes cynotis and Notoedres cati in cats. Parasite, 28:39, 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8019547/
  • Longstaff, L. et al. Efficacy of a spot-on combination product containing selamectin and sarolaner (Stronghold Plus) in the treatment of naturally occurring Notoedres cati infestations in cats. Frontiers in Veterinary Science, 2025. https://www.frontiersin.org/journals/veterinary-science/articles/10.3389/fvets.2025.1652148/full
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(ブラベクト錠添付文書). https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/16271

犬のフィラリア症~予防の重要性と最新の予防薬~【獣医師執筆】

犬糸状虫症(フィラリア症)は、蚊によって媒介される寄生虫「犬糸状虫(Dirofilaria immitis)」が心臓や肺動脈に寄生することで引き起こされる、犬にとって最も警戒すべき致死的な疾患の一つです。

かつては国内の家庭犬における主要な死因でしたが、優れた予防薬の普及により発症率は劇的に低下しました。
しかし、近年の地球温暖化に伴う蚊の活動期間の延長や、薬剤耐性株の出現といった新たな課題により、未だに注意が必要な疾患の一つです。

このコラムでは、フィラリアのライフサイクルから最新の予防薬、そして万が一感染してしまった場合の治療法までを分かりやすく解説します。


フィラリア症の適切な予防のためには、どの段階で薬剤が作用するのかというフィラリアのライフサイクルを正確に把握することが大切です。

侵入した幼虫が肺動脈や心臓に到達するまでの時間軸や、検査で陽性と判定されるまでの「潜伏期間(プレパテント・ピリオド)」を正しく理解し、投薬のタイミングをしっかり把握しましょう。

発育段階存在場所臨床的特徴
第1期幼虫
(L1 / ミクロフィラリア)
犬の血液中成虫が産出した子虫。蚊が吸血する際に取り込まれる。
第2期幼虫
(L2)
蚊の体内蚊のマルピーギ管内で1回目の脱皮を行った状態。成虫の内臓組織の原形を作る準備期間。
第3期幼虫
(L3 / 感染幼虫)
蚊の口吻部蚊の体内で成長し、感染能を獲得。吸血時に犬の皮膚へ移行する。
第4期幼虫
(L4)
犬の皮下・筋肉内侵入後2~10日でL3から脱皮する。現在主流の予防薬(大環状ラクトン系)の主要な標的となる成長段階。
第5期幼虫
(L5 / 未成熟成虫)
血液・心臓内侵入後約1~2ヶ月で脱皮し、血管内へ侵入して肺動脈を目指す。
成虫
(L6)
肺動脈・右心室感染から6~7ヶ月で成熟。体長15~30cmに達し、新たなL1を産出する。(ソーメンにそっくりの白く長細い虫体)

日本国内におけるフィラリアの感染リスクは、気温とそれに伴う蚊の活動状況と密接に関係しています。

国内で販売されているフィラリア予防薬は、投薬した時点で「過去1ヶ月間に侵入したフィラリアの幼虫をまとめて殺滅する」という効果が基本であり、「投薬後1カ月間効果が持続している」わけではありません。

そのため、蚊がいなくなってから1ヶ月後(多くの地域で12月)の最終投与を忘れると、秋に感染した幼虫が冬の間に成長してしまいます。

また、都市部のビル地下(ヒートアイランド現象)などは冬でも蚊が生存するため、中間地でも通年予防が推奨されるケースが増えています。

地域区分主な該当エリア推奨投薬期間
寒冷地北海道、東北山間部5月下旬 ~ 11月
中間地関東、関西、中部、中四国4月下旬 ~ 12月
温暖地南九州、沖縄3月 ~ 12月(または通年推奨)

※実際の投薬開始・終了時期は、その年の気温や蚊の発生状況によって異なります。最終投与は「蚊がいなくなってから1ヶ月後」が原則です。

自然界の気温だけでなく、ベランダのプランターの受け皿、古タイヤ、詰まった雨どいなどの「定在水場」は蚊の絶好の繁殖地となります。これらの環境を改善することも、物理的な予防策として重要です。


フィラリア症は「心臓の病気」と思われがちですが、本質は肺の血管に慢性的な炎症と障害を起こす重篤な肺血管疾患でもあります。

肺動脈に到達した成虫が血管壁を機械的に刺激することで「肺動脈内膜炎」が生じ、血管の内側が厚く硬くなる血管リモデリングが進行します。

その結果、血管内腔が狭くなって肺血管抵抗が上昇し、肺の血流が流れにくくなります。
これにより肺動脈圧が異常に高まる「肺高血圧症」(肺の血管圧が上昇し、心臓が肺へ血液を送り出すために通常以上の力を必要とする状態)を引き起こします。

さらに肺高血圧による負荷が持続すると、右心室は血液を送り出すために肥大し、やがて拡張して三尖弁逆流が生じ、最終的には全身循環のうっ滞によって腹水、肝腫大、皮下浮腫などを伴う右心不全へと進行していきます。

フィラリア症で起こる特に重篤な症状で、多数の成虫が肺動脈から右心房へと逆流し、三尖弁の機能を物理的に阻害してしまう病態です。

大量の虫体が三尖弁(右心房と右心室の間の弁)に絡みつき、血液の循環を急激に阻害・遮断することで、急性右心不全を引き起こします。

これにより赤血球が物理的に破壊され(溶血)、ヘモグロビン尿による濃紅茶色の尿が見られるようになります。
この状態は救急疾患であり、予後不良となることも多く、また、多数の寄生虫が血管に詰まることで突然死(心臓発作)を引き起こす場合もあります。


2024年改訂のAHS(米国犬糸状虫学会)ガイドラインでは、7ヵ月齢以上のすべての犬に対し、年1回の「抗原検査」と「ミクロフィラリア(MF)検査」を推奨しています。

メスの成虫由来の可溶性抗原を検出します。微量(一滴程度)の血液を検査用キットに垂らして検査します。
10分程度で即結果が分かるため、動物病院で最も主流となっている検査方法です。
安価で高精度ですが、オスのみの寄生や感染初期(6ヶ月未満)には反応しません。
主に、心臓に現在寄生している成虫がいないかを判断する材料として使用します。

血液中の幼虫を顕微鏡で直接確認します。
抗原検査が陰性でも、薬剤耐性株などの影響で幼虫のみが存在するケースを見逃さないために不可欠です。
ごく少量の採血を行い、スライドグラスに血液を一滴垂らし、上からカバーグラスをかけて顕微鏡で観察します。


現代のフィラリア予防薬は、一度の投薬でさまざまな種類の寄生虫に効果があり包括的な管理ができる製品が主流となってきています。
以下に、各有効成分の薬理学的特性と、それらを配合した主要製品の詳細をご紹介します。

これらの成分は、寄生虫の神経・筋肉細胞にあるグルタミン酸作動性塩化物イオンチャネルという部分に結合し、神経伝達の回路を狂わせ動けなくして死滅させます。

・イベルメクチン
世界で最も歴史があり、低用量でL4幼虫を殺滅できる安全性と有効性のバランスに優れた成分です。
ただし、コリー系犬種などではMDR1遺伝子変異により、通常の用量でも脳内へ薬剤が流入しやすく、神経症状(ふらつき、震え、昏睡など)を起こすリスクがあるため注意が必要です。

・ミルベマイシンオキシム
フィラリア予防に加え、回虫、鉤虫、鞭虫といった腸内線虫に対しても駆除効果を発揮します。

・モキシデクチン
大環状ラクトン系の中でも極めて高い脂溶性を持ち、血中濃度が長期にわたって安定します。
この特性により、一部の耐性株に対しても他成分より高い有効性を示すことが報告されています。

・セラメクチン
経皮吸収に非常に優れたスポットオン製剤専用の成分です。
皮膚から速やかに吸収され、フィラリアの寄生予防だけでなく、ノミ成虫の駆除、ノミ卵の孵化阻害、さらにはミミヒゼンダニの駆除に単独で高い効果を発揮します。
生後6週齢の子犬、妊娠・授乳中の犬、イベルメクチン感受性犬(コリー等)においても高い安全性が確認されています。

・イソキサゾリン系(アフォキソラネル、サロラネル、ロチラネル等)
最新のノミ・マダニ駆除成分で、節足動物のGABA受容体等を阻害します。
即効性が高く、投与後数時間で駆除が始まり、1ヶ月間安定した効果が持続します。

・ピランテル
回虫や鉤虫の駆除効果を補完するために多くの製剤に配合されます。

製品名(形状)主要有効成分対象寄生虫特徴
シンパリカ トリオ
(チュアブル錠)
サロラネル、モキシデクチン、ピランテルパモ酸塩フィラリア、ノミ、マダニ、イヌセンコウヒゼンダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫耐性リスクに強いとされるモキシデクチンを採用。ノミ・マダニへの即効性が高い。
クレデリオプラス
(フレーバー錠)
ロチラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫、鞭虫ビーフフレーバーの小さな錠剤タイプ。成分吸収を助けるため食事時の投与を推奨。
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチンフィラリア、ノミ、ミミヒゼンダニ背中に垂らすタイプ。錠剤が苦手なコや吐き戻す場合に最適。耳ダニ駆除も可能。
ネクスガード スペクトラ
(ソフトチュアブル)
アフォキソラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、回虫、鉤虫、鞭虫おやつ型で与えやすい。食事の有無を問わず投与可能。
イベルメックPI
(骨型クッキー)
イベルメクチン、パモ酸ピランテルフィラリア、回虫、鉤虫嗜好性の高いクッキー型。コストパフォーマンス重視。
プロハート12
(徐放性注射薬)
モキシデクチンフィラリア一度の注射で12ヶ月間効果が持続。毎月の投薬ストレスや投薬忘れがない最新の選択肢。
ハートメクチン錠
(錠剤)
イベルメクチンフィラリアフィラリア予防に特化したシンプルな錠剤。コストを最小限に抑えたい場合に 。

※本表は各製品の学術的な特徴をまとめたものであり、特定の製品の購入を推奨するものではありません。フィラリア予防薬は全て要指示医薬品です。必ず動物病院での検査を経て、獣医師の指示に従って使用してください。


予防薬の発展により、日本国内ではフィラリアの感染数はかなり少なくなっていますが、万が一感染が判明した場合の治療には以下の三つの方法があります。

現在の国内では、予防薬(イベルメクチンなど)とドキシサイクリンという抗生剤を長期間併用し、フィラリアの寿命を短くしながら全滅を待つ「combination slow-kill法」を選択する場合も多いです。

フィラリアの体内には「ボルバキア(Wolbachia pipientis)」という細胞内共生細菌が存在しています。
フィラリアが死滅する際、この細菌が放出する表面抗原が犬の免疫系を過剰に刺激し、肺や腎臓における重篤な炎症反応(糸球体腎炎や好酸球性肺炎など)を助長することが判明しています。

ドキシサイクリンにはボルバキアを殺菌する効果があり、これを併用することで駆虫に伴う副作用のリスクを最小限に抑えます。
また、治療期間中(通常2年以上)は、死滅した虫体による急性塞栓を防ぐため、厳格な運動制限をおこなう場合もあります。

右心室内に虫体が寄生している場合に適応となる方法です。
頚静脈からアリゲーター鉗子と呼ばれる器具を挿入し、右心室内のフィラリア虫体を掴み取って除去する方法で、全身麻酔のリスクや手技の困難さがあります。
現在日本ではアリゲーター鉗子の国内製造は終了しており、この手術を実施している施設は少なくなっています。

メラルソミンというヒ素剤を2~3回筋肉に注射しフィラリア成虫を駆除する方法です。

米国犬糸状虫学会(AHS)推奨の治療法ですが、大量のフィラリア虫体が寄生している場合には、虫体が一度に死滅することでアナフィラキシーショックや呼吸不全を起こす可能性があるため、適応外となります。

また、死滅した虫体が肺動脈で詰まり、一時的に肺機能を低下させる場合があるため、注射後1~2週間は安静が必要です。
また、現在日本ではメラルソミン注射剤の生産がないため海外から薬の輸入が必要になります。


この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • フィラリア症は命に関わる重大な肺・心臓疾患です。症状が出る前の予防が愛犬の寿命とQOLを左右します。
  • 予防薬は最後まで必ず投薬しましょう。蚊がいなくなってから1ヶ月後の投薬が特に大切です。
  • 薬の成分の特徴を踏まえて、嗜好性、投与の利便性など愛犬の体質とライフスタイルに合った製品を選びましょう。
  • 万が一感染してしまったら治療は大きなリスクを伴い愛犬にも負担がかかります。かかりつけの獣医師とよく相談して最適な治療方法を選択しましょう。

予防薬の発達と飼い主様の予防意識の向上により、10年前に比べてフィラリア症はかなり減少傾向にあります。
しかし、予防を怠ると感染リスクはいまだに高く、その治療には長い時間と高額な費用を要し、愛犬にも大きな負担をかけることとなります。動物病院に通い、愛犬にあったお薬で確実な予防を心がけましょう。

犬のアトピー性皮膚炎~かゆみの原因と上手な付き合い方~【獣医師執筆】

愛犬が体をかきむしり、舐め続ける姿を見るのは、飼い主さんにとって辛いものです。

犬のアトピー性皮膚炎は、環境中のアレルゲンに対する過剰な免疫反応と、皮膚バリア機能の遺伝的な機能不全を特徴とする慢性皮膚疾患です。
完治はなかなか難しく、生涯にわたり適切な皮膚のケアが必要となるケースも少なくありません。

このコラムでは、アトピー性皮膚炎の原因から最新の治療薬、そして愛犬のQOL向上のための日常ケア方法まで詳しく解説していきます。


アトピー性皮膚炎の発症には、『皮膚バリア機能の不全』『免疫バランスの乱れ』『環境因子』の3つが密接に関与しています。

皮膚の最外層を構成する角質層は、外部刺激の侵入を阻止し、体内の水分を保持する生物学的バリアとして機能しています。この層は、セラミド、脂肪酸、コレステロールといった細胞間脂質と、フィラグリンなどの重要な成分によって維持されています。

アトピー性皮膚炎に罹患した犬では、これらの成分が遺伝的に不足しており、特に細胞間脂質のバランスが崩れていることが確認されています。

中でも重要視されるのが、フィラグリン(FLG)遺伝子の変異です。フィラグリンは角層細胞内でケラチンフィラメントを凝集させ、最終的には天然保湿因子(NMF)へと分解されますが、このプロセスが阻害されることで経皮水分蒸散量(TEWL)が増大します。

この「漏れやすい皮膚」の状態が、アレルゲンの侵入を容易にし、慢性的な炎症を引き起こす病理学的基盤となります。

特に以下の犬種では、遺伝子レベルでの皮膚バリア機能の脆弱性が確認されており、アトピー性皮膚炎を発症しやすい傾向があります。

  • 柴犬
  • ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
  • ラブラドール・レトリーバー
  • ゴールデン・レトリーバー
  • フレンチ・ブルドッグ
  • シー・ズー

これらの犬種を飼育されている方は、特に皮膚の状態に注意を払う必要があります。

侵入したアレルゲンに対し、犬の体を守る一連の免疫メカニズムは、通常よりも偏った過剰な応答を示します。
この過程で放出されるインターロイキン31(IL-31)という免疫関連物質が、皮膚の感覚神経を直接刺激して激しいかゆみを引き起こすことが知られています。

遺伝的素因を顕在化させる引き金として、外部環境の要因が深く関わっています。

・環境アレルゲンへの曝露
室内ダニ(コナヒョウヒダニ等)の排泄物や死骸、スギ・イネ科・ブタクサ等の花粉、真菌(カビ)の胞子などが主要な抗原となります。これらは季節や居住地域によって飛散量が変動し、症状の増悪を左右します。

・気候と飼育習慣
高温多湿(湿度60%以上)な環境はダニやカビの繁殖を促し、症状を悪化させます。また、過度な洗浄など誤ったスキンケアも、皮膚バリアを物理的に損傷し、アレルゲン浸透を助長する環境的誘因となります。


臨床症状は通常、生後6ヶ月から3歳の間に初発を迎え、主には以下の部位に左右対称性(非対称の場合もあり)の赤み、ブツブツ、フケ、輪状の湿疹などが認められます。

部位別の主な症状

部位主な症状・飼い主が気づくポイント
顔面・耳目の周りの赤み、涙やけの悪化、外耳炎の繰り返し。耳の入り口付近を頻繁に掻く行動が見られる。
四肢(手足)指の間や肉球の赤み・腫れ、執拗に舐める行動。唾液の成分により被毛が茶褐色に変色するのが特徴。
体幹部脇の下、内股(鼠径部)の赤み・ブツブツ。皮膚が薄く擦れやすい部位に強い症状が出やすい。

アトピー性皮膚炎の最大の特徴は、激しいかゆみです。
犬は掻く、舐める、噛むといった行動を繰り返し、これがさらに皮膚を傷つけ、バリア機能を低下させます。
この悪循環を断ち切ることが、治療の重要な目標となります。


アトピー性皮膚炎の診断は検査で確定するのは非常に難しく、他の疾患を順番に排除していく「除外診断」が基本となります。
これは、アトピー性皮膚炎を確定する単一の検査が存在しないためです。

ステップ1:他疾患の除外
ノミ・ダニ等の外部寄生虫感染、細菌感染(膿皮症)、酵母菌感染(マラセチア)を先行して治療し、かゆみの原因を切り分けます。

ステップ2:食物アレルギーの鑑別
アレルギー性皮膚炎の約30%は食物アレルギーを併発しているとされています。アレルギー検査(血液検査)の結果をもとに8週間の厳格な除去食試験を行い、食事の影響を判定します。

ステップ3:臨床診断基準の確認
臨床現場では、Favrot(ファヴロ)らによって策定された診断基準が、CADの可能性を判定するための有用なツールとして用いられています。上記の1および2を除外後、以下の8項目のうち5項目以上を満たす場合、CADの可能性が高いと評価されます。

項目チェック内容
1. 発症年齢3歳未満で症状が出始めた
2. 飼育環境ほとんど室内で生活している
3. 薬への反応ステロイド剤でかゆみが劇的に治まる
4. 合併症マラセチア(真菌)による皮膚炎を繰り返す
5. 前足の症状前肢(足先など)に皮膚の赤みや汚れがある
6. 耳の症状耳介(耳のヒラヒラした部分)に病変がある
7. 耳の縁(症状なし)耳のフチ(縁)には異常がない
8. 腰・背中(症状なし)腰や背中の中心部には異常がない

ステップ4:アレルギー検査
主に血液検査によりアレルゲン特異的IgE抗体を測定するもので、ハウスダストマイト、花粉、カビなどの環境アレルゲンに対する免疫反応を調べます。これにより、犬がどの物質に感作されている可能性が高いかを推定します。

ただし、検査陽性=発症原因とは限らないため、症状の季節性や生活環境などと総合的に判断する必要があります。


内服薬には、主に以下のものがあります。効果・副作用が異なるため、犬の体質・症状に合わせて選択することが大切です。
近年のアトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド、シクロスポリンをはじめとする広範な全身性免疫抑制に加え、副作用を最小限に抑えつつ痒みの特異的な経路を遮断する「分子標的薬」を使用した治療が主流となってきています。

これら分子標的薬の長期使用に関しては、臨床データの不足からその使用リスクについて様々な議論が行われています。(2026年1月現在)

薬剤名作用機序特徴
ステロイド
(プレドニゾロンなど)
細胞内の受容体に結合し、炎症の原因を直接抑制することで、強い免疫抑制・抗炎症作用を示す。安価で、強力な抗炎症と止痒効果を併せ持つ。長期使用で副作用に注意が必要。
アトピカ
(シクロスポリン)
T細胞の活性化に不可欠なカルシニューリンを阻害し、痒みや炎症の元となるサイトカインの産生を抑制する。長期投与が可能で、ステロイドを減薬できる可能性がある。
効果発現まで2週間以上かかる。初期に嘔吐症状が出やすい。
サイトポイント
(ロキベトマブ)
痒みを脳に伝えるIL-31を標的として結合し、中和することで痒みを感じないようにさせる。月1回の注射で済み、副作用のリスクも低い。効果の持続性には個人差がある。
アポキル
(オクラシチニブ)
痒みの伝達に関わるJAK酵素を阻害し、痒みの中心物質であるIL-31のシグナルを遮断する。即効性があり、安全性も高い。減量・休薬時に痒みがリバウンドする場合がある。
ゼンレリア
(イルノシチニブ)
最新薬(2026年1月現在)。
従来薬よりも広範かつ強力にJAK経路を遮断し、痒みだけでなく重度の炎症反応も抑制する。
痒み軽減効果が高く、既存薬でコントロール困難な症例にも有効。最初から1日1回の投薬で済むのも大きな利点。ただし、免疫への影響が比較的強いため、定期的な血液検査など、慎重な経過観察が必要。

※本表は各製品の学術的な特徴をまとめたものであり、特定の製品の購入を推奨するものではありません。上記アトピー性皮膚炎の治療薬は全て「要指示医薬品」です。使用にあたっては、必ず動物病院で獣医師の診察を受け、愛犬の症状や体質に合わせた指示を受けてください。

対症療法が主体となるアトピー性皮膚炎の治療において、唯一の根本的な解決策となり得るのがアレルゲン特異的免疫療法「減感作療法」です。人の花粉症治療にも用いられている方法です。

・治療方法
原因となるアレルゲンを低用量から計画的に反復投与し、免疫系の過剰反応を徐々に抑制していきます。アレルゲンに対する反応が過剰な状態から、免疫寛容(過剰に反応しない状態)へと変化することで、症状の軽減や薬物治療の必要量の減少が期待されます。

・効果
犬の症例の約60%に顕著な改善が見られるとされていますが、完全な治癒を保証するものではありません。治療期間も長期にわたるため、獣医師とよく相談して検討することをおすすめします。


アトピー性皮膚炎に対しては、お薬による治療だけでなく、スキンケアや食事管理などを多角的に組み合わせ、皮膚のバリア機能を多方面からサポートしていくことが重要です。

・物理的洗浄
花粉やダニなどのアレルゲンを物理的に除去します。ぬるま湯を使用し、成分を浸透させるため10分程度おいてから十分にすすぎます。

・保湿の徹底
シャンプー後はバリア機能が低下するため、セラミド等を含む保湿剤で速やかに保護します。1日1~2回の保湿が理想的です。

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・必須脂肪酸の補給
オメガ3脂肪酸(EPA, DHA)やオメガ6脂肪酸(リノール酸・γ-リノレン酸等)は、炎症緩和とバリア機能改善をサポートします。

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・腸内環境の整備
パラカゼイ菌(乳酸菌)やケストース(オリゴ糖)の摂取により、腸内フローラ(腸の中に生息する多種多様な細菌の集まりのこと。消化吸収の補助、免疫機能の調整、病原菌の抑制などに関与する。)を整え、皮膚の過剰なアレルギー反応を抑制します。

ある臨床研究では、従来の治療薬プレドニゾロンを90日間投与しても改善しなかったCADの犬15頭に、これらを併用した結果、症状の顕著な改善と抗生物質の使用量の減少が確認されました。これにより、パラカゼイ菌が免疫の偏りを是正し、ケストースが皮膚の保水力をサポートすることで、効率的な腸内環境改善と皮膚の健康維持が期待できることが示唆されています。

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アレルゲン回避のポイント

  • 室内湿度は40〜60%、温度20〜25℃程度に維持(ダニやカビの増殖を抑える)
  • 空気清浄機の活用
  • 週2〜3回以上の掃除機がけ
  • 寝具の定期的な洗濯と日光消毒(週1回程度)
  • 花粉の季節は散歩後に足や体を拭く

アトピー性皮膚炎の犬は、皮膚バリアの脆弱性から以下のような二次感染を併発しやすくなります。

表在性膿皮症
アトピー犬の約66%で発症し、かゆみをさらに増幅させます。赤いブツブツや膿を伴う湿疹が特徴です。

外耳炎
アトピー犬の80%以上に症状が見られ、耳だけの症状が初発となるケースも少なくありません。頻繁に頭を振る、耳を掻く、耳垢が増えるなどの症状に注意が必要です。

マラセチア皮膚炎
酵母菌の増殖により強い悪臭とベタつきが生じます。特に指の間、脇の下、耳などに発生しやすい傾向があります。

これらの疾患を繰り返す場合、あるいは一般的な治療でコントロールが困難な場合は、早期に「日本獣医皮膚科認定医」など皮膚疾患に詳しい獣医師の診察を受けることをおすすめします。


アトピー性皮膚炎は長い付き合いが必要な病気ですが、適切な治療と日常ケアにより、かゆみを良好にコントロールし、愛犬のQOLを維持することが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が穏やかな毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア不全、免疫異常、腸内環境の乱れが複雑に絡み合った疾患
  • 診断は、寄生虫、食物アレルギー、感染症を一つずつ除外していく丁寧なプロセスが必要
  • 治療薬には現在様々な種類があり、獣医師と相談の上、体質と皮膚にあったものを選択することが大切
  • 症状がない時期でも、日常的なスキンケアを続けていくことが再発防止の鍵となる
  • シャンプー・保湿・食事(脂肪酸)・腸活(乳酸菌)を組み合わせる多角的なアプローチが、薬の減量とQOL維持につながる
  • 症状が改善しない場合は、皮膚科専門医による診察を受けるのも選択肢の一つ

犬のアトピー性皮膚炎は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛犬のかゆみに不安を感じたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な治療管理が、愛犬の穏やかな生活を支える大きな力となります。

猫の甲状腺機能亢進症~早期発見のポイントと治療の基本~【獣医師執筆】

「食欲旺盛なのに体重が減る」、「夜中に鳴き止まず、落ち着きがない」これらの症状は高齢猫に最も多く見られる、甲状腺機能亢進症という病気のサインかもしれません。
甲状腺機能亢進症は進行性の疾患ですが、適切な知識と治療によってコントロールできる慢性疾患です。

このコラムでは、病気のメカニズムと愛猫の生活の質(QOL)を最大限に高めるための治療の基本を分かりやすく解説します。


この疾患は、喉元にある甲状腺から「甲状腺ホルモン(T4)」というホルモンが過剰に分泌されることによって起こります。

このホルモンは、身体の代謝(エネルギー消費)をコントロールするアクセルのようなもので、過剰になると全身の臓器が異常に活発になり、心臓、腎臓、消化器などの全ての臓器が疲弊してしまいます。

8歳以上の高齢猫に多く、初期の症状は加齢による変化と見過ごされがちです。
しかし、早期に診断し治療を開始することが、心臓や腎臓への不可逆的なダメージを防ぐために極めて重要です。

甲状腺機能亢進症の原因の大部分は、甲状腺組織における良性の増殖、すなわち機能性甲状腺腺腫または腺腫様過形成に起因します。

分類詳細発生割合
機能性甲状腺腺腫/過形成甲状腺組織の中にできる良性腫瘍によるもの。腫瘍化した甲状腺が自律的にホルモンを過剰に作り出す。約98%以上
腺癌悪性の甲状腺腺癌(がん)によるもの。稀にみられる。約1〜2%

飼い主様が気づく愛猫の初期の変化には、以下のようなものがあります。

この病気の最も典型的なサインです。
食欲が非常に旺盛であるにもかかわらず、代謝率の異常な亢進により、体重が急激に減少していきます。

以前に比べて活動性が増す、落ち着きがない、夜鳴きが増えるといった神経質な行動が目立つようになります。

腎臓への血流増加や、ホルモン自体の作用により、水を飲む量と尿の量が増加します。

毛艶が悪化したり、部分的な脱毛が見られたりすることもあります。

心臓への過剰な負担による潜在的な心臓病の悪化(肥大型心筋症の悪化)や、二次的な高血圧などが認められることがあります。


症状、身体所見、および血液中の甲状腺ホルモン濃度の測定を組み合わせて行われますが、基本として血液検査により確定診断します。

最も大事な検査として甲状腺ホルモン(T4)の測定を行います。
T4には総T4(TT4)と遊離T4(fT4)があります。猫では主としてTT4を用い、補助的にfT4を用います。

甲状腺機能亢進症を強く疑う症状があるにもかかわらず、総T4(TT4)が正常高値である場合など、診断がグレーゾーンの際には、遊離T4(fT4)の検査値を用いることがあります。
fT4のほうが他の疾患の影響を受けにくいのですが、猫では偽高値になることがあるのでfT4単独では用いません。

TT4が高値であれば甲状腺機能亢進症と診断します。

甲状腺シンチグラフィーは、放射性同位元素を用いて、甲状腺組織がホルモンを取り込む能力を画像化する特殊な検査です。
有用ですが国内で行える施設は非常に少なく、代用として触診による甲状腺の大きさのチェック、超音波検査での測定があります。


治療方法は、根治を目的とする外科手術と、ホルモン値のコントロールを目的とする内服薬などの内科療法に分けられます。愛猫の性格や全身状態に応じて、最適な計画を立てていきます。

治療法作用機序特徴
内服薬(チアマゾール錠)T4合成を抑制する。
最も選択されている治療法。
症状に合わせて薬の量がコントロールしやすいが、毎日の投薬管理が必要。
塗布薬(外用チアマゾール製剤)T4合成を抑制する。
一日一回、耳の内側に塗布する。
投薬困難な猫でも使用できるため、治療の新しい選択肢として注目されている。(日本では未承認)
外科的切除原因となる甲状腺部位の切除を行う。根治が見込めるが、手術に伴う一般的なリスクがあり、取り切れないと再発する場合もある。
食事療法(ヨウ素制限食)食事中のヨウ素摂取を強く制限する。排他的給餌の徹底が必須。他の食物を摂取させると効果が期待できない。

甲状腺機能亢進症の治療において、最も注意すべきなのが「腎臓機能低下」の併発の有無です。

甲状腺ホルモンが過剰な状態は、腎臓の血流を一時的に増加させることで、隠れていた慢性腎臓病の兆候を覆い隠してしまっている可能性があります。
ホルモン値を正常化する治療を行うと、慢性腎臓病が急に悪化することがあるため注意が必要です。

T4を過度に抑制すると慢性腎臓病の進行を加速させる可能性があるため、腎臓保護の観点から、血清T4濃度を下げすぎないことも重要です。
腎機能の急速な悪化が認められる場合には、甲状腺機能亢進症の治療を中断する場合もあり、このバランスのコントロールに慎重な判断が求められます。


猫の甲状腺機能亢進症自体は適切な治療によってコントロール可能であり、T4正常化による予後は一般的に良好です。

しかし、予後を最終的に決定づけるのは、併発している重度の慢性腎臓病や心筋症の程度です。
甲状腺機能が安定した後も、少なくとも6か月ごとにホルモン値や腎数値などを血液検査、心臓精査による心筋症のチェックを行い、継続的にモニタリングすることが推奨されています。


甲状腺機能亢進症は、早期発見と適切な治療により良好なコントロールが可能です。
愛猫の行動の変化を見逃さず、気になることがあれば早めに動物病院を受診しましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • 猫の甲状腺機能亢進症は、高齢猫に多く見られる進行性の病気で、食欲旺盛なのに痩せていくのが特徴
  • 診断は血液中の総T4(TT4)測定が基本ですが、他疾患との鑑別のための遊離T4(fT4)の解釈には慎重な判断を要する
  • 治療方法には内服薬、塗布薬、外科的切除、食事療法があり、愛猫の状態に応じて選択する
  • 腎臓病を併発している場合は、腎血流を保護するため、T4値の厳密な管理が推奨される
  • 治療後も少なくとも6か月ごとの定期的なモニタリングが重要

猫の甲状腺機能亢進症は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛猫の症状に不安を感じたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な投薬管理が、愛猫の穏やかな生活を支える大きな力となります。

【獣医師監修】猫のワクチン接種は本当に必要?科学的根拠から考える適切な予防接種

「完全室内飼いだから、ワクチンは必要ないのでは?」「毎年接種するのは猫の負担が大きすぎる」「副反応が心配」——そんな疑問や不安を抱えている飼い主さんは少なくありません。
猫のワクチン接種は法律で義務付けられていないからこそ、飼い主さん自身が正しい知識を持ち、愛猫にとって最適な選択をする必要があります。

このコラムでは、ワクチンの必要性を科学的根拠に基づいて客観的に解説し、接種のメリット・デメリットを踏まえた上で、愛猫に適した予防接種プログラムを考えるための情報を提供します。

【この記事を読んでわかること】

  • ワクチンで予防できる感染症の実態と致死率
  • コアワクチンとノンコアワクチンの違いと選択基準
  • ワクチン接種のメリットと副反応のリスク
  • 最新ガイドラインに基づく適切な接種スケジュール
  • 完全室内飼いの猫にもワクチンが必要な理由
  • 副反応を最小限に抑えるための実践的な対策

ワクチンとは、病原体の毒性を弱めたり無毒化したりしたものを体内に投与し、あらかじめ免疫を作っておく予防医療です。ワクチンには大きく分けて2つの効果があります。

ひとつは感染予防効果です。これは病原体の侵入を防ぐ、または感染しにくくする働きです。
もうひとつは重症化予防効果で、仮に感染しても症状を軽く抑え、愛猫の命を守ることができます。

重要なのは、ワクチンは「100%感染を防ぐ」ものではなく、「感染リスクを大幅に下げ、感染しても重症化を防ぐ」手段であるという点です。

猫がかかる感染症には、非常に高い致死率を持つものがあります。例えば、猫パルボウイルス感染症の場合、子猫における致死率は50〜90%にも達し、治療が遅れるとわずか数日で命を落としてしまうこともあります。

さらに深刻なのは、多くのウイルス感染症には特効薬が存在しないという事実です。
治療は対症療法が中心となり、猫自身の免疫力に頼るしかありません。また、猫ヘルペスウイルスのように一度感染すると体内に潜み続け、免疫力が低下するたびに再発を繰り返すウイルスもあります。猫白血病ウイルスは猫白血病ウイルス感染症の原因となることもあります。

感染力の高さも無視できません。
猫パルボウイルスは環境中で数ヶ月間生存可能かつ、感染猫の少量の糞便に触れることで容易に感染してしまう危険性があります。

「うちの猫は完全室内飼いだから、感染症とは無縁」と考えている飼い主さんもいるかもしれません。しかし、実際には完全室内飼いの猫でも感染リスクはゼロではないのです。

人を介した感染経路として、飼い主の衣服や靴にウイルスが付着したり、来客が持ち込んでしまったりする場合があります。また、災害時の避難所など予期せぬ環境の変化、新しく迎え入れた猫や動物病院での接触なども感染の機会となります。

猫パルボウイルスのような環境中で長期間生き残るウイルスの場合、完全に感染を防ぐことは困難です。完全室内飼いにもかかわらず猫風邪を発症するケースは珍しくありません。


世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインでも、生活環境に関わらず全猫への接種が強く推奨されているのがコアワクチンです。これは3種混合ワクチンとして提供されています。

1. 猫パルボウイルス感染症(猫汎白血球減少症)

激しい嘔吐と下痢(しばしば血便を伴う)、高熱、食欲不振、脱水といった症状が現れます。さらに白血球の著しい減少により免疫不全状態に陥ります。子猫の致死率は50〜90%と非常に高く、発症後数日で死亡するケースも少なくありません。

感染経路は感染猫の糞尿や嘔吐物との接触です。このウイルスは環境中で数ヶ月〜数年生存する極めて強いウイルスで、特効薬は存在せず、輸血・点滴などの支持療法のみとなります。治療費も数万円〜十数万円と高額です。

2. 猫ヘルペスウイルス感染症(猫ウイルス性鼻気管炎)

大量の目やにと鼻水、結膜炎、角膜炎が特徴的な症状で、くしゃみの連発、発熱、食欲不振も見られます。重症化すると肺炎を併発することもあります。

このウイルスの厄介な点は、一度感染すると体内に潜伏し続け、免疫力が低下するたびに再発を繰り返すことです。慢性鼻炎や結膜炎に移行することも多く、生涯にわたる治療が必要になる場合もあります。感染経路は感染猫のくしゃみや鼻水による飛沫感染、食器やトイレの共有、グルーミング時の接触などです。

3. 猫カリシウイルス感染症

くしゃみ、鼻水、目やにといった症状に加えて、口内炎や舌・口腔粘膜の潰瘍が特徴的です。口内炎の痛みで食事ができなくなることもあり、子猫では脱水と栄養失調で死亡することもあります。

感染経路は感染猫のくしゃみや鼻水による飛沫感染、食器やトイレの共有、グルーミング時の接触などとなります。特効薬がなく対症療法のみとなり、回復後もウイルスを排出し続けることがあるため、多頭飼育では特に注意が必要です。

ノンコアワクチンは、猫の生活環境や感染リスクに応じて接種を検討するワクチンです。

4. 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

接種推奨対象:外出する猫、多頭飼育で他の猫との濃厚接触がある猫、FeLV陽性の猫と同居している猫に接種が推奨されます。

症状としては免疫不全、貧血、慢性口内炎、下痢などが現れ、進行するとリンパ腫、白血病、腎不全を引き起こします。発症後3〜4年以内の死亡率が高い深刻な病気です。

感染経路は感染猫との濃厚接触(グルーミング、食器の共有)、咬傷、母子感染などです。重要なのは、初回接種前に必ず血液検査でFeLV感染の有無を確認する必要があるという点です。

5. 猫クラミジア感染症

接種推奨対象:多頭飼育環境にいる猫や、キャッテリー、ペットホテルを利用する猫に接種が推奨されます。

結膜炎(特に初期は片目から始まることが多い)、大量の目やに、軽度の鼻炎やくしゃみが主な症状です。
症状は比較的軽度ですが、慢性化しやすいのが特徴です。また、稀ではありますが人に感染する可能性もある人獣共通感染症です。

6. 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV・猫エイズ)

接種推奨対象:外出する猫や野良猫との接触機会がある猫に推奨されます。

主な感染経路は咬傷、つまりケンカによる噛みつきです。
初回接種前に血液検査が必須で、ワクチン接種後は抗体検査で陽性となるため、実際の感染との区別が困難になるという点に注意が必要です。


1. 致死率の高い感染症から命を守る

猫パルボウイルスの場合、ワクチン接種猫の致死率は10%以下との報告もありますが、未接種猫では50〜90%にも達します。猫ヘルペスウイルスやカリシウイルスについても、接種することで発症率が減少することが分かっています。仮に感染しても症状が軽く、回復も早いという効果も期待できます。

2. 治療費の軽減

感染症治療には高額な医療費がかかります。猫パルボウイルス感染症の場合、入院費用は5〜15万円以上、猫風邪の重症例でも通院・入院で3〜10万円かかるともいわれています。慢性化した場合は生涯にわたる治療費が必要になることも珍しくありません。一方、ワクチン接種費用は年間5,000〜10,000円程度です。

3. 多頭飼育での感染拡大防止

多頭飼育の場合、一匹が感染すると他の猫にも感染が広がるリスクが高まります。全頭へのワクチン接種は、家庭内での感染症蔓延を防ぐ「集団免疫」の形成に貢献します。

ワクチン接種には一定の副反応リスクが存在します。ただし、適切な対応で重症化を防げるケースがほとんどです。

1. 軽微な副反応

接種部位の痛みや腫れ、軽度の発熱(24時間以内に自然回復)、元気消失、食欲低下(1〜2日程度)、嘔吐、下痢といった症状が見られることがあります。発生率は比較的高いものの、ほとんどは24時間以内に自然回復します。
症状が強い場合や24時間以上続く場合は動物病院へ連絡しましょう。

2. アナフィラキシーショック

接種後数分〜30分以内に呼吸困難、虚脱、意識障害といった症状が現れます。
猫のワクチン接種後のアナフィラキシー発生率は約0.01%、つまり10,000回に1回程度と稀です。

対策としては、接種後30分は動物病院内または近くで待機することが重要です。一度アナフィラキシーを起こした猫は、次回接種前に必ず獣医師に相談しましょう。

3. 注射部位肉腫

ワクチンを接種した部位に発生する悪性腫瘍で、発生率は10,000回の接種につき1〜4例といわれています。接種してから数年後に発症することもあります。

予防策として、毎回異なる部位(特に後肢など切除しやすい場所)に接種することが推奨されています。経過観察の目安として、接種後1ヶ月以上しこりが残る、しこりが2cm以上の大きさになる、しこりが大きくなり続けるといった場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。

4. 慢性腎臓病との関連性

最近の研究では、ワクチン接種頻度が高い猫が慢性腎臓病を発症する可能性があるとの報告があります。ただし、因果関係は完全には解明されていません。適切な接種間隔を守ることでリスクを最小化できます。

ワクチン接種をしない場合、致死率50〜90%の感染症に無防備な状態となり、治療費も数万円〜十数万円と高額になります。一方、ワクチン接種をする場合のリスクは、軽微な副反応(多くは24時間以内に回復)と重篤な副反応(発生率0.01〜0.04%)です。

科学的データから見れば、適切な頻度でのワクチン接種は、リスクを大きく上回るメリットがあると考えられます。


接種回時期目的
1回目生後6〜8週齢移行抗体が減少するタイミングでの初回免疫
2回目1回目から3〜4週後抗体価の上昇
3回目生後14~16週齢以降確実な免疫獲得
ブースター生後26〜52週齢(6〜12ヶ月)長期免疫の確立
※要否には個体差があります。

子猫接種で重要なのは、母猫からの初乳により得た移行抗体が生後8〜12週で消失するため、その時期に合わせて接種を開始することです。特に16週齢以降の接種が長期免疫の鍵となります。

コアワクチン(3種混合)の場合

完全室内飼いの猫には2つの選択肢があります。

ひとつは抗体価検査を活用した個別プログラムです。
年に1回の健康診断時に抗体価検査を実施(費用6,000〜7,000円)し、抗体価が十分であれば接種を見送ります。

もうひとつは3年に1回の定期接種です。
抗体価検査を行わない場合の標準プログラムで、コアワクチンの免疫持続期間は7.5年以上との研究報告もあります。

一方、外出する猫や多頭飼育の猫には年に1回の定期接種が推奨されます。感染リスクが高いため、より確実な予防が必要になります。

ノンコアワクチンの場合

猫白血病ウイルス(FeLV)や猫クラミジアは免疫持続期間が短いため、年に1回の接種が推奨されます。

シニア猫には特別な配慮が必要です。接種前に血液検査で腎臓や肝臓などの機能を確認し、完全室内飼いであれば3年間隔も検討可能です。獣医師と相談しながら、個体ごとのリスク評価を行うことが大切です。


まず、愛猫の健康状態を確認しましょう。食欲や元気があるか、嘔吐・下痢はないかをチェックし、体調不良時は接種を延期します。

接種日は午前中が理想的です。
万が一異変があった場合に対応できる時間的余裕があるからです。週初めや平日を選び、週末や祝日前は避けましょう。接種後24時間は在宅できる日を選ぶことも大切です。

獣医師には過去のワクチン接種歴と副反応の有無、現在服用中の薬やサプリメント、アレルギー体質や基礎疾患の有無をしっかり伝えましょう。

アナフィラキシーショックは接種後30分以内に発症することが多いため、接種後30分は病院付近で待機し、車中や待合室で猫の様子を観察します。

帰宅後は静かで落ち着ける場所を用意し、無理に遊ばせたり運動させたりしないようにします。食欲がなければ無理に食べさせる必要はありません。

呼吸が荒い・苦しそう、顔が急激に腫れる、嘔吐を繰り返す、立てない・ぐったりしているといった緊急度が高い症状が見られたら、すぐに動物病院に連絡しましょう。

また、24時間経過しても食事を全く食べない、元気がまったくない、高熱が続く、接種部位の腫れが拡大しているといった症状がある場合も受診が必要です。

接種後2〜3日間は、シャンプーや入浴、激しい運動や遊び、他の猫との濃厚接触、長時間の外出や旅行を避けましょう。愛猫の体が免疫を作り上げるために、安静な環境を提供することが大切です。


完全室内飼いでも感染経路は多様です。飼い主の衣服や靴に付着したウイルス、来客による持ち込み、災害時の避難所など、予期せぬ感染リスクが存在します。ただし、コアワクチン(3種混合)を3年に1回、または抗体価検査を併用するプログラムで十分なケースが多いです。

最新のガイドラインでは、コアワクチンは3年に1回でも十分な免疫が維持されることが分かっています。ただし、外出する猫、多頭飼育の猫、ペットホテル利用が多い場合は年1回接種が推奨されます。重要なのは、猫の生活環境と感染リスクに応じて獣医師と相談して決めることです。

高齢猫は確かに副反応リスクがやや高まりますが、同時に感染リスクも高まります。接種前に血液検査で健康状態を確認し、完全室内飼いであれば接種間隔を延ばす(3年に1回など)、抗体価検査を活用するなど、獣医師と相談して個別に判断することが重要です。

副反応への不安は理解できます。しかし、データで比較してみましょう。
重篤な副反応の発生率は約0.01〜0.04%です。
一方、猫パルボウイルス感染時の致死率(未接種)は50〜90%にも達します。
統計的に見れば、ワクチン接種のメリットは副反応のリスクを大きく上回ります。健康状態が良い時に接種し、接種後30分は病院付近で待機するなど、副反応を最小限に抑える対策を取ることで、安全性を高めることができます。


猫の感染症には致死率50〜90%の病気があり、治療薬がない感染症も多く存在します。予防が最善の対策であり、完全室内飼いでも感染リスクはゼロではありません。ワクチンは命を守る確実な予防手段といえます。

重篤な副反応の発生率は約0.01〜0.04%と低く、未接種での感染リスクと比較すれば、メリットは大きいです。また、適切な対策を取ることで副反応リスクは最小限に抑えられます。

「一律の毎年接種」ではなく、個別に獣医師と計画を立てましょう。完全室内飼いの子にはコアワクチンは3年に1回でも十分で、抗体価検査を活用すれば必要な時のみ接種できます。なお、外出猫や多頭飼育では年1回接種が推奨されます。

副反応対策としては、健康状態が良い時に午前中接種し、接種後30分は病院付近で待機、24〜48時間は注意深く観察することが重要です。

猫は自分の不調を言葉で伝えることができません。だからこそ、飼い主さんが正しい知識を持ち、愛猫にとって最適な選択をすることが求められます。

「ワクチンは絶対に毎年必要」という考えも、「ワクチンは危険だから打たない」という考えも極論です。
大切なのは、愛猫の生活環境とリスクに応じた個別判断です。
根拠のない情報に振り回されず、科学的根拠に基づいた判断を心がけましょう。
そして愛猫の健康を守るため、獣医師と一緒に最適な方法を選びましょう。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。