犬のマダニ予防の重要性~人も危ない!SFTS(重症熱性血小板減少症候群)の恐怖~【獣医師執筆】

マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、人が感染した場合の致死率が10〜30%にのぼる極めて危険な疾患です。さらに深刻なのは、身近なパートナーである犬や猫の発症リスクです。厚生労働省の報告によると発症時の致死率は犬で約40%、猫では約60%に達し、人間を遥かに上回る脅威となっています。SFTSは、感染したペットの唾液や血液を介して飼い主にもうつる「人獣共通感染症(ズーノーシス)」です。愛犬をマダニから守ることは、大切な家族の命を守ることに直結します。手遅れになる前に、定期的なマダニ対策を徹底しましょう。


SFTSは2011年に中国で初めて発見され、日本では2013年に初の国内感染例が報告されました。病原体はフレボウイルス属のSFTSウイルスであり、主にフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)が媒介します。2024年時点で、国内では年間100件前後の感染が報告されており、現時点で承認されたワクチンも特効薬も存在せず、対症療法が治療の中心です。

犬はSFTSウイルスに感染しても無症状〜軽症で経過するケースが多いとされていますが、一方で重篤な症状を呈し死亡する事例も報告されています。犬での潜伏期間は明確には解明されていませんが、マダニ咬傷から数日〜2週間程度とされています。

臨床症状で最も多く見られるのは、39.5℃以上の高熱・著明な元気消失・食欲廃絶・嘔吐・下痢です。身体検査ではリンパ節の腫大が触知されることがあり、血液検査では血小板減少・白血球減少・CRP上昇・ALT・AST・LDHの上昇が認められます。重症例では播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全・神経症状(ふらつき・痙攣・意識障害)に至ることがあり、予後不良となる場合もあります。

【SFTSを疑うべき症状チェックリスト】

  • 39.5℃以上の発熱
  • 元気消失・食欲廃絶(24時間以上続く)
  • 嘔吐・下痢
  • リンパ節の腫れ(首・脇の下・鼠径部)
  • 歯茎・結膜の蒼白または黄疸

これらの症状が複数認められる場合には、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。

犬のSFTSで特に注意すべきは、「症状が出ている犬の血液・唾液・尿・糞便が飼い主に感染しうる」という点です。国内では、SFTSを発症した犬を看病・介護した飼い主が感染した事例が複数報告されており、国立感染症研究所も注意喚起を発出しています。以下の行動は非常に危険です。感染が疑われる犬のお世話をする際は必ず手袋を着用し、処置後は石けんで十分に手洗いを行ってください。

  • 感染犬を素手で触る・傷口を舐めさせる
  • 体液(血液・尿・糞便・嘔吐物)を素手で処理する
  • 感染犬の使用済みタオルや食器を素手で扱う

マダニに刺されてから発症するまでの潜伏期間はおよそ6〜14日とされています。マダニに刺された後2週間以内に高熱・消化器症状・倦怠感が出現した場合は、速やかに医療機関を受診し、マダニへの暴露(野外活動・ペットとの接触)の可能性も必ず申告しましょう。以下は、感染経過と表れやすい主な症状です。

発症初期(1〜4日目):

38〜40℃台の高熱・強い倦怠感・頭痛・筋肉痛・関節痛が現れます。悪心・嘔吐・下痢・腹痛も高頻度に見られ、インフルエンザや感染性胃腸炎と間違われやすいのが特徴です。

中期(4〜7日目):

血小板減少・白血球減少・AST・ALT・LDHの顕著な上昇などが認められます。これはウイルスが骨髄・脾臓・リンパ節などの免疫細胞に直接侵入して破壊することに加え、血球の産生が抑制されることによって生じます。

重症期(7日目以降):

多臓器不全・播種性血管内凝固症候群(DIC)・神経症状(意識障害・振戦・痙攣)へと進行し、死亡に至るケースがあります。回復した場合も倦怠感・記憶力低下などの後遺症が数ヶ月続くことが報告されています。


マダニ(硬ダニ科:Ixodidae)は蜘蛛綱ダニ目に属する節足動物で、日本国内では主にフタトゲチマダニ・ヤマトマダニ・キチマダニなどが重要な媒介種とされています。ライフサイクルは「卵→幼ダニ→若ダニ→成ダニ」という4段階で構成され、それぞれの段階で宿主(犬や猫など)から吸血を行います。このうち若ダニ(若虫)の段階でSFTSウイルス保有率が最も高く、かつ体が小さいため気づきにくく、愛犬や人への感染リスクとして特に問題視されています。

マダニは草の先端や葉の縁に前脚を伸ばして待機し(クエスティング行動)、温度センサー・振動センサー・CO₂センサーを使って宿主を感知し付着します。吸血を開始してから1〜2日は痒みなどの反応が出にくく、飼い主が気づかないまま長時間の吸血が続くことも珍しくありません。

発育段階 宿主・環境 特徴・臨床的意義
卵(図①) 土壌・落葉の中 雌成虫が数千個の卵を産卵。数週間で幼虫に孵化する。
幼ダニ(6脚)(図②) 小型哺乳類・鳥類 吸血後、地表に落下して脱皮する。この段階でウイルス・細菌を獲得する場合がある。
若ダニ(8脚)(図③) 中型哺乳類・犬・猫 SFTSウイルス保有率が最も高い段階。体が小さく気づきにくいため感染リスクが特に高い。
成ダニ(8脚)(図④⑤) 大型哺乳類・人・犬 吸血量は体重の100倍以上に膨張。唾液中にウイルス・細菌を放出し宿主に伝播する。雌は産卵後に死亡。

マダニは気温が5℃を超えると活動を始め、15〜25℃で最も盛んになります。近年の地球温暖化により活動期間は全国的に延長傾向にあり、「冬だから大丈夫」と思わず、地域に合わせた予防が必要です。マダニは都市部の公園や河川敷にも生息しているため、山林に限らず、近所の草むらを散歩するだけでも感染リスクは十分にあります。

地域区分 主な該当エリア マダニの活動期間と予防の推奨時期
寒冷地 北海道・東北山間部 4月〜10月。春の融雪期に急増する傾向がある。
中間地 関東・関西・中部・中四国 3月〜11月。春(3〜5月)と秋(9〜11月)の二峰性ピークに注意。通年予防を推奨する施設が増加。
温暖地 南九州・沖縄 通年活動。冬でも5℃以上になる日は活動するため、年間を通じた予防薬の投与を強く推奨。

マダニは単なる吸血害虫ではなく、複数の深刻な病原体を媒介しています。SFTSをはじめとした以下の疾患は、犬と人間の双方に影響します。

疾患名 病原体 主な症状・特徴
SFTS(重症熱性血小板減少症候群) SFTSウイルス(フレボウイルス属) 高熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少、多臓器不全。致死率10〜30%。犬から人への感染例あり。
バベシア症 Babesia gibsoni、B. canis 溶血性貧血、血色素尿(赤褐色の尿)、黄疸、発熱、血小板減少。重症化すると致死的。犬特有の疾患。
日本紅斑熱 Rickettsia japonica 高熱、発疹(四肢→体幹)、刺し口の形成。抗菌薬が有効だが診断の遅れで重症化するケースも。
ライム病 Borrelia burgdorferi 遊走性紅斑、関節炎、神経症状。国内では主に北海道・一部本州で確認されている。
マダニ麻痺(Tick Paralysis) マダニの唾液毒素 唾液中の神経毒により上行性弛緩性麻痺が起こる。感染症ではなく、マダニを除去すると通常は回復する。

散歩後には全身をくまなく触診し、マダニの付着がないか確認することを習慣にしましょう。マダニが好む付着部位は、耳の周囲・指の間・腋の下・鼠径部(内股)・まぶた・首のたるんだ皮膚あたりです。マダニを発見した場合、なるべく動物病院で除去してもらうことをおすすめします。自宅で除去する際は、市販の「ダニ取り専用ツール(ティック・ツイスター等)」を使用し、皮膚に対して平行に保ちながら回転させてゆっくり引き出します。除去後は付着部位を消毒し、マダニはビニール袋に入れて密封廃棄してください。

  • ピンセットで強引に引き抜く:
    口器が皮膚内に残留し、二次感染・肉芽腫の原因になります。
  • アルコール・ワセリン・除光液をかける:
    マダニがストレスでSFTSウイルスを含む体液を逆流放出するリスクが高まります。
  • ライターで炙る・熱を加える
  • 素手で潰す

予防薬の投与(化学的防除)と環境管理(物理的防除)・行動習慣の見直しを組み合わせることが、マダニ対策の基本です。

  • 庭の草を定期的に刈り込み、落葉を除去する(マダニは湿った落葉が堆積した場所を好みます)。
  • 散歩から帰宅した際は、玄関でブラッシングと触診を行う習慣をつける。
  • 山林・河原・草地を歩いた後は、犬だけでなく飼い主自身の衣服・体も必ずチェックする。
  • マダニ活動ピーク期(春・秋)のハイキングや里山散歩では、ドッグウェアの活用も有効。

製品選びは、愛犬の体重・年齢・既往歴(特に神経系疾患)・ライフスタイル(散歩の頻度・山林への立ち入り)・フィラリア予防との併用ニーズなどを考慮した上で、かかりつけの獣医師と相談して選ぶようにしましょう。

製品名(形状) 主要有効成分 対象寄生虫 特徴・投与のポイント
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル ノミ・マダニ・ミミヒゼンダニ・イヌセンコウヒゼンダニ・イヌニキビダニ 【嗜好性◎】牛肉フレーバー。投与後8時間以内にマダニ駆除効果が発現。
クレデリオ錠
(フレーバー錠)
ロチラネル ノミ・マダニ・イヌニキビダニ 【嗜好性◎、小粒】ミートフレーバー。投与後12時間以内に効果が発現。サイズが小さく投与しやすい。
ブラベクト
(チュアブル錠)
フルララネル ノミ・マダニ 【3ヶ月持続・内服】1錠で3ヶ月間有効。投薬回数を少なくしたい飼い主に最適。
ブラベクト スポット
(スポット剤)
フルララネル ノミ・マダニ 【3ヶ月持続・外用】錠剤が苦手・吐き戻す場合などにおすすめ。背中に垂らすだけで3ヶ月間有効。
マイフリーガードα
(スポット剤)
フィプロニル/(s)-メトプレン ノミ(成虫・卵・幼虫)・マダニ・シラミ・ハジラミ 【外用・コスパ◎】背中に垂らすタイプ。ノミの卵・幼虫にも効果。経口薬が苦手な犬に。

オールインワン製剤もおすすめ】

ノミ・マダニの駆除に加え、フィラリア予防や消化管内線虫(回虫・鉤虫・鞭虫)の駆除まで1錠でカバーできるオールインワンのお薬も存在します。
毎月の投薬管理をシンプルにしたい場合や、複数の薬を管理する手間を省きたい飼い主さんに便利な選択肢です。ただし、フィラリア予防成分を含む製剤は、投与前にフィラリア感染の有無を確認する検査が必要です。投薬前にかかりつけの獣医師にご相談ください。


  • マダニは犬だけでなく、人間の命にも関わるウイルス・細菌を媒介します。愛犬のマダニ対策を徹底して家族への感染リスクを減らしましょう。
  • SFTSを疑う症状(発熱・元気消失・食欲廃絶・嘔吐・下痢等)が現れた場合は、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。
  • 感染が疑われる場合には、愛犬の体液に触れる際は必ず手袋を着用し、処置後は十分に手洗いを行ってください。
  • マダニの活動時期を正確に把握し、地域に合った通年予防を意識しましょう。
  • 散歩後のマダニチェックを習慣化しましょう。発見したら、できれば動物病院で除去してもらうようにしましょう。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • 国立感染症研究所. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)2023年度発生動向年報.
  • Ixodid ticks and their significance in veterinary public health: A review of Haemaphysalis longicornis. Parasites & Vectors, 2022.
  • Inokuma, H. et al. Babesiosis in dogs in Japan: epidemiology and current knowledge. Veterinary Parasitology, 2021.
  • Pfaff, U. et al. Isoxazoline compounds and their mode of action in tick and flea control. Frontiers in Veterinary Science, 2023.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品の使用に関するガイドライン改訂版, 2024.
  • National Institute of Infectious Diseases. SFTS in companion animals: human infection risk assessment, 2023.

犬猫の疥癬・耳疥癬~激しい痒みの原因と最新のダニ予防薬~

「うちの子、ずっとかゆがっている。アレルギーかな?」——そう思って病院に行ったら、実はダニの寄生が原因だったというケースは珍しくありません。
犬猫の「疥癬(かいせん)」「耳疥癬」は、それぞれ特定の種類のダニが引き起こす皮膚疾患で、非常に強いかゆみと急速な悪化が特徴です。放置すれば飼い主にも感染してしまう可能性のある人獣共通感染症(ズーノーシス)でもあります。
今回は、暖かくなると発生が増えてくる疥癬・耳疥癬について、主な症状や診断方法などを詳しく解説します。


疥癬の原因は「ヒゼンダニ(疥癬虫)」という節足動物です。
マダニのように体表に付着するのではなく、表皮の角質層の中にトンネル(疥癬トンネル)を掘り、その中で産卵・孵化・脱皮を繰り返します。このトンネル内での活動と、ダニ・糞・卵に対するアレルギー反応が激しいかゆみの正体です。
成虫でも肉眼では見えないほど小さいため、通常のダニと違い外見からは判らないのが厄介なところです。(ミミヒゼンダニは肉眼で確認できる場合あり)
また、犬と猫では寄生するダニの種が異なります。

疾患名 原因ダニ 対象動物 成虫の大きさ
犬疥癬 イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. canis) 犬(人・猫に一時的感染あり) 約0.2〜0.4mm
猫疥癬 ネコショウセンコウヒゼンダニ(Notoedres cati) 猫(犬・人に一時的感染あり) 約0.2〜0.3mm
耳疥癬 ミミヒゼンダニ(Otodectes cynotis) 犬・猫 約0.35〜0.5mm 

Screenshot

上記表の3種類のダニの中で最も強い痒みを引き起こします。眠れないほど痒く、痒み止めや消炎剤といった対症療法の薬剤が効かないため、感染すると犬にとって非常にストレスがかかります。また、激しいかゆみで出血するほどかき続け、二次的な細菌感染(膿皮症)を合併することもあります。
重症化すると皮膚の肥厚・苔癬化・広範囲の脱毛・痂皮形成が起こり、衰弱に至る場合もあります。

感染数が少なく見つけにくいため、検査で検出できなくても、疑わしい場合には試験的駆虫として予防薬を投与することが一般的です。

【犬の疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 耳縁を触ると後ろ足でかく(耳介‐足反射陽性)
  • 肘・膝・耳縁・腹部に赤いブツブツとフケがある
  • かゆみが非常に強く、夜中もかき続けている
  • 他の犬や野生動物と最近接触した
  • 飼い主にも腕や腹部にかゆいブツブツが出ている
犬疥癬の特徴 内容
原因ダニ Sarcoptes scabiei var. canis(イヌセンコウヒゼンダニ)
対象動物 犬。人・猫に一時的な感染あり(定着しない)
潜伏期間 2〜6週間
好発部位(初期) 耳縁・肘・膝の突出部・腹部・鼠径部
かゆみの強さ 非常に強い。昼夜を問わず続き、出血するほどかき続けることも
飼い主への感染 一時的に感染あり(腕・腹部などにかゆいブツブツが出ることがある)

猫の疥癬の原因はネコショウセンコウヒゼンダニで、犬に寄生するイヌセンコウヒゼンダニとは別種です。まれに犬や人にも一時的に寄生しますが、ほとんど定着しません。
屋外への出入りや感染猫との接触が主なリスクです。
比較的検査で検出しやすいため、多くの場合は一度の検査で診断可能です。

【猫の疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 顔面・耳介・首にフケ・丘疹・かさぶたがある
  • 顔周りを頻繁に掻く
  • 野良猫や外出歴のある猫と接触した
  • 同居の猫に同じような症状がある
  • 飼い主にも一時的なかゆみ・ブツブツが出た
猫疥癬の特徴 内容
原因ダニ Notoedres cati(ネコショウセンコウヒゼンダニ)
対象動物 猫。犬・人に一時的な感染あり(定着しない)
感染リスクが高い状況 屋外へ出入りする猫、野良猫や感染猫との接触、多頭飼育環境
好発部位(初期) 顔面(鼻・まぶた周囲)・耳介・首・顎の下
かゆみの強さ 強い。顔・耳周りを絶えずひっかき続ける
飼い主への感染 一時的に感染あり(定着しない)

耳疥癬の原因は犬と猫で共通しており、耳道内に潜むミミヒゼンダニです。
ヒゼンダニ(疥癬虫)が角質層内に潜るのと異なり、外耳道の表面に寄生します。
特に猫で感染率が高く、猫の外耳炎原因の過半数を占めるともいわれています。
感染力が非常に強いため、多頭飼育では全頭同時に治療・予防を行うことが再発防止の鉄則です。
放置すると慢性外耳炎・中耳炎へ進行するケースもあります。
以下に複数当てはまる場合は速やかに受診しましょう。

【耳疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 耳を激しく掻く、頭を振り続けている
  • 耳道内に黒褐色のコーヒーかす状の耳垢が多い
  • 野良猫や外出歴のある猫と接触した、あるいは外に出た
  • 耳介(耳の外側)に引っかき傷がある
  • 同居の犬猫にも同じような耳の症状がある

主には、皮膚の一部を専用の器具で掻爬し皮膚内のダニを検出する「皮膚掻爬検査」、耳垢を採取して中のダニをチェックする「耳垢検査」があります。どちらの検査も、採取物を顕微鏡で観察して、ダニ本体や虫卵の有無を確認します。
ミミヒゼンダニ(耳疥癬)だけは、最大約0.5mmと3種の中で最も大きく白っぽい色をしているため、耳垢をよく観察すると動いている様子が肉眼でも確認できる場合があります。

疾患 検査方法 検出しやすさ・注意点
犬疥癬 皮膚掻爬検査(深部掻爬) ★検出率が非常に低い(20〜50%)。かならず皮膚の複数か所から採取して検査を行う
猫疥癬 皮膚掻爬検査(顔面・耳介の痂皮部) 犬疥癬より比較的検出しやすい。顔面・耳介の厚い痂皮部分からダニ・卵を検出できる
耳疥癬(ミミダニ) ①耳垢の顕微鏡検査
②耳鏡による肉眼確認
3種の中で最も検出しやすい。①綿棒で採取した耳垢を顕微鏡で確認 ②耳鏡で外耳道内の動く白い点(成虫)を目視で探す

疥癬の治療は駆虫薬によるヒゼンダニの駆除が基本です。
駆虫薬の多くは卵には効かないため、症状が改善しても2〜3週間おきに複数回の投薬が必要です。途中でやめると再発のリスクが高まります。多頭飼育の場合は、全頭同時に治療を行わないと再感染が繰り返されます。
二次的な細菌感染(膿皮症)を合併している場合は、抗菌薬による治療も並行して行います。

駆虫後もかゆみがしばらく残る場合には、ダニの死骸・産物に対するアレルギー反応が続いている可能性があるため、短期間のステロイド製剤やJAK阻害薬で対症療法を行うこともあります。
また、寝具・クッションの熱湯洗濯やケージ・グルーミング器具の消毒、治療中の感染動物の隔離も再感染予防に有効です。

ヒゼンダニは一度寄生すると痒みが強く、夜も熟睡できずに愛犬愛猫に強いストレスを与えてしまいます。
定期的な予防・駆除薬の投与は、ヒゼンダニ・ミミヒゼンダニを含む寄生虫感染全般のリスクを大幅に下げる最も効果的な手段です。
愛犬愛猫の体重・年齢・既往歴・生活環境を踏まえ獣医師と相談の上、適切な製品を選びましょう。

ヒゼンダニ(疥癬)とミミヒゼンダニ(耳疥癬)の予防・駆除薬の製品のほとんどは、基本的にノミやマダニへの効果をメインとしています。ヒゼンダニ・ミミヒゼンダニへの効果は国内未承認の場合も多く、効果効能に記載のある製品は少ないのが現状です。
しかし、臨床の現場では学術的根拠に基づき、獣医師の裁量によって適応外処方として活用されるケースもあります。これらの使用に関しては、愛犬・愛猫の健康状態や感染状況に合わせた専門的な判断が不可欠ですので、必ず動物病院で獣医師による診察と指示を受けてください。

表の見方:◎=適応あり △=適応なし・査読論文に有効性の報告あり

【犬用製品】

製品名(剤形) 有効成分 犬疥癬 耳疥癬 製品の特徴
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル 牛肉フレーバーで投与しやすい。ノミ・マダニ・イヌニキビダニにも対応。
(注意:シリーズ製品のシンパリカトリオには、現在、犬疥癬・耳疥癬に対しての適応なし)
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン 犬疥癬には適用外。
特に耳ダニに対してよく使用されている。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも有効。
アドボケート
(スポット剤)
イミダクロプリド/モキシデクチン 耳疥癬には適用外。
ノミ・イヌニキビダニ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ブラベクト錠
(チュアブル錠)
フルララネル 耳疥癬には適用外。
3ヶ月に1回投与。現在承認されているスポットオン製剤では最も長く予防効果が続く。ノミ・マダニ・イヌニキビダニにも対応。

【猫用製品】

製品名(剤形) 有効成分 猫疥癬 耳疥癬 製品の特徴
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン 猫疥癬には適用外。
耳ダニ・猫疥癬では臨床現場で使用率が高い。ノミ・フィラリア・回虫にも対応。
レボリューション プラス
(スポット剤)
セラメクチン/サロラネル 猫疥癬には適用外。
レボリューションにマダニ・鉤虫駆除も追加のオールインワン製剤。

アドボケート
(スポット剤)

イミダクロプリド/モキシデクチン 猫疥癬には適用外。
ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ネクスガードキャットコンボ
(スポット剤)
エサフォキソラネル/エプリノメクチン/プラジクアンテル 猫疥癬には適用外。
ノミ・マダニ・フィラリア・条虫・回虫・鉤虫にも対応。

※本表は一般的な学術情報および海外の報告に基づく一覧です。一部の疾患に対し、国内未承認の適応外処方として獣医師の判断で使用されるケースもありますが、当サイトがその使用を推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指示に従ってください。


  • 犬疥癬・猫疥癬・耳疥癬はそれぞれ原因となるダニの種類が異なり、好発部位・症状も異なります。
  • 犬疥癬の皮膚掻爬検査は検出率が20〜50%程度と低く、陰性でも否定できません。症状・接触歴から強く疑う場合は診断的治療(試験的投薬)が有効です。
  • 疥癬・耳疥癬は感染力が非常に強く、多頭飼育では全頭同時治療が再発防止の鉄則です。
  • 治療は複数回の駆虫薬投与が必要です。二次感染(膿皮症などの皮膚症状)がある場合は同時に治療を行います。

予防薬の選択肢が広がり、飼い主様の意識が高まったことで、重症化するケースは以前より抑えられるようになりました。しかし、疥癬や耳疥癬の感染リスクはいまだに高く、一度発生するとその治療には長い時間と費用を要し、何より愛犬・愛猫に「眠れないほどの激しい痒み」という大きな負担を強いることになります。
疥癬は、放置すれば同居動物や飼い主様にも広がる恐れがある、油断できない感染症です。
「あの時、予防していれば……」と後悔しないために。動物病院に通い、愛犬・愛猫の体質や生活環境に合ったお薬で、日頃から確実な予防を心がけましょう。

  • Six, R.H. et al. Efficacy and safety of selamectin against Sarcoptes scabiei on dogs and Otodectes cynotis on dogs and cats presented as veterinary patients. Veterinary Parasitology, 91(3-4):291-309, 2000. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10940530/
  • Itoh, N. et al. Treatment of Notoedres cati infestation in cats with selamectin. Veterinary Record, 154(13):409, 2004. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15083980/
  • Hellmann, K. et al. Efficacy of imidacloprid 10%/moxidectin 1% spot-on in the treatment of Notoedres cati infestation in cats. Parasitology Research, 112(8):2837-2845, 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23760872/
  • Taenzler, J. et al. Efficacy of fluralaner against Otodectes cynotis infestations in dogs and cats. Parasites & Vectors, 10:30, 2017. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5240227/
  • Beugnet, F. et al. Efficacy of sarolaner against Sarcoptes scabiei and Otodectes cynotis in naturally infested dogs. Parasites & Vectors, 9:1, 2016.
  • Knaus, M. et al. Efficacy of a novel combination of esafoxolaner, eprinomectin and praziquantel (NexGard Combo) against Otodectes cynotis and Notoedres cati in cats. Parasite, 28:39, 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8019547/
  • Longstaff, L. et al. Efficacy of a spot-on combination product containing selamectin and sarolaner (Stronghold Plus) in the treatment of naturally occurring Notoedres cati infestations in cats. Frontiers in Veterinary Science, 2025. https://www.frontiersin.org/journals/veterinary-science/articles/10.3389/fvets.2025.1652148/full
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(ブラベクト錠添付文書). https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/16271

犬のフィラリア症~予防の重要性と最新の予防薬~【獣医師執筆】

犬糸状虫症(フィラリア症)は、蚊によって媒介される寄生虫「犬糸状虫(Dirofilaria immitis)」が心臓や肺動脈に寄生することで引き起こされる、犬にとって最も警戒すべき致死的な疾患の一つです。
かつては国内の家庭犬における主要な死因でしたが、優れた予防薬の普及により発症率は劇的に低下しました。
しかし、近年の地球温暖化に伴う蚊の活動期間の延長や、薬剤耐性株の出現といった新たな課題により、未だに注意が必要な疾患の一つです。

このコラムでは、フィラリアのライフサイクルから最新の予防薬、そして万が一感染してしまった場合の治療法までを分かりやすく解説します。


フィラリア症の適切な予防のためには、どの段階で薬剤が作用するのかというフィラリアのライフサイクルを正確に把握することが大切です。
侵入した幼虫が肺動脈や心臓に到達するまでの時間軸や、検査で陽性と判定されるまでの「潜伏期間(プレパテント・ピリオド)」を正しく理解し、投薬のタイミングをしっかり把握しましょう。

発育段階存在場所臨床的特徴
第1期幼虫
(L1 / ミクロフィラリア)
犬の血液中成虫が産出した子虫。蚊が吸血する際に取り込まれる。
第2期幼虫
(L2)
蚊の体内蚊のマルピーギ管内で1回目の脱皮を行った状態。成虫の内臓組織の原形を作る準備期間。
第3期幼虫
(L3 / 感染幼虫)
蚊の口吻部蚊の体内で成長し、感染能を獲得。吸血時に犬の皮膚へ移行する。
第4期幼虫
(L4)
犬の皮下・筋肉内侵入後2~10日でL3から脱皮する。現在主流の予防薬(大環状ラクトン系)の主要な標的となる成長段階。
第5期幼虫
(L5 / 未成熟成虫)
血液・心臓内侵入後約1~2ヶ月で脱皮し、血管内へ侵入して肺動脈を目指す。
成虫
(L6)
肺動脈・右心室感染から6~7ヶ月で成熟。体長15~30cmに達し、新たなL1を産出する。(ソーメンにそっくりの白く長細い虫体)

日本国内におけるフィラリアの感染リスクは、気温とそれに伴う蚊の活動状況と密接に関係しています。

国内で販売されているフィラリア予防薬は、投薬した時点で「過去1ヶ月間に侵入したフィラリアの幼虫をまとめて殺滅する」という効果が基本であり、「投薬後1カ月間効果が持続している」わけではありません。

そのため、蚊がいなくなってから1ヶ月後(多くの地域で12月)の最終投与を忘れると、秋に感染した幼虫が冬の間に成長してしまいます。

また、都市部のビル地下(ヒートアイランド現象)などは冬でも蚊が生存するため、中間地でも通年予防が推奨されるケースが増えています。

地域区分主な該当エリア推奨投薬期間
寒冷地北海道、東北山間部5月下旬 ~ 11月
中間地関東、関西、中部、中四国4月下旬 ~ 12月
温暖地南九州、沖縄3月 ~ 12月(または通年推奨)

※実際の投薬開始・終了時期は、その年の気温や蚊の発生状況によって異なります。最終投与は「蚊がいなくなってから1ヶ月後」が原則です。

自然界の気温だけでなく、ベランダのプランターの受け皿、古タイヤ、詰まった雨どいなどの「定在水場」は蚊の絶好の繁殖地となります。これらの環境を改善することも、物理的な予防策として重要です。


フィラリア症は「心臓の病気」と思われがちですが、本質は肺の血管に慢性的な炎症と障害を起こす重篤な肺血管疾患でもあります。

肺動脈に到達した成虫が血管壁を機械的に刺激することで「肺動脈内膜炎」が生じ、血管の内側が厚く硬くなる血管リモデリングが進行します。
その結果、血管内腔が狭くなって肺血管抵抗が上昇し、肺の血流が流れにくくなります。
これにより肺動脈圧が異常に高まる「肺高血圧症」(肺の血管圧が上昇し、心臓が肺へ血液を送り出すために通常以上の力を必要とする状態)を引き起こします。
さらに肺高血圧による負荷が持続すると、右心室は血液を送り出すために肥大し、やがて拡張して三尖弁逆流が生じ、最終的には全身循環のうっ滞によって腹水、肝腫大、皮下浮腫などを伴う右心不全へと進行していきます。

フィラリア症で起こる特に重篤な症状で、多数の成虫が肺動脈から右心房へと逆流し、三尖弁の機能を物理的に阻害してしまう病態です。
大量の虫体が三尖弁(右心房と右心室の間の弁)に絡みつき、血液の循環を急激に阻害・遮断することで、急性右心不全を引き起こします。
これにより赤血球が物理的に破壊され(溶血)、ヘモグロビン尿による濃紅茶色の尿が見られるようになります。
この状態は救急疾患であり、予後不良となることも多く、また、多数の寄生虫が血管に詰まることで突然死(心臓発作)を引き起こす場合もあります。


2024年改訂のAHS(米国犬糸状虫学会)ガイドラインでは、7ヵ月齢以上のすべての犬に対し、年1回の「抗原検査」と「ミクロフィラリア(MF)検査」を推奨しています。

メスの成虫由来の可溶性抗原を検出します。微量(一滴程度)の血液を検査用キットに垂らして検査します。
10分程度で即結果が分かるため、動物病院で最も主流となっている検査方法です。
安価で高精度ですが、オスのみの寄生や感染初期(6ヶ月未満)には反応しません。
主に、心臓に現在寄生している成虫がいないかを判断する材料として使用します。

血液中の幼虫を顕微鏡で直接確認します。
抗原検査が陰性でも、薬剤耐性株などの影響で幼虫のみが存在するケースを見逃さないために不可欠です。
ごく少量の採血を行い、スライドグラスに血液を一滴垂らし、上からカバーグラスをかけて顕微鏡で観察します。


現代のフィラリア予防薬は、一度の投薬でさまざまな種類の寄生虫に効果があり包括的な管理ができる製品が主流となってきています。
以下に、各有効成分の薬理学的特性と、それらを配合した主要製品の詳細をご紹介します。

これらの成分は、寄生虫の神経・筋肉細胞にあるグルタミン酸作動性塩化物イオンチャネルという部分に結合し、神経伝達の回路を狂わせ動けなくして死滅させます。

・イベルメクチン
世界で最も歴史があり、低用量でL4幼虫を殺滅できる安全性と有効性のバランスに優れた成分です。
ただし、コリー系犬種などではMDR1遺伝子変異により、通常の用量でも脳内へ薬剤が流入しやすく、神経症状(ふらつき、震え、昏睡など)を起こすリスクがあるため注意が必要です。

・ミルベマイシンオキシム
フィラリア予防に加え、回虫、鉤虫、鞭虫といった腸内線虫に対しても駆除効果を発揮します。

・モキシデクチン
大環状ラクトン系の中でも極めて高い脂溶性を持ち、血中濃度が長期にわたって安定します。
この特性により、一部の耐性株に対しても他成分より高い有効性を示すことが報告されています。

・セラメクチン
経皮吸収に非常に優れたスポットオン製剤専用の成分です。
皮膚から速やかに吸収され、フィラリアの寄生予防だけでなく、ノミ成虫の駆除、ノミ卵の孵化阻害、さらにはミミヒゼンダニの駆除に単独で高い効果を発揮します。
生後6週齢の子犬、妊娠・授乳中の犬、イベルメクチン感受性犬(コリー等)においても高い安全性が確認されています。

・イソキサゾリン系(アフォキソラネル、サロラネル、ロチラネル等)
最新のノミ・マダニ駆除成分で、節足動物のGABA受容体等を阻害します。
即効性が高く、投与後数時間で駆除が始まり、1ヶ月間安定した効果が持続します。

・ピランテル
回虫や鉤虫の駆除効果を補完するために多くの製剤に配合されます。

製品名(形状)主要有効成分対象寄生虫特徴
シンパリカ トリオ
(チュアブル錠)
サロラネル、モキシデクチン、ピランテルパモ酸塩フィラリア、ノミ、マダニ、イヌセンコウヒゼンダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫耐性リスクに強いとされるモキシデクチンを採用。ノミ・マダニへの即効性が高い。
クレデリオプラス
(フレーバー錠)
ロチラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫、鞭虫ビーフフレーバーの小さな錠剤タイプ。成分吸収を助けるため食事時の投与を推奨。
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチンフィラリア、ノミ、ミミヒゼンダニ背中に垂らすタイプ。錠剤が苦手なコや吐き戻す場合に最適。耳ダニ駆除も可能。
ネクスガード スペクトラ
(ソフトチュアブル)
アフォキソラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、回虫、鉤虫、鞭虫おやつ型で与えやすい。食事の有無を問わず投与可能。
イベルメックPI
(骨型クッキー)
イベルメクチン、パモ酸ピランテルフィラリア、回虫、鉤虫嗜好性の高いクッキー型。コストパフォーマンス重視。
プロハート12
(徐放性注射薬)
モキシデクチンフィラリア一度の注射で12ヶ月間効果が持続。毎月の投薬ストレスや投薬忘れがない最新の選択肢。
ハートメクチン錠
(錠剤)
イベルメクチンフィラリアフィラリア予防に特化したシンプルな錠剤。コストを最小限に抑えたい場合に 。

※本表は各製品の学術的な特徴をまとめたものであり、特定の製品の購入を推奨するものではありません。フィラリア予防薬は全て要指示医薬品です。必ず動物病院での検査を経て、獣医師の指示に従って使用してください。


予防薬の発展により、日本国内ではフィラリアの感染数はかなり少なくなっていますが、万が一感染が判明した場合の治療には以下の三つの方法があります。

現在の国内では、予防薬(イベルメクチンなど)とドキシサイクリンという抗生剤を長期間併用し、フィラリアの寿命を短くしながら全滅を待つ「combination slow-kill法」を選択する場合も多いです。

フィラリアの体内には「ボルバキア(Wolbachia pipientis)」という細胞内共生細菌が存在しています。
フィラリアが死滅する際、この細菌が放出する表面抗原が犬の免疫系を過剰に刺激し、肺や腎臓における重篤な炎症反応(糸球体腎炎や好酸球性肺炎など)を助長することが判明しています。

ドキシサイクリンにはボルバキアを殺菌する効果があり、これを併用することで駆虫に伴う副作用のリスクを最小限に抑えます。
また、治療期間中(通常2年以上)は、死滅した虫体による急性塞栓を防ぐため、厳格な運動制限をおこなう場合もあります。

右心室内に虫体が寄生している場合に適応となる方法です。
頚静脈からアリゲーター鉗子と呼ばれる器具を挿入し、右心室内のフィラリア虫体を掴み取って除去する方法で、全身麻酔のリスクや手技の困難さがあります。
現在日本ではアリゲーター鉗子の国内製造は終了しており、この手術を実施している施設は少なくなっています。

メラルソミンというヒ素剤を2~3回筋肉に注射しフィラリア成虫を駆除する方法です。

米国犬糸状虫学会(AHS)推奨の治療法ですが、大量のフィラリア虫体が寄生している場合には、虫体が一度に死滅することでアナフィラキシーショックや呼吸不全を起こす可能性があるため、適応外となります。

また、死滅した虫体が肺動脈で詰まり、一時的に肺機能を低下させる場合があるため、注射後1~2週間は安静が必要です。
また、現在日本ではメラルソミン注射剤の生産がないため海外から薬の輸入が必要になります。


この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • フィラリア症は命に関わる重大な肺・心臓疾患です。症状が出る前の予防が愛犬の寿命とQOLを左右します。
  • 予防薬は最後まで必ず投薬しましょう。蚊がいなくなってから1ヶ月後の投薬が特に大切です。
  • 薬の成分の特徴を踏まえて、嗜好性、投与の利便性など愛犬の体質とライフスタイルに合った製品を選びましょう。
  • 万が一感染してしまったら治療は大きなリスクを伴い愛犬にも負担がかかります。かかりつけの獣医師とよく相談して最適な治療方法を選択しましょう。

予防薬の発達と飼い主様の予防意識の向上により、10年前に比べてフィラリア症はかなり減少傾向にあります。
しかし、予防を怠ると感染リスクはいまだに高く、その治療には長い時間と高額な費用を要し、愛犬にも大きな負担をかけることとなります。動物病院に通い、愛犬にあったお薬で確実な予防を心がけましょう。

犬のアトピー性皮膚炎~かゆみの原因と上手な付き合い方~【獣医師執筆】

愛犬が体をかきむしり、舐め続ける姿を見るのは、飼い主さんにとって辛いものです。
犬のアトピー性皮膚炎は、環境中のアレルゲンに対する過剰な免疫反応と、皮膚バリア機能の遺伝的な機能不全を特徴とする慢性皮膚疾患です。
完治はなかなか難しく、生涯にわたり適切な皮膚のケアが必要となるケースも少なくありません。

このコラムでは、アトピー性皮膚炎の原因から最新の治療薬、そして愛犬のQOL向上のための日常ケア方法まで詳しく解説していきます。


アトピー性皮膚炎の発症には、『皮膚バリア機能の不全』『免疫バランスの乱れ』『環境因子』の3つが密接に関与しています。

皮膚の最外層を構成する角質層は、外部刺激の侵入を阻止し、体内の水分を保持する生物学的バリアとして機能しています。この層は、セラミド、脂肪酸、コレステロールといった細胞間脂質と、フィラグリンなどの重要な成分によって維持されています。

アトピー性皮膚炎に罹患した犬では、これらの成分が遺伝的に不足しており、特に細胞間脂質のバランスが崩れていることが確認されています。

中でも重要視されるのが、フィラグリン(FLG)遺伝子の変異です。フィラグリンは角層細胞内でケラチンフィラメントを凝集させ、最終的には天然保湿因子(NMF)へと分解されますが、このプロセスが阻害されることで経皮水分蒸散量(TEWL)が増大します。

この「漏れやすい皮膚」の状態が、アレルゲンの侵入を容易にし、慢性的な炎症を引き起こす病理学的基盤となります。

特に以下の犬種では、遺伝子レベルでの皮膚バリア機能の脆弱性が確認されており、アトピー性皮膚炎を発症しやすい傾向があります。

  • 柴犬
  • ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
  • ラブラドール・レトリーバー
  • ゴールデン・レトリーバー
  • フレンチ・ブルドッグ
  • シー・ズー

これらの犬種を飼育されている方は、特に皮膚の状態に注意を払う必要があります。

侵入したアレルゲンに対し、犬の体を守る一連の免疫メカニズムは、通常よりも偏った過剰な応答を示します。
この過程で放出されるインターロイキン31(IL-31)という免疫関連物質が、皮膚の感覚神経を直接刺激して激しいかゆみを引き起こすことが知られています。

遺伝的素因を顕在化させる引き金として、外部環境の要因が深く関わっています。

・環境アレルゲンへの曝露
室内ダニ(コナヒョウヒダニ等)の排泄物や死骸、スギ・イネ科・ブタクサ等の花粉、真菌(カビ)の胞子などが主要な抗原となります。これらは季節や居住地域によって飛散量が変動し、症状の増悪を左右します。

・気候と飼育習慣
高温多湿(湿度60%以上)な環境はダニやカビの繁殖を促し、症状を悪化させます。また、過度な洗浄など誤ったスキンケアも、皮膚バリアを物理的に損傷し、アレルゲン浸透を助長する環境的誘因となります。


臨床症状は通常、生後6ヶ月から3歳の間に初発を迎え、主には以下の部位に左右対称性(非対称の場合もあり)の赤み、ブツブツ、フケ、輪状の湿疹などが認められます。

部位別の主な症状

部位主な症状・飼い主が気づくポイント
顔面・耳目の周りの赤み、涙やけの悪化、外耳炎の繰り返し。耳の入り口付近を頻繁に掻く行動が見られる。
四肢(手足)指の間や肉球の赤み・腫れ、執拗に舐める行動。唾液の成分により被毛が茶褐色に変色するのが特徴。
体幹部脇の下、内股(鼠径部)の赤み・ブツブツ。皮膚が薄く擦れやすい部位に強い症状が出やすい。

アトピー性皮膚炎の最大の特徴は、激しいかゆみです。
犬は掻く、舐める、噛むといった行動を繰り返し、これがさらに皮膚を傷つけ、バリア機能を低下させます。
この悪循環を断ち切ることが、治療の重要な目標となります。


アトピー性皮膚炎の診断は検査で確定するのは非常に難しく、他の疾患を順番に排除していく「除外診断」が基本となります。
これは、アトピー性皮膚炎を確定する単一の検査が存在しないためです。

ステップ1:他疾患の除外
ノミ・ダニ等の外部寄生虫感染、細菌感染(膿皮症)、酵母菌感染(マラセチア)を先行して治療し、かゆみの原因を切り分けます。

ステップ2:食物アレルギーの鑑別
アレルギー性皮膚炎の約30%は食物アレルギーを併発しているとされています。アレルギー検査(血液検査)の結果をもとに8週間の厳格な除去食試験を行い、食事の影響を判定します。

ステップ3:臨床診断基準の確認
臨床現場では、Favrot(ファヴロ)らによって策定された診断基準が、CADの可能性を判定するための有用なツールとして用いられています。上記の1および2を除外後、以下の8項目のうち5項目以上を満たす場合、CADの可能性が高いと評価されます。

項目チェック内容
1. 発症年齢3歳未満で症状が出始めた
2. 飼育環境ほとんど室内で生活している
3. 薬への反応ステロイド剤でかゆみが劇的に治まる
4. 合併症マラセチア(真菌)による皮膚炎を繰り返す
5. 前足の症状前肢(足先など)に皮膚の赤みや汚れがある
6. 耳の症状耳介(耳のヒラヒラした部分)に病変がある
7. 耳の縁(症状なし)耳のフチ(縁)には異常がない
8. 腰・背中(症状なし)腰や背中の中心部には異常がない

ステップ4:アレルギー検査
主に血液検査によりアレルゲン特異的IgE抗体を測定するもので、ハウスダストマイト、花粉、カビなどの環境アレルゲンに対する免疫反応を調べます。これにより、犬がどの物質に感作されている可能性が高いかを推定します。

ただし、検査陽性=発症原因とは限らないため、症状の季節性や生活環境などと総合的に判断する必要があります。


内服薬には、主に以下のものがあります。効果・副作用が異なるため、犬の体質・症状に合わせて選択することが大切です。
近年のアトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド、シクロスポリンをはじめとする広範な全身性免疫抑制に加え、副作用を最小限に抑えつつ痒みの特異的な経路を遮断する「分子標的薬」を使用した治療が主流となってきています。

これら分子標的薬の長期使用に関しては、臨床データの不足からその使用リスクについて様々な議論が行われています。(2026年1月現在)

薬剤名作用機序特徴
ステロイド
(プレドニゾロンなど)
細胞内の受容体に結合し、炎症の原因を直接抑制することで、強い免疫抑制・抗炎症作用を示す。安価で、強力な抗炎症と止痒効果を併せ持つ。長期使用で副作用に注意が必要。
アトピカ
(シクロスポリン)
T細胞の活性化に不可欠なカルシニューリンを阻害し、痒みや炎症の元となるサイトカインの産生を抑制する。長期投与が可能で、ステロイドを減薬できる可能性がある。
効果発現まで2週間以上かかる。初期に嘔吐症状が出やすい。
サイトポイント
(ロキベトマブ)
痒みを脳に伝えるIL-31を標的として結合し、中和することで痒みを感じないようにさせる。月1回の注射で済み、副作用のリスクも低い。効果の持続性には個人差がある。
アポキル
(オクラシチニブ)
痒みの伝達に関わるJAK酵素を阻害し、痒みの中心物質であるIL-31のシグナルを遮断する。即効性があり、安全性も高い。減量・休薬時に痒みがリバウンドする場合がある。
ゼンレリア
(イルノシチニブ)
最新薬(2026年1月現在)。
従来薬よりも広範かつ強力にJAK経路を遮断し、痒みだけでなく重度の炎症反応も抑制する。
痒み軽減効果が高く、既存薬でコントロール困難な症例にも有効。最初から1日1回の投薬で済むのも大きな利点。ただし、免疫への影響が比較的強いため、定期的な血液検査など、慎重な経過観察が必要。

※本表は各製品の学術的な特徴をまとめたものであり、特定の製品の購入を推奨するものではありません。上記アトピー性皮膚炎の治療薬は全て「要指示医薬品」です。使用にあたっては、必ず動物病院で獣医師の診察を受け、愛犬の症状や体質に合わせた指示を受けてください。

対症療法が主体となるアトピー性皮膚炎の治療において、唯一の根本的な解決策となり得るのがアレルゲン特異的免疫療法「減感作療法」です。人の花粉症治療にも用いられている方法です。

・治療方法
原因となるアレルゲンを低用量から計画的に反復投与し、免疫系の過剰反応を徐々に抑制していきます。アレルゲンに対する反応が過剰な状態から、免疫寛容(過剰に反応しない状態)へと変化することで、症状の軽減や薬物治療の必要量の減少が期待されます。

・効果
犬の症例の約60%に顕著な改善が見られるとされていますが、完全な治癒を保証するものではありません。治療期間も長期にわたるため、獣医師とよく相談して検討することをおすすめします。


アトピー性皮膚炎に対しては、お薬による治療だけでなく、スキンケアや食事管理などを多角的に組み合わせ、皮膚のバリア機能を多方面からサポートしていくことが重要です。

・物理的洗浄
花粉やダニなどのアレルゲンを物理的に除去します。ぬるま湯を使用し、成分を浸透させるため10分程度おいてから十分にすすぎます。

・保湿の徹底
シャンプー後はバリア機能が低下するため、セラミド等を含む保湿剤で速やかに保護します。1日1~2回の保湿が理想的です。

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・必須脂肪酸の補給
オメガ3脂肪酸(EPA, DHA)やオメガ6脂肪酸(リノール酸・γ-リノレン酸等)は、炎症緩和とバリア機能改善をサポートします。

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・腸内環境の整備
パラカゼイ菌(乳酸菌)やケストース(オリゴ糖)の摂取により、腸内フローラ(腸の中に生息する多種多様な細菌の集まりのこと。消化吸収の補助、免疫機能の調整、病原菌の抑制などに関与する。)を整え、皮膚の過剰なアレルギー反応を抑制します。

ある臨床研究では、従来の治療薬プレドニゾロンを90日間投与しても改善しなかったCADの犬15頭に、これらを併用した結果、症状の顕著な改善と抗生物質の使用量の減少が確認されました。これにより、パラカゼイ菌が免疫の偏りを是正し、ケストースが皮膚の保水力をサポートすることで、効率的な腸内環境改善と皮膚の健康維持が期待できることが示唆されています。

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アレルゲン回避のポイント

  • 室内湿度は40〜60%、温度20〜25℃程度に維持(ダニやカビの増殖を抑える)
  • 空気清浄機の活用
  • 週2〜3回以上の掃除機がけ
  • 寝具の定期的な洗濯と日光消毒(週1回程度)
  • 花粉の季節は散歩後に足や体を拭く

アトピー性皮膚炎の犬は、皮膚バリアの脆弱性から以下のような二次感染を併発しやすくなります。

表在性膿皮症
アトピー犬の約66%で発症し、かゆみをさらに増幅させます。赤いブツブツや膿を伴う湿疹が特徴です。

外耳炎
アトピー犬の80%以上に症状が見られ、耳だけの症状が初発となるケースも少なくありません。頻繁に頭を振る、耳を掻く、耳垢が増えるなどの症状に注意が必要です。

マラセチア皮膚炎
酵母菌の増殖により強い悪臭とベタつきが生じます。特に指の間、脇の下、耳などに発生しやすい傾向があります。

これらの疾患を繰り返す場合、あるいは一般的な治療でコントロールが困難な場合は、早期に「日本獣医皮膚科認定医」など皮膚疾患に詳しい獣医師の診察を受けることをおすすめします。


アトピー性皮膚炎は長い付き合いが必要な病気ですが、適切な治療と日常ケアにより、かゆみを良好にコントロールし、愛犬のQOLを維持することが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が穏やかな毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア不全、免疫異常、腸内環境の乱れが複雑に絡み合った疾患
  • 診断は、寄生虫、食物アレルギー、感染症を一つずつ除外していく丁寧なプロセスが必要
  • 治療薬には現在様々な種類があり、獣医師と相談の上、体質と皮膚にあったものを選択することが大切
  • 症状がない時期でも、日常的なスキンケアを続けていくことが再発防止の鍵となる
  • シャンプー・保湿・食事(脂肪酸)・腸活(乳酸菌)を組み合わせる多角的なアプローチが、薬の減量とQOL維持につながる
  • 症状が改善しない場合は、皮膚科専門医による診察を受けるのも選択肢の一つ

犬のアトピー性皮膚炎は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛犬のかゆみに不安を感じたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な治療管理が、愛犬の穏やかな生活を支える大きな力となります。

猫の甲状腺機能亢進症~早期発見のポイントと治療の基本~【獣医師執筆】

「食欲旺盛なのに体重が減る」、「夜中に鳴き止まず、落ち着きがない」これらの症状は高齢猫に最も多く見られる、甲状腺機能亢進症という病気のサインかもしれません。
甲状腺機能亢進症は進行性の疾患ですが、適切な知識と治療によってコントロールできる慢性疾患です。

このコラムでは、病気のメカニズムと愛猫の生活の質(QOL)を最大限に高めるための治療の基本を分かりやすく解説します。


この疾患は、喉元にある甲状腺から「甲状腺ホルモン(T4)」というホルモンが過剰に分泌されることによって起こります。

このホルモンは、身体の代謝(エネルギー消費)をコントロールするアクセルのようなもので、過剰になると全身の臓器が異常に活発になり、心臓、腎臓、消化器などの全ての臓器が疲弊してしまいます。

8歳以上の高齢猫に多く、初期の症状は加齢による変化と見過ごされがちです。
しかし、早期に診断し治療を開始することが、心臓や腎臓への不可逆的なダメージを防ぐために極めて重要です。

甲状腺機能亢進症の原因の大部分は、甲状腺組織における良性の増殖、すなわち機能性甲状腺腺腫または腺腫様過形成に起因します。

分類詳細発生割合
機能性甲状腺腺腫/過形成甲状腺組織の中にできる良性腫瘍によるもの。腫瘍化した甲状腺が自律的にホルモンを過剰に作り出す。約98%以上
腺癌悪性の甲状腺腺癌(がん)によるもの。稀にみられる。約1〜2%

飼い主様が気づく愛猫の初期の変化には、以下のようなものがあります。

この病気の最も典型的なサインです。
食欲が非常に旺盛であるにもかかわらず、代謝率の異常な亢進により、体重が急激に減少していきます。

以前に比べて活動性が増す、落ち着きがない、夜鳴きが増えるといった神経質な行動が目立つようになります。

腎臓への血流増加や、ホルモン自体の作用により、水を飲む量と尿の量が増加します。

毛艶が悪化したり、部分的な脱毛が見られたりすることもあります。

心臓への過剰な負担による潜在的な心臓病の悪化(肥大型心筋症の悪化)や、二次的な高血圧などが認められることがあります。


症状、身体所見、および血液中の甲状腺ホルモン濃度の測定を組み合わせて行われますが、基本として血液検査により確定診断します。

最も大事な検査として甲状腺ホルモン(T4)の測定を行います。
T4には総T4(TT4)と遊離T4(fT4)があります。猫では主としてTT4を用い、補助的にfT4を用います。

甲状腺機能亢進症を強く疑う症状があるにもかかわらず、総T4(TT4)が正常高値である場合など、診断がグレーゾーンの際には、遊離T4(fT4)の検査値を用いることがあります。
fT4のほうが他の疾患の影響を受けにくいのですが、猫では偽高値になることがあるのでfT4単独では用いません。

TT4が高値であれば甲状腺機能亢進症と診断します。

甲状腺シンチグラフィーは、放射性同位元素を用いて、甲状腺組織がホルモンを取り込む能力を画像化する特殊な検査です。
有用ですが国内で行える施設は非常に少なく、代用として触診による甲状腺の大きさのチェック、超音波検査での測定があります。


治療方法は、根治を目的とする外科手術と、ホルモン値のコントロールを目的とする内服薬などの内科療法に分けられます。愛猫の性格や全身状態に応じて、最適な計画を立てていきます。

治療法作用機序特徴
内服薬(チアマゾール錠)T4合成を抑制する。
最も選択されている治療法。
症状に合わせて薬の量がコントロールしやすいが、毎日の投薬管理が必要。
塗布薬(外用チアマゾール製剤)T4合成を抑制する。
一日一回、耳の内側に塗布する。
投薬困難な猫でも使用できるため、治療の新しい選択肢として注目されている。(日本では未承認)
外科的切除原因となる甲状腺部位の切除を行う。根治が見込めるが、手術に伴う一般的なリスクがあり、取り切れないと再発する場合もある。
食事療法(ヨウ素制限食)食事中のヨウ素摂取を強く制限する。排他的給餌の徹底が必須。他の食物を摂取させると効果が期待できない。

甲状腺機能亢進症の治療において、最も注意すべきなのが「腎臓機能低下」の併発の有無です。

甲状腺ホルモンが過剰な状態は、腎臓の血流を一時的に増加させることで、隠れていた慢性腎臓病の兆候を覆い隠してしまっている可能性があります。
ホルモン値を正常化する治療を行うと、慢性腎臓病が急に悪化することがあるため注意が必要です。

T4を過度に抑制すると慢性腎臓病の進行を加速させる可能性があるため、腎臓保護の観点から、血清T4濃度を下げすぎないことも重要です。
腎機能の急速な悪化が認められる場合には、甲状腺機能亢進症の治療を中断する場合もあり、このバランスのコントロールに慎重な判断が求められます。


猫の甲状腺機能亢進症自体は適切な治療によってコントロール可能であり、T4正常化による予後は一般的に良好です。

しかし、予後を最終的に決定づけるのは、併発している重度の慢性腎臓病や心筋症の程度です。
甲状腺機能が安定した後も、少なくとも6か月ごとにホルモン値や腎数値などを血液検査、心臓精査による心筋症のチェックを行い、継続的にモニタリングすることが推奨されています。


甲状腺機能亢進症は、早期発見と適切な治療により良好なコントロールが可能です。
愛猫の行動の変化を見逃さず、気になることがあれば早めに動物病院を受診しましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • 猫の甲状腺機能亢進症は、高齢猫に多く見られる進行性の病気で、食欲旺盛なのに痩せていくのが特徴
  • 診断は血液中の総T4(TT4)測定が基本ですが、他疾患との鑑別のための遊離T4(fT4)の解釈には慎重な判断を要する
  • 治療方法には内服薬、塗布薬、外科的切除、食事療法があり、愛猫の状態に応じて選択する
  • 腎臓病を併発している場合は、腎血流を保護するため、T4値の厳密な管理が推奨される
  • 治療後も少なくとも6か月ごとの定期的なモニタリングが重要

猫の甲状腺機能亢進症は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛猫の症状に不安を感じたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な投薬管理が、愛猫の穏やかな生活を支える大きな力となります。

【獣医師監修】猫のワクチン接種は本当に必要?科学的根拠から考える適切な予防接種

「完全室内飼いだから、ワクチンは必要ないのでは?」「毎年接種するのは猫の負担が大きすぎる」「副反応が心配」——そんな疑問や不安を抱えている飼い主さんは少なくありません。
猫のワクチン接種は法律で義務付けられていないからこそ、飼い主さん自身が正しい知識を持ち、愛猫にとって最適な選択をする必要があります。

このコラムでは、ワクチンの必要性を科学的根拠に基づいて客観的に解説し、接種のメリット・デメリットを踏まえた上で、愛猫に適した予防接種プログラムを考えるための情報を提供します。

【この記事を読んでわかること】

  • ワクチンで予防できる感染症の実態と致死率
  • コアワクチンとノンコアワクチンの違いと選択基準
  • ワクチン接種のメリットと副反応のリスク
  • 最新ガイドラインに基づく適切な接種スケジュール
  • 完全室内飼いの猫にもワクチンが必要な理由
  • 副反応を最小限に抑えるための実践的な対策

ワクチンとは、病原体の毒性を弱めたり無毒化したりしたものを体内に投与し、あらかじめ免疫を作っておく予防医療です。ワクチンには大きく分けて2つの効果があります。

ひとつは感染予防効果です。これは病原体の侵入を防ぐ、または感染しにくくする働きです。もうひとつは重症化予防効果で、仮に感染しても症状を軽く抑え、愛猫の命を守ることができます。

重要なのは、ワクチンは「100%感染を防ぐ」ものではなく、「感染リスクを大幅に下げ、感染しても重症化を防ぐ」手段であるという点です。

猫がかかる感染症には、非常に高い致死率を持つものがあります。例えば、猫パルボウイルス感染症の場合、子猫における致死率は50〜90%にも達し、治療が遅れるとわずか数日で命を落としてしまうこともあります。

さらに深刻なのは、多くのウイルス感染症には特効薬が存在しないという事実です。治療は対症療法が中心となり、猫自身の免疫力に頼るしかありません。また、猫ヘルペスウイルスのように一度感染すると体内に潜み続け、免疫力が低下するたびに再発を繰り返すウイルスもあります。猫白血病ウイルスは猫白血病ウイルス感染症の原因となることもあります。

感染力の高さも無視できません。猫パルボウイルスは環境中で数ヶ月間生存可能かつ、感染猫の少量の糞便に触れることで容易に感染してしまう危険性があります。

「うちの猫は完全室内飼いだから、感染症とは無縁」と考えている飼い主さんもいるかもしれません。しかし、実際には完全室内飼いの猫でも感染リスクはゼロではないのです。

人を介した感染経路として、飼い主の衣服や靴にウイルスが付着したり、来客が持ち込んでしまったりする場合があります。また、災害時の避難所など予期せぬ環境の変化、新しく迎え入れた猫や動物病院での接触なども感染の機会となります。

猫パルボウイルスのような環境中で長期間生き残るウイルスの場合、完全に感染を防ぐことは困難です。完全室内飼いにもかかわらず猫風邪を発症するケースは珍しくありません。


世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインでも、生活環境に関わらず全猫への接種が強く推奨されているのがコアワクチンです。これは3種混合ワクチンとして提供されています。

1. 猫パルボウイルス感染症(猫汎白血球減少症)

激しい嘔吐と下痢(しばしば血便を伴う)、高熱、食欲不振、脱水といった症状が現れます。さらに白血球の著しい減少により免疫不全状態に陥ります。子猫の致死率は50〜90%と非常に高く、発症後数日で死亡するケースも少なくありません。

感染経路は感染猫の糞尿や嘔吐物との接触です。このウイルスは環境中で数ヶ月〜数年生存する極めて強いウイルスで、特効薬は存在せず、輸血・点滴などの支持療法のみとなります。治療費も数万円〜十数万円と高額です。

2. 猫ヘルペスウイルス感染症(猫ウイルス性鼻気管炎)

大量の目やにと鼻水、結膜炎、角膜炎が特徴的な症状で、くしゃみの連発、発熱、食欲不振も見られます。重症化すると肺炎を併発することもあります。

このウイルスの厄介な点は、一度感染すると体内に潜伏し続け、免疫力が低下するたびに再発を繰り返すことです。慢性鼻炎や結膜炎に移行することも多く、生涯にわたる治療が必要になる場合もあります。感染経路は感染猫のくしゃみや鼻水による飛沫感染、食器やトイレの共有、グルーミング時の接触などです。

3. 猫カリシウイルス感染症

くしゃみ、鼻水、目やにといった症状に加えて、口内炎や舌・口腔粘膜の潰瘍が特徴的です。口内炎の痛みで食事ができなくなることもあり、子猫では脱水と栄養失調で死亡することもあります。

感染経路は感染猫のくしゃみや鼻水による飛沫感染、食器やトイレの共有、グルーミング時の接触などとなります。特効薬がなく対症療法のみとなり、回復後もウイルスを排出し続けることがあるため、多頭飼育では特に注意が必要です。

ノンコアワクチンは、猫の生活環境や感染リスクに応じて接種を検討するワクチンです。

4. 猫白血病ウイルス感染症(FeLV)

接種推奨対象:外出する猫、多頭飼育で他の猫との濃厚接触がある猫、FeLV陽性の猫と同居している猫に接種が推奨されます。症状としては免疫不全、貧血、慢性口内炎、下痢などが現れ、進行するとリンパ腫、白血病、腎不全を引き起こします。発症後3〜4年以内の死亡率が高い深刻な病気です。

感染経路は感染猫との濃厚接触(グルーミング、食器の共有)、咬傷、母子感染などです。重要なのは、初回接種前に必ず血液検査でFeLV感染の有無を確認する必要があるという点です。

5. 猫クラミジア感染症

接種推奨対象:多頭飼育環境にいる猫や、キャッテリー、ペットホテルを利用する猫に接種が推奨されます。結膜炎(特に初期は片目から始まることが多い)、大量の目やに、軽度の鼻炎やくしゃみが主な症状です。

症状は比較的軽度ですが、慢性化しやすいのが特徴です。また、稀ではありますが人に感染する可能性もある人獣共通感染症です。

6. 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV・猫エイズ)

接種推奨対象:外出する猫や野良猫との接触機会がある猫に推奨されます。主な感染経路は咬傷、つまりケンカによる噛みつきです。初回接種前に血液検査が必須で、ワクチン接種後は抗体検査で陽性となるため、実際の感染との区別が困難になるという点に注意が必要です。


1. 致死率の高い感染症から命を守る

猫パルボウイルスの場合、ワクチン接種猫の致死率は10%以下との報告もありますが、未接種猫では50〜90%にも達します。猫ヘルペスウイルスやカリシウイルスについても、接種することで発症率が減少することが分かっています。仮に感染しても症状が軽く、回復も早いという効果も期待できます。

2. 治療費の軽減

感染症治療には高額な医療費がかかります。猫パルボウイルス感染症の場合、入院費用は5〜15万円以上、猫風邪の重症例でも通院・入院で3〜10万円かかるともいわれています。慢性化した場合は生涯にわたる治療費が必要になることも珍しくありません。一方、ワクチン接種費用は年間5,000〜10,000円程度です。

3. 多頭飼育での感染拡大防止

多頭飼育の場合、一匹が感染すると他の猫にも感染が広がるリスクが高まります。全頭へのワクチン接種は、家庭内での感染症蔓延を防ぐ「集団免疫」の形成に貢献します。

ワクチン接種には一定の副反応リスクが存在します。ただし、適切な対応で重症化を防げるケースがほとんどです。

1. 軽微な副反応

接種部位の痛みや腫れ、軽度の発熱(24時間以内に自然回復)、元気消失、食欲低下(1〜2日程度)、嘔吐、下痢といった症状が見られることがあります。発生率は比較的高いものの、ほとんどは24時間以内に自然回復します。症状が強い場合や24時間以上続く場合は動物病院へ連絡しましょう。

2. アナフィラキシーショック

接種後数分〜30分以内に呼吸困難、虚脱、意識障害といった症状が現れます。猫のワクチン接種後のアナフィラキシー発生率は約0.01%、つまり10,000回に1回程度と稀です。

対策としては、接種後30分は動物病院内または近くで待機することが重要です。一度アナフィラキシーを起こした猫は、次回接種前に必ず獣医師に相談しましょう。

3. 注射部位肉腫

ワクチンを接種した部位に発生する悪性腫瘍で、発生率は10,000回の接種につき1〜4例といわれています。接種してから数年後に発症することもあります。

予防策として、毎回異なる部位(特に後肢など切除しやすい場所)に接種することが推奨されています。経過観察の目安として、接種後1ヶ月以上しこりが残る、しこりが2cm以上の大きさになる、しこりが大きくなり続けるといった場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。

4. 慢性腎臓病との関連性

最近の研究では、ワクチン接種頻度が高い猫が慢性腎臓病を発症する可能性があるとの報告があります。ただし、因果関係は完全には解明されていません。適切な接種間隔を守ることでリスクを最小化できます。

ワクチン接種をしない場合、致死率50〜90%の感染症に無防備な状態となり、治療費も数万円〜十数万円と高額になります。一方、ワクチン接種をする場合のリスクは、軽微な副反応(多くは24時間以内に回復)と重篤な副反応(発生率0.01〜0.04%)です。

科学的データから見れば、適切な頻度でのワクチン接種は、リスクを大きく上回るメリットがあると考えられます。


接種回時期目的
1回目生後6〜8週齢移行抗体が減少するタイミングでの初回免疫
2回目1回目から3〜4週後抗体価の上昇
3回目生後14~16週齢以降確実な免疫獲得
ブースター生後26〜52週齢(6〜12ヶ月)長期免疫の確立
※要否には個体差があります。

子猫接種で重要なのは、母猫からの初乳により得た移行抗体が生後8〜12週で消失するため、その時期に合わせて接種を開始することです。特に16週齢以降の接種が長期免疫の鍵となります。

コアワクチン(3種混合)の場合

完全室内飼いの猫には2つの選択肢があります。

ひとつは抗体価検査を活用した個別プログラムです。年に1回の健康診断時に抗体価検査を実施(費用6,000〜7,000円)し、抗体価が十分であれば接種を見送ります。最大3年間隔まで延ばすことが可能だと言われています。

もうひとつは3年に1回の定期接種です。抗体価検査を行わない場合の標準プログラムで、コアワクチンの免疫持続期間は7.5年以上との研究報告もあります。

一方、外出する猫や多頭飼育の猫には年に1回の定期接種が推奨されます。感染リスクが高いため、より確実な予防が必要になります。

ノンコアワクチンの場合

猫白血病ウイルス(FeLV)や猫クラミジアは免疫持続期間が短いため、年に1回の接種が推奨されます。

シニア猫には特別な配慮が必要です。接種前に血液検査で腎臓や肝臓などの機能を確認し、完全室内飼いであれば3年間隔も検討可能です。獣医師と相談しながら、個体ごとのリスク評価を行うことが大切です。


まず、愛猫の健康状態を確認しましょう。食欲や元気があるか、嘔吐・下痢はないかをチェックし、体調不良時は接種を延期します。

接種日は午前中が理想的です。万が一異変があった場合に対応できる時間的余裕があるからです。週初めや平日を選び、週末や祝日前は避けましょう。接種後24時間は在宅できる日を選ぶことも大切です。

獣医師には過去のワクチン接種歴と副反応の有無、現在服用中の薬やサプリメント、アレルギー体質や基礎疾患の有無をしっかり伝えましょう。

アナフィラキシーショックは接種後30分以内に発症することが多いため、接種後30分は病院付近で待機し、車中や待合室で猫の様子を観察します。

帰宅後は静かで落ち着ける場所を用意し、無理に遊ばせたり運動させたりしないようにします。食欲がなければ無理に食べさせる必要はありません。

呼吸が荒い・苦しそう、顔が急激に腫れる、嘔吐を繰り返す、立てない・ぐったりしているといった緊急度が高い症状が見られたら、すぐに動物病院に連絡しましょう。

また、24時間経過しても食事を全く食べない、元気がまったくない、高熱が続く、接種部位の腫れが拡大しているといった症状がある場合も受診が必要です。

接種後2〜3日間は、シャンプーや入浴、激しい運動や遊び、他の猫との濃厚接触、長時間の外出や旅行を避けましょう。愛猫の体が免疫を作り上げるために、安静な環境を提供することが大切です。


完全室内飼いでも感染経路は多様です。飼い主の衣服や靴に付着したウイルス、来客による持ち込み、災害時の避難所など、予期せぬ感染リスクが存在します。ただし、コアワクチン(3種混合)を3年に1回、または抗体価検査を併用するプログラムで十分なケースが多いです。

最新のガイドラインでは、コアワクチンは3年に1回でも十分な免疫が維持されることが分かっています。ただし、外出する猫、多頭飼育の猫、ペットホテル利用が多い場合は年1回接種が推奨されます。重要なのは、猫の生活環境と感染リスクに応じて獣医師と相談して決めることです。

高齢猫は確かに副反応リスクがやや高まりますが、同時に感染リスクも高まります。接種前に血液検査で健康状態を確認し、完全室内飼いであれば接種間隔を延ばす(3年に1回など)、抗体価検査を活用するなど、獣医師と相談して個別に判断することが重要です。

副反応への不安は理解できます。しかし、データで比較してみましょう。重篤な副反応の発生率は約0.01〜0.04%です。一方、猫パルボウイルス感染時の致死率(未接種)は50〜90%にも達します。

統計的に見れば、ワクチン接種のメリットは副反応のリスクを大きく上回ります。健康状態が良い時に接種し、接種後30分は病院付近で待機するなど、副反応を最小限に抑える対策を取ることで、安全性を高めることができます。


猫の感染症には致死率50〜90%の病気があり、治療薬がない感染症も多く存在します。予防が最善の対策であり、完全室内飼いでも感染リスクはゼロではありません。ワクチンは命を守る確実な予防手段といえます。

重篤な副反応の発生率は約0.01〜0.04%と低く、未接種での感染リスクと比較すれば、メリットは大きいです。また、適切な対策を取ることで副反応リスクは最小限に抑えられます。

「一律の毎年接種」ではなく、個別に獣医師と計画を立てましょう。完全室内飼いの子にはコアワクチンは3年に1回でも十分で、抗体価検査を活用すれば必要な時のみ接種できます。なお、外出猫や多頭飼育では年1回接種が推奨されます。

副反応対策としては、健康状態が良い時に午前中接種し、接種後30分は病院付近で待機、24〜48時間は注意深く観察することが重要です。

猫は自分の不調を言葉で伝えることができません。だからこそ、飼い主さんが正しい知識を持ち、愛猫にとって最適な選択をすることが求められます。

「ワクチンは絶対に毎年必要」という考えも、「ワクチンは危険だから打たない」という考えも極論です。大切なのは、愛猫の生活環境とリスクに応じた個別の判断です。情報に振り回されず、科学的根拠に基づいた判断を心がけましょう。そして愛猫の健康を守るため、獣医師と一緒に最適な方法を選びましょう。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

【獣医師監修】猫の目のケア完全ガイド ~目やに・涙やけから病気のサインまで、愛猫の瞳を守るために知っておきたいこと~

愛猫の目に目やにがついている・涙やけが気になる・目が充血している……そんな症状が見られたら、それは愛猫からのSOSかもしれません。
特に、目やにの色がいつもと違う、片目だけに症状が出ている、目をしょぼしょぼさせているといった変化があるときは、早めの対応が必要です。

このコラムでは、猫の目の健康を守るための正しい知識から日々のケア方法、病院を受診すべきタイミングまでを分かりやすく解説します。

【この記事を読んでわかること】

  • 正常な目やにと異常な目やにの見分け方
  • 目やにの原因となる主な病気(結膜炎、角膜炎、猫風邪など)
  • 自宅でできる正しい目のケア方法
  • 動物病院を受診すべきタイミングと緊急性の高い症状
  • 猫種別の注意点と日常的な予防法

最後まで記事を読んで、愛猫の目の健康について学んでみましょう。


猫の『目やに』は、涙、粘液、そして目の表面から剥がれ落ちた古い細胞などの老廃物やほこりなどの異物が混ざり合ってできた自然な分泌物です。

人間でも朝起きたときに目やにがつくことがあるように、猫にとっても目やには生理的な現象のひとつなのです。

健康な猫にも少量の目やには出ます。
以下のような特徴があれば、基本的には心配する必要はありません。

  • 色:薄い茶色から透明、あるいは黒っぽい茶色
  • 量:毎朝起きたときに目頭に少量ついている程度
  • 質感:乾燥してカサカサしている、またはやや湿っているが粘り気はほとんどない
  • 頻度:毎日少量出る程度で、日中に何度も拭く必要がない

以下のような目やには何らかの異常がある可能性が高いため、注意が必要です。

色が濃い、または異常な色

  • 黄色、黄緑色、緑色の目やに → 細菌感染の可能性
  • 血が混じった赤い目やに → 眼球に傷がある可能性

その他の異常サイン

  • ドロッとした膿のような質感
  • 悪臭がする
  • 一日に何度も拭く必要があるほど大量に出る
  • 片目だけに集中して出る
  • 目の充血、腫れ、涙が止まらない
  • くしゃみ、鼻水、発熱などの全身症状を伴う

これらの異常なサインが見られたら、早めに動物病院を受診することをおすすめします。


空気の乾燥やハウスダスト、花粉、煙草の煙、芳香剤などが目を刺激すると、涙の分泌量が増えて目やにも増加します。

対策

  • 室内の湿度を50〜60%に保つ
  • こまめに掃除をして清潔な環境を維持
  • 猫の近くで喫煙や強い香りのスプレーの使用を避ける

花粉、ハウスダスト、ダニ、カビ、特定の食物などが原因で、目のかゆみや充血、目やにの増加などが起こります。透明から白っぽい水っぽい目やにが特徴です。

秋はヨモギやブタクサなどの花粉によって症状が出やすい時期です。目をこすることで二次的に細菌感染を起こすと、黄色い目やにに変わることもあります。

猫ヘルペスウイルスやカリシウイルス、クラミジアなどによる感染症は、目やにの主要な原因のひとつです。

症状の特徴

  • 黄色から黄緑色、緑色のドロッとした膿のような目やに
  • 大量に出て目が塞がってしまうことも
  • 目の充血と腫れ
  • 発熱、くしゃみ、鼻水、食欲低下

子猫や高齢猫、免疫力が低下している猫は重症化しやすいため、早期の治療が必要です。
ワクチン接種で抵抗力を高められる病気も多いので、定期的なワクチン接種も重要です。

まぶたの内側と眼球の白目部分を覆っている結膜に炎症が起こる状態です。感染性、アレルギー性、刺激性などさまざまな原因で起こります。

症状

  • まぶたの内側が赤く腫れる
  • 白目が充血する
  • 目やにが増える((透明〜黄色)
  • 涙が多く出る
  • 目をこする、しょぼしょぼさせる
  • 目を開けにくそうにする

早期に適切な治療を行えば比較的短期間で改善しますが、放置すると慢性化したり、角膜炎に進行したりする恐れがあります。

目の表面を覆っている角膜に炎症や傷ができる病気です。猫同士のケンカによる引っかき傷、異物混入、ウイルス感染などが主な原因です。

症状

  • 透明から黄色の目やに
  • 涙が大量に出る
  • まぶしそうに目を細める
  • 目を開けられない
  • 目の表面が白く濁る

重症化すると角膜に穴が開き、最悪の場合は失明する危険性もあります。緊急性の高い疾患なので、すぐに動物病院を受診しましょう。

涙が常に目から溢れ出して、目の周囲の毛が茶色く変色してしまう状態です。鼻涙管という細い管が詰まると、涙が正常に排出されず目から溢れ出てしまいます。

特に短頭種(ペルシャ、ヒマラヤン、エキゾチックショートヘアなど)は、生まれつき鼻涙管の流れが悪かったり、鼻涙管の構造が正常でなかったりすることがあります。

対策

  • 鼻涙管閉塞の原因が先天的か疾患によるものかまずは受診する
  • 目の周りの毛を短くカットする
  • 毎日こまめに涙や目やにを拭き取る

準備するもの

  • 清潔なコットンやガーゼ
  • ぬるま湯(人肌程度)または動物用アイローション

※ティッシュペーパーは繊維が粗く、目を傷つける恐れがあるため避けましょう。

拭き取りの手順

  1. コットンやガーゼにぬるま湯を含ませます
  2. 目尻から目頭へ向かって優しく拭き取ります
  3. 強くこすらず、優しく押し当てるようにします
  4. 使用したコットンは一度使ったら必ず捨てます
  5. 片目だけに症状が出ている場合は、別のコットンで使い分けます

目やにが乾燥して固まっている場合は、無理に引っ張らず、まずぬるま湯で湿らせてふやかします。数秒間優しく押し当てて、目やにが柔らかくなってから取り除きましょう。

動物病院で目薬を処方された場合の点眼方法です。

  1. 利き手に目薬を持ち、反対の手で猫の下あごを支えます
  2. 上まぶたを軽く持ち上げ、目の上から点眼します
  3. 猫の背中側から、体を包み込むような体勢で行うとスムーズです
  4. 点眼後はたくさん褒めてあげましょう

清潔な環境を保つ

  • 飼育環境のこまめな掃除(週2〜3回以上が目安)
  • 空気清浄機の使用
  • 寝具の定期的な洗濯(週1回程度が目安)
  • 湿度管理(湿度50〜60%を保つ)

アレルゲンとの接触を減らす

  • 花粉の季節は体を拭く(外出する猫の場合)
  • 香りの強い芳香剤や柔軟剤は避ける
  • 猫の近くでの喫煙は絶対に避ける
  • 飛び散りにくい猫砂を選ぶ

毎日の触れ合いの中で、以下をチェックしましょう。

  • 目やにの色、量、質感
  • 目の充血や腫れ
  • 涙の量
  • 瞬膜が出ていないか
  • 目の周囲の毛の変色(涙やけ)

早期に異常を発見することで、適切に対処することができます。


以下のような症状が見られる場合は、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。

すぐに受診が必要な症状

  • 黄色・緑色・血の混じった目やに
  • 目を開けられない・痛がる
  • 片目だけに症状が出る
  • 目が腫れている・変形している
  • 目の表面が白く濁っている

目やにに加えて、くしゃみ、鼻水、発熱、食欲不振、元気がないなどの全身症状がある場合は、猫風邪などの感染症が疑われます。特に子猫や高齢猫では早急な治療が必要です。

自宅でケアをして1〜2日経っても症状が変わらない、あるいは悪化している場合は、早めに獣医師の診察を受けましょう。

  • いつから症状が始まったか
  • 目やにの色、量、質感の変化
  • どちらの目に症状があるか(片目/両目)
  • 他に見られる症状
  • 最近の環境や食事の変化
  • ワクチン接種の状況

また、自宅での目をこする様子や目やにの状態などを動画で撮影しておくと、獣医師への説明がより正確になります。

特に、普段は見せない行動や、夜間に激しくかゆがる様子など、診察室では確認できない症状を記録しておくことで、診断の大きな手がかりになります。


顔の骨格が独特で、鼻涙管が圧迫されやすく、生まれつき鼻涙管閉塞による涙やけになりやすい傾向があります。また、目が大きく飛び出しているため、異物が入りやすく、傷つきやすいリスクもあります。

ケアのポイント

  • 毎日必ず目やにと涙を拭き取る
  • 目の周りの毛を短くカットする

長い被毛が目に入りやすく、それが刺激となって涙や目やにが増えることがあります。

ケアのポイント

  • 目の周りの毛を定期的にカットまたはトリミング
  • ブラッシングで抜け毛が目に入らないよう注意する

7歳以上のシニア猫は、涙の分泌量や質の変化、免疫力の低下、自浄作用の低下などが起こり、目やにが増えやすくなります。

ケアのポイント

  • 飼い主さんが毎日ケアしてあげる
  • 年に1〜2回の健康診断で目の状態もチェック
  • 栄養バランスの良い高齢猫用フードを与える

愛猫とのスキンシップの時間を使って、毎日、目の状態をチェックする習慣をつけましょう。
少量の目やにであれば、毎朝清潔なコットンで優しく拭き取ります。

特に換毛期(春と秋)は、こまめなブラッシングで抜け毛を取り除きましょう。

健康そうに見えても、年に1〜2回は動物病院で健康診断を受けることをおすすめします。若い猫は年1回、7歳以上のシニア猫は年2回が目安です。

猫風邪など、目やにの原因となる感染症の多くは、ワクチンで重症化を防ぐことができます。

猫はストレスに弱い動物といわれており、ストレスが免疫力を低下させ、さまざまな病気にかかりやすくなるとの報告もあります。

対策

  • 静かで落ち着くことができる場所を用意する
  • 高い場所に登ることができるようにキャットタワーを設置する
  • 隠れられる場所を複数用意する
  • 規則正しい生活リズムを保つ

多頭飼いの場合は、感染症が広がりやすいため、一匹に『目やに』や『猫風邪』などの症状が出たら、すぐに隔離して他の猫への感染を防ぐようにする必要があります。


猫の目やには、単なる汚れではなく、愛猫の健康状態を知らせてくれる大切なサインです。

この記事のまとめ

  • 正常な目やには薄い茶色〜透明で少量、異常な目やには黄色・緑色・血混じりで大量
  • 主な原因は環境要因、アレルギー、感染症、結膜炎、角膜炎、鼻涙管閉塞など
  • 自宅ケアは清潔なコットンで優しく拭き取り、環境を清潔に保つことが基本
  • 黄緑色の目やに、目を開けられない、片目だけの症状などは早急に受診が必要
  • 短頭種や長毛種、高齢猫は特に注意が必要
  • 日常的な予防として定期的なケア、健康診断、ワクチン接種が重要

早期発見・早期治療が鍵
目のトラブルは、放置すると急速に悪化したり、慢性化したり、最悪の場合は失明につながったりする可能性があります。異常なサインが見られたら、できるだけ早く受診しましょう。

日常のケアと観察が予防につながる
毎日の目やにチェックと拭き取り、清潔な環境の維持、バランスの取れた食事、ストレス管理など、日常的なケアが目のトラブルの予防につながります。

飼い主としての責任
猫は自分の不調を言葉で伝えることができません。だからこそ、飼い主さんが日々の観察を通じて、小さな変化に気づいてあげることが大切です。

愛猫の目がいつもキラキラと輝いていられるように、日々のケアと観察を大切にしていきましょう。少しでも気になることがあれば、遠慮せずにかかりつけの動物病院に相談してください。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。

犬の皮膚病『膿皮症』の基礎知識と治療の基本的アプローチ【獣医師執筆】

愛犬の皮膚に赤いブツブツができて、強い痒みで掻きむしっている姿を見ると、飼い主さんは心配でたまりません。
犬の膿皮症は、細菌感染による非常に一般的な皮膚病ですが、適切な治療を行わないと再発を繰り返してしまう慢性疾患です。
しかし、正しい知識と治療法、そして日々のケアによって症状をコントロールすることは十分に可能です。

このコラムでは、犬の膿皮症の病態から最新の治療アプローチ、そして再発を防ぐための具体的な管理方法までを分かりやすく解説します。


犬の膿皮症(Pyoderma)は、皮膚に細菌が増えて炎症を起こす、非常に一般的な皮膚病のひとつです。
細菌が感染する皮膚の深さによって、皮膚表面の「表面性膿皮症」、浅い層の「表在性膿皮症」、そして奥深くの「深在性膿皮症」の3つに分類されます。

今回は、犬の膿皮症の中で最もよく見られる表在性膿皮症(Superficial Pyoderma)に焦点を当てて解説します。

表在性膿皮症は、細菌が皮膚の浅い層(表皮や毛穴の入り口)に侵入し増殖することで発症します。
主な原因菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus pseudintermediusなど)です。犬の皮膚にいる常在菌ですが、なんらかの理由で皮膚の抵抗力(バリア機能)が弱った時に増殖し症状を引き起こします。

皮膚の抵抗力が低下する原因の多くは「基礎疾患」の存在です。アレルギーやホルモンの病気などで皮膚バリア機能が弱くなったり免疫力が低下した結果、細菌が増殖し膿皮症を引き起こします。
この根本原因となる疾患を治療しない限り膿皮症は再発を繰り返してしまうため、まず全身の精密検査により基礎疾患を特定することが重要となります。

分類主な基礎疾患病態への影響
アレルギー性疾患犬アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど皮膚バリア機能の破壊、痒みによる自傷行動
内分泌疾患甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症など全身的な免疫抑制、皮膚代謝の異常によるターンオーバーの低下
寄生虫疾患ニキビダニ症(デモデクシス)など免疫抑制、皮膚の局所的な炎症の惹起

膿皮症でよくみられる症状には、以下のようなものがあります。初期の頃は、飼い主さんは犬が身体を痒がることに気づき、よく見ると皮膚にニキビのような赤い湿疹ができ、脱毛していることに気づきます。

・赤いブツブツ(丘疹
細菌感染による初期の炎症性の発疹

・膿の袋(膿疱
細菌と炎症細胞が集まったもので、細胞診の最適な採取部位

・表皮小環
膿疱が破れた後に環状に残るフケやカサブタの痕。膿皮症に特徴的

・その他
脱毛、皮膚の赤み、強い痒みなど


膿皮症を疑う場合は、前述した丘疹や表皮小環を探し、検査のためのサンプルを採取します。第一に行うのは細胞診検査ですが、治療の経過により必要な場合は細菌培養・薬剤感受性検査を行い適切な治療薬を選択します。

膿疱などからサンプルを採取し顕微鏡で観察することで、細菌感染の有無、好中球など炎症細胞の存在、マラセチアなどの真菌の同時感染などを確認します。
膿皮症を疑う場合に最初に行う検査であり、この検査で細菌が認められなければ、他の鑑別疾患を疑います。

細菌の種類を特定し、その細菌に対して各抗生剤がどれくらいの効果があるのかを判定する検査です。メチシリン耐性ブドウ球菌などの耐性菌の存在する可能性を排除し、現在感染している細菌に有効な薬剤を選択するために必要な検査です。


膿皮症の治療で最も問題となる「耐性菌」は、治療の初期段階からさまざまな抗生剤を多用することで発生率が高くなります。
そのため現在の膿皮症治療では、安易に抗生剤を選択せず、外用薬やシャンプーをメインとして治療を進めることが多くなっています。

外用療法は、薬剤耐性のリスクを最小限に抑えつつ、細菌負荷を低減できるため、表在性膿皮症治療の中心的なアプローチとして位置づけられています。

外用療法作用機序・特徴
殺菌消毒液
(クロルヘキシジングルコン酸塩2~4%含有)
細菌の細胞壁を破壊し、細胞質タンパク質を凝固させることで殺菌。消毒作用が強く、表在性膿皮症の治療に有効性が示されている。
シャンプー療法
(クロルヘキシジングルコン酸塩2~4%含有)
上記のクロルヘキシジンを含有したシャンプー剤による洗浄療法。シャンプーとして使用する場合には、成分が皮膚に十分接触する時間を確保するため、10分程度おいてから洗い流すのが有効とされている。
局所抗生物質
(軟膏・クリーム・外用液など)
局所的に細菌の増殖を抑制し、抗菌作用を発揮する。限局性の病変に適用され全身投与(内服薬)を避けることができるため、薬剤耐性のリスクを低減できる。

抗生物質の内服は、「外用療法に反応しない」、「症状の出ている範囲が広く外用薬では対応しきれない」などの場合に行われます。
とくに近年では、耐性菌の増加が問題となっているため使用は極めて慎重に行われます。
そのため抗生物質適正使用の観点から、抗生物質を内服させる際には以下の点が重視されます。

①細菌培養・感受性試験の推奨
感染している細菌に対して感受性の高い(効果の高い)抗生物質を効率的に選ぶためにも、初期段階での検査実施が推奨されています。

②第一選択薬の使用
①の検査が行われない場合には、まず、第一選択薬とされている抗生物質を使用します。これらは、犬の膿皮症に対する臨床試験で良好な効果が確認され、政府の承認によって効果が裏付けられている薬剤です。具体的には、セファレキシン、アモキシシリン-クラブラン酸、クリンダマイシン、リンコマイシンなどがあります。

③治療期間の遵守
抗生物質による治療は、症状が改善した後も潜在的な細菌を根絶するために、獣医師の指示に従い一定期間継続することが必須です。途中で薬を中断すると、菌が生き残り耐性菌を生むリスクが高まるため、正確な量と間隔を守ることが重要です。


膿皮症の治療が成功した後も、その再発を防ぐための継続的な管理が不可欠です。
この長期の管理計画は、基礎疾患のコントロールと皮膚バリア機能の持続的な維持というのが重要なポイントです。

膿皮症は二次的な疾患で発症することが多いため、細菌感染が治癒した後も、その根本原因となった基礎疾患(アレルギー疾患や内分泌疾患など)に対する治療を継続しなければ常に再発しやすい状態にあります。
したがって、アレルギーに対する免疫調整薬や食事管理、内分泌疾患に対するホルモン補充療法など、基礎疾患に対する治療を地道に継続することが、膿皮症の長期的な再発予防の土台となります。

基礎疾患の管理に加え、皮膚の細菌負荷を低く保つための予防的な局所管理が効果的です。
獣医師の指導のもと、皮膚の状態に合わせて適切な頻度で薬用シャンプーを継続するなど、発症を予防するプロアクティブな外用療法を行うことは、再発の頻度や重症度を軽減する有効な手段となり得ます。

難治性で再発性の高いケース、あるいは多剤耐性菌が確認された深刻な症例については、一般診療での対応が困難になることがあります。
このような場合には、皮膚病に詳しい獣医師の診察を受けるのも選択肢の一つです。日本国内には、日本獣医皮膚科学会の認定医試験に合格した「日本獣医皮膚科認定医」の資格を持つ獣医師が全国に約120名(2025年現在)存在しており、学会のウェブサイトで確認することができます。


膿皮症は再発しやすい慢性疾患ですが、適切な日常的ケアで症状をコントロールすることが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が快適な毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • 膿皮症は、多くの場合、基礎疾患(アレルギーや内分泌疾患など)によって二次的に発症する
  • 主な原因菌は常在菌であり、皮膚の抵抗力が下がると異常増殖する
  • 外用療法(消毒薬シャンプーなど)が最も重要な治療であり、耐性菌対策として優先される
  • 全身抗生物質の内服は、慎重に選択し、一定期間服用を継続することが大切
  • 基礎疾患の継続的な治療と、予防的な皮膚の衛生管理が再発予防の鍵となる

犬の膿皮症は適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

愛犬の皮膚トラブルに気づいたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な外用療法の継続が、愛犬の快適な生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。

犬の皮膚病『マラセチア性皮膚炎』に対する正しい知識とケア方法【獣医師執筆】

愛犬の皮膚が赤くなり、強いかゆみと独特の臭いが続く「マラセチア性皮膚炎」。
慢性的な症状は愛犬のQOL(生活の質)を著しく低下させ、飼い主さんも心を痛めることが少なくありません。
しかし、マラセチア性皮膚炎は適切な知識と治療、そして日々のケアで症状をコントロールできる疾患です。

このコラムでは、マラセチア性皮膚炎の正しい知識から最新の治療法、そしてご自宅で愛犬を支えるための具体的なケア方法までを分かりやすく解説します。


マラセチア性皮膚炎は、酵母(カビ)の一種であるマラセチア・パチデルマティス(Malassezia pachydermatis)という皮膚常在菌が異常増殖することで起こる皮膚疾患です。

この疾患は犬の皮膚科診療で最も頻繁に遭遇する疾患の一つであり、症状を抑えるだけでなく、「なぜ菌が増えたのか」という根本原因を特定し、長期的に管理することが再発予防の鍵となります。

マラセチアは、犬の皮膚から分泌される皮脂(脂質)を必須の栄養源とする脂質依存性(リポフィルス)という性質を持ちます。

そのため、皮脂腺が豊富で湿度が高くなりやすい部位、特に皮膚と皮膚が重なる間擦部や耳の内部で活発に増殖します。

好発部位(高湿度・高皮脂エリア)誘発される症状
間擦部(脇、股、指間、顔の皺、尾の付け根)紅斑や苔癬化、悪臭が発生
皮膚表面の脂っぽいベタつき
外耳道・耳介左右対称性の外耳炎
ベタベタしたワックス状の耳垢を形成

異常増殖したマラセチアは、皮脂を分解する際に酵素(リパーゼ)や代謝産物を大量に産生します。これらの物質が皮膚細胞を刺激し、炎症を引き起こします。

また、マラセチアの細胞壁成分がアレルゲン(抗原)として認識されることで、過敏症(アレルギー)を併発することがあります。これにより、掻痒が劇的に悪化し、単なる殺菌だけではコントロールが難しくなります。


マラセチア性皮膚炎のリスクを高める基礎疾患は、主に皮膚のバリア機能の破綻や皮脂の過剰分泌を引き起こします。

特にウエストハイランド・ホワイト・テリアやシー・ズーは、犬アトピー性皮膚炎(CAD)と脂漏症の両方の好発品種であり、遺伝的素因が深く関与しています。これらの犬種を治療する際は、生涯にわたる基礎疾患の管理が必要となる場合も少なくありません。

基礎疾患の種類好発犬種(遺伝的素因)マラセチア増殖への影響
犬アトピー性皮膚炎
(CAD)
ウエストハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、ゴールデン・レトリバー、チワワなど慢性炎症による皮膚バリア機能の低下と微小環境の悪化
原発性脂漏症ウエストハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、アメリカン・コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザー皮脂の過剰分泌(マラセチアの栄養源)が強力に増大
解剖学的要因ブルドッグ(しわが多い短頭種)、垂れ耳の犬種皮膚が蒸れやすく、高湿度環境を形成する

診断は、実際の臨床症状(紅斑、脂漏、悪臭など)と皮膚の細胞診(テープによる押捺法)によって行います。

細胞診では「雪だるま型」のマラセチアが多数認められます。菌数が少ないにもかかわらず、かゆみが非常に強い場合は、マラセチアに対する過敏症(アレルギー反応)が起きている可能性があります。この場合は殺菌だけでなく、マラセチアに対する過敏症をコントロールするための複雑な管理が必要となります。


マラセチア性皮膚炎の治療では、「菌の抑制(殺菌)」、「炎症と掻痒の緩和」、「基礎疾患のコントロール」の3つが重要なポイントです。

主には、外用療法(シャンプーや塗布薬など)と経口薬による全身療法があります。

シャンプー療法は、皮膚表面のマラセチアを物理的に洗い流すことで微生物負荷を迅速に軽減し、マラセチアが産生した炎症物質や皮脂を除去するため最も不可欠な治療です。

目安は週に1~2回で、症状に合わせて行っていきます。

治療薬製品例と主な成分成分の作用機序と効果
薬用シャンプー・マラセブ
・マラセブ ライト
・マラセキュア
(ミコナゾール硝酸塩2% / クロルヘキシジングルコン酸塩2%)
ミコナゾール(抗真菌):マラセチアの細胞膜必須成分であるエルゴステロールの合成を阻害し殺菌作用を発揮する

クロルヘキシジン(殺菌):細菌やマラセチアの細胞膜に障害を与え、広範囲の抗菌・抗真菌作用をする
外用抗真菌薬・ケトコナゾールクリーム
・ミコナゾールクリーム
アゾール系クリームは、患部に直接塗布することでエルゴステロールの合成を阻害し、マラセチアを殺菌・抑制する

広範囲の病変、重度な感染、あるいは外用療法の実施が困難な場合には、経口薬が選択されるケースもあります。治療初期の症状が重度な時期に使用し、その後はなるべく外用療法のみで維持できるようにするのが目標です。

治療目的薬剤の種類作用機序と注意点
抗真菌薬・イトラコナゾール
・フルコナゾール
・ケトコナゾール
アゾール系経口抗真菌薬。全身作用で真菌を抑制する。長期投与で肝障害の副作用リスクがあるため定期的な血液検査が推奨される。
掻痒・炎症の緩和・JAK阻害薬
(アポキル錠 / オクラシチニブ)
アレルギーの掻痒と炎症を惹起するサイトカイン(特にIL-31)のシグナル伝達経路であるヤヌスキナーゼ(JAK)を選択的に阻害し、痒みサイクルを早期に断ち切る。
掻痒・炎症の緩和・グルココルチコイド
(ステロイド)
炎症性サイトカインや炎症メディエーターの産生を抑制し、免疫反応を調整することで強い抗炎症・止痒作用がある。肝障害や易感染などの副作用リスクのため、症状に応じて用量・期間を調整する。
掻痒・炎症の緩和・抗体製剤
(サイトポイント / ロキベトマブ)
IL-31を直接的に中和し、長期的な掻痒をコントロールする。

【JAK阻害薬(アポキル錠/オクラシチニブ)について】
アポキル(オクラシチニブ)は、副作用リスクがステロイドに比べて低く、マラセチア性皮膚炎での掻痒に対してもよく使用されています。投与後4時間以内に速やかに効果を発現するなど、ステロイドに匹敵する即効性が大きな特長です。長期投与を行う際は、年に数回の血液検査を実施し、副作用(白血球減少など)をチェックすることが推奨されます。

マラセチア性皮膚炎は、根本原因となる基礎疾患を治療戦略の中心に据える必要があります。

基礎疾患疾患の管理方法
犬アトピー性皮膚炎
(CAD)
アレルギー治療薬(JAK阻害薬、抗体製剤、シクロスポリンなど)による長期的な炎症管理。食物アレルギーの除外のための除去食試験の実施。
脂漏症遺伝的または代謝異常による皮脂の過剰分泌を管理するため、食事療法、サプリメント(必須脂肪酸)、角質溶解作用のあるシャンプー(硫黄、サリチル酸など)によるスキンケアの実施。
内分泌疾患
(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症など)
治療方法は疾患により異なるため、まず全身の精査(血液検査・超音波検査など)により確定診断を行う。マラセチア性皮膚炎の治療とともに疾患の治療を並行して行い、全身状態を正常化させる。

マラセチア性皮膚炎の治療は長期にわたりますが、病態を正しく理解し、定期的な通院と日々のケアを続けることで、症状をコントロールすることが可能です。
かかりつけの動物病院でよく相談し、愛犬が快適な毎日を送れるように支えていきましょう。

この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • マラセチアは皮脂を栄養源とする皮膚常在菌で、異常増殖すると皮膚炎を引き起こす
  • 脇、股、指間、耳などの湿った部位で増殖しやすい
  • シャンプー療法が最も重要な治療で、週1~2回が目安
  • 犬アトピー性皮膚炎や脂漏症などの基礎疾患のコントロールが再発予防の鍵
  • 定期的なスキンケアと衛生的な生活環境の管理が重要

マラセチア性皮膚炎は再発しやすい慢性疾患ですが、適切な治療と日常的なケアで症状をコントロールすることが可能です。
愛犬の皮膚トラブルに気づいたら、まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。定期的なシャンプーや生活環境の管理など、日々のホームケアが愛犬の快適な生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』の薬剤師にお気軽にお問い合わせください。

【獣医師監修】犬猫の皮膚トラブル、アレルギーかも?と思ったら知っておきたいこと

愛犬や愛猫が頻繁に体を掻いている、皮膚が赤くなっている、毛が抜けている…そんな症状が見られたら、それはアレルギーのサインかもしれません。
特に、食事内容や生活環境を変えた後にこれらの症状が現れたときは、何らかのアレルゲンが影響している可能性があります。

このコラムでは、アレルギーの正しい知識から治療法、そしてご自宅でできる具体的なケア方法までを分かりやすく解説します。

【この記事を読んでわかること】

  • アレルギーは免疫システムが無害なものに過剰反応して起こる
  • 犬アトピー性皮膚炎が最も多く、食物アレルギーを併発することも多い
  • かゆがる様子の動画撮影が診断に有効
  • 治療にはアレルゲンの回避、薬物療法、食事療法などがある
  • 環境管理(掃除、湿度管理)と定期的な皮膚の状態チェックが重要
  • ノミ・マダニもアレルギーの原因になるため定期的な予防が必要
  • おやつや人の食べ物を与えない、疾患によっては療法食を続けることが大切

最後まで記事を読んで、犬と猫のアレルギーについて学んでみましょう。


アレルギーとは、体の免疫システムが本来は無害な物質に対して過剰に反応し、炎症を起こす状態です。

私たちの体には、ウイルスや細菌などの外敵から身を守る「免疫応答」が備わっています。免疫応答では「抗体」という武器をつくりだして異物を排除します。この戦いの過程で炎症が起こります。

アレルギーは、この免疫応答が花粉など体にとって問題のないものに対しても起こってしまい、炎症を引き起こすことをいいます。

アレルギーというと皮膚の病気を連想する方が多いと思いますが、実は皮膚症状以外にも鼻炎や下痢などさまざまな症状を引き起こすことがあります。

アレルギーの原因となるもの(アレルゲン)には、ノミ、マダニ、ダニ、花粉、食べ物などがあります。

犬のアレルギー性皮膚炎の中で最も多いものが犬アトピー性皮膚炎となっています。
犬アトピー性皮膚炎では食物アレルギーを併発していることも多いと報告されています。

アレルギーの種類主な原因
犬アトピー性皮膚炎花粉、ダニ、カビ、ハウスダスト
食物アレルギー牛肉、鶏肉、小麦、卵、乳製品
ノミ、マダニアレルギー性皮膚炎ノミやマダニの唾液
接触性アレルギーシャンプー、洗剤、植物、化学物質

アレルギーは複数の原因がかさなって起こっている場合もあるため、総合的な対策が必要です。

食物アレルギーは食べ物が原因でおこるアレルギーのことですが、実はアレルギー全体から見ると、純粋に食物が原因のアレルギーはそれほど多いわけではありません。

食物アレルギーの場合は、食べ物に含まれるタンパク質が主な原因といわれています。ただ、どのタンパク質が原因なのかは犬・猫1頭1頭それぞれで異なります。

●犬でアレルゲンとして報告されることが多い食材
犬のアレルゲンとして報告されている主な食材には、牛肉、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルトなど)、鶏肉、小麦、卵、大豆、ラム肉、トウモロコシなどがあります。

猫でアレルゲンとして報告されることが多い食材
猫のアレルゲンとして報告されている主な食材には、牛肉、魚類(特にキャットフードによく使用されるマグロ、サバ、サーモンなど)、鶏肉、乳製品、小麦、卵、ラム肉などがあります。
これらの食材は一般的なペットフードに含まれることが多いため、長期間摂取することでアレルギーを発症する可能性があります。

食物アレルギーの特徴
食物アレルギーは初めて食べたものに対して起こることがある一方で、過去に摂取したことのある食材が原因となることも多いと報告されています。
つまり、今まで問題なく食べていたものでも、ある時から突然アレルギー反応を示すようになることがあります。


激しいかゆみが最も特徴的で、頻繁に体を掻いたり、床や壁などに顔や足をこすりつけたりするしぐさが見られます。皮膚の赤みや炎症、かさぶたや脱毛も一般的です。足先を執拗に舐める行動や外耳炎も多く見られ、重症化すると皮膚が黒く厚くなることがあります。また、消化器症状として嘔吐や下痢などが見られることもあります。

皮膚が薄い部位に症状が現れやすい傾向があります。具体的には、顔(目や口の周り)、耳の内側、お腹、足の裏、わきの下、内股などです。

過剰なグルーミング(執拗に体を舐め続ける)、脱毛(特に耳の後ろ、お腹、内股)、皮膚の赤みやかさぶたなどが見られます。

猫はもともとグルーミングをよく行う動物ですが、アレルギーがあるとかゆみからひたすら特定の部位を舐め続け、その部分の毛が薄くなったり脱毛したりすることがあります。また、消化器症状として嘔吐や下痢などが見られることもあります。

1歳までに発症した、うんちの回数が多い、季節に関係なくかゆがる、口や目のまわり・背中などに炎症がある、下痢や嘔吐を伴うなどの兆候がみられる場合は、食物アレルギーが疑われます。


かゆがっている様子をスマートフォンなどで動画撮影しておくことが診断に非常に役立ちます。

夜間に激しくかゆがる様子など、診察室では確認できない症状を記録することで、診断の大きな手がかりになります。

かゆみの原因は多く存在するため、段階的に検査を進めていきます。

ステップ1:外部寄生虫の検査
ノミやマダニなどの寄生虫の予防状況を確認します。この時点で適切な予防を行っていなければ、まずは駆除薬を投与して症状の有無を観察します。

ステップ2:感染症の検査
膿皮症、マラセチアなどの感染がないか確認します。多くの場合は症状がある部位の皮膚の一部を採取し、顕微鏡で観察します。感染が見られれば抗生剤や抗真菌薬などの投与を行います。

ステップ3:アレルギーの検査
食物アレルギーを疑う場合は、アレルゲンとなる食材が含まれている可能性の低いフードのみを与える「除去食試験」という検査を行います。8週間ごとにフードの種類を変え、症状の改善が認められるかをみていきます。また、同時に、血液検査でアレルゲンに対する反応を調べる検査も行う場合があります。

ステップ4:アトピー性皮膚炎の可能性
1~3の検査や治療を行っても改善が見られない場合は、アトピー性皮膚炎の可能性が高くなります。
ステップ3のアレルゲンを調べる血液検査では、同時に環境のアレルゲン(ダニ・花粉など)についても調べることができますので、その結果も診断の大きな手掛かりになります。

診断の際には、いくつかの重要なポイントがあります。
まず季節性があるかどうか、つまりアレルゲンとなりやすい花粉の時期に悪化するかどうかを確認します。発症年齢も重要で、多くは1〜3歳で発症することが多いとされています。
また、症状の出る部位が特定の部位に集中する傾向があるかも診断の手がかりになります。

診断には時間がかかる場合がありますが、獣医師とよく相談しながら検査を進めることが重要です。


アレルギーの対処方法の基本はアレルゲンを取り除くことです。
ノミやマダニが原因であれば適切なスケジュールにて予防を行うと共に、清潔な環境を整えることが大切です。食物アレルギーであればアレルゲンを含まない食事を与えることが重要です。
アトピー性皮膚炎と診断された場合でも、フードを変更することで症状がよくなる場合も多くあります。

アレルゲンを取り除くことに加えて症状の程度によっては以下のような薬物を使用することもあります。

分子標的薬(JAK阻害薬・ヤヌスキナーゼ阻害薬

  • 比較的副作用が少なく、かゆみや炎症を抑える効果があります
  • かゆみ止めの第一選択として使われることも多い薬です
  • オクラシチニブは『犬アトピー性皮膚炎の治療ガイドライン(2015年アップデート版)』において、急性及び慢性の犬アトピー性皮膚炎に「推奨度A」で推奨されています

抗ヒスタミン剤

  • かゆみや炎症を抑える効果があります
  • 副作用が少ないですが、効果も比較的穏やかで、効き目には個体差があります

ステロイド剤

  • 強力な抗炎症作用があります
  • 長期使用には副作用のリスクがあるため慎重な管理が必要です

免疫抑制剤

  • 重度のアレルギーに使われることがあります
  • 長期使用には副作用のリスクがあるため慎重な管理が必要です

抗生物質・抗真菌薬

  • 細菌やマラセチアなどによる二次的な皮膚感染症を治療します

食物アレルギーが疑われる場合は、食事療法が取り入れられます。
基本的には原因となっている食べ物を与えないことが大切です。
具体的には、今まで食べたことのないタンパク質を選ぶことになります。
その際、できるだけ消化性の高い良質のタンパク質を、できるだけ種類を限定して与えます。多くの場合、除去食試験の際に使用して改善が見られた療法食を継続して使用します。

●新奇タンパク食(今までに食べたことのないタンパク質の食事)
最近では、ペットフード会社から以下に示すような様々な新奇タンパク質源となる肉を使用したフードが販売されています。

  • ダック(鴨・アヒル)
  • ターキー(七面鳥)
  • 鹿肉
  • バイソン
  • カンガルー
  • うさぎ
  • うずら
  • ダチョウ

これらは一般的なペットフードにはあまり使用されないタンパク質源です。
ただし、個体ごとに食歴が異なるため、獣医師が今まで食べたことのないタンパク質を選択します。

加水分解タンパク食(アミノ酸オリゴペプチド食)
タンパク質をアミノ酸や、アミノ酸が2〜数十個結合したオリゴペプチド(ペプチド)にまで細かく分解することで、免疫システムが反応しにくくなるように調整した療法食となります。


食事アレルギーに対する食事管理は、一生のおつきあいとなります。獣医師の指導のもと、継続して行いましょう。また、その他の治療方法としてアレルゲンを洗い流したり、皮膚のバリア機能を正常化したりすることを目的としてシャンプー療法も行われることがあります。


食事管理は獣医師の指導のもと継続して行いましょう。

1. おやつ、人の食べ物は与えないようにしましょう
せっかく食物アレルギーに対応した療法食でタンパク質の種類を限定しているのに、おやつや人の食べ物を与えてしまうと、与えるタンパク質の種類を限定することができなくなってしまいます。
療法食以外は何も与えないようにしましょう。

家族のなかで知らない間におやつや人の食べ物を与えてしまっている人がいないように、家族全員におやつや人の食べ物をあげてはいけないことを知らせ、守ってもらうようにしましょう。また、拾い食いにも注意しましょう。

2. 食事療法食の使用を勝手にやめないようにしましょう
基本的にアレルゲンとなってしまった食べ物は生涯ずっとアレルゲンであり続けるため、療法食は生涯ずっと続けていく必要があります。
また、皮膚が新しく生まれ変わるには3~4週間ほどの時間が必要なこと並びに治療を始めてから変化が見られるまで少なくとも犬で5週間、猫で6週間かかり、90%以上の犬猫で症状が改善するには8週間かかるとの報告もあります。

よって、改善しないからといって使用をやめるのではなく、まずは獣医師が選んだ療法食を続けて様子を観察しましょう。


●清潔な環境を保つ
特にアトピー性皮膚炎の場合は環境アレルゲンを減らすために、家の中を清潔に保つことを心がけましょう。
こまめな掃除(週2〜3回以上が目安)、空気清浄機の使用、寝具の定期的な洗濯(週1回程度が目安)、湿度管理(湿度50〜60%を保つことが推奨されます)などが効果的です。

ダニやカビの発生を防ぐためにはこまめな掃除や湿度管理が効果的です。これにより、症状が悪化するのを防ぐことが期待できます。

●アレルゲンとの接触を減らす
アトピー性皮膚炎にすでに罹患してもいなくても、可能な限りアレルゲンとなる物質との接触は控えることが大切です。
花粉の季節は散歩後に足や体を拭くこと、香りの強い芳香剤や柔軟剤は避けることなども有効です。

毎日の触れ合いの中で、皮膚の赤みや腫れ、脱毛の有無、かさぶたや傷、耳の汚れや赤みなどをチェックしましょう。早期に異常を発見することで、適切に対処することができます。

皮膚と被毛の健康は、食事から摂る栄養にも大きく左右されます。良質なタンパク質を含むバランスの取れた食事を与えることで、皮膚トラブルを予防できる可能性があります。

適切なスケジュールにてノミ・マダニの予防を行っていない場合、脱毛の原因として、まずは外部寄生虫によるものかどうかの確認が大切です。

ノミアレルギー性皮膚炎は、たった1匹のノミに刺されただけでも激しいかゆみと脱毛を引き起こすといわれており、ノミ・マダニ駆除薬を使用することで症状が改善することがあります。

定期的なノミ・マダニに対する予防は、これらの寄生虫による皮膚トラブルを未然に防ぐために非常に重要です。

もし、皮膚に何かしらの皮膚炎症状を発見したら、患部を清潔に保ち、エリザベスカラーなどを利用して掻きむしりを防ぐこと、ストレスを軽減することが大切です。シャンプーや患部の洗浄は、かえって皮膚に刺激を与えることがあるため、無理に洗浄せず、そのまま動物病院を受診するのが最善です。

脱毛やかゆみが続く、膿や血が出ている、脱毛が広がっている、皮膚から悪臭がする、食欲がない、元気がないといった症状が見られたら、早めに獣医師に相談してください。軽度の皮膚トラブルでも、放置すると悪化し、治療が長引くことがあります。

診察の際には、自宅での様子、症状が出始めた時期、最近の環境や食事の変化、他に見られる症状、過去の病歴などの情報を獣医師に伝えると診断がスムーズになります。

また、自宅でのかゆがる様子や掻く頻度、グルーミングの状態などを動画で撮影しておくと、獣医師への説明がより正確になります。

特に、普段は見せない行動や、夜間に激しくかゆがる様子など、診察室では確認できない症状を記録しておくことで、診断の大きな手がかりになります。

これらの情報を基に、獣医師が正確な診断を行い、適切な治療を開始できるでしょう。

●人用の薬を勝手に使わない
人間用の薬は、犬や猫には有害なものがあります。例えば、猫はアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)に対して中毒を起こすことが知られており、命に関わることもあります。お薬投与の際には必ず獣医師の診察を受けてください。

症状が改善しても勝手に治療をやめない
アレルギーは慢性疾患であり、症状が治まっても根本的な体質は変わりません。治療を中断すると再発する可能性が高いため、獣医師の指示に従って継続することが大切です。

過度な洗浄やシャンプー
かゆがっているからといって、頻繁にシャンプーをすると、かえって皮膚のバリア機能を低下させることがあります。獣医師から指示された通りの頻度と方法で行いましょう。


アレルギーの治療は長期にわたりますが、病態を正しく理解し、定期的な通院と日々のケアを続けることで、症状の頻度を抑えてあげることが可能です。

この記事のまとめ

  • アレルギーは免疫システムが無害なものに過剰反応して起こる
  • 犬アトピー性皮膚炎が最も多く、食物アレルギーを併発することも多い
  • かゆがる様子の動画撮影が診断に有効
  • 治療にはアレルゲンの回避、薬物療法、食事療法などがある
  • 環境管理(掃除、湿度管理)と定期的な皮膚の状態チェックが重要
  • ノミ・マダニもアレルギーの原因になるため定期的な予防が必要
  • おやつや人の食べ物を与えない、疾患によっては療法食を続けることが大切

犬と猫のアレルギーは適切な知識と治療でコントロールできる慢性疾患です。

アレルギー性皮膚炎は、犬や猫にとってつらい症状を引き起こしますが、適切なケアや治療で症状を和らげることができます。早期の発見と治療が大切であり、日常生活での予防やケアも欠かせません。

愛犬や愛猫の皮膚や被毛に気になることがあれば、早めに動物病院を受診することをおすすめします。まずはかかりつけの動物病院を受診し、獣医師と相談しながら最適な治療方針を決めていきましょう。日々の観察と記録、そして適切な投薬管理が、愛犬・愛猫の穏やかな生活を支える大きな力となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店『ねこあざらし薬店』にお気軽にお問い合わせください。