猫の関節炎のサインとは?高い所に登らないのは病気?治療薬やサプリを解説【獣医師執筆】

愛猫が「最近あまり高いところに飛び乗らなくなった」「毛づくろいが減った気がする」と感じたことはありませんか?こうした変化は、実は関節炎が原因であることが少なくありません。

猫の関節炎は犬以上に発見が遅れやすい疾患です。
6歳以上の猫の約6割、12歳以上では9割前後に変形性関節症が確認されるという報告もあるほど一般的でありながら、実際に診断・治療を受けている猫は全体のごく一部とされています。

今回は、猫の関節炎の分類・気づきにくい痛みのサイン・最新の治療薬までを詳しく解説します。


猫の関節炎も犬と同じく、関節内に炎症が起きているかどうかによって「非炎症性」と「炎症性」の2つに大別されます。そして炎症性関節炎はさらに、原因が細菌などの病原体によるものか(感染性)、免疫の異常によるものか(非感染性)で分けられます。
猫で圧倒的に多いのは「非炎症性」の変形性関節症ですが、好発する関節の場所や原因となる疾患は犬とは異なる点が多く、猫ならではの特徴を理解しておくことが大切です。
また、遺伝的な原因から関節疾患を起こしやすい猫種にも注意が必要です。

変形性関節症(Degenerative Joint Disease:DJD、Osteoarthritis:OAとも呼ばれる)は、猫の関節疾患のなかで最も多く見られます。
関節軟骨が徐々に摩耗・変性し、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成や関節包の肥厚が進行することで、慢性的な痛みと関節機能の低下をもたらします。

猫では肘関節が最も好発部位とする報告が複数あり、ほかに股関節や脊椎(特に腰椎〜仙椎)も多く侵されることが知られています。
脊椎に変化が起きると神経症状(痛みによる排泄困難など)が見られたり、背中をなでることを嫌がる場合もあります。

▶ 原発性変形性関節症(加齢性)

明らかな基礎疾患がなく、加齢に伴う軟骨の自然劣化が主な原因です。この原発性タイプは6歳前後から始まり、12歳以上ではほとんどの個体に何らかのX線上の変化が見られるとされています。(レントゲン上で変化が認められても、実際には無症状であるケースも多くあります。)

▶ 続発性変形性関節症(整形外科疾患由来)

基礎となる整形外科疾患や外傷が要因で二次的に発症するものであり、犬ほど高頻度ではありません。一方で、猫ならではの遺伝性疾患として「骨軟骨異形成症」が重要な原因のひとつとなっています。

▶ 骨軟骨異形成症 ── 猫に特有の遺伝性関節疾患

骨軟骨異形成症は、成長段階で関節軟骨の形成に異常が起こり、関節部分がこぶ状に腫れる「骨瘤(こつりゅう)」を生じる遺伝性疾患です。手首・足首・尾の関節に好発し、進行すると関節が動かしにくくなり、足を引きずる・抱っこや高い場所への着地を嫌がるといった症状が若齢のうちから現れる場合もあります。根治療法はなく、痛みのコントロールが治療の中心となります。

💡 骨軟骨異形成症を起こしやすい主な猫種

猫種 特徴
スコティッシュ・フォールド 最も発症リスクが高い猫種。耳が折れる遺伝子と骨軟骨異形成症の素因が連動しているため、多くがこの病気を抱えているとされる。手首・足首にこぶ状の骨瘤ができやすい。(スコティッシュには立ち耳のタイプの猫も存在し、折れ耳タイプの猫に比べると症状は軽度のことが多い。)
マンチカン 短い四肢を特徴とする品種改良の影響で、関節・軟骨形成に異常が出やすい。
アメリカンカール/ヒマラヤン/ペルシャ 骨軟骨異形成症の好発品種として知られる。鼻ぺちゃ・特徴的な体型を作る遺伝的背景が関節の発育にも影響する。

自己免疫機能の異常により、免疫システムが誤って自分の関節の滑膜を攻撃することで炎症が起こるタイプです。比較的犬での症例が多く、猫での発生はまれですが確認されています。発熱・元気消失・食欲低下といった全身症状を伴うことが多く、複数の関節に同時に痛みが出る(多発性関節炎)のが特徴です。猫でもX線検査で骨・軟骨の破壊像(びらん)が認められるかどうかによって、「非びらん性」と「びらん性」に分けられます。

▶ 非びらん性免疫介在性関節炎

X線では骨・軟骨の破壊像は見られないタイプです。特発性多発性関節炎や、基礎疾患に伴う反応性多発性関節炎、全身性エリテマトーデス(SLE)関連などが含まれます。猫では関節液検査による評価が変形性関節症との鑑別に重要です。

▶ びらん性免疫介在性関節炎(慢性進行性多発性関節炎など)

X線で骨・軟骨の破壊像が認められるタイプです。猫に特有のものとして「慢性進行性多発性関節炎」があり、1.5〜5歳前後の若い雄猫に多く発生するという特徴があります。猫白血病ウイルス(FeLV)などとの関連が指摘されていますが、直接的な因果関係は証明されていません。手首・足首の関節に好発し、進行すると関節の変形につながります。

細菌などの病原体が関節内に侵入することで起こる関節炎です。犬でより多く見られ、猫での発生はまれとされています。猫の場合は咬傷(猫同士のケンカによる傷)からの直接感染が主な経路です。通常は単一の関節に強い炎症・腫脹・熱感・疼痛が急激に生じます。関節液の細菌培養・感受性検査が診断の鍵となり、適切な抗菌薬投与と関節洗浄が治療の基本です。


猫は犬よりもさらに痛みを隠す傾向が強い動物です。犬と違ってお散歩の習慣もないため、歩き方や動きの変化に気づくきっかけ自体が少なくなりがちです。
次のような行動の変化は、痛みのサインである可能性があります。

カテゴリー 具体的なサイン
ジャンプ・移動の変化 高い場所に飛び乗らなくなった、段差を避ける、寝ている時間が増えた
毛づくろい・爪の変化 毛づくろいが減り毛玉ができやすくなった、爪とぎの頻度が減り爪が太くなる
排泄・行動の変化 トイレの縁を越えるのを嫌がる、触られるのを嫌がる、隠れがちになる
全身症状(炎症性に多い) 発熱・食欲不振・元気消失、複数の関節が同時に腫れる

猫の関節炎は症状だけでは判断が難しく、また猫はX線撮影などの検査自体がストレスになりやすいため、行動評価と画像検査を組み合わせた総合的な判断が重要です。

自宅での様子(ジャンプ・段差の昇降・毛づくろい・トイレの様子など)の問診や、飼い主による評価指数(Feline Musculoskeletal Pain Index:FMPIなど)が役立ちます。動画があれば診察時の評価がより正確になります。

関節の可動域・腫れ・熱感・痛みへの反応を確認します。ただし猫は病院で警戒・緊張しやすく、自宅では痛がる動きを病院では見せないこともあるため、診察だけで判断が難しい場合があります。

骨棘形成・関節裂隙の狭小化など変形性関節症の所見を確認します。ただし猫の変形性関節症は、X線上の変化の程度と実際の痛みの強さが必ずしも一致しないことが知られており、画像所見が乏しくても臨床的には強い痛みを伴っている場合があります。

炎症性関節炎が疑われる場合に行います。関節液中の炎症細胞の有無や細菌の有無を確認し、変形性関節症との鑑別、感染性・免疫介在性の判断に用いられます。


猫の関節炎治療における課題は、猫に安全に長期使用できる鎮痛薬の選択肢が多くないという点です。
猫は薬物代謝の特性上、NSAIDsの長期使用に大きな制約があり、また高齢猫では慢性腎臓病を合併していることが多いため、薬剤選択には特に注意が必要です。
各々使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で状態を確認することが大切です。

猫用のNSAIDsは、犬用と同じ有効成分の製品であっても「急性の疼痛・炎症の緩和」を目的とした短期使用が前提となっており、添付文書上の反復投与期間が定められています。
腎機能のモニタリングをしながら獣医師の管理下で慎重に使用する必要があります。

製品名 有効成分 猫における特徴・制約
オンシオール ロベナコキシブ COX-2高選択性のコキシブ系NSAID(COX-1阻害に対する選択性は猫で約40倍)。猫での効能は運動器疾患に伴う急性の疼痛及び炎症の緩和で、反復投与は日数制限がある。COX-2選択性が高いため理論上は胃腸・腎臓への影響がメロキシカムより少ないとされるが、慢性腎臓病の猫では油断せず慎重に使用する必要がある。副作用として嘔吐・軟便・食欲不振などの消化器症状が報告されている。
メタカム/メロキシリン メロキシカム 非選択的にCOX-1・COX-2を阻害するNSAID。猫での効能は運動器疾患に伴う急性の炎症及び疼痛の緩和で、反復投与する場合は日数制限がある。経口懸濁液タイプで微量からの用量調整がしやすい点が特徴で、より細かい体重対応が必要な場合に使われることがある。胃腸障害・腎機能低下・肝数値上昇などの副作用が報告されており、オンシオールと同様、長期・頻回の使用は推奨されない。

※ 猫の慢性腎臓病はNSAIDsの使用を大きく制限する要因です。NSAIDsはプロスタグランジンの産生を抑えますが、このプロスタグランジンは腎血流の維持にも関わっているため、腎機能が低下している猫では症状を悪化させるリスクがあります。慢性的な疼痛管理を目的とする場合は、後述する抗NGF抗体薬が選択肢になります。

2023年に日本で発売された、猫の変形性関節症向けの注射薬です。有効成分フルネベトマブ(frunevetmab)は、変形性関節症の慢性疼痛に関わる「NGF(神経成長因子)」を標的とするネコ化モノクローナル抗体製剤で、痛みの神経シグナル伝達をブロックします。NSAIDsとは異なる作用機序で、月1回の皮下注射により投与します。効果の発現には個体差があり、1回目の投与直後から劇的に動くようになる猫もいれば、2〜3回目の投与を重ねることでじわじわと本来の活気を取り戻す猫もいます。
肝臓・腎臓の代謝経路に依存しないため、NSAIDsの長期使用が難しい慢性腎臓病合併猫にも使用しやすい点が大きなメリットです。

長期的な関節の健康維持・進行予防・症状緩和の補助として広く活用されています。
治療薬との併用が一般的で、効果が出るまでに数か月かかることを念頭においたうえで継続することが大切です。
自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

製品名(主成分) 主な作用・特徴
コセクイン パウダーイン
(グルコサミン+低分子コンドロイチン硫酸)
猫用は錠剤ではなくパウダーインのカプセルタイプ。フードにふりかけるか、そのまま与えられる。
ダスクイン パウダーイン
(グルコサミン+低分子量コンドロイチン+ASU)
コンドロイチンを低分子化し腸での吸収率を高めた犬猫共用のカプセルタイプ。フードに混ぜて与えやすい。
アンチノール プラス 猫用
(EAB-277:モエギイガイ抽出脂質+クリルオイル)
海洋性脂質が関節の炎症を抑制し、皮膚・被毛・腎臓など全身の健康維持にも関与する。基本はソフトカプセルタイプだが、先端をカットして中身を出しやすい猫専用設計のカプセルも発売されている。
アンセット
(モエギイガイ抽出脂質)
アンチノールと同系統のモエギイガイ抽出脂質を主成分とする。関節・皮膚・被毛の健康補助を目的とし、カプセルが小さめで猫にもお口に含ませやすい形状。
グリコフレックスプラス猫用(おやつタイプ)
(グルコサミン+コンドロイチン+MSM+DMG)
軟骨基質の合成を支援するとともに、抗炎症作用により関節内の炎症や軟骨分解を抑制し、変形性関節症に伴う疼痛や関節機能の低下を軽減する。関節の健康維持や運動機能の改善を目的として用いられる。
SOPHIA スムーズラン
(グルコサミン+コンドロイチン+イミダゾールジペプチド)
関節成分(グルコサミン・コンドロイチン)に加え、筋肉の疲労回復・機能維持に関わるイミダゾールジペプチドを配合したサプリ。関節と筋力の両面をサポートする。

薬物療法を補完する目的で、以下のような補助療法が選択肢になることがあります。猫は犬よりも警戒心が強く、施術自体がストレスになる場合もあるため、猫の様子を見ながら無理のない範囲で行うことが大切です。

  • 低出力レーザー療法:患部にレーザーを照射し、血行促進・消炎・疼痛緩和を図る治療法。痛みを伴わず、麻酔も不要なため猫にも負担が少ない。
  • 鍼灸(中獣医学):経穴(ツボ)への鍼やお灸により血行を促進し、痛みの緩和を図る治療法。中獣医学の認定資格(獣医中医師など)を持つ獣医師が在籍する動物病院で受けられる。往診専門の動物病院が自宅で行えるよう取り入れているケースもある。

日常の生活環境を関節に負担をかけにくい形に整えることも、QOL向上につながります。愛猫の目線に立って、段差や障害物を猫の通り道から除去し、痛みのある動作を減らしてあげることも大切です。

  • スロープ・ステップの設置:ジャンプが必要な高さへの昇降をサポートし、関節への衝撃を和らげる。
  • トイレ・食器の見直し:縁の低いトイレへの変更、フードボウル・ウォーターボウルを低い位置に置くことで、足を高く上げる動作を減らす。
  • 爪とぎ環境の見直し:縦型から床置き型・スロープ型の爪とぎへの変更により、伸びをするような姿勢を取らずに爪とぎができるようにする。
  • 床材・寝床の工夫:滑りやすいフローリングにマットやクッションフロアを敷き、踏ん張る際の関節負担を減らす。寝床は低い場所に移動し、クッション性を高める。

  • 猫の関節炎は「非炎症性(変形性関節症)」「炎症性・非感染性(免疫介在性)」「炎症性・感染性(細菌性)」の3つに分類され、骨軟骨異形成症という特徴的な遺伝性疾患が存在する。
  • 猫はNSAIDsの長期使用に制約があり、慢性腎臓病合併例も多いため薬剤選択には特に注意が必要。
  • 抗NGF抗体薬ソレンシアは肝臓・腎臓への負担が少なく、月1回の注射で慢性疼痛にアプローチできる新しい選択肢。
  • サプリメントは猫が飲みやすい剤形(パウダー・小粒カプセルなど)への工夫が進んでいる。

猫の関節炎は犬よりもさらに気づかれにくく、高齢になればなるほど高い確率で存在している疾患です。
日常の小さな変化に目を向けることが、早期発見への第一歩になります。
お薬だけに頼らず、生活環境の整備を組み合わせることがQOL向上の鍵となります。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • Kimura T, et al. Retrospective Radiographic Study of Degenerative Joint Disease in Cats: Prevalence Based on Orthogonal Radiographs. Front Vet Sci. 2020;7:138.
  • Gruen ME, Thomson AE, Griffith EH, et al. A feline-specific anti-nerve growth factor antibody improves mobility in cats with degenerative joint disease-associated pain: a pilot proof of concept study. J Vet Intern Med. 2016;30(4):1138-1148.
  • Lascelles BDX, et al. Cross-sectional study evaluating the prevalence of radiographic degenerative joint disease in cats. Vet Surg. 2010;39(5):535-544.
  • Bennett D, et al. Osteoarthritis in the cat: 1. how common is it and how easy to recognise? J Feline Med Surg. 2012;14(1):65-75.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(オンシオール・メタカム・ソレンシア添付文書).
  • エランコジャパン株式会社. オンシオール錠 添付文書情報. https://my.elanco.com/jp/products/onsior
  • ゾエティス・ジャパン株式会社. ソレンシア 製品情報.

犬の関節炎とは?痛みのサインと治療薬について解説【獣医師執筆】

愛犬が「最近なんとなく動きが鈍くなった」と感じたことはありませんか?
こうした変化は、単なる老化ではなく「関節炎」が原因である可能性があります。「関節炎」は犬に非常に多い疾患のひとつで、特に中高齢犬では40%以上が何らかの関節疾患を抱えているという報告もあります。
痛みをうまく表現できない犬の場合、症状が見過ごされやすく、適切なケアが遅れがちです。

今回は、関節炎の正しい分類・痛みのサイン、最新の治療薬とサプリメントまでを詳しく解説します。


犬の関節炎は、まず関節内に炎症が起きているかどうかによって「非炎症性」と「炎症性」の2つに大別されます。
そして「炎症性」関節炎はさらに、『原因が細菌などの病原体によるもの(感染性)』と『免疫の異常によるもの(非感染性)』に分けられます。

また、一般に「関節炎」と聞くと炎症のイメージが強いですが、犬で最も多いのは実は「非炎症性」の変形性関節症です。同じ「跛行(足をかばう歩き方)」という症状でも、関節炎の種類によって治療法が異なります。

以下、各々の「関節炎」について解説していきます。

変形性関節症(Osteoarthritis:OA)は、犬の関節疾患のなかで最も多く見られます。関節軟骨が徐々に摩耗・変性し、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成や関節包の肥厚が進行することで、慢性的な痛みと関節機能の低下をもたらします。進行の主体は軟骨の破壊であり、関節液中の炎症細胞は少ないのが特徴です。一度失われた軟骨は自然には再生しないため、治療の目標は「進行を遅らせること」と「痛みを緩和すること」が中心になります。

▶ 原発性変形性関節症

明らかな基礎疾患がなく、加齢に伴う軟骨の自然劣化が主な原因です。高齢犬に多く、複数の関節に症状が出ることもあります。

▶ 続発性変形性関節症

基礎となる整形外科疾患や外傷が要因となり、二次的に発症するものです。犬では原発性より発生が多く、大型犬・超大型犬で多い傾向がありますが、小型犬に多い膝蓋骨脱臼のように犬種によってリスクが異なります。若齢時の関節異常が中高齢になってから変形性関節症として現れるケースも少なくありません。

💡 変形性関節症を起こす主な関節疾患と好発犬種

主な疾患 概要と好発傾向
股関節形成不全(HD) 股関節の発育異常で関節に緩みや摩耗が生じ、中高齢で変形性関節症へ移行しやすい。大型犬に多く、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなどで特に注意。
肘関節形成不全(ED) 肘関節を構成する骨の発育不均衡による疾患の総称。若齢期から跛行が現れ関節炎へ進行する。大型犬(ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなど)に多い。
膝蓋骨脱臼(パテラ) 膝の皿(膝蓋骨)が正常位置から外れる疾患。繰り返すことで軟骨が摩耗し関節炎へ移行する。小型犬全般(トイプードル、チワワ、ポメラニアンなど)に多い。
前十字靭帯断裂 膝関節を安定させる靭帯の断裂。放置すると関節炎へ進行する。中〜大型犬や肥満犬(ラブラドール・レトリーバー、ロットワイラーなど)で多いが、小型犬でも発生する。
骨軟骨症(OCD) 急成長期に軟骨の一部が剥離・遊離する疾患。大型・超大型犬の若齢期に多い(ラブラドール・レトリーバー、グレートデーンなど)。

※ 肥満・過剰な運動・栄養不均衡はいずれの犬種でも続発性変形性関節症のリスクを高めます。

自己免疫機能の異常により、免疫システムが誤って自分の関節の滑膜を攻撃することで炎症が起こるタイプです。変形性関節症とは異なり、関節液中に炎症細胞が多数認められます。発熱・元気消失・食欲低下といった全身症状を伴うことが多く、複数の関節に同時に痛みが出る(多発性関節炎)、症状に波があるといった特徴があります。X線検査で軟骨・骨に破壊像(びらん)が認められるかどうかによって、「非びらん性」と「びらん性」に分けられます。

▶ 非びらん性免疫介在性関節炎(特発性多発性関節炎など)

免疫介在性関節炎のなかで最も多いタイプです。レントゲン検査では骨・軟骨の破壊像は見られず、関節液検査で炎症細胞(主に好中球)の増加が確認されます。特定の基礎疾患が見当たらない「特発性」のものが最多で、3〜7歳での発症が多いとされますが、幅広い年齢で発症します。繰り返す発熱・複数関節の腫れ・移動性の跛行(痛む場所が変わる)が典型的なサインです。治療はステロイド(プレドニゾロン)が主体です。

▶ びらん性免疫介在性関節炎(関節リウマチなど)

犬での発症は比較的まれです。レントゲン検査で軟骨・骨の進行性破壊像(びらん)が認められます。手根関節・足根関節に生じやすく、進行すると関節が変形することがあります。非びらん性よりも予後が慎重で、ステロイドに加えて免疫抑制剤の使用が必要となるケースがあります。

細菌などの病原体が関節内に侵入することで起こる関節炎です。外傷・手術・隣接部位からの感染波及(骨髄炎など)が原因となることが多く、通常は単一の関節に強い炎症・腫脹・熱感・疼痛が急激に生じます。関節液の細菌培養・感受性検査が診断の鍵となり、適切な抗菌薬投与と関節洗浄が治療の基本です。早期治療が遅れると関節の不可逆的な破壊が進行するため、迅速な対応が求められます。


犬は本能的に痛みを隠す傾向があります。「まだ歩けているから大丈夫」ではなく、日常行動の小さな変化を見逃さないことが大切です。主な症状には以下のようなものがあります。

カテゴリー 具体的なサイン
動作・歩様の変化 階段・段差の昇降をためらう、飛び降りができなくなった、跛行(足をかばう歩き方)、歩き始めがぎこちないが動くと楽になる、痛む足が変わる(移動性跛行)
活動性・体の変化 散歩をいやがる・すぐ疲れる、横になる時間が増えた、背中を丸める、関節の腫れ・熱感、筋肉の左右差(萎縮)
行動・態度の変化 触られるのを嫌がる・性格が変わった(攻撃的・引きこもり)、患部をなめる・噛む、夜中に鳴く
全身症状 発熱・食欲不振・元気消失、複数の関節が同時に腫れる、症状に波がある ※炎症性関節炎に多い

変形性関節症と炎症性関節炎では治療法が根本的に異なります。「どの種類の関節炎か」を正確に診断することが、適切な治療への第一歩です。

各関節の触診による腫れ・熱感・可動域の確認、歩様の観察が基本です。オルソレーニテスト(股関節形成不全)や引き出し試験(前十字靭帯損傷)など、疾患ごとの特異的な検査も行われます。

変形性関節症では骨棘形成・関節裂隙の狭小化・軟骨下骨の硬化が確認できます。びらん性関節炎では軟骨・骨の破壊像が認められ、非びらん性との鑑別に重要です。初期段階では変化が乏しいことがあるため、症状経過とあわせて総合的に判断します。

炎症性との鑑別に最重要な検査です。関節腔に針を刺して関節液を採取し、色・粘稠度・炎症細胞の種類と数・菌の有無を観察します。変形性関節症では細胞数が少なく、炎症性関節炎では好中球などの炎症細胞が著明に増加します。感染性が疑われる場合は細菌培養・感受性試験も行います。

炎症マーカー(CRP・白血球数)の上昇は炎症性関節炎を示唆します。免疫介在性の評価には抗核抗体(ANA)なども用いられます。NSAIDs長期投与前後の腎臓・肝臓機能のモニタリングにも必須です。

靭帯・軟骨・滑膜など軟部組織の状態評価や、手術適応の検討に使用されます。MRIは軟骨損傷・滑膜炎の精密評価に優れています。


犬の関節炎の治療は「痛みの緩和・進行の抑制・QOL(生活の質)の維持」が目標です。
変形性関節症には薬物療法・サプリメント・体重管理・理学療法・環境整備を組み合わせたアプローチが推奨されます。また、免疫介在性関節炎では免疫抑制療法が主体となり、治療方針が大きく変わります。
各々使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で状態を確認することが大切です。

変形性関節症・感染性関節炎の痛みと炎症に対する第一選択薬です。現在では、COX-2を選択的に阻害するコキシブ系などの製品が主流で、従来の非選択的NSAIDsと比較して胃腸への負担が少なく、長期使用に適しています。
なお、免疫介在性関節炎にはステロイド・免疫抑制剤が主体となるため、NSAIDsの適応ではありません。長期投与時は定期的な血液検査(腎臓・肝臓の評価)が必須です。他のNSAIDsやステロイドとの併用は禁忌です。

製品名 有効成分 特徴
オンシオール ロベナコキシブ COX-2高選択性のコキシブ系NSAID。炎症部位に集積・持続する特性があり、作用発現が早く効果が持続する。1日1回投与。急性・慢性どちらにも使用可。
リマダイル カルプロフェン 長年の使用実績がある代表的NSAIDs。長期投与が可能。チュアブル錠もあり、投薬しやすい。
メタカム / インフラカム メロキシカム 経口懸濁液・チュアブル錠の剤形あり。体重に合わせて細かく用量調整しやすく、小型犬から大型犬まで幅広く対応可能。長期投与の実績が豊富なNSAIDsのひとつ。
フィロコックス / プレビコックス フィロコキシブ 犬専用の選択的COX-2阻害薬。チュアブル錠で投薬しやすく、変形性関節症に伴う慢性疼痛・炎症を緩和する。消化器系への影響が少ない。

免疫介在性関節炎では、免疫抑制療法が治療の主体となります。

  • プレドニゾロン(ステロイド):免疫抑制量で開始し、症状の改善とともに漸減します。多くの症例で速やかな効果が得られますが、長期使用では多飲多尿・体重増加・感染症リスクなどの副作用に注意が必要です。
  • シクロスポリンなどの免疫抑制剤:ステロイド単独での維持が難しい場合や、副作用軽減のためにステロイドの減量を目的として追加・切り替えが行われます。

治療期間は長期に及ぶことが多く、6ヶ月以上の継続が目安となります。しっかりと再発を防ぐためにも、焦らず腰を据えてモニタリングを続けていくことが大切です。

2023年に日本で承認された、犬の変形性関節症向けの新しい鎮痛薬です。
有効成分ベジンベトマブは、変形性関節症の慢性疼痛に関わる「NGF(神経成長因子)」を標的とするモノクローナル抗体製剤で、痛みの神経シグナル伝達を根本からブロックします。月1回の皮下注射で投与します。

NSAIDsとはまったく異なる作用機序のため、今までの飲み薬であまり効果がなかった犬や、腎臓・肝臓への負担が懸念される高齢犬でも使用を検討できる点が大きなメリットです。
効果の発現は投与後7日目から認められ、はっきりとした効果が実感できるのは2〜3回目の投与以降が多いとされています。

有効成分としてポリ硫酸ペントサンナトリウムを配合。
軟骨基質の産生促進・軟骨破壊酵素の阻害・関節液の粘稠性改善・滑膜の血流改善など、多角的な関節保護作用をもつ注射剤です。

NSAIDsと組み合わせることで相乗効果が期待でき、初期〜中等度の変形性関節症に有用とされています。
通常は7日おきに1回×4週間を『1クール』として皮下注射します。

長期的な関節の健康維持・進行予防・症状緩和の補助として広く活用されています。治療薬との併用が一般的で、効果が出るまでに数か月かかることを念頭においたうえで継続することが大切です。
犬の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

製品名(主成分) 主な作用・特徴
コセクイン
(グルコサミン+コンドロイチン硫酸)
グルコサミンは軟骨の構成材料として軟骨細胞の修復・保護を助け、コンドロイチン硫酸は軟骨のクッション性と関節液の粘度を維持する。2成分の相乗効果が期待される定番製品。
ダスクイン
(グルコサミン+低分子量コンドロイチン+ASU+MSM)
コンドロイチンを低分子化し腸での吸収率を約70%に向上。アボカド大豆不鹸化物(ASU)・MSMも配合し、軟骨保護と抗炎症作用を多角的にサポート。
アンチノール プラス
(EAB-277:モエギイガイ抽出脂質+クリルオイル)
脂肪酸を含む海洋性脂質が関節の炎症を抑制。抗炎症作用・関節保護に加え、皮膚・被毛・心血管・腎臓など全身の健康維持にも関与する。
アンセット
(モエギイガイ抽出脂質)
アンチノールと同系統のモエギイガイ抽出脂質を主成分とする。関節・皮膚・被毛の健康補助を目的とし、カプセルが小さめで小型犬にもお口に含ませやすい形状。
グリコフレックスプラス
(グルコサミン+コンドロイチン+MSM+DMG)
軟骨基質の合成を支援するとともに、抗炎症作用により関節内の炎症や軟骨分解を抑制し、変形性関節症に伴う疼痛や関節機能の低下を軽減する。関節の健康維持や運動機能の改善を目的として用いられる。
SOPHIA スムーズラン
(グルコサミン+コンドロイチン+イミダゾールジペプチド)
関節成分(グルコサミン・コンドロイチン)に加え、筋肉の疲労回復・機能維持に関わるイミダゾールジペプチドを配合したサプリ。関節と筋力の両面をサポートする。
  • 理学療法・リハビリテーション:水中トレッドミル(水中歩行)、マッサージ、ストレッチ、温熱療法など。筋力維持・血流促進・疼痛軽減に有効で、薬物療法との組み合わせが推奨される。
  • 低出力レーザー療法:疼痛緩和・組織修復促進を目的として使用。副作用が少なく高齢犬にも適用しやすい。
  • 鍼灸:慢性疼痛の緩和に一定の効果が報告されており、薬物療法の補完として活用されることがある。
  • 外科手術:股関節全置換術・関節固定術・骨切り術など。内科療法で管理困難な重症例に実施される。

  • 犬の関節炎は「非炎症性(変形性関節症)」「炎症性・非感染性(免疫介在性)」「炎症性・感染性(細菌性)」の3つに分類される。
  • 変形性関節症は軟骨の摩耗・変性が主体で犬の関節炎で最も多い。NSAIDsが第一選択薬で、新薬リブレラ(抗NGF抗体)も有力な選択肢。
  • 免疫介在性関節炎は発熱・全身症状・移動性跛行が特徴。治療はステロイド・免疫抑制剤が主体で、NSAIDsは適応外となる。
  • 鑑別診断には関節液検査が最重要。同じ「跛行」でも原因によって治療が大きく変わる。
  • 体重管理・適切な運動・環境整備を治療と組み合わせることが長期管理の基本。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • Johnston SA. Osteoarthritis: joint anatomy, physiology, and pathobiology. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1997;27(4):699-723.
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犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)~見逃しやすい症状と治療薬について~【獣医師執筆】

「最近、水をよく飲むようになった」「お腹がぽっこり膨らんできた」「毛が抜けて薄くなってきた気がする」──愛犬のそんな変化に気づいたとき、病気が隠れているかもしれません。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、中高齢の犬に比較的よく見られるホルモンの病気ですが、症状が「老化のせいかな」と見逃されやすく、飼い主さんが異常に気付いて病院を受診するまでに、病状が進行してしまっているケースも少なくありません。今回は、クッシング症候群の基本の診断・よくみられる症状・基本となる治療薬について解説します。


副腎は腎臓のすぐ近くにあります。犬ではわずか数mm程度の厚さの小さな臓器で、生体にとって欠かせない複数のホルモンを分泌しています。その中でも特に重要なのが「コルチゾール(糖質コルチコイド)」です。

コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、血糖値の調整・炎症の抑制・免疫のコントロール・脂質やタンパク質の代謝など、非常に広範な働きを担っています。病院でよく使われるステロイド系消炎薬(プレドニゾロンなど)は、このコルチゾールをもとに作られた薬です。

コルチゾールの分泌量は、脳と副腎の間の精密なフィードバック回路「HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)」によって厳密に制御されています。

  • 視床下部がCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌
  • CRHを受けた下垂体がACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を分泌
  • ACTHが副腎に届き、コルチゾールが合成・分泌される
  • 血中コルチゾールが増えると視床下部・下垂体へのフィードバックで分泌にブレーキがかかる

この制御機構のどこかに異常が生じてブレーキが効かなくなると、コルチゾールが過剰に出続ける状態を引き起こします。この過剰なホルモンが、体内のあらゆるところで悪影響を及ぼすのがクッシング症候群です。

コルチゾール過剰の原因は大きく3つに分類され、タイプによって好発犬種・治療方針が大きく異なります。
自然発生型の発症は8〜11歳前後が中心で、5歳以上からリスクが高まります。

タイプ 原因・割合・特徴 好発犬種・体型
下垂体性(PDH) 脳の下垂体に腫瘍ができACTHが過剰分泌され、副腎を慢性的に刺激し続ける。全体の約80〜85%を占める最多タイプ。基本的に両側副腎が肥大する。 小型犬に多い。プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ヨークシャーテリア、ボクサー・ボストンテリアなど。
副腎腫瘍性(AT) 副腎が腫瘍(良性・悪性)化し自律的にコルチゾールを過剰分泌。全体の約15〜20%。悪性(腺がん)が約50%を占め転移リスクあり。 特定犬種の好発傾向は確認されていないが、中大型犬に多い傾向。小型犬での発症も珍しくはない。
医原性クッシング ステロイド薬の長期・過剰投与により、外部からコルチゾール相当のホルモンが供給され続けた結果生じる。自然発生とは本質的に別の病態で、原因薬の漸減により改善する。 長期的にステロイドの投与を受けている犬全般が対象。

クッシング症候群は症状がゆっくり進行するうえ、老化として見逃されやすいのが特徴です。
以下のサインを一つでも感じたら、念のため獣医師に相談してみましょう。

症状 メカニズム
多飲・多尿(飲水量が増える・尿が増える) コルチゾール過剰が抗利尿ホルモン(ADH)の分泌・作用を阻害することで腎臓が水を再吸収できなくなり、尿が大量に出る。それを補うため飲水量も増加する。体重1kgあたり1日100ml以上の飲水量(例:5kgの犬で500ml/日超)が続く場合は要注意。
多食 メカニズムは完全には解明されていないが、コルチゾールが中枢神経系の食欲調節に影響を与えると考えられている。
腹部膨満(お腹がポッコリ) 腹腔内脂肪の蓄積に加え、コルチゾールによる腹筋の萎縮が重なり、たれ腹状になる。体重の割にお腹だけ目立って大きくなる。
左右対称の脱毛・皮膚症状 コルチゾールが皮膚組織を萎縮させることで、尾の付け根・背中・脇腹などに左右対称の脱毛や皮膚石灰化などが生じる。
筋力低下・運動不耐性 筋肉が萎縮し、特に体幹部が弱る。散歩を嫌がる・疲れやすくなる。
息切れ・呼吸が浅い 腹部膨満による横隔膜の圧迫で呼吸が苦しくなるほか、筋力低下で体力も落ちているため疲れやすい。
皮膚が薄くなる・毛細血管が透けて見える コルチゾールが皮膚コラーゲンを破壊し続けることで皮膚が非常に脆くなる。傷つきやすく感染しやすい状態になり細菌性皮膚炎をおこしやすくなる場合がある。

クッシング症候群を治療せずにいると、糖尿病・高血圧・肺血栓塞栓症(突然の呼吸困難)・細菌性膀胱炎や皮膚感染症・骨粗鬆症・皮膚や組織への石灰沈着、さらに下垂体腫瘍が大きくなった場合には眼振・旋回・痙攣などの神経症状が現れることがあります。


外見上の皮膚や被毛の状態、飲水量などの情報からクッシング症候群を疑う場合には、まず血液検査・尿検査・超音波検査を行います。クッシング症候群に特徴的な異常として、以下のものが挙げられます。

  • ALT・ALP(肝酵素)の著明な上昇(特にALP)
  • コレステロール・中性脂肪の高値
  • 好酸球の減少、リンパ球の減少(ストレス白血球像)
  • 尿比重の低下(希薄な尿)、尿タンパク陽性
  • 超音波検査で副腎の大きさチェック(大きさが正常でも完全否定はできない)

クッシング症候群の確定診断にはホルモン機能検査が必要です。主に以下の検査が行われます。

検査名 方法・内容 特徴・注意点
低用量デキサメサゾン抑制試験(LDDST) デキサメサゾンを投与し、8時間後のコルチゾールを測定。正常なら抑制されるが、クッシングでは抑制されない。 感度が高く、副腎腫瘍性との鑑別にも役立つ。ただし非副腎疾患やストレスで偽陽性が出やすい点に注意。
ACTH刺激試験 最もよく行われる検査。合成ACTHを投与し、投与前後のコルチゾールを測定。クッシングでは過剰反応を示す。 治療モニタリングにも使用。医原性クッシングの鑑別にも重要。
尿中コルチゾール/クレアチニン比(UCC) 尿中のコルチゾールとクレアチニンの比率を計測。 採尿が自宅でも可能。スクリーニングに有用。

超音波検査(エコー)で両側の副腎の大きさ・形態を確認します。
下垂体性では両側副腎が対称的に肥大し、副腎腫瘍性では腫瘍側が肥大する一方、対側の副腎はACTH低下により萎縮・小型化する場合が多いです。この左右差がタイプ鑑別の重要な手がかりになります。
MRI/CTは下垂体腫瘍の存在確認や、副腎腫瘍の転移・浸潤評価に用いられる場合があります。


クッシング症候群の治療の目的は「コルチゾールの過剰分泌を抑制し、症状を改善してQOL(生活の質)を保つこと」です。タイプによって方針が異なりますが、内科的治療(薬剤治療)が中心となります。

下垂体性・副腎腫瘍性のどちらにも、コルチゾールの合成や分泌を抑制する薬剤を用います。
詳しくは次章で解説します。治療は基本的に終生継続となります。

副腎腫瘍性で良性かつ切除可能な場合、外科的切除が根治につながる可能性があります。
一方、下垂体性では下垂体腫瘍の摘出術や放射線治療が根本的な治療ですが、実施できる施設は限られており、治療リスクもあるため内科治療を行うことがほとんどです。

ステロイド薬の長期使用が原因のため、獣医師の指示のもとで少しずつ減量します。
突然の中止は「副腎クリーゼ」(急性のショック症状)を引き起こす危険があるため、自己判断でやめてはいけません。


クッシング症候群の内科治療薬は、作用機序がそれぞれ大きく異なります。いずれも獣医師の処方・指示のもとで使用し、定期的なモニタリングが必須です。

項目 内容
作用機序 副腎でコルチゾールを合成する酵素(3β-HSD)を選択的に阻害し、産生を抑制する。副腎を破壊せず「合成を抑える」可逆的なアプローチを行うため、ミトタンよりも安全性が高く第一選択薬として用いられる。
効果 投与開始から数日〜2週間で多飲多尿・食欲の改善が始まることが多い。脱毛の改善には数か月を要する場合もある。
注意点・副作用 過剰投与による副腎壊死・副腎クリーゼ(嘔吐・虚脱・元気消失)が最大リスク。電解質バランスや肝酵素への影響も定期的に確認する。
モニタリング 投与開始後10〜14日目にACTH刺激試験でコルチゾールを確認し用量調整。以降は1〜3か月ごとに継続する。検査頻度は犬の状態で個別に判断する。
項目 内容
作用機序 副腎皮質細胞を選択的に壊死・萎縮させコルチゾール産生能力そのものを低下させる。「副腎を壊す」ため過剰投与に十分な注意が必要。
効果 導入が成功すると長期寛解が得られる症例もある。
注意点・副作用 副腎クリーゼ・アジソン病への移行リスクもあり、嘔吐・下痢・虚脱が出たら即中止+緊急受診が必要。
現在の位置づけ トリロスタンが普及した現在、使用頻度は減少していますが、トリロスタンが無効な症例や重症例、また入手困難な状況などにおいては、今なお重要な選択肢となる場合があります。なお、本剤は国内において人間用医薬品としてのみ承認されており、動物用医薬品としての承認は受けていません。獣医師が必要に応じて適応外使用することがあります。

クッシング症候群に対する有効性が明確に確認されたサプリメントはありません。
以下は理論的根拠や他疾患でのエビデンスを類推して使われているものです。薬剤治療の代替にはならない点を踏まえたうえ、獣医師の指導の下で適切に使用しましょう。

成分 使用される理由・根拠の現状 製品例
シリマリン(ミルクシスル)・SAMe・タウリン 犬の慢性肝疾患への肝保護作用は獣医学的に認知されており臨床現場でも広く使われている。コルチゾール過剰やトリロスタン投与が肝臓に負担をかけるという理論的背景から補助的に用いられることがある。 リバガード、ヘパアクト
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA) 犬の関節炎・皮膚炎・高脂血症への抗炎症効果は複数の研究で示されている。クッシングに伴う高脂血症・皮膚症状・心血管リスクへの補助として使われることがあるが、クッシング特異的なエビデンスはない。 ANSET(アンセット)、モエギタブ

  • 多飲多尿・腹部膨満・脱毛・多食など、「老化と思いがちな症状」に注意する
  • 確定診断には血液検査・尿検査・ホルモン機能検査・画像検査の組み合わせが必要
  • 副腎クリーゼ(嘔吐・元気消失・虚脱)が出たら即投薬中止・緊急受診
  • 定期的なホルモン検査・血液検査・尿検査で継続的にモニタリングする

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • Feldman EC, Nelson RW, Reusch C, Scott-Moncrieff JC. Canine and Feline Endocrinology, 4th ed. Elsevier Saunders, 2015.
  • Behrend EN, et al. Diagnosis of Spontaneous Canine Hyperadrenocorticism: 2012 ACVIM Consensus Statement. J Vet Intern Med. 2013;27(6):1292-1304.
  • Helm JR, et al. A Comparison of Factors that Influence Survival in Dogs with Adrenal-Dependent Hyperadrenocorticism Treated with Mitotane or Trilostane. J Vet Intern Med. 2011;25(2):251-260.
  • Hoffman JM, Lourenço BN, Promislow DEL, Creevy KE. Canine hyperadrenocorticism associations with signalment, selected comorbidities and mortality within North American veterinary teaching hospitals. J Small Anim Pract. 2018;59(11):681-690.
  • Benchekroun G. Diagnosing Canine Hyperadrenocorticism. WSAVA 2011 Congress Proceedings. VIN, 2011.
  • Merck Veterinary Manual. Cushing Disease (Pituitary-Dependent Hyperadrenocorticism) in Animals. https://www.merckvetmanual.com/ (2024年更新版)
  • Cornell University College of Veterinary Medicine. Cushing’s Syndrome. https://www.vet.cornell.edu/
  • Lemetayer J, Blois S. Adrenal incidentalomas in the dog and cat. J Vet Intern Med. 2011;25(5):974-982.
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  • 共立製薬株式会社. アドレスタン®製品情報. https://kyoritsuseiyaku.co.jp/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html

猫の下部尿路疾患(FLUTD)~尿路結石・膀胱炎の予防と治療~【獣医師執筆】

猫はもともと砂漠の動物であったため、水分を節約するために尿を濃縮する性質をもっています。その反面、尿路に結晶や炎症が生じやすく、泌尿器トラブルを起こしやすい体質でもあります。「何度もトイレに行くのに、おしっこが出ていない」「砂に血が混じっている」——そんなサインに気づいたとき、もしかしたら猫の下部尿路疾患(FLUTD)のSOSかもしれません。今回は、FLUTDの基本から最新の治療薬・サプリメントまで詳しく解説します。


FLUTD(Feline Lower Urinary Tract Disease:猫下部尿路疾患)とは、猫の膀胱から尿道にかけての下部尿路に起こるさまざまな病気や症状の総称です。

FLUTDの主な原因疾患には以下のものが含まれます。①特発性膀胱炎(FIC:Feline Idiopathic Cystitis)、②尿路結石症(尿石症)、③細菌性膀胱炎、④尿道栓子(尿道プラグ)、⑤解剖学的異常や腫瘍などです。このうち最も多いのが「特発性膀胱炎」で、FLUTDの約半分を占めるとされています。次いで尿石症が1/4程度です。

FLUTDは年齢・性別・生活環境に関係なく発症しますが、以下の特徴をもつ猫では発症リスクが特に高いことがわかっています。

リスク因子 詳細
性別(オス) オスの尿道はメスより細長く、結石・炎症産物・粘液が詰まりやすいため「尿道閉塞」を起こしやすい。去勢済みでは尿道粘膜が萎縮してさらに狭くなる傾向がある。
年齢 10歳以上では免疫機能低下・飲水量減少により細菌性膀胱炎が増える。また、糖尿病・慢性腎不全などの基礎疾患を抱える高齢猫は尿路感染症の二次発症リスクが高まる。
肥満・運動不足 肥満猫は活動量が落ちて水を飲まなくなるため尿が濃縮し、ミネラルが結晶化しやすくなる。理想体重の20%以上超過した猫ではFLUTDの発症率が有意に高くなるという報告がある。
食事・水分摂取 ドライフード主体では慢性的な水分不足になりやすい。水分摂取が少ないと尿が濃縮されてミネラルが析出しやすくなる。また、マグネシウム・リンが多い食事はストルバイト結石リスクを高める。
ストレス(特発性膀胱炎の最大のトリガー) 引越し・新入り動物・工事音・トイレ環境の変化・飼い主の生活スケジュール変化などがストレスの要因となり、特発性膀胱炎の発症を助長しやすくなる。

「特発性(とくはつせい)」とは「明らかな原因が特定できない」という意味です。FICは若〜中年齢の猫に多く、検査を行っても細菌や結石が見つからないにもかかわらず、頻尿・血尿・排尿痛などの症状が出現します。

現在の研究では、ストレスが引き金となって神経・内分泌系が乱れ、膀胱の粘膜バリアが崩れることが発症メカニズムの中心と考えられています。膀胱の粘膜を覆っているGAG(グリコサミノグリカン)層が薄くなると、尿の刺激が直接粘膜に伝わり炎症が起きやすくなります。特発性膀胱炎は「治っても再発しやすい」という厄介な側面もあります。

尿石症は、尿中のミネラル成分が結晶化して結石が形成される疾患です。猫で問題になる主な結石には大きく2種類あります。なお、オス猫では結石や炎症産物が細い尿道に詰まる「尿道閉塞」が起こることがあり、48時間以内に急性腎不全や膀胱破裂など命に関わる緊急事態となるリスクもあるため、尿が全く出ない・ぐったりしているなどの状態は直ちに動物病院を受診してください。

結石の種類 特徴・主な発症条件
ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム) 猫で最も多い尿路結石。食事療法で溶解できる可能性のある唯一の結石。アルカリ性尿(pH7.0以上)で形成されやすく、細菌感染(ウレアーゼ産生菌)が関与することもある。若〜中年齢の猫に多い。フードを変更して1〜2か月目あたりは要注意。
シュウ酸カルシウム 酸性尿(pH6.0以下)で形成されやすく、一度形成されると食事で溶かすことができない硬い結石。中〜高齢猫(7歳以上)に多い。

細菌性膀胱炎は、大腸菌・ブドウ球菌などの細菌が尿道から膀胱に侵入して増殖することで起こります。若い猫では比較的少ない(約1〜5%)ですが、10歳以上の高齢猫・糖尿病・ステロイド長期使用・慢性腎臓病を抱える猫では頻度が増えます。細菌性膀胱炎は抗生物質治療が必要で、放置すると細菌が腎臓に上行して腎盂腎炎を引き起こすこともあります。


FLUTDはじわじわと進行するため、初期段階では「なんとなくトイレの回数が増えた」程度しか気づかないことも多くあります。以下のサインに一つでも心当たりがあれば、早めに動物病院を受診してください。

症状 背景・要因
頻尿 炎症・痙攣・閉塞により残尿感が生じる。何度もトイレに行くが少量しか出ない、全く出ない場合は要注意。※健康な猫のトイレ回数は1日2〜4回が目安。
血尿 膀胱・尿道粘膜が傷ついて出血する。ピンク色〜赤色の尿がでる。肉眼では赤くみえなくても尿検査をすると血尿(+)のこともある。
排尿困難・排尿時の鳴き声 炎症の痛みや物理的閉塞が排尿を妨げる。力んでも尿が出ない場合は尿道閉塞を疑う。
食欲低下・元気消失 排尿痛による全身ストレスが原因。尿道閉塞が進むと尿毒症となり、吐き気・倦怠感・体温低下が現れる。
腹部膨満・嘔吐 尿道閉塞により膀胱が過拡張した状態。急性腎傷害・尿毒症に進行しており、至急の受診が必要。

FLUTDの診断で最も基本となる検査です。新鮮な尿を採取し、以下の項目を確認します。動物病院で直接採尿するのが確実ですが、自宅で採尿する場合は採取後すぐに検査に持っていきましょう。

検査項目 内容
①尿比重 腎臓の尿の濃縮機能の目安。猫では1.035を下回ると腎臓の濃縮機能低下が疑われる。
②尿pH ストルバイトはpH7.0以上のアルカリ性で形成されやすく、シュウ酸カルシウムは酸性側で形成されやすい。
③尿沈渣 顕微鏡で結晶・細菌・白血球・赤血球の有無を確認する。
④尿タンパク・潜血 炎症・出血の有無を確認する。

細菌性膀胱炎が疑われる場合に実施します。尿を培養して細菌の種類を特定し、どの抗生物質が効くかを特定します。培養結果が出るまで3〜7日かかるため、結果待ちの間は経験的に選んだ抗生物質を先行投与することが多いです。

超音波(エコー)検査は必須の検査です。結石の有無、腎臓〜尿管〜膀胱〜尿道の状態(蓄尿の状況も含む)を確認します。レントゲン検査は結石の形や数、位置などを把握するために行います。

尿道閉塞が続いた場合、腎臓への逆流圧がかかり腎機能が急激に低下することがあります(急性腎傷害:AKI)。血液検査ではBUN(血液尿素窒素)・クレアチニン・リン・カリウムなどの電解質を測定し、腎機能障害の有無と重症度を確認します。


予防と治療において最も重要なのが、「食事の見直し」と「水分摂取量の増加」です。尿が十分に薄まると結晶が析出しにくくなり、膀胱粘膜への刺激も大きく軽減されます。水分は複数箇所への水皿設置・流水器の導入・ウェットフードの活用など工夫して増やし、疾患タイプに合った療法食を選ぶことが再発予防の土台となります。

【療法食の選び方】

疾患タイプ 概要・代表製品
ストルバイト結石 低マグネシウム・尿酸性化設計の療法食(pH6.0〜6.5)でストルバイトを溶解・予防できる。ウェットタイプが特に有効。酸性化しすぎるとシュウ酸カルシウムリスクが高まるため、定期的な尿pH測定が必要。
【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O、ヒルズ s/d、ヒルズ c/dマルチケア
シュウ酸カルシウム結石 食事では溶かせないため完治には外科処置が必要。予防は水分摂取増加と、尿を過度に酸性化しない食事が基本。ストルバイト用の強酸性化食を誤って与えると悪化する場合があるため注意が必要。
【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O、ヒルズ c/d マルチケア
特発性膀胱炎(FIC) 高水分食(ウェットフード主体)が最優先。ストレスケア成分(加水分解ミルクタンパク・トリプトファン)配合フードも有効。食事の急な変更もストレスになるため、1〜2週間かけて段階的に移行する。
【代表製品】ロイヤルカナン ユリナリーS/O+CLT、ヒルズ c/d マルチケア コンフォート

※療法食は自己判断で選ぶと、結石の種類によっては逆効果になる恐れがあります。必ず検査結果に基づき、獣医師の指導下で選びましょう。

特発性膀胱炎の再発予防に欠かせないのが、猫が毎日安心して過ごせる環境づくりです。トイレは「頭数+1個」を目安に常に清潔に保ち、キャットタワーや押し入れの隅など高い場所・隠れ場所を用意することで猫の安心感が高まります。じゃらし棒やパズルフィーダーを使った遊びを1日2回程度行うことでストレスを解消し、運動不足と肥満の予防にもなります。多頭飼育では食器・水飲み場もそれぞれに用意し、猫同士が資源をめぐって競合しない環境を整えましょう。

尿道閉塞の緊急処置として、まず麻酔下でカテーテルを尿道から挿入して閉塞を解除します。その後、膀胱内を洗浄して安定化させ、入院管理を行います。食事療法で溶解できないシュウ酸カルシウム結石が膀胱内に留まる場合は、外科手術が必要な場合もあります。また、繰り返す閉塞に対しては、尿道を広げる「会陰尿道瘻術」が選択されることもあります。


直接的に症状を治療できる内服薬はないため、細菌感染やFLUTDを予防するためのサプリメントが中心となります。使用にあたっては必ず獣医師に相談しましょう。

細菌性膀胱炎の治療には抗生物質(抗菌薬)が必須です。自己判断で投薬を中断すると耐性菌が生じるリスクがあるため、獣医師の指示に従って最後まで飲み切ることが重要です。

成分名(製品名) 系統 特徴・注意点
エンロフロキサシン(エンロクリア錠・バイトリル錠) ニューキノロン系 広域スペクトルを持ち、難治例・再発例の二次選択薬として使用されることが多い。猫では高用量・長期投与で網膜障害(失明)のリスクが報告されている。
オルビフロキサシン(ビクタスSS錠) ニューキノロン系 犬猫に適応をもつ動物用ニューキノロン系抗菌薬。グラム陽性菌・陰性菌に広域スペクトルをもつ。尿中移行性が高い。

サプリメントを組み合わせることで、より包括的なケアが可能になります。サプリメントは補助的なものであり、薬剤の代替にはなりませんので、獣医師の指示の下で食事療法などその他の治療と合わせて活用しましょう。

成分・カテゴリー 製品例 特徴・期待される効果・注意点
クランベリーエキス+ウラジロガシエキス+GAG(N-アセチルグルコサミン) ・ウロアクトプラス
・ウロアクトシロップ
【複合型泌尿器サプリ】
クランベリーエキスが細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、N-アセチルグルコサミンがGAG層を補強して粘膜を保護。ウラジロガシエキスは利尿・尿石溶解をサポート。シュウ酸カルシウム結石の場合は悪化のリスクがあるため注意が必要。
クランベリーエキス主体(プロアントシアニジン) ・PEクランベリーU液
・PEクランベリーチュアブル
細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、細菌性膀胱炎の再発予防が期待される。シュウ酸カルシウム結石の場合は悪化のリスクがあるため注意が必要。
オメガ3脂肪酸 ・アンチノールプラス 【EPA・DHA】
モエギイガイ由来の脂肪酸複合体PCSO-524にクリルオイルを配合した海洋性脂質(EAB-277)が主成分。EPA・DHAをはじめ91種類の脂肪酸を含み、抗炎症作用により膀胱の慢性炎症緩和が期待される。関節・皮膚・腎臓ケアとの兼用もできる。
鎮静系サプリメント ・フェリウェイ各種
・ジルケーン
ストレスを緩和する目的で使用。ジルケーンは牛乳由来カゼインをトリプシン加水分解した「α-カソゼピン」が主成分。脳のGABA受容体に働きかけて不安・興奮を和らげる効果が報告されている。
N-アセチルグルコサミン+ヒアルロン酸+L-トリプトファン ・シストファン 【膀胱粘膜保護・ストレスケア】
N-アセチル-D-グルコサミンとヒアルロン酸が膀胱粘膜層の健康を維持し、L-トリプトファンが環境変化などのストレスケアをサポートする。膀胱粘膜保護とストレス緩和の両面に働く。
クランベリー由来プロアントシアニジン+マンナンオリゴ糖+プロバイオティクス ・シストプロ 【細菌性膀胱炎予防・腸内環境サポート】
クランベリー由来プロアントシアニジンが細菌の膀胱粘膜付着を阻害し、マンナンオリゴ糖とプロバイオティクスが腸内環境を整えることで免疫機能をサポートする。細菌性膀胱炎の再発予防補助として使用。
N-アセチルグルコサミン+L-テアニン+ハイビスカスフラワーエキス ・フェルロ 【膀胱粘膜保護+ストレスケア】
N-アセチルグルコサミンが膀胱細胞の健康をサポートし、L-テアニン(緑茶抽出ポリフェノール)が猫の安心ケアを、ハイビスカスフラワーエキスが健康な膀胱環境と尿の性状維持をサポートする。液体タイプでフードにかけて与えやすい。

猫の下部尿路疾患(FLUTD)は「一度なったら終わり」ではなく、再発防止が最も大切です。適切な食事管理と水分補給、ストレスを与えないような環境づくりを心がけましょう。

  • 毎日のトイレチェックを習慣化する(回数・量・色・においの変化に敏感になる)
  • 水分摂取を増やす工夫をする(流水器の導入・ウェットフードの活用・複数箇所への水皿設置)
  • ストレスを減らす環境整備(十分なトイレ数・隠れ家・遊びの機会)を徹底する
  • 尿石症の種類を把握したうえで、その子に合った療法食・食事管理を続ける
  • 「尿が全く出ない」「元気がない」「腹部が張っている」は緊急サイン。すぐに受診する
  • 薬剤・サプリメントの使用は必ず獣医師の指示のもとで。自己判断での使用は避ける
  • Buffington CA, et al. Pandora syndrome in cats. J Vet Intern Med. 2022;36(1):4–11.
  • Westropp JL, et al. Feline lower urinary tract disorders. In: Ettinger SJ, Feldman EC, Cote E, eds. Textbook of Veterinary Internal Medicine. 8th ed. Elsevier, 2017.
  • Dorsch R, et al. Feline lower urinary tract disease in a German cat population. Tierarztl Prax Ausg K Kleintiere Heimtiere. 2014;42(4):231–239.
  • エランコジャパン株式会社. バイトリル錠 添付文書. https://my.elanco.com/jp/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html
  • ビルバック ジャパン株式会社. フェルロ 製品情報. https://www.virbac.com/jp/
  • アントパック株式会社. シストファン・シストプロ 製品情報. https://antpack.co.jp/
  • 日本全薬工業株式会社. ウロアクトプラス 製品情報. https://www.nippon-zenyaku.co.jp/
  • 大日本住友製薬株式会社. ビクタスSS錠 添付文書. https://ds-pharma.jp/

『僧帽弁閉鎖不全症』犬で最も多い心疾患について解説【獣医師執筆】

犬の心臓病のなかで、最も多く見られるのが「僧帽弁閉鎖不全症(MVD:Mitral Valve Disease)」です。特に小型犬の高齢期に多く発症し、チワワ・マルチーズ・ポメラニアン・キャバリア・シーズーなどでは珍しくない疾患です。「最近咳が増えた気がする」「なんだか息切れが早くなった」──そんなサインに気づいたとき、もしかしたら心臓がSOSを出しているかもしれません。

8歳以上の小型犬では、半数以上が何らかの心臓疾患を抱えているとも言われており、早期発見・早期対応が愛犬の寿命と生活の質を大きく左右します。
今回は、僧帽弁閉鎖不全症の基本から最新の治療薬・サプリメントまで詳しく解説します。


犬の心臓は人と同じく4つの部屋(左心房・左心室・右心房・右心室)に分かれており、全身に血液を送り出すポンプとして働いています。このうち「左心房」と「左心室」の間にある弁が「僧帽弁(そうぼうべん)」です。正常な状態では、僧帽弁は左心室が収縮する(血液を送り出す)タイミングで完全に閉じることで、血液が左心房へ逆流するのを防ぎます。ところが、この弁の組織が変性・肥厚・変形することで完全に閉じなくなると、収縮のたびに一部の血液が逆流してしまいます。これが「僧帽弁閉鎖不全症」の本質です。

逆流が続くと、左心房・左心室に過剰な血液が蓄積し、心臓は「もっと頑張らなければ」と過剰に働き続けます。その結果として心臓が拡大し、やがては肺への血液うっ滞(肺水腫)や全身への血流低下が起こります。

僧帽弁閉鎖不全症は遺伝的な素因が非常に強く、チワワ・マルチーズ・ポメラニアン・シーズー・ダックスフンド・コッカースパニエルなどの小型〜中型犬種で発症率が高いことが知られています。

中でもキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(CKCS)は特に注意が必要な犬種で、2〜3歳という若齢で心雑音が確認される例も珍しくありません。8歳以上の小型犬では、半数以上が何らかの心臓疾患を抱えているとも言われています。


僧帽弁閉鎖不全症は、国際的な獣医内科学会(ACVIM)のコンセンサスガイドライン(2019年改定)によりステージA〜Dの4段階に分類されます。ステージによって治療方針・投薬開始タイミングが異なります。

ステージ 状態 概要・治療方針の目安
ステージA 発症リスク群 心臓病はまだない。好発犬種・遺伝リスクあり。定期スクリーニング推奨。
ステージB1 無症候・心拡大なし 心雑音あり・心拡大なし。原則投薬不要。年1〜2回の定期検査で経過観察。
ステージB2 無症候・心拡大あり 心雑音あり+心エコー/X線で心拡大確認。状況により投薬が推奨される段階。
ステージC 心不全症状あり 咳・呼吸困難・運動不耐性などが出現。利尿薬・ACE阻害薬・強心薬を組み合わせて積極治療。
ステージD 難治性心不全 標準治療に反応しない重篤な心不全。薬剤追加・専門管理・手術検討が必要。

僧帽弁閉鎖不全症はじわじわと進行するため、初期段階(B1)では「なんとなく元気がない」程度しか出ないことも多く、気づきにくいのが特徴です。
以下のサインに一つでも心当たりがあれば、早めに動物病院を受診してください。

症状 背景となるメカニズム
咳・空咳 心臓の拡大が気管を圧迫することで生じる。肺水腫(肺への血液うっ滞)が起きると悪化する。
運動不耐性(すぐ疲れる・歩くのを嫌がる) 心拍出量の低下により以前より早く疲れる。散歩途中で立ち止まる、抱っこを求めるなどの変化が見られる。
呼吸が速い・荒い・腹式呼吸 肺に水が溜まる(肺水腫)と呼吸が苦しくなる。特に安静時・睡眠時の呼吸数増加は要注意。
失神・虚脱 重度の心拍出量低下や不整脈で一時的に意識を失うことがある。
腹部膨満 重症化すると、病態によっては腹水が溜まりお腹が丸く膨らんで見える場合がある。
食欲低下・体重減少 全身の血流低下が続くと食欲も落ち、筋肉量が減る「心臓悪液質」が生じることがある。

【要注意サイン】
安静時(寝ているとき)の呼吸数が1分間に40回を超える場合は、肺水腫の可能性などを考慮し、元気でも念のため病院を受診されることをおすすめします。日頃から「睡眠時呼吸数モニタリング」(横に寝ているときに胸の上下を1分間数える)を習慣にしましょう。


まず動物病院で行われるのが聴診です。僧帽弁閉鎖不全症では逆流する血液が弁を通過する際に「心雑音(しんざつおん)」が生じます。雑音の強さはGrade 1〜6に分類され、Grade 3以上になると心拡大を伴っている可能性が高まります。ただし雑音の大きさだけでは重症度は判断できないため、画像検査・血液検査が不可欠です。

心臓の大きさや形・肺の状態を確認します。心拡大の指標として「VHS(椎骨心臓スコア)」が使われ、犬の平均は9.7±0.5とされています(犬種によって基準値が異なる場合があります)。肺水腫が起きていると肺野が白く映るため、緊急性の判断にも重要な検査です。

ステージ判定と治療方針決定に欠かせない最重要検査です。
弁の逆流の程度・心腔の大きさ・心機能(短縮率・駆出率)などを定量的に評価できます。心雑音が聴取されたら、定期的に心臓の超音波検査を行い、進行の有無など経過を細かく確認していきます。

血液検査は、心臓への負荷・ダメージを客観的に示すバイオマーカーの測定と経時的なモニタリングが重要です。近年は心臓専門マーカーの測定が普及しており、早期スクリーニングや治療効果の評価に活用されています。

検査項目 内容と意義
NT-proBNP(N末端プロBNP) 心筋が過剰なストレスを受けると放出されるホルモン前駆体。心臓病スクリーニングの最も重要なバイオマーカーの一つ。心拡大の程度に比例して高値になり、B1とB2の鑑別や治療効果のモニタリングにも有用。主に外注検査でチェックするが、簡易キットも普及している。
cTnI・cTnT(心筋トロポニン) 心筋細胞が傷害を受けると血中に漏れ出るタンパク質。急性の心筋ダメージや不整脈の評価に有用。近年普及した高感度トロポニン(hs-cTnI)は早期の心筋障害をより精度高く検出できる。

僧帽弁閉鎖不全症は現時点では内科的治療で「完治」させることはできません。
治療の目的は「心不全の発症を遅らせること」「心不全症状をコントロールしてQOLを保つこと」「できる限り長く、快適に生きられるようサポートすること」です。
治療は薬剤・食事療法・環境管理・手術を状態に応じて組み合わせます。

心臓病の犬には塩分(ナトリウム)を控えた食事が推奨されます。市販の心臓サポート食(療養食)は塩分制限に加え、オメガ3脂肪酸・タウリン・カルニチンなど心臓に有益な成分が配合されています。食欲不振の犬に無理に療養食を与えると栄養不足を招くため、まず「食べること」を優先しながら段階的に切り替えていくのが基本です。

ステージB1〜B2では激しい運動を避けつつ、適度な散歩は継続することが推奨されます。ステージCになると心臓への負担を抑えるための運動制限が必要です。獣医師の指示のもと、愛犬の状態に合わせた運動量を設定してください。

高温多湿の環境では心拍数が増加して心臓への負担が急増します。室内温度・湿度の管理を徹底し、夏の散歩は早朝・夕方の涼しい時間帯に短時間で行うようにしましょう。花火や工事音など興奮・ストレスの原因も心拍数を上げる原因となるため注意しましょう。

近年、「僧帽弁修復術(Mitral Valve Repair)」によって根本的な完治を目指せるようになりました。実施できる施設は国内でもごく限られた専門病院のみで費用も高額ですが、手術成績は向上しており、ステージB2〜Cの段階でかかりつけ医に相談しておくことで適応の幅が広がります。


「主軸となる心不全治療薬」「サプリメント(継続補助)」をまとめて解説します。なお、本内容は学術情報・各製品の添付文書情報に基づくものであり、使用にあたっては必ず獣医師の指示に従ってください。

以下の薬剤はACVIMガイドラインに基づいて処方される中心的な薬です。
ステージが進むにつれて複数の薬を組み合わせて使用するのが一般的です。

成分(製品名) 特徴・役割
ピモベンダン
(dsピモハート、ピモベハート)
心筋の収縮力を高める強心作用+血管拡張作用。ステージB2からの早期投与が推奨される第一選択薬。EPIC試験(※)で心不全発症までの期間が大幅に延長されるとの報告がある。カルシウム感受性を高めることで心筋収縮力を上げるため、従来の強心薬より不整脈を誘発しにくいとされる。食前1時間の空腹時投与が吸収率の点で望ましい。
ベナゼプリル塩酸塩
(フォルテコール、ベナゼハート)
血管拡張で心臓の負担を軽減するACE阻害薬。心リモデリング(病的変形)の抑制効果もある。フレーバー錠で投薬しやすい。腎臓への保護作用も報告されており、心臓病に伴う腎機能低下が懸念される症例にも使われる(状態による)。
アラセプリル
(アピナック)
日本で開発されたACE阻害薬。RAA系を介する血管拡張作用に加え、RAA系を介さず末梢交感神経を直接抑制するトリプルアクションを持つ。代謝物のSH基による活性酸素消去作用もある。他のACE阻害薬からの切り替えで咳の改善が見られた報告も。
フロセミド
(ループ利尿薬)
体内の余分な水分を尿として排出し肺水腫・体液貯留を改善。ステージCから主軸に。緊急時は注射で速効投与。電解質バランスへの影響があるため定期血液検査が必要。
トラセミド
(アプカード)
1日1回で長時間効く強力な利尿薬。フロセミドより耐性が生じにくいため、長期管理の切り替え薬として選ばれることが増えている。腎機能モニタリングが必要。
スピロノラクトン
(抗アルドステロン薬)
アルドステロン阻害で心リモデリングを抑制。カリウム保持作用がありフロセミドとの相乗効果が期待できる。ACE阻害薬と組み合わせてよく使われる。
アムロジピンベシル酸塩
(カルシウム拮抗薬)
強力な血管拡張で血圧を下げる。ステージ進行・肺高血圧・高血圧合併例で追加されることがある。

※EPIC試験とは:心拡大が認められるB2ステージの犬にピモベンダンを症状が出る前から投与し、投薬なし群と比べて心不全発症までの期間が約15か月延長されることが示された試験。この結果が2019年のACVIMガイドライン改定でB2への早期投与推奨が盛り込まれた根拠となっています。

薬剤治療を補う目的でサプリメントを組み合わせることで、より包括的な心臓ケアが可能になります。
ただし、サプリメントはあくまで補助的なものであり、薬剤の代替にはなりません。獣医師と相談のうえ活用してください。

成分名 特徴・期待される効果
タウリン・L-カルニチン 心筋のエネルギー代謝を支えるアミノ酸。拡張型心筋症との関連で注目されており、心臓サポート用サプリに広く配合されている。
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA) 抗炎症・心臓の炎症を抑える効果が期待される。心臓悪液質(体重減少・筋肉量低下)の予防にも有益とされる。心臓療養食に含まれる場合も多く、魚油サプリで別途補うことも可能。
ビタミンE・ビタミンC 心臓への酸化ストレスを軽減することが期待される抗酸化ビタミン。ビタミンEは細胞膜の酸化を防ぎ、ビタミンCはビタミンEの再生にも働く。心臓ケアサプリの成分として広く用いられている。

  • 年に1〜2回は聴診・X線・心エコー・血液検査(NT-proBNP等)を受け、早期にステージを把握する。
  • 安静時呼吸数モニタリングをご自宅で習慣化する(40回/分超えは緊急受診)。
  • ステージB2以上では、獣医師の判断のもとピモベンダンの早期開始を検討する。
  • 夏と冬は温度管理(室温22〜26℃目安)と湿度の管理が特に重要。
  • 食事・サプリメント・薬剤・環境管理を組み合わせた総合的なアプローチが大切。

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、適切な早期発見と継続的な治療管理によって、その後の経過を大きく変えることができる病気です。大切な愛犬が少しでも長く元気に過ごせるよう、日々の観察と定期検査を続けていきましょう。

  • Boswood A, et al. Effect of Pimobendan in Dogs with Preclinical Mitral Valve Disease and Cardiomegaly (EPIC Study). J Vet Intern Med. 2016;30(6):1765-1779.
  • Keene BW, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J Vet Intern Med. 2019;33(3):1127-1140.
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  • エランコジャパン株式会社. フォルテコール錠フレーバー・フォルテコールプラス添付文書. https://my.elanco.com/jp/
  • 共立製薬株式会社. ピモベハート錠 添付文書. https://kyoritsuseiyaku.co.jp/
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース. https://www.maff.go.jp/nval/index.html
  • ねこあざらし薬店. 心臓病の薬(要・犬)商品ページ. https://nekoazarasi.com/

猫の慢性腎臓病について。治療薬とともに詳細を解説【獣医師執筆】

猫の慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、猫に最も多く見られる病気の一つです。
シニア猫(7歳以上)の約3割が何らかの腎機能低下を抱えているとされており、特に高齢になるほど有病率は高まります。腎臓は一度ダメージを受けると機能が回復しない臓器であるため、「気づいたときには手遅れ」になりやすいのが最大の問題です。

だからこそ、早期発見と適切な管理が愛猫の寿命と生活の質(QOL)を大きく左右します。
今回は、猫の慢性腎臓病の基本から近年の最新情報まで詳しく解説していきます。


腎臓は血液をろ過して老廃物・毒素を尿として排出する臓器ですが、それだけではありません。血圧の調節、造血ホルモン(エリスロポエチン)の分泌、電解質(カリウム・リン・ナトリウム)のバランス維持、活性型ビタミンDの産生など、全身の恒常性維持に深く関わっています。

国際腎臓病研究グループ(IRIS:International Renal Interest Society)が定めた分類では、血中クレアチニン値・SDMA値・尿タンパク・血圧を組み合わせてCKDをステージ1〜4に分類します。

ステージ クレアチニン(猫) SDMA 臨床的な状態の目安
ステージ1 <1.6 mg/dL <18 µg/dL 腎機能低下はあるが症状なし(非azotemia=血中老廃物は正常範囲)
ステージ2 1.6〜2.8 mg/dL 18〜35 µg/dL 軽度の低下。症状は軽微なことが多い
ステージ3 2.9〜5.0 mg/dL 36〜54 µg/dL 中等度。食欲不振・体重減少・多飲多尿が出始める
ステージ4 >5.0 mg/dL >54 µg/dL 重度の腎不全。嘔吐・衰弱・口臭(アンモニア臭)が顕著

猫はもともと砂漠起源の動物で、少ない水分で効率よく生きていくための特殊な生理機能を持っています。尿を高度に濃縮して排泄できる反面、その濾過装置である腎臓には常に高い負荷がかかり続けるという側面があります。

また、猫は肉食動物としてタンパク質を主なエネルギー源とするため、代謝産物(尿素窒素など)の処理量が多く、いわば「腎臓をフル稼働させなければならない」身体の仕組みを持っています。

さらに、近年の研究ではウイルス感染(FIV・FeLV)や歯科疾患による慢性炎症が腎臓へ悪影響を及ぼすことに加え、「AIMタンパク質の不活性化」という猫特有の遺伝的特性が慢性腎臓病(CKD)の大きな引き金となっていることも明らかになってきました。


CKDはじわじわと進行するため、初期段階では「なんとなく元気がない」「水をよく飲む」程度の変化しか出ないことが多く、飼い主が気づきにくいのが特徴です。
もし以下の項目にひとつでも心当たりがある場合は、体内では見た目以上に進行しているサインかもしれません。一度、健康診断を兼ねて動物病院で相談してみることをおすすめします。

症状 背景となるメカニズム
多飲・多尿 腎臓の濃縮能力が低下し薄い尿が大量に出るため、補うように水分摂取が増える
食欲低下・体重減少 尿毒症物質の蓄積による食欲中枢への影響と、食事量の低下
嘔吐・下痢・便秘 消化管粘膜への尿毒症の影響。便秘は脱水の影響。
口臭(アンモニア臭) 血中に増えた尿素窒素が唾液中で分解されアンモニアが発生する
毛並みの悪化、毛艶の低下 栄養状態の悪化とグルーミング意欲の低下
元気の低下・ぐったり 腎性貧血や低カリウム血症による全身倦怠感
突然の失明・眼底出血 腎性高血圧が原因。高血圧性網膜症として現れることがある

CKDの診断と進行度の評価において、血液検査は最も基本的かつ重要な検査です。腎臓がどれだけの老廃物をろ過・排泄できているかを複数の指標から把握することで、ステージの判定や治療効果の確認を行います。

検査項目 検査項目の示す内容
尿素窒素(BUN) タンパク質が分解される際に生じる老廃物。腎機能が低下すると排泄できず血中に蓄積する。ただし食事内容・脱水・消化管出血によっても変動するため、単独では判断しにくい
クレアチニン(Cre) 筋肉の代謝産物で、腎臓でろ過・排泄される。腎機能低下で血中濃度が上昇する代表的な指標。ただし腎不全初期には上がりにくく、筋肉量が少ない猫では低く出やすいなど、早期の異常を見逃す可能性がある
SDMA(対称性ジメチルアルギニン) 腎機能が約25〜40%低下した段階から早期に上昇する指標。クレアチニンより感度が高く、筋肉量の影響も受けにくいため、近年の早期発見に欠かせないマーカーとなっている
リン(P) 食事から摂取されるミネラルで、腎臓から排泄される。腎機能低下で血中に蓄積し、腎臓の線維化(正常組織が機能を持たない繊維組織に置き換わること)を加速させる。
カリウム(K) 神経・筋肉の機能に欠かせない電解質。CKD猫では多尿により失われやすく、低カリウム血症になりやすい。
ヘマトクリット・赤血球数 血液中の赤血球の割合。腎臓から分泌される造血ホルモン(エリスロポエチン)が低下すると貧血が起こりやすく、倦怠感・食欲低下の原因となる。

尿検査は、血液検査と並んで病気の早期発見に欠かせない重要なステップです。腎臓の大きな役割の一つに、体内の水分を逃さないよう尿をギュッと濃縮する働きがありますが、この能力を数値化したものが「尿比重」です。

健康な猫の腎臓は、少ないお水で老廃物を効率よく捨てるために、通常は「1.035以上」という非常に濃い尿を作ります。しかし、腎臓の機能が落ちてくると、この「濃縮する力」自体が弱まり、お水に近い薄い尿(1.010〜1.020程度)しか作れなくなってしまいます。

CKD猫の約60〜70%で高血圧が認められるとされています。高血圧は腎臓の細血管にさらなるダメージを与え、腎障害の悪化を加速させる悪循環を生み出します。また、重度の高血圧は突然の失明(高血圧性網膜症)を引き起こすこともあるため、定期的に血圧をチェックすることが大切です。

目安として、収縮期血圧(上の血圧)が160mmHg以上で治療の対象となり、180mmHgを超えると失明などの重大なリスクが高まります。ただし、病院での緊張で血圧が上がることもあるため、安静時の数値を慎重に見極める必要があります。


慢性腎臓病は現時点では「完治」できない病気です。
治療の目的は腎機能のさらなる低下を防ぎ、快適に長く過ごせるようサポートすることです。
治療は食事療法・サプリメント摂取・薬剤・輸液療法をメインとして、これらを組み合わせて行います。

食事管理はどのステージでも最優先の対策です。
腎臓療養食への切り替えを基本としつつ、以下のポイントを意識した食事内容を心がけてください。

チェックポイント ポイント詳細
リンを低く抑える リンの蓄積は腎臓の線維化を加速させる。腎臓療養食への切り替えや、リン吸着サプリを併用する。
タンパク質は量より質 BUNの上昇を抑えるため、たんぱく質を抑えた食事が推奨されるが、過度に制限すると筋肉量が落ち体力低下につながる。適度に抑えつつ消化吸収のよい良質なタンパク源を選ぶ。
水分をしっかり摂取 ウェットフードや飲水量を増やす工夫で腎臓への血流を維持する。
塩分(ナトリウム)を控える 過剰な塩分は血圧上昇・腎臓への負担増加につながる。おやつや一般食の塩分量にも注意。
オメガ3脂肪酸の摂取 EPA・DHAには抗炎症・腎保護効果がある。腎臓療養食に含まれるほか、魚油サプリで別途補うことも可能。
「食べること」を優先 食欲不振の猫に無理に療法食を強いると、栄養失調を招く可能性も。食べてくれる食事を優先し、段階的に療養食への切り替えを。

血液検査などの結果を踏まえ、必要に応じて薬剤やサプリメントを、それぞれの状態に応じて組み合わせて摂取します。

上記1,2でも数値が悪化する場合や、急性増悪や重篤な脱水・尿毒症を起こしている場合には、腎臓への血流を確保し老廃物を排出しやすくするために輸液療法を行います。過剰な輸液は心臓に負担をかけるため、動物病院での定期的な検査結果に基づき必要な輸液量を細かく調整します。


『①慢性腎不全関連薬』『②サプリメント』『③その他の薬剤』の3つに分けて解説していきます。
なお、下記に関しては農林水産省動物医薬品検査所データベースおよび参考文献、各製品の承認情報に基づきます。
本表は学術情報・公開データに基づく情報であり、特定製品の使用を推奨するものではありません。

製品名(成分) 剤形 特徴
ラプロス
(ベラプロストナトリウム)
錠剤 腎血流改善・抗炎症・抗線維化作用。国内臨床試験でステージ2〜3猫の生存日数延長を報告。
コバルジン
(クレメジン原体)
カプセル・粉末 腸管内で尿毒症物質吸着し血中への吸収を抑える。

ラプロスは2017年に国内で世界初の「猫の慢性腎臓病治療薬」として承認された動物用医薬品です。
腎臓内の細血管を拡張し、血液をろ過する毛細血管の塊である糸球体への血流を改善します。また尿細管の細胞を保護し、炎症や線維化(正常組織が機能を失った繊維組織に置き換わること)を抑える作用が報告されています。
一方で、効果には個体差があり、猫の状況によってはラプロスによって逆に症状が悪化してしまうリスクも存在します。使用する際には必ず獣医師に相談し、定期的な検査で猫の状態を確認することが大切です。

コバルジン(クレメジン原体)は、腸管内で尿毒症物質を吸着し、血中への吸収を抑える経口吸着炭製剤です。腎機能の低下に伴い蓄積する有害物質を体外に排出することで、尿毒症症状の改善・進行抑制を助けます。

FeliAIMは、猫の慢性腎臓病(CKD)に対して、これまでの対症療法とは一線を画す「新しい作用機序」を持つ製剤として注目されています。しかし、2026年4月現在は農林水産省への承認申請に向けた段階にあり、国による製造販売承認はまだ下りていません。そのため、一般の動物病院での販売や処方は開始されておらず、最終的な実用化の時期や具体的な効能、安全性についても、現時点ではあくまで「期待されている段階」の未確定な情報であることに注意が必要です。

この製剤の核となるAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)とは、宮崎徹教授らが発見したタンパク質(CD5L)で、本来は腎尿細管に蓄積した老廃物や死細胞に付着し、マクロファージによる除去を促す「掃除の目印」の役割を担っています。多くの哺乳類ではこの自浄作用が正常に機能しますが、猫は遺伝的にAIMが血液中の免疫グロブリン(IgM)と強力に結合しており、ゴミが発生しても切り離されず「機能不全(休眠状態)」に陥っています。この「掃除ができない」体質が、猫が宿命的にCKDを発症しやすい根本原因の一つと考えられています。

話題となった「L-シスチン」などのアミノ酸は、猫の体内に元々ある休眠状態のAIMをIgMから切り離して活性化させるスイッチの役割を期待したものであり、現在は主に健康維持や予防を目的としたフードやサプリメントに配合され流通しています。対してFeliAIMは、人工的に作製した「最初から活性化した状態の猫AIMタンパク質」そのものを製剤化した治療薬候補です。外から働くAIMを直接補完することで、より強力に老廃物の除去能力をサポートし、病態の維持・改善を目指すものとして開発が進められています。

2026年4月現在、治験を終えて承認申請のプロセスにありますが、今後の審査結果によっては実用化の時期が前後したり、対象となる症状が限定されたりする可能性も多分に含まれています。承認された暁には、実際の臨床現場における長期的な安全性や、ステージ別の有効性について、さらなるデータの蓄積が待たれる画期的な治療薬候補とされています。

薬剤治療と並行して、各種サプリメントを組み合わせることでより包括的なCKD管理が可能になります。猫の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

製品名(成分) 剤形 特徴
カリナール1
(炭酸カルシウム)
パウダー 腸内でリンを吸着・排泄し血中リン濃度の上昇を抑える。無味無臭で食事に混ぜやすい。療法食に切り替えられない猫のリン対策に。
カリナール2
(乳酸菌・フルクトオリゴ糖等)
パウダー 善玉菌が腸内の窒素老廃物を減らし、腸内環境を整える。タンパク制限食を受け入れない猫に特に有効。
カリナールコンボ
(炭酸カルシウム+乳酸菌+オリゴ糖)
パウダー リン吸着+腸内環境改善。3種の乳酸菌を含有。1と2を別々に与えるより少量で済む。
アゾディル
(特定善玉菌 KB19・KB27・KB31)
カプセル 善玉菌が大腸で窒素老廃物を代謝・排泄。1カプセルに150億個以上の生菌数。冷蔵保存が必要。
オメガ3脂肪酸
(EPA・DHA)
液体・カプセル 腎臓の炎症を抑え糸球体への負荷を軽減。腎臓療養食に含まれる場合も多い。魚油サプリで別途補うことも可能。
ビタミンB群・水溶性ビタミン パウダー・錠剤 多尿で失われやすいビタミンを補給。特にビタミンB12は食欲低下が著しい場合に有効とされる。継続的な補給が大切。

以下の薬剤は、CKDに伴う合併症(高血圧・貧血・低カリウム血症・タンパク尿など)が認められた場合に、検査結果と愛猫の状態を見ながら使用します。猫の状況によっては逆に症状が悪化してしまうリスクも存在するため、自己判断での使用は避け、必ず獣医師に相談しましょう。

対象となる合併症・状態 製品名の例(成分・種類) 概要・注意点
高血圧(腎性高血圧) カルシウム拮抗薬(アムロジピンベシル酸塩)、ACE阻害薬(ベナゼプリル塩酸塩) 高血圧の状態が続くと、腎障害がさらに悪化する。血管を拡張して血圧を下げたり、糸球体内圧を下げタンパク尿も軽減する目的で使用する。
腎性貧血 赤血球造血刺激因子製剤(ダルベポエチンアルファ、エポエチンベータ) 腎臓が分泌する造血ホルモンの低下により貧血が起こった場合の補充療法。骨髄抑制などの副作用に注意が必要。
低カリウム血症 カリウム製剤(塩化カリウム、グルコン酸カリウム) 血液検査でカリウム低値を確認してから補給する。過剰投与は高カリウム血症のリスクがある。
タンパク尿 ACE阻害薬(ベナゼプリル塩酸塩)、ARB(テルミサルタン) 糸球体内圧を下げてタンパク尿を軽減する目的で使用する。

猫の慢性腎臓病(CKD)は、適切な早期発見と継続的な管理により、その後の経過を大きく変えることができる病気です。愛猫の腎臓を守るために、特に7歳を超えたら年に1〜2回は血液検査・尿検査を受けることをおすすめします。

  • CKDは7歳以上の猫に特に多く、定期的な血液・尿検査・血圧測定による早期発見が何より重要。
  • 初期には無症状のことが多く、症状が出てからでは進行していることが多い。
  • 治療の4本柱は「食事療法」「サプリメント摂取」「薬剤の内服・注射薬」「輸液療法」。これらを組み合わせて総合的に管理する。
  • ラプロスは国内唯一の猫CKD適応承認薬で臨床試験の生存期間延長データがある一方、個体差があり状況に応じて獣医師と相談が必須。
  • 高血圧・貧血・低カリウム血症・タンパク尿などの合併症は、検査結果に基づき獣医師が必要な薬剤を追加する。自己判断での使用は避ける。
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  • バイエル薬品株式会社. コバルジン添付文書(動物医薬品検査所データベース収載).

犬猫の毛包虫症(ニキビダニ症)について。発症しやすい原因と最新の治療薬について解説【獣医師執筆】

毛包虫症は、「ニキビダニ(Demodex属)」という犬や猫の皮膚にもともと共生しているダニが、何らかのきっかけで異常増殖することで起こる皮膚病です。通常、ダニが寄生すると激しいかゆみが起こる場合が多いですが、毛包虫症では「かゆみがあまりないのに毛が抜ける」という特徴的な症状があり、症状の原因が判明するまで時間がかかりやすい理由でもあります。犬と猫に寄生するニキビダニは主に4種類が知られており、形状・寄生部位・症状・感染性がそれぞれ大きく異なります。今回は4種の違いを詳しく整理したうえで、診断から最新の治療薬まで解説します。


ニキビダニは節足動物門・クモ綱・ニキビダニ科に属するダニで、哺乳類の毛包や皮脂腺に共生していて、目視では確認できないほど小さなダニです。同じく皮膚の下に潜み、目視不可であるヒゼンダニ(疥癬の原因となるダニ)とは分類上まったく異なります。ニキビダニは健康な犬猫の毛包内にも少数が常在しており、免疫機能が正常であれば病気を引き起こしません。発症しやすい素因としては遺伝的な体質・若齢・老齢・基礎疾患による免疫低下などが挙げられており、これらをきっかけにダニが異常増殖することで「毛包虫症(ニキビダニ症)」を発症します。

犬猫に寄生するニキビダニには、主にイヌニキビダニ(Demodex canis)、イヌ短型ニキビダニ(Demodex injai)、ネコニキビダニ(Demodex cati)、猫浅在性ニキビダニ(Demodex gatoi)の4種類があり、それぞれ以下のような特徴があります。
※上記画像はイヌニキビダニ(Demodex canis)

ダニの種類宿主発生割合形状の特徴検出しやすさ
イヌニキビダニ犬の毛包虫症の約95%以上を占める。細長い葉巻き型。体長 約0.25〜0.3mm◎ 比較的検出しやすい。深部皮膚掻爬検査+複数箇所採取が推奨
イヌ短型ニキビダニ稀(数%程度)体が太く短い葉巻き型。体長 約0.34〜0.37mm△ やや困難。皮脂腺の深部に寄生し、検査で発見されにくい。
ネコニキビダニ猫の毛包虫症では最多。イヌニキビダニに似た細長い葉巻き型。体長 約0.2〜0.27mm△ やや困難。深部皮膚掻爬検査が基本。
猫浅在性ニキビダニネコニキビダニと同程度の頻度で報告(地域差あり)体が太く丸みのある短い葉巻き型。体長 約0.17〜0.2mm★ 困難。検出率が低く試験的治療を要することが多い

犬の毛包虫症は、発症パターンによって「局所型(限局型)」と「全身型(汎発型)」の2種類に分けられます。局所型は主に1歳未満の若齢犬に多く、顔・前肢などの限られた部位に脱毛が生じますが、成犬になり免疫力がついてくると自然に治癒する場合もあります。一方、全身型は病変が全身に及び、難治性になることも多く、成犬・老犬での発症では背景に免疫を抑制するような基礎疾患が潜んでいることが少なくありません。

犬の毛包虫症の特徴内容
ニキビダニの種類イヌニキビダニが主、イヌ短型ニキビダニは稀。
感染経路主に分娩時・哺乳期に母犬から子犬へ移行すると言われている。成犬間で感染する可能性は極めて低い。
人への感染犬のニキビダニは人に定着しない(人獣共通感染のリスクはほぼなし)
局所型(限局型)全身型(汎発型)
病変の範囲5か所未満の局所的な脱毛・紅斑5か所以上、または全身・足先(足部型)に広がる
好発年齢免疫力が低い1歳未満の若齢犬に多い若齢〜高齢まで幅広い。特に成犬・老犬での発症は基礎疾患を疑う。
好発部位顔面(目・口の周囲)・前肢など体幹・四肢全体・足先など。
かゆみ軽度orほとんど認められないことも通常は軽度。二次感染が加わるとかゆみが出る
症状の経過自然治癒するケースもある自然治癒は稀。積極的な長期治療が必要
二次感染比較的少ない膿皮症(細菌感染)を合併しやすい

毛包虫症には遺伝的素因が関与することも言われています。以下の犬種を飼っている場合は、若齢時の皮膚の変化に特に注意してください。

  • 短頭種・皮膚のたるみが多い犬:フレンチ・ブルドッグ、イングリッシュ・ブルドッグ、パグ
  • その他:シャーペイ、ダックスフンド、ドーベルマン、ボクサー、スタッフォードシャー・ブル・テリアなど

成犬・老犬で全身型が発症した場合、免疫機能が何らかの原因で低下した状態(免疫抑制状態)にあることが多く見られます。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症、悪性腫瘍、長期的なステロイド投与などが代表例です。ニキビダニの駆除だけでなく、こうした基礎疾患を同時に治療しなければ、症状が一度改善しても再発しやすくなります。

【犬の毛包虫症を疑うべき症状チェックリスト】

  • 顔・目の周り・口周辺、または前肢に円形〜不整形の脱毛がある
  • 脱毛部位の皮膚が赤く、フケ(鱗屑)・かさぶた(痂皮)がある
  • かゆみは軽度〜ほとんどない(疥癬との重要な鑑別ポイント)
  • フレンチ・ブルドッグ、シャーペイなど好発犬種である
  • 1歳未満の子犬で皮膚症状が出ている
  • 成犬・老犬で突然、多発性の脱毛・皮膚炎が出た(基礎疾患の可能性)

これらの症状が複数認められる場合には、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。


猫の毛包虫症は、原因ダニの種類によって症状・感染様式が異なります。毛包深部に寄生するネコニキビダニはかゆみが少なく、免疫が低下した猫で発症しやすい傾向があります。一方、表皮の角質層に寄生する猫浅在性ニキビダニは猫間で感染が広がる感染性を持ち、強いかゆみを伴い、「過剰グルーミング」によって体の左右対称性の脱毛が特徴的に現れます。特に猫浅在性ニキビダニは多頭飼育環境や保護猫との接触を通じてひそかに広がることがあるため注意が必要です。

猫の毛包虫症の特徴内容
ニキビダニの種類ネコニキビダニ(毛包内寄生)、猫浅在性ニキビダニ(角質層寄生・感染性あり)
感染経路ネコニキビダニ:主に分娩時・哺乳期に母猫から子猫へ移行する。猫浅在性ニキビダニ:感染猫との接触・グルーミングで広がる
人への感染猫のニキビダニは人に定着しない
ネコニキビダニ猫浅在性ニキビダニ
寄生部位毛包・皮脂腺の深部表皮の角質層(非常に浅い)
感染性成猫間の感染力は低い★猫間で感染する。接触・グルーミングで広がる
かゆみ軽度★強い。過剰グルーミング・対称性脱毛が特徴
好発部位頭部・耳介・頸部。重症化すると全身へ拡大。体幹・側腹部・四肢。左右対称性の脱毛・鱗屑
自然治癒自然治癒は稀。基礎疾患の治療と並行した駆虫が必要自然治癒は稀。感染源の特定と全頭同時治療が必要
二次感染皮膚の細菌感染を併発する場合もある過剰グルーミングによる皮膚損傷から細菌感染を併発することがある

猫のニキビダニ症は、原因となるダニの種類によってリスク要因が異なります。

ネコニキビダニの場合猫浅在性ニキビダニの場合
🔑 免疫抑制状態が主なリスク
以下の免疫抑制状態にある猫に多い:
・FIV(猫免疫不全ウイルス)陽性
・FeLV(猫白血病ウイルス)陽性
・糖尿病
・悪性腫瘍
・長期的なステロイド投与中
🔑 免疫状態に関わらず感染・発症
以下の環境要因が主なリスク:
・保護猫や外出猫との接触
・多頭飼育環境
・感染猫と同居している

【猫の毛包虫症を疑うべき症状チェックリスト】

以下の症状に当てはまる場合は、動物病院での診断をおすすめします。

ネコニキビダニを疑う症状猫浅在性ニキビダニを疑う症状
・頭部・耳周り・頸部に限局した脱毛がある
・フケやかさぶたが目立つ
・かゆみは少ない、または軽度
・免疫抑制状態にある(FIV/FeLV陽性、糖尿病、悪性腫瘍、ステロイド長期投与中)
・体幹〜側腹部の対称性脱毛がある
・強いかゆみがある
・過剰グルーミング(毛づくろいが異常に多い)
・保護猫や外出猫との接触後に皮膚症状が出た
・多頭飼育環境で複数の猫に同様の症状がある

⚠️ 特に注意:多頭飼育環境で複数の猫に同じ症状が出ている場合、猫浅在性ニキビダニの集団感染の可能性が高いです。


最も基本となる検査であり、ニキビダニを疑う場合は必ず行います。ニキビダニは毛包の深部や皮脂腺に潜んでいるため、皮膚の表面をなでる程度では採取できません。病変部(脱毛・発赤・鱗屑が見られる部位)を手術用のメス刃の背や鈍的な器具(鋭匙)で強めに擦って掻き取り(スクレーピング)、毛包の内容物ごと採取します。採取した組織を顕微鏡用のスライドガラスに広げ、顕微鏡で観察しニキビダニを探します。複数の病変部から採取することで検出率が上がるため、1か所だけでなく複数箇所を採取することが推奨されます。

病変部の皮膚をピンセットや指でつまんで圧迫し、毛包内の内容物をにじみ出させて採取する方法です。①の検査の補助として、または目の周囲など皮膚が薄く強い掻爬が困難な部位に用いられます。絞り出した内容物をスライドガラスに広げ、顕微鏡で観察します。掻爬と組み合わせて使うことで検出率を高めることができます。

ピンセットで病変部付近の毛を数本引き抜き、毛根部(毛球部)を顕微鏡で観察する検査です。毛包内に寄生しているニキビダニが毛根に付着した状態で観察できることがあります。侵襲が少なく犬猫への負担が軽いため、目の周囲など繊細な部位や、痛みを嫌がる動物への補助的な検査として活用されます。①や②と組み合わせて用いるのが一般的です。


毛包虫症(ニキビダニ症)の治療は、ニキビダニの駆除を目的とした駆虫薬の投与が基本です。局所型(犬)は経過観察で自然治癒することも多いですが、全身型は長期にわたる積極的な治療が必要です。また、同時に、基礎疾患や二次感染の治療も行っていきます。

毛包虫症(ニキビダニ症)の治療薬として近年最も注目されているのが、神経細胞の塩素チャネル(GABA受容体)を選択的に阻害してダニを麻痺・死滅させる「イソオキサゾリン系」薬剤です。哺乳類への選択性が低く安全性が高いことから、現在では多くの獣医師が第一選択として用いています。

表の見方:◎=国内添付文書に適応あり △=適応なし・査読論文に有効性の報告あり

【犬用製品】

製品名(剤形)有効成分効果製品の特徴
ブラベクト錠
(チュアブル錠)
フルララネル3か月に1回の投与で済み、投薬頻度が少なく、長期治療が必要な全身型に特に適している。ノミ・マダニにも対応。
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル牛肉フレーバーで投薬しやすい。イヌニキビダニ症・ノミ・マダニ・犬疥癬にも対応。※シンパリカトリオはイヌニキビダニ症への適応なし。
アドボケート犬用
(スポット剤)
イミダクロプリド+モキシデクチン滴下タイプ。錠剤が苦手な犬に最適。国内でイヌニキビダニ症の適応あり。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ネクスガード
(チュアブル錠)
アフォキソラネル国内で承認はないが海外では有効性が多数報告されており、適応外処方として使用する場合がある。ノミ・マダニにも対応。

【猫用製品】

製品名(剤形)有効成分効果製品の特徴
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン6週齢以上の若齢から使用可能。ノミ・フィラリア・回虫にも対応。
レボリューションプラス
(スポット剤)
セラメクチン+サロラネルレボリューションにマダニ・鉤虫駆除も追加。
アドボケート猫用
(スポット剤)
イミダクロプリド+モキシデクチン滴下タイプ。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。猫ニキビダニ症で使用例の報告あり。
ネクスガードキャットコンボ
(スポット剤)
エサフォキソラネル+エプリノメクチン+プラジクアンテル滴下タイプ。ノミ・マダニ・フィラリア・条虫・回虫・鉤虫にも対応。猫用イソオキサゾリン系製剤として有効性の報告あり。

※本表は一般的な学術情報および海外の研究報告に基づく一覧です。効果が△の製品は国内での効能・効果が承認されていません。これらは獣医師の判断により適応外使用されるケースがありますが、当サイトがその使用を推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指示に従ってください。


  • 犬と猫に寄生するニキビダニは主に4種類あり、形状・寄生部位・感染性・かゆみの有無がそれぞれ異なる。
  • 毛包虫症では、皮膚に脱毛や赤みなどの症状があっても、かゆみが軽度またはほとんど出ないことが多い。
  • 若齢犬の局所型は自然治癒するケースもあるが、基礎疾患のある成犬や老犬では長期化しやすい。
  • 寄生数が少ない場合は一度の検査で検出できないこともあるため、複数回の検査が必要なケースもある。
  • ダニが見つからなくても、症状や経過から強く疑われる場合には、獣医師の判断により試験的駆虫が行われるのが一般的。

ニキビダニは一度異常増殖すると皮膚症状が長引き、二次感染が重なることで治療がより複雑になります。愛犬愛猫の年齢・既往歴・生活環境をもとに、獣医師と相談しながら最適な製品を選びましょう。

  • Mäkinen, O.K. et al. Efficacy of oral fluralaner for the treatment of Demodex canis infestations in dogs. Veterinary Dermatology, 26(5):379-382, 2015.
  • Fourie, J.J. et al. Efficacy of orally administered sarolaner (Simparica) in the treatment of naturally occurring generalized demodicosis in dogs. Veterinary Dermatology, 26(6):407-412, 2015.
  • Mueller, R.S. et al. Treatment of canine generalized demodicosis with a ‘spot-on’ formulation containing 10% moxidectin and 2.5% imidacloprid (Advocate, Bayer Healthcare). Veterinary Dermatology, 20(5-6):441-446, 2009.
  • Fourie, J.J. et al. Efficacy of orally administered fluralaner (Bravecto™) or topically applied imidacloprid/moxidectin (Advocate®) against generalized demodicosis in dogs. Parasites & Vectors, 8:187, 2015.
  • Beugnet, F. et al. Efficacy of oral afoxolaner for the treatment of canine generalised demodicosis. Parasite, 23:14, 2016.
  • Lebon, W. et al. Efficacy of two formulations of afoxolaner (NexGard® and NexGard Spectra®) for the treatment of generalised demodicosis in dogs. Parasites & Vectors, 11:506, 2018.
  • Simpson, A.C. Successful treatment of otodemodicosis due to Demodex cati with sarolaner/selamectin topical solution in a cat. Journal of Feline Medicine and Surgery Open Reports, 7(1), 2021.
  • Chung, T.H. et al. Successful Treatment of Demodex gatoi with 10% Imidacloprid/1% Moxidectin. Journal of the American Animal Hospital Association, 51(6):E1-E5, 2015.
  • Zhou, X. et al. Review of extralabel use of isoxazolines for treatment of demodicosis in dogs and cats. Journal of the American Veterinary Medical Association, 256(12):1342-1346, 2020.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(ブラベクト錠・アドボケート犬用・シンパリカ添付文書).

犬のマダニ予防の重要性~人も危ない!SFTS(重症熱性血小板減少症候群)の恐怖~【獣医師執筆】

マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、人が感染した場合の致死率が10〜30%にのぼる極めて危険な疾患です。さらに深刻なのは、身近なパートナーである犬や猫の発症リスクです。厚生労働省の報告によると発症時の致死率は犬で約40%、猫では約60%に達し、人間を遥かに上回る脅威となっています。SFTSは、感染したペットの唾液や血液を介して飼い主にもうつる「人獣共通感染症(ズーノーシス)」です。愛犬をマダニから守ることは、大切な家族の命を守ることに直結します。手遅れになる前に、定期的なマダニ対策を徹底しましょう。


SFTSは2011年に中国で初めて発見され、日本では2013年に初の国内感染例が報告されました。病原体はフレボウイルス属のSFTSウイルスであり、主にフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)が媒介します。2024年時点で、国内では年間100件前後の感染が報告されており、現時点で承認されたワクチンも特効薬も存在せず、対症療法が治療の中心です。

犬はSFTSウイルスに感染しても無症状〜軽症で経過するケースが多いとされていますが、一方で重篤な症状を呈し死亡する事例も報告されています。犬での潜伏期間は明確には解明されていませんが、マダニ咬傷から数日〜2週間程度とされています。

臨床症状で最も多く見られるのは、39.5℃以上の高熱・著明な元気消失・食欲廃絶・嘔吐・下痢です。身体検査ではリンパ節の腫大が触知されることがあり、血液検査では血小板減少・白血球減少・CRP上昇・ALT・AST・LDHの上昇が認められます。重症例では播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全・神経症状(ふらつき・痙攣・意識障害)に至ることがあり、予後不良となる場合もあります。

【SFTSを疑うべき症状チェックリスト】

  • 39.5℃以上の発熱
  • 元気消失・食欲廃絶(24時間以上続く)
  • 嘔吐・下痢
  • リンパ節の腫れ(首・脇の下・鼠径部)
  • 歯茎・結膜の蒼白または黄疸

これらの症状が複数認められる場合には、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。

犬のSFTSで特に注意すべきは、「症状が出ている犬の血液・唾液・尿・糞便が飼い主に感染しうる」という点です。国内では、SFTSを発症した犬を看病・介護した飼い主が感染した事例が複数報告されており、国立感染症研究所も注意喚起を発出しています。以下の行動は非常に危険です。感染が疑われる犬のお世話をする際は必ず手袋を着用し、処置後は石けんで十分に手洗いを行ってください。

  • 感染犬を素手で触る・傷口を舐めさせる
  • 体液(血液・尿・糞便・嘔吐物)を素手で処理する
  • 感染犬の使用済みタオルや食器を素手で扱う

マダニに刺されてから発症するまでの潜伏期間はおよそ6〜14日とされています。マダニに刺された後2週間以内に高熱・消化器症状・倦怠感が出現した場合は、速やかに医療機関を受診し、マダニへの暴露(野外活動・ペットとの接触)の可能性も必ず申告しましょう。以下は、感染経過と表れやすい主な症状です。

発症初期(1〜4日目):

38〜40℃台の高熱・強い倦怠感・頭痛・筋肉痛・関節痛が現れます。悪心・嘔吐・下痢・腹痛も高頻度に見られ、インフルエンザや感染性胃腸炎と間違われやすいのが特徴です。

中期(4〜7日目):

血小板減少・白血球減少・AST・ALT・LDHの顕著な上昇などが認められます。これはウイルスが骨髄・脾臓・リンパ節などの免疫細胞に直接侵入して破壊することに加え、血球の産生が抑制されることによって生じます。

重症期(7日目以降):

多臓器不全・播種性血管内凝固症候群(DIC)・神経症状(意識障害・振戦・痙攣)へと進行し、死亡に至るケースがあります。回復した場合も倦怠感・記憶力低下などの後遺症が数ヶ月続くことが報告されています。


マダニ(硬ダニ科:Ixodidae)は蜘蛛綱ダニ目に属する節足動物で、日本国内では主にフタトゲチマダニ・ヤマトマダニ・キチマダニなどが重要な媒介種とされています。ライフサイクルは「卵→幼ダニ→若ダニ→成ダニ」という4段階で構成され、それぞれの段階で宿主(犬や猫など)から吸血を行います。このうち若ダニ(若虫)の段階でSFTSウイルス保有率が最も高く、かつ体が小さいため気づきにくく、愛犬や人への感染リスクとして特に問題視されています。

マダニは草の先端や葉の縁に前脚を伸ばして待機し(クエスティング行動)、温度センサー・振動センサー・CO₂センサーを使って宿主を感知し付着します。吸血を開始してから1〜2日は痒みなどの反応が出にくく、飼い主が気づかないまま長時間の吸血が続くことも珍しくありません。

発育段階 宿主・環境 特徴・臨床的意義
卵(図①) 土壌・落葉の中 雌成虫が数千個の卵を産卵。数週間で幼虫に孵化する。
幼ダニ(6脚)(図②) 小型哺乳類・鳥類 吸血後、地表に落下して脱皮する。この段階でウイルス・細菌を獲得する場合がある。
若ダニ(8脚)(図③) 中型哺乳類・犬・猫 SFTSウイルス保有率が最も高い段階。体が小さく気づきにくいため感染リスクが特に高い。
成ダニ(8脚)(図④⑤) 大型哺乳類・人・犬 吸血量は体重の100倍以上に膨張。唾液中にウイルス・細菌を放出し宿主に伝播する。雌は産卵後に死亡。

マダニは気温が5℃を超えると活動を始め、15〜25℃で最も盛んになります。近年の地球温暖化により活動期間は全国的に延長傾向にあり、「冬だから大丈夫」と思わず、地域に合わせた予防が必要です。マダニは都市部の公園や河川敷にも生息しているため、山林に限らず、近所の草むらを散歩するだけでも感染リスクは十分にあります。

地域区分 主な該当エリア マダニの活動期間と予防の推奨時期
寒冷地 北海道・東北山間部 4月〜10月。春の融雪期に急増する傾向がある。
中間地 関東・関西・中部・中四国 3月〜11月。春(3〜5月)と秋(9〜11月)の二峰性ピークに注意。通年予防を推奨する施設が増加。
温暖地 南九州・沖縄 通年活動。冬でも5℃以上になる日は活動するため、年間を通じた予防薬の投与を強く推奨。

マダニは単なる吸血害虫ではなく、複数の深刻な病原体を媒介しています。SFTSをはじめとした以下の疾患は、犬と人間の双方に影響します。

疾患名 病原体 主な症状・特徴
SFTS(重症熱性血小板減少症候群) SFTSウイルス(フレボウイルス属) 高熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少、多臓器不全。致死率10〜30%。犬から人への感染例あり。
バベシア症 Babesia gibsoni、B. canis 溶血性貧血、血色素尿(赤褐色の尿)、黄疸、発熱、血小板減少。重症化すると致死的。犬特有の疾患。
日本紅斑熱 Rickettsia japonica 高熱、発疹(四肢→体幹)、刺し口の形成。抗菌薬が有効だが診断の遅れで重症化するケースも。
ライム病 Borrelia burgdorferi 遊走性紅斑、関節炎、神経症状。国内では主に北海道・一部本州で確認されている。
マダニ麻痺(Tick Paralysis) マダニの唾液毒素 唾液中の神経毒により上行性弛緩性麻痺が起こる。感染症ではなく、マダニを除去すると通常は回復する。

散歩後には全身をくまなく触診し、マダニの付着がないか確認することを習慣にしましょう。マダニが好む付着部位は、耳の周囲・指の間・腋の下・鼠径部(内股)・まぶた・首のたるんだ皮膚あたりです。マダニを発見した場合、なるべく動物病院で除去してもらうことをおすすめします。自宅で除去する際は、市販の「ダニ取り専用ツール(ティック・ツイスター等)」を使用し、皮膚に対して平行に保ちながら回転させてゆっくり引き出します。除去後は付着部位を消毒し、マダニはビニール袋に入れて密封廃棄してください。

  • ピンセットで強引に引き抜く:
    口器が皮膚内に残留し、二次感染・肉芽腫の原因になります。
  • アルコール・ワセリン・除光液をかける:
    マダニがストレスでSFTSウイルスを含む体液を逆流放出するリスクが高まります。
  • ライターで炙る・熱を加える
  • 素手で潰す

予防薬の投与(化学的防除)と環境管理(物理的防除)・行動習慣の見直しを組み合わせることが、マダニ対策の基本です。

  • 庭の草を定期的に刈り込み、落葉を除去する(マダニは湿った落葉が堆積した場所を好みます)。
  • 散歩から帰宅した際は、玄関でブラッシングと触診を行う習慣をつける。
  • 山林・河原・草地を歩いた後は、犬だけでなく飼い主自身の衣服・体も必ずチェックする。
  • マダニ活動ピーク期(春・秋)のハイキングや里山散歩では、ドッグウェアの活用も有効。

製品選びは、愛犬の体重・年齢・既往歴(特に神経系疾患)・ライフスタイル(散歩の頻度・山林への立ち入り)・フィラリア予防との併用ニーズなどを考慮した上で、かかりつけの獣医師と相談して選ぶようにしましょう。

製品名(形状) 主要有効成分 対象寄生虫 特徴・投与のポイント
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル ノミ・マダニ・ミミヒゼンダニ・イヌセンコウヒゼンダニ・イヌニキビダニ 【嗜好性◎】牛肉フレーバー。投与後8時間以内にマダニ駆除効果が発現。
クレデリオ錠
(フレーバー錠)
ロチラネル ノミ・マダニ・イヌニキビダニ 【嗜好性◎、小粒】ミートフレーバー。投与後12時間以内に効果が発現。サイズが小さく投与しやすい。
ブラベクト
(チュアブル錠)
フルララネル ノミ・マダニ 【3ヶ月持続・内服】1錠で3ヶ月間有効。投薬回数を少なくしたい飼い主に最適。
ブラベクト スポット
(スポット剤)
フルララネル ノミ・マダニ 【3ヶ月持続・外用】錠剤が苦手・吐き戻す場合などにおすすめ。背中に垂らすだけで3ヶ月間有効。
マイフリーガードα
(スポット剤)
フィプロニル/(s)-メトプレン ノミ(成虫・卵・幼虫)・マダニ・シラミ・ハジラミ 【外用・コスパ◎】背中に垂らすタイプ。ノミの卵・幼虫にも効果。経口薬が苦手な犬に。

オールインワン製剤もおすすめ】

ノミ・マダニの駆除に加え、フィラリア予防や消化管内線虫(回虫・鉤虫・鞭虫)の駆除まで1錠でカバーできるオールインワンのお薬も存在します。
毎月の投薬管理をシンプルにしたい場合や、複数の薬を管理する手間を省きたい飼い主さんに便利な選択肢です。ただし、フィラリア予防成分を含む製剤は、投与前にフィラリア感染の有無を確認する検査が必要です。投薬前にかかりつけの獣医師にご相談ください。


  • マダニは犬だけでなく、人間の命にも関わるウイルス・細菌を媒介します。愛犬のマダニ対策を徹底して家族への感染リスクを減らしましょう。
  • SFTSを疑う症状(発熱・元気消失・食欲廃絶・嘔吐・下痢等)が現れた場合は、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。
  • 感染が疑われる場合には、愛犬の体液に触れる際は必ず手袋を着用し、処置後は十分に手洗いを行ってください。
  • マダニの活動時期を正確に把握し、地域に合った通年予防を意識しましょう。
  • 散歩後のマダニチェックを習慣化しましょう。発見したら、できれば動物病院で除去してもらうようにしましょう。

動物用医薬品に関するご不明点やご相談がある場合は、動物のお薬の専門店「ねこあざらし薬店」にお気軽にお問い合わせください。

  • 国立感染症研究所. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)2023年度発生動向年報.
  • Ixodid ticks and their significance in veterinary public health: A review of Haemaphysalis longicornis. Parasites & Vectors, 2022.
  • Inokuma, H. et al. Babesiosis in dogs in Japan: epidemiology and current knowledge. Veterinary Parasitology, 2021.
  • Pfaff, U. et al. Isoxazoline compounds and their mode of action in tick and flea control. Frontiers in Veterinary Science, 2023.
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品の使用に関するガイドライン改訂版, 2024.
  • National Institute of Infectious Diseases. SFTS in companion animals: human infection risk assessment, 2023.

犬猫の疥癬・耳疥癬~激しい痒みの原因と最新のダニ予防薬~【獣医師執筆】

「うちの子、ずっとかゆがっている。アレルギーかな?」——そう思って病院に行ったら、実はダニの寄生が原因だったというケースは珍しくありません。
犬猫の「疥癬(かいせん)」「耳疥癬」は、それぞれ特定の種類のダニが引き起こす皮膚疾患で、非常に強いかゆみと急速な悪化が特徴です。放置すれば飼い主にも感染してしまう可能性のある人獣共通感染症(ズーノーシス)でもあります。
今回は、暖かくなると発生が増えてくる疥癬・耳疥癬について、主な症状や診断方法などを詳しく解説します。


疥癬の原因は「ヒゼンダニ(疥癬虫)」という節足動物です。
マダニのように体表に付着するのではなく、表皮の角質層の中にトンネル(疥癬トンネル)を掘り、その中で産卵・孵化・脱皮を繰り返します。このトンネル内での活動と、ダニ・糞・卵に対するアレルギー反応が激しいかゆみの正体です。
成虫でも肉眼では見えないほど小さいため、通常のダニと違い外見からは判らないのが厄介なところです。(ミミヒゼンダニは肉眼で確認できる場合あり)
また、犬と猫では寄生するダニの種が異なります。

疾患名 原因ダニ 対象動物 成虫の大きさ
犬疥癬 イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. canis) 犬(人・猫に一時的感染あり) 約0.2〜0.4mm
猫疥癬 ネコショウセンコウヒゼンダニ(Notoedres cati) 猫(犬・人に一時的感染あり) 約0.2〜0.3mm
耳疥癬 ミミヒゼンダニ(Otodectes cynotis) 犬・猫 約0.35〜0.5mm 

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上記表の3種類のダニの中で最も強い痒みを引き起こします。眠れないほど痒く、痒み止めや消炎剤といった対症療法の薬剤が効かないため、感染すると犬にとって非常にストレスがかかります。また、激しいかゆみで出血するほどかき続け、二次的な細菌感染(膿皮症)を合併することもあります。
重症化すると皮膚の肥厚・苔癬化・広範囲の脱毛・痂皮形成が起こり、衰弱に至る場合もあります。

感染数が少なく見つけにくいため、検査で検出できなくても、疑わしい場合には試験的駆虫として予防薬を投与することが一般的です。

【犬の疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 耳縁を触ると後ろ足でかく(耳介‐足反射陽性)
  • 肘・膝・耳縁・腹部に赤いブツブツとフケがある
  • かゆみが非常に強く、夜中もかき続けている
  • 他の犬や野生動物と最近接触した
  • 飼い主にも腕や腹部にかゆいブツブツが出ている
犬疥癬の特徴 内容
原因ダニ Sarcoptes scabiei var. canis(イヌセンコウヒゼンダニ)
対象動物 犬。人・猫に一時的な感染あり(定着しない)
潜伏期間 2〜6週間
好発部位(初期) 耳縁・肘・膝の突出部・腹部・鼠径部
かゆみの強さ 非常に強い。昼夜を問わず続き、出血するほどかき続けることも
飼い主への感染 一時的に感染あり(腕・腹部などにかゆいブツブツが出ることがある)

猫の疥癬の原因はネコショウセンコウヒゼンダニで、犬に寄生するイヌセンコウヒゼンダニとは別種です。まれに犬や人にも一時的に寄生しますが、ほとんど定着しません。
屋外への出入りや感染猫との接触が主なリスクです。
比較的検査で検出しやすいため、多くの場合は一度の検査で診断可能です。

【猫の疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 顔面・耳介・首にフケ・丘疹・かさぶたがある
  • 顔周りを頻繁に掻く
  • 野良猫や外出歴のある猫と接触した
  • 同居の猫に同じような症状がある
  • 飼い主にも一時的なかゆみ・ブツブツが出た
猫疥癬の特徴 内容
原因ダニ Notoedres cati(ネコショウセンコウヒゼンダニ)
対象動物 猫。犬・人に一時的な感染あり(定着しない)
感染リスクが高い状況 屋外へ出入りする猫、野良猫や感染猫との接触、多頭飼育環境
好発部位(初期) 顔面(鼻・まぶた周囲)・耳介・首・顎の下
かゆみの強さ 強い。顔・耳周りを絶えずひっかき続ける
飼い主への感染 一時的に感染あり(定着しない)

耳疥癬の原因は犬と猫で共通しており、耳道内に潜むミミヒゼンダニです。
ヒゼンダニ(疥癬虫)が角質層内に潜るのと異なり、外耳道の表面に寄生します。
特に猫で感染率が高く、猫の外耳炎原因の過半数を占めるともいわれています。
感染力が非常に強いため、多頭飼育では全頭同時に治療・予防を行うことが再発防止の鉄則です。
放置すると慢性外耳炎・中耳炎へ進行するケースもあります。
以下に複数当てはまる場合は速やかに受診しましょう。

【耳疥癬を疑うべき症状チェックリスト】

  • 耳を激しく掻く、頭を振り続けている
  • 耳道内に黒褐色のコーヒーかす状の耳垢が多い
  • 野良猫や外出歴のある猫と接触した、あるいは外に出た
  • 耳介(耳の外側)に引っかき傷がある
  • 同居の犬猫にも同じような耳の症状がある

主には、皮膚の一部を専用の器具で掻爬し皮膚内のダニを検出する「皮膚掻爬検査」、耳垢を採取して中のダニをチェックする「耳垢検査」があります。どちらの検査も、採取物を顕微鏡で観察して、ダニ本体や虫卵の有無を確認します。
ミミヒゼンダニ(耳疥癬)だけは、最大約0.5mmと3種の中で最も大きく白っぽい色をしているため、耳垢をよく観察すると動いている様子が肉眼でも確認できる場合があります。

疾患 検査方法 検出しやすさ・注意点
犬疥癬 皮膚掻爬検査(深部掻爬) ★検出率が非常に低い(20〜50%)。かならず皮膚の複数か所から採取して検査を行う
猫疥癬 皮膚掻爬検査(顔面・耳介の痂皮部) 犬疥癬より比較的検出しやすい。顔面・耳介の厚い痂皮部分からダニ・卵を検出できる
耳疥癬(ミミダニ) ①耳垢の顕微鏡検査
②耳鏡による肉眼確認
3種の中で最も検出しやすい。①綿棒で採取した耳垢を顕微鏡で確認 ②耳鏡で外耳道内の動く白い点(成虫)を目視で探す

疥癬の治療は駆虫薬によるヒゼンダニの駆除が基本です。
駆虫薬の多くは卵には効かないため、症状が改善しても2〜3週間おきに複数回の投薬が必要です。途中でやめると再発のリスクが高まります。多頭飼育の場合は、全頭同時に治療を行わないと再感染が繰り返されます。
二次的な細菌感染(膿皮症)を合併している場合は、抗菌薬による治療も並行して行います。

駆虫後もかゆみがしばらく残る場合には、ダニの死骸・産物に対するアレルギー反応が続いている可能性があるため、短期間のステロイド製剤やJAK阻害薬で対症療法を行うこともあります。
また、寝具・クッションの熱湯洗濯やケージ・グルーミング器具の消毒、治療中の感染動物の隔離も再感染予防に有効です。

ヒゼンダニは一度寄生すると痒みが強く、夜も熟睡できずに愛犬愛猫に強いストレスを与えてしまいます。
定期的な予防・駆除薬の投与は、ヒゼンダニ・ミミヒゼンダニを含む寄生虫感染全般のリスクを大幅に下げる最も効果的な手段です。
愛犬愛猫の体重・年齢・既往歴・生活環境を踏まえ獣医師と相談の上、適切な製品を選びましょう。

ヒゼンダニ(疥癬)とミミヒゼンダニ(耳疥癬)の予防・駆除薬の製品のほとんどは、基本的にノミやマダニへの効果をメインとしています。ヒゼンダニ・ミミヒゼンダニへの効果は国内未承認の場合も多く、効果効能に記載のある製品は少ないのが現状です。
しかし、臨床の現場では学術的根拠に基づき、獣医師の裁量によって適応外処方として活用されるケースもあります。これらの使用に関しては、愛犬・愛猫の健康状態や感染状況に合わせた専門的な判断が不可欠ですので、必ず動物病院で獣医師による診察と指示を受けてください。

表の見方:◎=適応あり △=適応なし・査読論文に有効性の報告あり

【犬用製品】

製品名(剤形) 有効成分 犬疥癬 耳疥癬 製品の特徴
シンパリカ
(チュアブル錠)
サロラネル 牛肉フレーバーで投与しやすい。ノミ・マダニ・イヌニキビダニにも対応。
(注意:シリーズ製品のシンパリカトリオには、現在、犬疥癬・耳疥癬に対しての適応なし)
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン 犬疥癬には適用外。
特に耳ダニに対してよく使用されている。ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも有効。
アドボケート
(スポット剤)
イミダクロプリド/モキシデクチン 耳疥癬には適用外。
ノミ・イヌニキビダニ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ブラベクト錠
(チュアブル錠)
フルララネル 耳疥癬には適用外。
3ヶ月に1回投与。現在承認されているスポットオン製剤では最も長く予防効果が続く。ノミ・マダニ・イヌニキビダニにも対応。

【猫用製品】

製品名(剤形) 有効成分 猫疥癬 耳疥癬 製品の特徴
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチン 猫疥癬には適用外。
耳ダニ・猫疥癬では臨床現場で使用率が高い。ノミ・フィラリア・回虫にも対応。
レボリューション プラス
(スポット剤)
セラメクチン/サロラネル 猫疥癬には適用外。
レボリューションにマダニ・鉤虫駆除も追加のオールインワン製剤。

アドボケート
(スポット剤)

イミダクロプリド/モキシデクチン 猫疥癬には適用外。
ノミ・フィラリア・回虫・鉤虫にも対応。
ネクスガードキャットコンボ
(スポット剤)
エサフォキソラネル/エプリノメクチン/プラジクアンテル 猫疥癬には適用外。
ノミ・マダニ・フィラリア・条虫・回虫・鉤虫にも対応。

※本表は一般的な学術情報および海外の報告に基づく一覧です。一部の疾患に対し、国内未承認の適応外処方として獣医師の判断で使用されるケースもありますが、当サイトがその使用を推奨するものではありません。実際の使用にあたっては、必ず動物病院で診察を受け、獣医師の指示に従ってください。


  • 犬疥癬・猫疥癬・耳疥癬はそれぞれ原因となるダニの種類が異なり、好発部位・症状も異なります。
  • 犬疥癬の皮膚掻爬検査は検出率が20〜50%程度と低く、陰性でも否定できません。症状・接触歴から強く疑う場合は診断的治療(試験的投薬)が有効です。
  • 疥癬・耳疥癬は感染力が非常に強く、多頭飼育では全頭同時治療が再発防止の鉄則です。
  • 治療は複数回の駆虫薬投与が必要です。二次感染(膿皮症などの皮膚症状)がある場合は同時に治療を行います。

予防薬の選択肢が広がり、飼い主様の意識が高まったことで、重症化するケースは以前より抑えられるようになりました。しかし、疥癬や耳疥癬の感染リスクはいまだに高く、一度発生するとその治療には長い時間と費用を要し、何より愛犬・愛猫に「眠れないほどの激しい痒み」という大きな負担を強いることになります。
疥癬は、放置すれば同居動物や飼い主様にも広がる恐れがある、油断できない感染症です。
「あの時、予防していれば……」と後悔しないために。動物病院に通い、愛犬・愛猫の体質や生活環境に合ったお薬で、日頃から確実な予防を心がけましょう。

  • Six, R.H. et al. Efficacy and safety of selamectin against Sarcoptes scabiei on dogs and Otodectes cynotis on dogs and cats presented as veterinary patients. Veterinary Parasitology, 91(3-4):291-309, 2000. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10940530/
  • Itoh, N. et al. Treatment of Notoedres cati infestation in cats with selamectin. Veterinary Record, 154(13):409, 2004. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15083980/
  • Hellmann, K. et al. Efficacy of imidacloprid 10%/moxidectin 1% spot-on in the treatment of Notoedres cati infestation in cats. Parasitology Research, 112(8):2837-2845, 2013. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23760872/
  • Taenzler, J. et al. Efficacy of fluralaner against Otodectes cynotis infestations in dogs and cats. Parasites & Vectors, 10:30, 2017. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5240227/
  • Beugnet, F. et al. Efficacy of sarolaner against Sarcoptes scabiei and Otodectes cynotis in naturally infested dogs. Parasites & Vectors, 9:1, 2016.
  • Knaus, M. et al. Efficacy of a novel combination of esafoxolaner, eprinomectin and praziquantel (NexGard Combo) against Otodectes cynotis and Notoedres cati in cats. Parasite, 28:39, 2021. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8019547/
  • Longstaff, L. et al. Efficacy of a spot-on combination product containing selamectin and sarolaner (Stronghold Plus) in the treatment of naturally occurring Notoedres cati infestations in cats. Frontiers in Veterinary Science, 2025. https://www.frontiersin.org/journals/veterinary-science/articles/10.3389/fvets.2025.1652148/full
  • 農林水産省動物医薬品検査所. 動物用医薬品等データベース(ブラベクト錠添付文書). https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/16271

犬のフィラリア症~予防の重要性と最新の予防薬~【獣医師執筆】

犬糸状虫症(フィラリア症)は、蚊によって媒介される寄生虫「犬糸状虫(Dirofilaria immitis)」が心臓や肺動脈に寄生することで引き起こされる、犬にとって最も警戒すべき致死的な疾患の一つです。
かつては国内の家庭犬における主要な死因でしたが、優れた予防薬の普及により発症率は劇的に低下しました。
しかし、近年の地球温暖化に伴う蚊の活動期間の延長や、薬剤耐性株の出現といった新たな課題により、未だに注意が必要な疾患の一つです。

このコラムでは、フィラリアのライフサイクルから最新の予防薬、そして万が一感染してしまった場合の治療法までを分かりやすく解説します。


フィラリア症の適切な予防のためには、どの段階で薬剤が作用するのかというフィラリアのライフサイクルを正確に把握することが大切です。
侵入した幼虫が肺動脈や心臓に到達するまでの時間軸や、検査で陽性と判定されるまでの「潜伏期間(プレパテント・ピリオド)」を正しく理解し、投薬のタイミングをしっかり把握しましょう。

発育段階存在場所臨床的特徴
第1期幼虫
(L1 / ミクロフィラリア)
犬の血液中成虫が産出した子虫。蚊が吸血する際に取り込まれる。
第2期幼虫
(L2)
蚊の体内蚊のマルピーギ管内で1回目の脱皮を行った状態。成虫の内臓組織の原形を作る準備期間。
第3期幼虫
(L3 / 感染幼虫)
蚊の口吻部蚊の体内で成長し、感染能を獲得。吸血時に犬の皮膚へ移行する。
第4期幼虫
(L4)
犬の皮下・筋肉内侵入後2~10日でL3から脱皮する。現在主流の予防薬(大環状ラクトン系)の主要な標的となる成長段階。
第5期幼虫
(L5 / 未成熟成虫)
血液・心臓内侵入後約1~2ヶ月で脱皮し、血管内へ侵入して肺動脈を目指す。
成虫
(L6)
肺動脈・右心室感染から6~7ヶ月で成熟。体長15~30cmに達し、新たなL1を産出する。(ソーメンにそっくりの白く長細い虫体)

日本国内におけるフィラリアの感染リスクは、気温とそれに伴う蚊の活動状況と密接に関係しています。

国内で販売されているフィラリア予防薬は、投薬した時点で「過去1ヶ月間に侵入したフィラリアの幼虫をまとめて殺滅する」という効果が基本であり、「投薬後1カ月間効果が持続している」わけではありません。

そのため、蚊がいなくなってから1ヶ月後(多くの地域で12月)の最終投与を忘れると、秋に感染した幼虫が冬の間に成長してしまいます。

また、都市部のビル地下(ヒートアイランド現象)などは冬でも蚊が生存するため、中間地でも通年予防が推奨されるケースが増えています。

地域区分主な該当エリア推奨投薬期間
寒冷地北海道、東北山間部5月下旬 ~ 11月
中間地関東、関西、中部、中四国4月下旬 ~ 12月
温暖地南九州、沖縄3月 ~ 12月(または通年推奨)

※実際の投薬開始・終了時期は、その年の気温や蚊の発生状況によって異なります。最終投与は「蚊がいなくなってから1ヶ月後」が原則です。

自然界の気温だけでなく、ベランダのプランターの受け皿、古タイヤ、詰まった雨どいなどの「定在水場」は蚊の絶好の繁殖地となります。これらの環境を改善することも、物理的な予防策として重要です。


フィラリア症は「心臓の病気」と思われがちですが、本質は肺の血管に慢性的な炎症と障害を起こす重篤な肺血管疾患でもあります。

肺動脈に到達した成虫が血管壁を機械的に刺激することで「肺動脈内膜炎」が生じ、血管の内側が厚く硬くなる血管リモデリングが進行します。
その結果、血管内腔が狭くなって肺血管抵抗が上昇し、肺の血流が流れにくくなります。
これにより肺動脈圧が異常に高まる「肺高血圧症」(肺の血管圧が上昇し、心臓が肺へ血液を送り出すために通常以上の力を必要とする状態)を引き起こします。
さらに肺高血圧による負荷が持続すると、右心室は血液を送り出すために肥大し、やがて拡張して三尖弁逆流が生じ、最終的には全身循環のうっ滞によって腹水、肝腫大、皮下浮腫などを伴う右心不全へと進行していきます。

フィラリア症で起こる特に重篤な症状で、多数の成虫が肺動脈から右心房へと逆流し、三尖弁の機能を物理的に阻害してしまう病態です。
大量の虫体が三尖弁(右心房と右心室の間の弁)に絡みつき、血液の循環を急激に阻害・遮断することで、急性右心不全を引き起こします。
これにより赤血球が物理的に破壊され(溶血)、ヘモグロビン尿による濃紅茶色の尿が見られるようになります。
この状態は救急疾患であり、予後不良となることも多く、また、多数の寄生虫が血管に詰まることで突然死(心臓発作)を引き起こす場合もあります。


2024年改訂のAHS(米国犬糸状虫学会)ガイドラインでは、7ヵ月齢以上のすべての犬に対し、年1回の「抗原検査」と「ミクロフィラリア(MF)検査」を推奨しています。

メスの成虫由来の可溶性抗原を検出します。微量(一滴程度)の血液を検査用キットに垂らして検査します。
10分程度で即結果が分かるため、動物病院で最も主流となっている検査方法です。
安価で高精度ですが、オスのみの寄生や感染初期(6ヶ月未満)には反応しません。
主に、心臓に現在寄生している成虫がいないかを判断する材料として使用します。

血液中の幼虫を顕微鏡で直接確認します。
抗原検査が陰性でも、薬剤耐性株などの影響で幼虫のみが存在するケースを見逃さないために不可欠です。
ごく少量の採血を行い、スライドグラスに血液を一滴垂らし、上からカバーグラスをかけて顕微鏡で観察します。


現代のフィラリア予防薬は、一度の投薬でさまざまな種類の寄生虫に効果があり包括的な管理ができる製品が主流となってきています。
以下に、各有効成分の薬理学的特性と、それらを配合した主要製品の詳細をご紹介します。

これらの成分は、寄生虫の神経・筋肉細胞にあるグルタミン酸作動性塩化物イオンチャネルという部分に結合し、神経伝達の回路を狂わせ動けなくして死滅させます。

・イベルメクチン
世界で最も歴史があり、低用量でL4幼虫を殺滅できる安全性と有効性のバランスに優れた成分です。
ただし、コリー系犬種などではMDR1遺伝子変異により、通常の用量でも脳内へ薬剤が流入しやすく、神経症状(ふらつき、震え、昏睡など)を起こすリスクがあるため注意が必要です。

・ミルベマイシンオキシム
フィラリア予防に加え、回虫、鉤虫、鞭虫といった腸内線虫に対しても駆除効果を発揮します。

・モキシデクチン
大環状ラクトン系の中でも極めて高い脂溶性を持ち、血中濃度が長期にわたって安定します。
この特性により、一部の耐性株に対しても他成分より高い有効性を示すことが報告されています。

・セラメクチン
経皮吸収に非常に優れたスポットオン製剤専用の成分です。
皮膚から速やかに吸収され、フィラリアの寄生予防だけでなく、ノミ成虫の駆除、ノミ卵の孵化阻害、さらにはミミヒゼンダニの駆除に単独で高い効果を発揮します。
生後6週齢の子犬、妊娠・授乳中の犬、イベルメクチン感受性犬(コリー等)においても高い安全性が確認されています。

・イソキサゾリン系(アフォキソラネル、サロラネル、ロチラネル等)
最新のノミ・マダニ駆除成分で、節足動物のGABA受容体等を阻害します。
即効性が高く、投与後数時間で駆除が始まり、1ヶ月間安定した効果が持続します。

・ピランテル
回虫や鉤虫の駆除効果を補完するために多くの製剤に配合されます。

製品名(形状)主要有効成分対象寄生虫特徴
シンパリカ トリオ
(チュアブル錠)
サロラネル、モキシデクチン、ピランテルパモ酸塩フィラリア、ノミ、マダニ、イヌセンコウヒゼンダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫耐性リスクに強いとされるモキシデクチンを採用。ノミ・マダニへの即効性が高い。
クレデリオプラス
(フレーバー錠)
ロチラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、イヌニキビダニ、回虫、鉤虫、鞭虫ビーフフレーバーの小さな錠剤タイプ。成分吸収を助けるため食事時の投与を推奨。
レボリューション
(スポット剤)
セラメクチンフィラリア、ノミ、ミミヒゼンダニ背中に垂らすタイプ。錠剤が苦手なコや吐き戻す場合に最適。耳ダニ駆除も可能。
ネクスガード スペクトラ
(ソフトチュアブル)
アフォキソラネル、ミルベマイシンオキシムフィラリア、ノミ、マダニ、回虫、鉤虫、鞭虫おやつ型で与えやすい。食事の有無を問わず投与可能。
イベルメックPI
(骨型クッキー)
イベルメクチン、パモ酸ピランテルフィラリア、回虫、鉤虫嗜好性の高いクッキー型。コストパフォーマンス重視。
プロハート12
(徐放性注射薬)
モキシデクチンフィラリア一度の注射で12ヶ月間効果が持続。毎月の投薬ストレスや投薬忘れがない最新の選択肢。
ハートメクチン錠
(錠剤)
イベルメクチンフィラリアフィラリア予防に特化したシンプルな錠剤。コストを最小限に抑えたい場合に 。

※本表は各製品の学術的な特徴をまとめたものであり、特定の製品の購入を推奨するものではありません。フィラリア予防薬は全て要指示医薬品です。必ず動物病院での検査を経て、獣医師の指示に従って使用してください。


予防薬の発展により、日本国内ではフィラリアの感染数はかなり少なくなっていますが、万が一感染が判明した場合の治療には以下の三つの方法があります。

現在の国内では、予防薬(イベルメクチンなど)とドキシサイクリンという抗生剤を長期間併用し、フィラリアの寿命を短くしながら全滅を待つ「combination slow-kill法」を選択する場合も多いです。

フィラリアの体内には「ボルバキア(Wolbachia pipientis)」という細胞内共生細菌が存在しています。
フィラリアが死滅する際、この細菌が放出する表面抗原が犬の免疫系を過剰に刺激し、肺や腎臓における重篤な炎症反応(糸球体腎炎や好酸球性肺炎など)を助長することが判明しています。

ドキシサイクリンにはボルバキアを殺菌する効果があり、これを併用することで駆虫に伴う副作用のリスクを最小限に抑えます。
また、治療期間中(通常2年以上)は、死滅した虫体による急性塞栓を防ぐため、厳格な運動制限をおこなう場合もあります。

右心室内に虫体が寄生している場合に適応となる方法です。
頚静脈からアリゲーター鉗子と呼ばれる器具を挿入し、右心室内のフィラリア虫体を掴み取って除去する方法で、全身麻酔のリスクや手技の困難さがあります。
現在日本ではアリゲーター鉗子の国内製造は終了しており、この手術を実施している施設は少なくなっています。

メラルソミンというヒ素剤を2~3回筋肉に注射しフィラリア成虫を駆除する方法です。

米国犬糸状虫学会(AHS)推奨の治療法ですが、大量のフィラリア虫体が寄生している場合には、虫体が一度に死滅することでアナフィラキシーショックや呼吸不全を起こす可能性があるため、適応外となります。

また、死滅した虫体が肺動脈で詰まり、一時的に肺機能を低下させる場合があるため、注射後1~2週間は安静が必要です。
また、現在日本ではメラルソミン注射剤の生産がないため海外から薬の輸入が必要になります。


この記事のまとめは、以下のとおりです。

  • フィラリア症は命に関わる重大な肺・心臓疾患です。症状が出る前の予防が愛犬の寿命とQOLを左右します。
  • 予防薬は最後まで必ず投薬しましょう。蚊がいなくなってから1ヶ月後の投薬が特に大切です。
  • 薬の成分の特徴を踏まえて、嗜好性、投与の利便性など愛犬の体質とライフスタイルに合った製品を選びましょう。
  • 万が一感染してしまったら治療は大きなリスクを伴い愛犬にも負担がかかります。かかりつけの獣医師とよく相談して最適な治療方法を選択しましょう。

予防薬の発達と飼い主様の予防意識の向上により、10年前に比べてフィラリア症はかなり減少傾向にあります。
しかし、予防を怠ると感染リスクはいまだに高く、その治療には長い時間と高額な費用を要し、愛犬にも大きな負担をかけることとなります。動物病院に通い、愛犬にあったお薬で確実な予防を心がけましょう。